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3.リックの計略
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その後、何か分かったら、ケヴィンが、首都タリスのリックの定宿に、手紙で知らせるということになった。
ウッドフィールドに向かうのなら、タリスは、必ず通ることになると考えたからだった。
ケヴィンが、コルマノンへ行って、タリスへ手紙が届くまでには、どんなに早くとも五日。
リックの急行馬車なら、タリスまで行くのに丸一日あれば何とかなったが、あの連中を連れて行くのに、一体何日かかるのやらと、リックは気が重かった。
街道を敵に抑えられて、ウッドフィールドへ向かう、道筋も、手順も、皆目見当がつかない今、五日でタリスにたどりつけるかどうかは、微妙だと思っていた。
タリスに着くのが、ケヴィンが早いか、リックが早いかは、わからなかったが、うまくいけばタリスで、大きな情報を得られるかもしれなかった。
その約束をしながらリックは、やっぱり俺は、奴らをウッドフィールドへ送り届けることになるらしい、と内心覚悟を決めつつあった。
ケヴィンと別れて、タヴァン、サニーの二階に取った自分の部屋に上がる時、フィリップに会った。
フィリップは、ちょうど、アンジェラの部屋から出てくるところだった。
アンジェラはレティシアと同室で、それ以外は、別々に部屋を取っていた。
リックは、フィリップに聞いておきたいこともあって、自分の部屋に招き入れた。
「女たちはどうしてる?」
「今、アンジェラとレティシアと、話してきた。二人とも、とても落ち込んでいる。今夜は眠れないと思う」
「もうひとりは?」
「アンヌは、いつもと変わらないけど・・・」
「ジャン王と、親族が殺されたことは、言ったのか?」
「伝えたよ。黙っていた。何も答えなかった。でも、実の母と姉が殺されたんだ。ショックだと思う。アンヌは、感情をあまり表に出さないけどね」
ジャン王と、その親族も、皆殺されたということは、ジャン王と行動を共にしていた、アンヌの母と姉も殺されたことになる。
そして、ユースティティア軍を指揮していた、父親のラングラン公爵の行方については、情報が無かった。
未だ、ユースティティア軍を指揮して戦場にいるのかもしれないし、もしかしたら、すでに落命しているのかもしれなかった。
だとすれば、アンヌは、天涯孤独の身だ。
「貴族以外は、人間じゃないって顔をしてるけどな」
「あなたは、アンヌを誤解している。アンヌは、思いやりの深い人だ」
そうフィリップに言われてみると、確かに、アンヌは、サニーに泊ることになっても、何も言わなかった。
ユースティティアの、公爵令嬢だ。
大勢の召使いに囲まれて暮らしているはずのレディが、このような場所に泊らなければならないなど、屈辱であったに違いない。
けれども、アンヌから、不平や不満は聞かれなかった。
さりとて昼間、ホワイトローズで、自分に向けられた蔑みを、リックは、忘れたわけではなかった。
あの女は、確かに俺を見下していた。
その傲慢さは、やはり受け入れられなかった。
リックはフィリップに、ひとつ確認しておきたいことがあった。
「さっき、下で言っていただろう。ウッドフィールドにアンジェラを送り届けたら、ユースティティアに戻るって」
「そのつもりだ」
「戻ってどうする?」
「私は、これでも軍人の端くれだ。ユースティティアの危機に、自分だけ安全な土地で、のんびりしていられるわけがない。アンジェラたちを無事にウッドフィールドへ送り届けたら、ユースティティアに戻り、ユースティティアのために戦う」
「アンジェラは、それを知ってるのか」
「いや、言ってない・・・」
熱を帯びていた口調が、一気に冷めた。
アンジェラが、その事実を知ったら、取り乱すに違いなかった。
「俺は、あんたがどうしようと知ったこっちゃないが、ウッドフィールドに行くなら、その親戚の伯爵に、相談したらどうかと思うね。ま、無事に着いたらの話だが」
「じゃあ、リック・・・」
と、期待の籠った眼差しのフィリップを、リックは制した。
「待てよ。俺は、まだ決めたわけじゃない。あんたらをウッドフィールドへ連れて行ってやるとも、行かないとも言ってない。これから、考える。じゃあな」
