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18.イーオン<永遠> 後編
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おとといの深夜、屋根裏のサラの部屋へ入って来たのは、シルヴィアだった。
シルヴィアも、一度はベッドに入ったものの、眠れなかったと見えて、寝間着にガウンを羽織っていた。
そして、小箱を手にしていた。
「お嬢様・・・」
「サラ、話があるの」
前日、有無を言わさず、ジェームズの屋敷に連れて行かれた時とは違って、シルヴィアにとげとげしい雰囲気はなかった。
けれども、表情は硬かった。
「あなたに、覚悟はあるの?」
「何のお話でしょう?」
サラには、シルヴィアの言葉に全く心当たりがなかった。
「隠す必要はないわ。あなたとジェームズは・・・、惹かれあっているのでしょう。私が、知らないとでも思って?」
「まあ、お嬢様。そんなこと!」
サラは、蒼くなった。
「嘘が上手ね。私、見たのよ。先日、庭に、ジェームズが来ていたでしょう。あなた、泣いていたわね」
サラは、はっ、とした表情になった。
見られていた。
あれを、見られてしまったのだ。
「いいのよ、私は怒っているんじゃないの。でも、許されないのよ。こんな、イーオンのような小国でも、貴族と平民の・・・、身分違いの恋は。あなたに、その覚悟があるの?」
シルヴィアの表情は、真剣だった。
「あの、もしかして、お嬢様は、ジェームズ様のことを・・・?」
シルヴィアの表情が、ふっと緩んだ。
「ええ、そうね。もうずいぶん長い間・・・」
「お嬢様・・・」
「でも、私は、ミグノフ総督の元へ嫁ぐと決めたの。明日、お母様と、正式にお返事をするわ」
「お嬢様、それは・・・」
「私のことはいいのよ、サラ。今はあなたの話。私が、総督の元へ嫁げば、できないことはないのよ。あなたと、ジェームズがうまくいくようにも、取り計らえるはず。きっと、うまくいくようにするわ」
「お嬢様、私・・・」
「だから、希望を捨ててはだめよ。あなたには・・・、ずいぶんたくさん、ひどいことを言ったわ。それなのに、この家のためによく働いてくれた。あなたのその優しさで、今度は、ジェームズを支えてちょうだい。これは・・・、私からの、これまでのお礼」
と、シルヴィアは、小箱をそっと差し出した。
サラは、手に押しつけられた小箱を開けてみて、驚いた。
「いただけません、こんな高価なもの!」
サラは驚いて、小箱を、シルヴィアの手に押し戻した。
けれども、シルヴィアは、サラの手に押しつけた。
「私は、もういらないの。どうか、あなたにもらってほしいわ」
「お嬢様、そんな・・・」
「あなたを、信頼して話すわね。私は・・・、このゴードン家の、本当の娘ではないの。このサファイアの首飾りは、私の本当のお父様が、本当のお母様と結婚した時に、贈ったものだそうよ。私のお母様は、このサファイアのように、煌めくような碧い色の瞳をしていたんですって。私は、心のどこかで、待っていたの。このサファイアは、いつか、私と本当の両親を、巡り合わせてくれるんじゃないかって。でも、それは、未練ね。ジェームズのことも、本当の両親のことも、もう忘れなければ。私は、ミグノフ総督に嫁ぐのだから」
シルヴィアはそう言って微笑むと、サラにおやすみの言葉を残して、静かに屋根裏部屋の階段を、降りて行った。
サラには、その背中が、とても小さく見えた。
ハリーは、震える手で、サラの持つ小箱に手を伸ばした。
小箱の中にあったのは、まぎれもなく十八年前、ハリー、つまり、セルゲイ・ミハイロヴィチ・ベレゾフスキー大尉が、結婚の際、ナターリアに贈ったサファイアの首飾りだった。
「シルヴィアは、あんたの娘なんだな」
そのハリーの表情を見て、リックが言った。
事情の飲み込めないサラは、驚いて、えっ、と息を呑んだ。
「そうだ・・・、シルヴィアは、あの子は、俺が一度も会ったことのない、俺の・・・、俺とナターリアの、娘だ」
ハリーは、絞り出すような声で呻いた。
そして、次の瞬間、弾かれたように、
「シルヴィアは?」
サラに、そう尋ねた。
「お嬢様は、総督のお屋敷ですわ。奥様と一緒に」
その瞬間、ハリーは玄関へ向かって、駆け出していた。
ハリーは、全速力で、馬を走らせた。
シルヴィアが、娘。
シルヴィアが・・・、俺の娘。
冬宮殿のサファイアと称された母の、ナターリアの、碧く美しい瞳を受け継いだ娘。
ああ・・・、何と言うことだ!
