Joker

海子

文字の大きさ
14 / 83
3.リックの計略

しおりを挟む
 ピエールは、来なかった。 
その事実は、四人を打ちのめした。
とりわけフィリップの喪失感は、計り知れなかった。
幼いころから、可愛がってくれた。
アルカンスィエルの手狭な屋敷での、母子二人の寂しい幼少期、器用な手で、よく木工のおもちゃを作って、フィリップを慰めてくれた。
空気のように、傍にいるのが、当たり前の存在だった。 
フィリップ様、フィリップ様・・・。 
少ししわがれた、穏やかなあの声が、もう二度と聞けないとは。
フィリップは、自分を責めた。
守ってやれなかった。
「お兄様、大丈夫?」
ベッドに腰かけて、頭を抱えるフィリップの肩に、アンジェラがそっと手を置いた。
そのアンジェラの眼も、赤くなっていた。 
そうだ、私にはアンジェラがいる。
アンジェラだけは、何としても守り抜かなければ。 
「大丈夫だ」 
フィリップは、自分の肩に置かれたアンジェラの手に、自分の手を重ねた。



 何て一日だ。
リックは、乱暴にフォークを皿の上に置いた。 
セルマが見ていたら、小言が飛んで来そうだった。
リックは、ノックスのタヴァン、サニーの食堂にいた。
食堂は、まずまずの混み具合だった。
そして、リックは丸一日ぶりに、食事にありついた。 
念願の、魚のフライと、ビールだった。 
サニーのフライの味も悪くなかったが、バッカスのアダムの揚げるフライの方が、味は数段上だった。
サニーで合流した後、リックは、ピエールが撃たれて死んだことを告げた。 
皆一様に、言葉を失っていた。 
特に、フィリップの落ち込みが、ひどかった。 
ずっと、部屋にこもりきりだった。 
まあ、無理もない。
真面目な男のようだし、しばらくは立ち直れないかもしれないな。
リックはそう思った。
今夜は、ノックスのタヴァン、サニーに泊ることにした。 
ノックスは、ウッドフィールドへ向かう道とは間逆の道を、数時間行ったところにある、フォルティスの中堅の街だった。
ウッドフィールドへと向かう道は、今頃、敵が血眼になって、フィリップを探していることだろう。 
しかし、もう夜だ。 
時間的にも、今夜中に、ノックスまで敵の手が及ぶとは、考えにくい。 
よその国に来て、大勢の人数で動いているとも思えない。 
多くても、四人か、五人・・・。 
ミルフェアストリートで、銃を撃ったのも、想定外だったはずだ。
フィリップを殺るなら、できるだけ静かに始末したいところだろう。 
話が大きくなれば、フォルティスと、グラディウスの外交問題に発展しかねない。 
ミルフェアストリートが、あれからどうなったか、知るべくもなかったが、人がひとり死んでいるわけだから、警察も動き出すに違いない。 
奴らも、これからは、目立った動きをしにくくなるはずだ。 
ピエールのことは、フランクにまかせるしかない。
フランクの手に負えなくなったら、警察に顔のきくジェフリーが、何とかするんだろうが。
ジェフリーは、間違いなく怒ってる。 
俺の代わりに、フランクはきつく絞られてるはずだ。
しかし・・・、これから、どうするかな。 
今後の事を思えば、リックの口から、自然とため息が漏れた。
サニーの受付に、無造作に置いてあった新聞では、アルカンスィエルがグラディウスの侵攻を受けて、陥落したと、大々的に報じられていたが、とりたてて、目新しい情報はなかった。 
と、その時、眼の前をケヴィンが、通り過ぎた。
ケヴィンの顔を見て、思いつくことがあった。 
「ケヴィン」 
リックが呼び止めると、小柄で鋭い目つきのケヴィンは、笑みを浮かべて、リックに近づいてきた。
金回りがいいのか、小ざっぱりした格好をしている。 
「馬車か?」 
と、尋ねながら、ケヴィンはリックの向かいの席に座った。 
「いや、ちょっとな」
「そういや、ミルフェアストリートで、人がひとり死んだらしいな」 
ケヴィンは、そう言って、嗅ぎ煙草を取り出すと、器用に親指の甲の付け根のくぼみに乗せ、鼻から吸って、無造作に鼻を拭いた。
何気なく、そう言うケヴィンに、リックは薄ら寒いものを覚えた。 
こいつ、一体どこまで知っているんだ、と思う。 
今、眼の前に現れたのは、偶然ではないとすら思えた。 
ケヴィンは、仲間内では有名な情報屋だった。
警察から強盗、裏組織まで、普通では考えられないような、繋がりがあった。 
警察からも一目置かれる存在で、ケヴィンによってもたらされた情報で、事件が解決したこともある。
情報の売り買いを商売にするわけだから、危ない橋を渡ったことも、一度や二度ではないはずだった。
裏社会の恨みを買うことも、あるに違いない。
けれども、ケヴィンは生きている。 
今のところ。 
こうやって本人に会っていても、切羽詰まった様子は、全くなかった。 
「何か知ってるのか?」 