と、リックは、フィリップを部屋から追い出そうとして、あることを思い出した。
「ああ、ちょっと待て。気になっていたんだが、ミルフェアストリートで襲撃してきた奴らは、なぜ、あんたの顔がわかったんだ?」
リックのその問いに、フィリップは視線を床に落とした。
「士官学校の友人がいた・・・」
「友人?ああ、あの襟首引っ張られてた、あいつか?」
「そうだ」
「あいつら、こっちを指さして何をわめいてたんだ?あれは、グラディウスの言葉か?あんた、わかるんだろう?」
フィリップは、しばらく言うのをためらっていたが、口を開くと、こう言った。
「いたぞ、フィリップだ。必ず、仕留めろ」
フィリップは深い憂いを含んだ瞳で、リックを見つめると、そのまま部屋を出て行った。
フィリップが帰った後、リックはベッドに、サニーの一階で借りた地図を広げて、これからのことを考えていた。
ウッドフィールドか・・・、遠いな。
もちろん、街道を馬車で駆け抜ければ、二日で着く。
けれども、街道はまずい。
おそらく、刺客が張っている。
囲まれて狙われるのは、例の駅馬車強盗でもうこりごりだった。
護衛を雇うことも、考えた。
けれども、護衛がみな善人とは限らなかった。
雇った護衛たちが、アンヌや、レティシアに妙な気を起こしでもしたら、やっかいなことになる。
そもそも、時期も悪かった。
春から夏にかけては、フォルティスの議会があるため、議会の議員である貴族たちは、こぞって首都タリスにいた。
タリスの方が、ウッドフィールドよりも断然近い。
約半分の距離で済んだ。
けれども、今は秋に差し掛かろうとしている。
貴族たちは議会を終えて、領地に帰っていた。
今、グラディウスが、フォルティスの領土へ攻め入って来る恐れはなく、臨時議会が招集される気配は、いまのところなかった。
十中八九、リヴィングストン伯爵も、ウッドフィールドへ帰ってしまっている。
リックは、思い切って、フォルティスの政府に、庇護を願い出てはどうかとも思った。
けれども、もしグラディウスが、フォルティスにフィリップの身柄の引き渡しを求めて来た場合、これはきわめて難しい外交問題に発展する。
引き渡すか、引き渡さないか。
それによって、グラディウスとフォルティスの関係が、大きく変わる。
そして万一、引き渡された場合、フィリップの命はない。
「どうするかな」
思わず、声に出た。
何か、いい手立ては・・・
待てよ。
リックは、あることを思い出した。
そう、あれは、去年だ。
金に目のないジェフリーが、資産家から個人的に請け負ってきた仕事があった。
フォルティスの山奥の、とある集落から、大切な荷物をブリストンまで預かって来てほしい、というものだった。
何でも資産家の妻の実家が、その山奥の集落にあるらしく、どうしても実家へ荷物を取りに行ってほしいのだという。
その目指す集落というのが、とんでもないど田舎で、ブリストンから集落へと続く細い一本道は、馬車一台通れない狭い道だった。
ジェフリーは、その仕事をリックに与えた。
リックは、勘弁してくれと、言いたかったが、ジェフリーに逆らえるはずもなかった。
集落の近くまで街道を行って、どこからかその山道に入りこむという案を、リックは資産家に提案したのだが、大変わかりづらい道なので、迷うことがあってはいけないと、提案は却下された。
リックは、小包ひとつ受け取るために、馬車も通れない、うっそうと木々の覆い茂る細い道を、ブリストンから田舎の集落まで、馬で数日ほど、行くはめになったのだった。
無事、荷物を受け取って、ブリストンに帰りついたのち、その大切な荷物というのが、資産家の妻の亡くなった父親の日記だと知った時、確かに、大切なものに違いないんだろうが、と、自分の尽くした労力と比較して、リックは、複雑な心境になった。
あの道は、確か・・・。
地図を指でなぞる。
ない、どこにもない。
つまり、あの道は、地図には載ってない道だ。
そして、リックが去年訪れた山奥の集落は、ウッドフィールドに近かった。
去年は、ブリストンからの出発だったが、今回は、ここノックスからだった。
けれども、あの道は、ブリストンより手前から続いていた。
これまでの経験から、リックはその田舎道に、ここノックスから入れるような気がした。
リックは、しめたと思った。