ハリーは、ミグノフ総督の屋敷に行って、どうするべきかなどは、考えなかった。
シルヴィアが、ミグノフ総督の屋敷にいる。
そう思うと、総督の屋敷に向かわずにはいられなかった。
全速力で馬を走らせて、ハリーはミグノフ総督の屋敷に、辿り着いた。
屋敷に辿り着いた時、ちょうど、使用人風の男女が、慌てた様子で、屋敷から走り出て来た。
ハリーが声をかけようとしたら、向こうの方から先に、ハリーに声をかけて来た。
「ああ、そこの人。尋ねたいことがあるんだが、若い娘を見なかったか?」
「いや、見なかった。何かあったのか?」
ハリーは、直感的にシルヴィアだと思った。
「突然、いなくなってしまって、大騒ぎさ。見なかったのなら、いい」
無駄話をすると、主人に叱られると思ったのだろうか、それ以上は何も話さず、使用人の男女は、ハリーが来た道とは反対の方向へと、探しに向かった。
シルヴィアが、いなくなった・・・。
一体、どこへ?
ハリーの頭にひらめいた。
王宮広場だ!
ハリーは、再び、馬に飛び乗った。
遅れて来たリックに、
「王宮広場だ!」
ハリーは、大声でそう叫ぶと、一目散に、王宮広場を目指した。
シルヴィアも、一度はベッドに入ったものの、眠れなかったと見えて、寝間着にガウンを羽織っていた。
そして、小箱を手にしていた。
「お嬢様・・・」
「サラ、話があるの」
前日、有無を言わさず、ジェームズの屋敷に連れて行かれた時とは違って、シルヴィアにとげとげしい雰囲気はなかった。
けれども、表情は硬かった。
「あなたに、覚悟はあるの?」
「何のお話でしょう?」
サラには、シルヴィアの言葉に全く心当たりがなかった。
「隠す必要はないわ。あなたとジェームズは・・・、惹かれあっているのでしょう。私が、知らないとでも思って?」
「まあ、お嬢様。そんなこと!」
サラは、蒼くなった。
「嘘が上手ね。私、見たのよ。先日、庭に、ジェームズが来ていたでしょう。あなた、泣いていたわね」
サラは、はっ、とした表情になった。
見られていた。
あれを、見られてしまったのだ。
「いいのよ、私は怒っているんじゃないの。でも、許されないのよ。こんな、イーオンのような小国でも、貴族と平民の・・・、身分違いの恋は。あなたに、その覚悟があるの?」
シルヴィアの表情は、真剣だった。
「あの、もしかして、お嬢様は、ジェームズ様のことを・・・?」
シルヴィアの表情が、ふっと緩んだ。
「ええ、そうね。もうずいぶん長い間・・・」
「お嬢様・・・」
「でも、私は、ミグノフ総督の元へ嫁ぐと決めたの。明日、お母様と、正式にお返事をするわ」
「お嬢様、それは・・・」
「私のことはいいのよ、サラ。今はあなたの話。私が、総督の元へ嫁げば、できないことはないのよ。あなたと、ジェームズがうまくいくようにも、取り計らえるはず。きっと、うまくいくようにするわ」
「お嬢様、私・・・」
「だから、希望を捨ててはだめよ。あなたには・・・、ずいぶんたくさん、ひどいことを言ったわ。それなのに、この家のためによく働いてくれた。あなたのその優しさで、今度は、ジェームズを支えてちょうだい。これは・・・、私からの、これまでのお礼」
と、シルヴィアは、小箱をそっと差し出した。
サラは、手に押しつけられた小箱を開けてみて、驚いた。
「いただけません、こんな高価なもの!」