「俺が?いいや。俺は金の匂いがしない話には、興味が無い」 
ケヴィンは意味ありげに、リックを上目づかいで見た。 
いやな奴だ。 
「話は?」 
「アルカンスィエルの話は、もちろん知ってるな」 
「一応。そっちは、連れか?」 
と、ケヴィンが顎で、リックの後方を示した。 
リックが振り返ると、フィリップが立っていた。 
「何か用か?」 
「いや、ちょっとこれからのことで、相談したいことがあったんだけど、話し中なら、また後にするよ」 
と、戻りかけたフィリップに、
「ユースティティアの人?」 
と、ケヴィンが声をかけた。
 驚いた表情のフィリップに、
「ああ、そうか。アルカンスィエルの貴族だ」
と、告げた。 
「どうして、わかるんだ?」 
フィリップの青い瞳に、動揺が浮かんだ。 
フィリップは、一瞬、リックが話したのかと、思った。
「乗せられやがって」 
リックが、ぼそっと呟いた。 
フィリップは、リックのその一言で、ケヴィンに嵌められたことを知った。 
けれども、リックの方も、観念した。
 蛇の道は蛇だ。 
要するに、何故だか皆目見当はつかないが、ケヴィンは、全部知っているんだ、と諦めた。
「ところで、アルカンスィエルがどうしたって?」 
 屈託なく、ケヴィンはリックに尋ねて来る。 
タヌキめ! 
リックは、ケヴィンを睨んだが、ケヴィンの方は、涼しい顔をしていた。 
「アルカンスィエル?アルカンスィエルがどうかしたって?」 
フィリップが、気にならないはずがない。 
「座れよ」 
リックは諦めて、フィリップに椅子を勧めた。
そのフィリップを眺めながら、リックは、ユースティティア王家の血を引くという真面目なこの若者を、少し見直した。
今頃は、女たちと部屋でめそめそ泣いているに違いないと、思っていた。
「アルカンスィエルねえ。リックはともかく、あんた、聞かない方がいいかもしれないよ」
「私は、あるところへ、家族と召使いを無事に送り届けたなら、ユースティティアに戻るつもりだ。戻って、グラディウスと戦うつもりだ。だから、ユースティティアと、アルカンスィエルがどうなったのか、どうしても知りたいんだ」 
それは、リックも初めて聞く話だった。 
けれども、フィリップは間違えていた。 
情に訴えたところで、ケヴィンが、話すはずがない。 
「もったいぶるなよ」 
リックが、テーブルの上に、紙幣を置いた。
ケヴィンは、すかさず、それをポケットにしまう。
「俺は、気を使ってやってるんだぜ、リック。勘違いするなよ。アルカンスィエルが、すっかりグラディウスに占領されて、逃げたジャン王とその親族が、グラディウスの兵士にとっ捕まって、殺されたなんて話を、そいつに聞かせてもいいのかって」 
「殺された・・・」 
フィリップは、明らかに動揺していた。
「ジャン王、親族、取り巻き、ひとり残らずだ。無残だったらしいぜ。命乞いを聞き捨てられて、着てるものを剥ぎ取られ、縄で縛られて、火を・・・」
「黙れ。それ以上は必要ない」 
リックが遮った。 
いい加減にしろよ、と、憤りを含んだ眼で、ケヴィンを睨んだ。 
フィリップが、どういう立場の人物なのか、ケヴィンは、何故か知っている。
知った上で、そういう話を続けるというのは、明らかにフィリップの反応を楽しんでいた。
「怒るなよ。分かったよ。真面目そうだから、ちょっとからかいたくなったんだ」 
「それで、ユースティティアは?」
「アルカンスィエルは、落ちた。ジャン王も、死んだ。だからと言って、ユースティティアが滅んだかと言うと、話は別だな。アルカンスィエルが落ちた後、ユースティティア軍は後方へ戦線を移して、戦っている。まあ、苦戦には違いないが」 
「つまり?」
「敵の手に落ちたのは、全ユースティティア領土の二割ぐらいじゃないか。ま、二割でも、大変な事態には違いないが」 
「まだ、アルカンスィエルを取り戻す希望は、あるということか」 
「楽観は禁物さ。敵も、それなりの覚悟で来ているんだし」 
フィリップは、気持ちが揺らいでいた。
アンジェラを無事、ウッドフィールトへ送り届けたい気持ちと、ユースティティアに戻って、祖国のために戦いたい気持ちと。 
でも、戻れない。 
アンジェラのために。
「それと、ユースティティアと、フォルティスの国境付近も、ややこしくなりそうだ」 
「どういうことだ?」 
フィリップは、詰め寄った。
「ユースティティアの難民が、フォルティスとの国境付近に押し寄せている。昨日くらいから、フォルティスが受け入れを拒否して、難民は、みんなユースティティアに送り返されている」 
「そんな・・・」 
「難民は、フォルティスの治安を悪くする。それに、フォルティスも、グラディウスを刺激したくないんだろう。ユースティティアからの難民を、ほいほい受け入れたんじゃ、グラディウスの心象を悪くする」