そうだ、あの時も、依頼人の資産家が、丁寧に道を教えてはくれたが、ジェフリーも、道には詳しい御者仲間も、誰ひとり、その道に心当たりはなかった。
とても狭くて、標高の高い場所もある、危険な道だ。
けれども、道に詳しい御者ですら、知らなかった道だ。
グラディウスから来た刺客たちが、知っているとは、思えなかった。
時間はかかるかもしれないが、刺客を捲くなら、この道しかない。
「しかし、何日かかるかな」
ため息が漏れた。
面倒な奴らが、四人。
しかもアンジェラは病弱で、馬には乗り慣れてないと見た。
ウッドフィールドまで、八日か、十日か・・・。
「俺は、キャラバンの隊長じゃないんだぜ」
ひとり、リックは毒づいた。
リックは、仰向けに寝転んで、目を閉じた。
撃たれたピエールの、懇願するような眼が、脳裏に浮かんだ。
リックは、ユースティティアの言葉は分からなかったが、ピエールがフィリップ、と言ったのだけは、聞き取れた。
おそらく、フィリップのことを、リックに頼みたかったのだろう。
そして、
「いたぞ、フィリップだ。必ず、仕留めろ」
そう言った、先ほどの、フィリップの深い憂いを含んだ青い瞳が、浮かんだ。
そうか、奴はまだ十六だったか・・・。
リックは眼を開けて、はっ、と大きく息をはくと、
「わかったよ、行けばいいんだろ、行けば」
そう呟いた。
リックは、引き受けるにあたって、条件を提示した。
報酬の金額、二度と隠し事はしないということ、そして、貴族とはいえ、自分は絶対にへりくだったりはしない、ということ。
それが、リックの条件だった。
フィリップらは、その条件を全て飲んだ。
リックは、旅に必要と思われるもの、フィリップとアンヌの持つユースティティア紙幣の両替、毛布、防寒着、とりあえずの食料、方位磁石、火口箱、ナイフ、拳銃、それぞれが乗る馬とは別に、荷物と馬たちの餌となる飼料を乗せる馬まで一頭準備し、果ては、寝巻姿でブリストンを逃げ出したアンジェラのための衣服や、各々の着替えまで用意して、翌日の午前には、ノックスを出発していた。
そして、タヴァン、サニーには、十分な支払いをして、自分たちがここにいたことは絶対誰にも言うなと、固く口止めをした。
その日の午後になって、キツネ目の男たちが、ノックスのタヴァン、サニーを訪れた時、リックたちの痕跡は何ひとつ残っていなかった。
ウッドフィールドに向かうのなら、タリスは、必ず通ることになると考えたからだった。
ケヴィンが、コルマノンへ行って、タリスへ手紙が届くまでには、どんなに早くとも五日。
リックの急行馬車なら、タリスまで行くのに丸一日あれば何とかなったが、あの連中を連れて行くのに、一体何日かかるのやらと、リックは気が重かった。
街道を敵に抑えられて、ウッドフィールドへ向かう、道筋も、手順も、皆目見当がつかない今、五日でタリスにたどりつけるかどうかは、微妙だと思っていた。
タリスに着くのが、ケヴィンが早いか、リックが早いかは、わからなかったが、うまくいけばタリスで、大きな情報を得られるかもしれなかった。
その約束をしながらリックは、やっぱり俺は、奴らをウッドフィールドへ送り届けることになるらしい、と内心覚悟を決めつつあった。
ケヴィンと別れて、タヴァン、サニーの二階に取った自分の部屋に上がる時、フィリップに会った。
フィリップは、ちょうど、アンジェラの部屋から出てくるところだった。
アンジェラはレティシアと同室で、それ以外は、別々に部屋を取っていた。
リックは、フィリップに聞いておきたいこともあって、自分の部屋に招き入れた。
「女たちはどうしてる?」
「今、アンジェラとレティシアと、話してきた。二人とも、とても落ち込んでいる。今夜は眠れないと思う」
「もうひとりは?」
「アンヌは、いつもと変わらないけど・・・」
「ジャン王と、親族が殺されたことは、言ったのか?」
「伝えたよ。黙っていた。何も答えなかった。でも、実の母と姉が殺されたんだ。ショックだと思う。アンヌは、感情をあまり表に出さないけどね」
ジャン王と、その親族も、皆殺されたということは、ジャン王と行動を共にしていた、アンヌの母と姉も殺されたことになる。
そして、ユースティティア軍を指揮していた、父親のラングラン公爵の行方については、情報が無かった。
未だ、ユースティティア軍を指揮して戦場にいるのかもしれないし、もしかしたら、すでに落命しているのかもしれなかった。