サラは驚いて、小箱を、シルヴィアの手に押し戻した。
けれども、シルヴィアは、サラの手に押しつけた。
「私は、もういらないの。どうか、あなたにもらってほしいわ」
「お嬢様、そんな・・・」
「あなたを、信頼して話すわね。私は・・・、このゴードン家の、本当の娘ではないの。このサファイアの首飾りは、私の本当のお父様が、本当のお母様と結婚した時に、贈ったものだそうよ。私のお母様は、このサファイアのように、煌めくような碧い色の瞳をしていたんですって。私は、心のどこかで、待っていたの。このサファイアは、いつか、私と本当の両親を、巡り合わせてくれるんじゃないかって。でも、それは、未練ね。ジェームズのことも、本当の両親のことも、もう忘れなければ。私は、ミグノフ総督に嫁ぐのだから」
シルヴィアはそう言って微笑むと、サラにおやすみの言葉を残して、静かに屋根裏部屋の階段を、降りて行った。
サラには、その背中が、とても小さく見えた。
ハリーは、震える手で、サラの持つ小箱に手を伸ばした。
小箱の中にあったのは、まぎれもなく十八年前、ハリー、つまり、セルゲイ・ミハイロヴィチ・ベレゾフスキー大尉が、結婚の際、ナターリアに贈ったサファイアの首飾りだった。
「シルヴィアは、あんたの娘なんだな」
そのハリーの表情を見て、リックが言った。
事情の飲み込めないサラは、驚いて、えっ、と息を呑んだ。
「そうだ・・・、シルヴィアは、あの子は、俺が一度も会ったことのない、俺の・・・、俺とナターリアの、娘だ」
ハリーは、絞り出すような声で呻いた。
そして、次の瞬間、弾かれたように、
「シルヴィアは?」
サラに、そう尋ねた。
「お嬢様は、総督のお屋敷ですわ。奥様と一緒に」
その瞬間、ハリーは玄関へ向かって、駆け出していた。
ハリーは、全速力で、馬を走らせた。
シルヴィアが、娘。
シルヴィアが・・・、俺の娘。
冬宮殿のサファイアと称された母の、ナターリアの、碧く美しい瞳を受け継いだ娘。
ああ・・・、何と言うことだ!
ハリーは、ミグノフ総督の屋敷に行って、どうするべきかなどは、考えなかった。
シルヴィアが、ミグノフ総督の屋敷にいる。
そう思うと、総督の屋敷に向かわずにはいられなかった。
全速力で馬を走らせて、ハリーはミグノフ総督の屋敷に、辿り着いた。
屋敷に辿り着いた時、ちょうど、使用人風の男女が、慌てた様子で、屋敷から走り出て来た。
ハリーが声をかけようとしたら、向こうの方から先に、ハリーに声をかけて来た。
「ああ、そこの人。尋ねたいことがあるんだが、若い娘を見なかったか?」
「いや、見なかった。何かあったのか?」
ハリーは、直感的にシルヴィアだと思った。
「突然、いなくなってしまって、大騒ぎさ。見なかったのなら、いい」
無駄話をすると、主人に叱られると思ったのだろうか、それ以上は何も話さず、使用人の男女は、ハリーが来た道とは反対の方向へと、探しに向かった。
シルヴィアが、いなくなった・・・。
一体、どこへ?
ハリーの頭にひらめいた。
王宮広場だ!
ハリーは、再び、馬に飛び乗った。
遅れて来たリックに、
「王宮広場だ!」
ハリーは、大声でそう叫ぶと、一目散に、王宮広場を目指した。
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