 グラディウス、ユースティティア、フォルティス、この国境を接する三つの国は、常に微妙な緊張関係にあった。
広大な土地を持ち、絶大なる王権の下、国力を伸ばす、グラディウス。
王政から脱却し、議会制の成熟したフォルティス。
フォルティスには、優れた技術力と、それによる目覚ましい工業化の発達があった。
その中で、ユースティティアだけ、王権政治は腐敗し、目立った産業もなく、取り残された感があった。
それが、今回のグラディウスの侵攻を許した、大きな原因であった。
今、グラディウスとフォルティスは、かろうじて均衡状態を保っている。
だから、グラディウスを刺激して、矛先がフォルティスに向かうことは、避けたかった。
フォルティスと、ユースティティアを覆うように広がる国土を持つ、グラディウスである。
潜在的戦闘力は、計り知れなかった。
そういった理由もあって、フォルティスは、ひとまずユースティティアからの難民の受け入れを、認めない方針を取ったのだった。



 「あの」 
三人で、話し込んでいたために、レティシアが傍にやってきたことには、誰も気付かなかった。
レティシアを見て、ケヴィンが、ヒュウ、と口笛を吹いた。 
「何か用か?」 
リックが、無愛想に言った。
「お話中、申し訳ありません。フィリップ様、アンジェラ様がお呼びでございます」 
レティシアもピエールの件で、深いショックを受けていたのだろう。
瞳が、赤く染まっていた。 
それがまた色香を放って、艶めかしかった。 
リックは、レティシアに、あまり表だった場所へは来てほしくなかった。 
その美貌が、男の眼につくと、何かと問題が起こりそうだった。 
フィリップが、レティシアと去ると、 
「またえらい美人を、連れているんだな」 
ケヴィンは、俄然、興味を引かれたようで、さっそく尋ねて来た。
「いますぐ、ベッドに押し倒したいくらいだ」
「止めろよ」 
冗談だということが分かっていても、何故かリックは笑えなかった。 
「見たところ、貴族ではないようだ」
「そのようだな」 
「それにしちゃあ、雰囲気あるな。とても、ただの召使いには見えない」 
「だとしても、俺には関係がない」 
「調べてやろうか?」 
一瞬、リックはケヴィンが何を言っているのか、分からなかった。 
「調べてやろうか?」 
もう一度、ケヴィンは言った。 
リックは、黙りこんだ。 
確かに、妙な一件だ。 
突然、ユースティティアの貴族が現れて、ウッドフィールドの親戚の家まで連れて行ってほしいと、依頼された。 
しかも、フィリップは、前国王ギヨーム王の庶子、連れの高慢な女は、現王妃の妹だという。
そして、美貌の召使い・・・。
あの美貌の召使いの素性が知れれば、何かわかるかもしれない。
「方法は?」 
「女の情報は、何もないのか?」 
「名前は、レティシア。それだけだ」 
と言ってから、リックはあることを思い出した。 
その表情の変化を、ケヴィンが見過ごすはずがなかった。 
「あるんだな?」 
「一年前まで、コルマノンにいたそうだ」
「コルマノン・・・」 
「コルマノンに行くのか?」 
「そうなるだろうな」 
コルマノンは、アルカンスィエルからは、遠く離れている。 
まだ、グラディウスの手は、及んではいないはずだった。 
「金はないぜ」 
「最初からそんな気はない」
「ケヴィン、何でこの件にそう肩入れする?」
「肩入れ?そんなつもりは、毛頭ないぜ」 
「しらをきるなよ」 
 情報の売り買いで商売をする、情報屋だ。 
 金を取らずに動くとは、思えなかった。
「お前のことが好きだからさ」 
「冗談はやめろよ」 
「冗談じゃないさ。俺は、お前のことが結構好きなんだぜ。駅馬車強盗の一件、覚えているだろう?」 
もちろん、忘れようがない。 
 駅馬車強盗に遭って、リックと護衛で、馬車と乗客を守りぬいた。
「それが?」 
「馬車の中に、俺の女がいた」 
 初耳だった。 
けれどもそれで、合点がいった。
つまり、これで貸し借りなしということか。
「さて・・・、ファムスュパーブかファムファタールか?」 
「何だそれ?」 
「あの女のことだよ。ユースティティアの言葉さ。絶世の美女か、はたまた男を狂わす魔性の女か。どっちだろうな?」
ケヴィンは、にやりと笑みを浮かべた。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...