だとすれば、アンヌは、天涯孤独の身だ。
「貴族以外は、人間じゃないって顔をしてるけどな」
「あなたは、アンヌを誤解している。アンヌは、思いやりの深い人だ」
そうフィリップに言われてみると、確かに、アンヌは、サニーに泊ることになっても、何も言わなかった。
ユースティティアの、公爵令嬢だ。
大勢の召使いに囲まれて暮らしているはずのレディが、このような場所に泊らなければならないなど、屈辱であったに違いない。
けれども、アンヌから、不平や不満は聞かれなかった。
さりとて昼間、ホワイトローズで、自分に向けられた蔑みを、リックは、忘れたわけではなかった。
あの女は、確かに俺を見下していた。
その傲慢さは、やはり受け入れられなかった。
リックはフィリップに、ひとつ確認しておきたいことがあった。
「さっき、下で言っていただろう。ウッドフィールドにアンジェラを送り届けたら、ユースティティアに戻るって」
「そのつもりだ」
「戻ってどうする?」
「私は、これでも軍人の端くれだ。ユースティティアの危機に、自分だけ安全な土地で、のんびりしていられるわけがない。アンジェラたちを無事にウッドフィールドへ送り届けたら、ユースティティアに戻り、ユースティティアのために戦う」
「アンジェラは、それを知ってるのか」
「いや、言ってない・・・」
熱を帯びていた口調が、一気に冷めた。
アンジェラが、その事実を知ったら、取り乱すに違いなかった。
「俺は、あんたがどうしようと知ったこっちゃないが、ウッドフィールドに行くなら、その親戚の伯爵に、相談したらどうかと思うね。ま、無事に着いたらの話だが」
「じゃあ、リック・・・」
と、期待の籠った眼差しのフィリップを、リックは制した。
「待てよ。俺は、まだ決めたわけじゃない。あんたらをウッドフィールドへ連れて行ってやるとも、行かないとも言ってない。これから、考える。じゃあな」
と、リックは、フィリップを部屋から追い出そうとして、あることを思い出した。
「ああ、ちょっと待て。気になっていたんだが、ミルフェアストリートで襲撃してきた奴らは、なぜ、あんたの顔がわかったんだ?」
リックのその問いに、フィリップは視線を床に落とした。
「士官学校の友人がいた・・・」
「友人?ああ、あの襟首引っ張られてた、あいつか?」
「そうだ」
「あいつら、こっちを指さして何をわめいてたんだ?あれは、グラディウスの言葉か?あんた、わかるんだろう?」
フィリップは、しばらく言うのをためらっていたが、口を開くと、こう言った。
「いたぞ、フィリップだ。必ず、仕留めろ」
フィリップは深い憂いを含んだ瞳で、リックを見つめると、そのまま部屋を出て行った。
フィリップが帰った後、リックはベッドに、サニーの一階で借りた地図を広げて、これからのことを考えていた。
ウッドフィールドか・・・、遠いな。
もちろん、街道を馬車で駆け抜ければ、二日で着く。
けれども、街道はまずい。
おそらく、刺客が張っている。
囲まれて狙われるのは、例の駅馬車強盗でもうこりごりだった。
護衛を雇うことも、考えた。
けれども、護衛がみな善人とは限らなかった。
雇った護衛たちが、アンヌや、レティシアに妙な気を起こしでもしたら、やっかいなことになる。
そもそも、時期も悪かった。
春から夏にかけては、フォルティスの議会があるため、議会の議員である貴族たちは、こぞって首都タリスにいた。
タリスの方が、ウッドフィールドよりも断然近い。
約半分の距離で済んだ。
けれども、今は秋に差し掛かろうとしている。
貴族たちは議会を終えて、領地に帰っていた。
今、グラディウスが、フォルティスの領土へ攻め入って来る恐れはなく、臨時議会が招集される気配は、いまのところなかった。
十中八九、リヴィングストン伯爵も、ウッドフィールドへ帰ってしまっている。
リックは、思い切って、フォルティスの政府に、庇護を願い出てはどうかとも思った。
けれども、もしグラディウスが、フォルティスにフィリップの身柄の引き渡しを求めて来た場合、これはきわめて難しい外交問題に発展する。
引き渡すか、引き渡さないか。
それによって、グラディウスとフォルティスの関係が、大きく変わる。
そして万一、引き渡された場合、フィリップの命はない。
「どうするかな」
思わず、声に出た。
何か、いい手立ては・・・
待てよ。
リックは、あることを思い出した。
そう、あれは、去年だ。
金に目のないジェフリーが、資産家から個人的に請け負ってきた仕事があった。
フォルティスの山奥の、とある集落から、大切な荷物をブリストンまで預かって来てほしい、というものだった。
何でも資産家の妻の実家が、その山奥の集落にあるらしく、どうしても実家へ荷物を取りに行ってほしいのだという。
その目指す集落というのが、とんでもないど田舎で、ブリストンから集落へと続く細い一本道は、馬車一台通れない狭い道だった。
ジェフリーは、その仕事をリックに与えた。
リックは、勘弁してくれと、言いたかったが、ジェフリーに逆らえるはずもなかった。
集落の近くまで街道を行って、どこからかその山道に入りこむという案を、リックは資産家に提案したのだが、大変わかりづらい道なので、迷うことがあってはいけないと、提案は却下された。
リックは、小包ひとつ受け取るために、馬車も通れない、うっそうと木々の覆い茂る細い道を、ブリストンから田舎の集落まで、馬で数日ほど、行くはめになったのだった。
無事、荷物を受け取って、ブリストンに帰りついたのち、その大切な荷物というのが、資産家の妻の亡くなった父親の日記だと知った時、確かに、大切なものに違いないんだろうが、と、自分の尽くした労力と比較して、リックは、複雑な心境になった。
あの道は、確か・・・。
地図を指でなぞる。
ない、どこにもない。
つまり、あの道は、地図には載ってない道だ。
そして、リックが去年訪れた山奥の集落は、ウッドフィールドに近かった。
去年は、ブリストンからの出発だったが、今回は、ここノックスからだった。
けれども、あの道は、ブリストンより手前から続いていた。
これまでの経験から、リックはその田舎道に、ここノックスから入れるような気がした。
リックは、しめたと思った。
そうだ、あの時も、依頼人の資産家が、丁寧に道を教えてはくれたが、ジェフリーも、道には詳しい御者仲間も、誰ひとり、その道に心当たりはなかった。
とても狭くて、標高の高い場所もある、危険な道だ。
けれども、道に詳しい御者ですら、知らなかった道だ。
グラディウスから来た刺客たちが、知っているとは、思えなかった。
時間はかかるかもしれないが、刺客を捲くなら、この道しかない。
「しかし、何日かかるかな」
ため息が漏れた。
面倒な奴らが、四人。
しかもアンジェラは病弱で、馬には乗り慣れてないと見た。
ウッドフィールドまで、八日か、十日か・・・。
「俺は、キャラバンの隊長じゃないんだぜ」
ひとり、リックは毒づいた。
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撃たれたピエールの、懇願するような眼が、脳裏に浮かんだ。
リックは、ユースティティアの言葉は分からなかったが、ピエールがフィリップ、と言ったのだけは、聞き取れた。
おそらく、フィリップのことを、リックに頼みたかったのだろう。
そして、
「いたぞ、フィリップだ。必ず、仕留めろ」
そう言った、先ほどの、フィリップの深い憂いを含んだ青い瞳が、浮かんだ。
そうか、奴はまだ十六だったか・・・。
リックは眼を開けて、はっ、と大きく息をはくと、
「わかったよ、行けばいいんだろ、行けば」
そう呟いた。
リックは、引き受けるにあたって、条件を提示した。
報酬の金額、二度と隠し事はしないということ、そして、貴族とはいえ、自分は絶対にへりくだったりはしない、ということ。
それが、リックの条件だった。
フィリップらは、その条件を全て飲んだ。
リックは、旅に必要と思われるもの、フィリップとアンヌの持つユースティティア紙幣の両替、毛布、防寒着、とりあえずの食料、方位磁石、火口箱、ナイフ、拳銃、それぞれが乗る馬とは別に、荷物と馬たちの餌となる飼料を乗せる馬まで一頭準備し、果ては、寝巻姿でブリストンを逃げ出したアンジェラのための衣服や、各々の着替えまで用意して、翌日の午前には、ノックスを出発していた。
そして、タヴァン、サニーには、十分な支払いをして、自分たちがここにいたことは絶対誰にも言うなと、固く口止めをした。
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