高校生のころから付き合っているらしい大学生がいちゃついているなんて・・・

壁山ゆかこ

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ハルチア―出会い編―

1話―出会い―

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 放課後の学校、生徒の楽しげな声があちらこちらで響く。廊下に差し込むオレンジ色の夕日、それとコントラストをなす、クラス委員の仕事を無難にこなす長身の男の影。
階段で、縫製が甘いシフォン生地のドレスを身に纏った女子たちとすれ違う。男は文化祭で必要になる物品申請書を持って職員室に入った。
「失礼します。石井先生はいらっしゃいますか?物品申請書にサインをもらいにきました。」
職員室の窓際の席に、若干黄ばんだ白衣を着たひげの生えた顔の、それでもかろうじて清潔感はある男が手をひらひらと振っている。
「おお、クラス委員さん。サインだろ。」
先生をしているとは思えない雑な口調で、クラス委員の男を呼んだ。机の上は、プリントした書類と科学雑誌で埋まっている。唯一あるスペースはコーヒーカップが置いてあり、どこでサインを書くつもりなのだろう、かなり散らかっている。
「先生、ここにサインをしてください。」
担任欄と書かれた部分を指さすクラス委員は、慣れているらしく下敷きになるバインダーのようなものと、学生が持つにしては少し質の良いボールペンを準備していた。
石井は、みみずが這ったような字でサインを書く。
「最近、秋野が来てないんだよなぁ~。」
「そうですね。僕も気になっていたんです。」
「クラス委員さんよぉ、家にこれ届けてくれないか?」
石井は、サインを書き終わった書類と一緒にクリアファイルを渡してきた。本当は担任の俺の仕事なんだけど、と笑いながら冗談交じりに言った。
「わかりました。秋野、しばらく学校に来ていないみたいで気になっていたので、渡すついでに様子を見に行こうと思います。秋野の家って、学校から15分くらいのところにある住宅地にありますよね。目印になるものって…表札を見ればいいですね。」
男には、石井の冗談は通じておらず本気で家に訪ねる気でいるらしい。
「あ、書類もありがとうございます。文化祭実行委員に提出しますね。失礼します。」
男は、急ぎ足で職員室を後にした。
「冗談だったんだけどなぁ~。」
石井のため息と独り言は、忙しい職員室のノイズの一部と化してった。

 文化祭実行委員が集まっている教室に申請書を出しに行き、何も問題は無かったのでクラスに戻ることにした。教室から、野太い男子の声が聞こえる。少し小走りで、両手に刷毛を持った小柄な女の子が近づいてきた。
「ハルトくん。申請書ありがとうね。ほんと助かったよ。」
「こちらこそありがとう、桜木さん。クラスの方任せきりになってごめんね。」
ううん。と首を振る桜木さんは、僕と一緒にクラス委員をしているおとなしめの女の子だ。
「桜木さん!ここどうしたらいいかな?」
「はーい。今行きまーす。」
桜木さんの交友関係は広く、派手な所謂ギャルの子たちから、勉強が得意でインドア派の女の子たちまで、誰とでも仲が良い。もちろん男子も含めてクラスの人から信頼されている、しっかりした人だ。ちょうど今も、飾り付け班のバスケ部の男子に呼ばれたところだ。
「呼ばれたから行くね。あ、今日はもう帰って大丈夫だよ。今残っているのもやる気もりもり桜木組だけだから!」
なんちゃってと、照れながら下の方に結んだお下げ髪をなびかせくるんとターンする。こう言うお茶目な姿が、みんなから好かれる理由なんだろう。僕とは正反対だなと尊敬の目で、彼女の小さな背中を見届けた。
桜木さんの気遣いもありがたく受け取り、先生からのお使いを果たすこととした。授業中ずっと空いている、窓際の一番端の席。少し前までは、秋野チアキという重い前髪の儚げな雰囲気を纏ったクラスメイトが座っていた。愁いを帯びた瞳が、窓の外を眺めている。太陽の光を受け焦げ茶色に透き通っていた髪と焼けていない白い肌、日差しを眩しそうに感じていた彼の姿が脳裏から離れない。彼が、1週間ほど休んでいるのが気がかりだ。
先生に渡されたクリアファイルを曲がらないように、確実に学生鞄の中に入れた。ちゃんと入れたことを確認して、教室を後にする。

 いつもとは違う道を歩いているからなのか、それともこれから秋野チアキの家に行くからなのか、不思議と高揚感を抱いている。しばらく歩いていくと、北欧風の町並みのような住宅街が現れた。僕の住んでいる家の近所と同じ国なのかと思えるほど、きれいな家が規則的に並んでいる。どの家も、庭の手入れがされていて、さまざまな花が咲いている。
「はぁ、先生に屋根の色でも何でもいいから特徴を聞いておくべきだったなぁ…」
僕は、独り言をこぼした。この住宅街のどこかに秋野チアキの家がある。一つ一つ、表札を見て探していたら怪しくないかなと思いながらも、それしか手段がないのでできるだけ各家から離れたところから表札を見ていく。どこの家も、ローマ字表記で書かれているので、読むのにも少し時間がかかる。金属のプレートに書かれたものや、レンガにかわいらしく彫ってあるもの。家の外観に合わせて表札にこだわっていることが感じられる。オレンジ色と紫色がグラデーションの空が広がる。刻々と、夜が近づいているのだろう。家からは、温かい光がもれ出し、街灯がスポットライトのように道を照らす。もう、遅いから諦めようとしたが、一つだけ電気がついていないであろう家を見つけた。もしやと思い、その家の方へ早足で向かった。

 目の前にあるのは、他の家よりも手入れが行き届いていない庭と、カーテンを閉め切っているのか、光がともっていない家であった。表札に目をむける。レンガに、白いアルファベットがAKINOと貼り付けてある。やっと、見つけた。秋野チアキの家だ。小さな門を通り、インターホンを押す。押したはずなのに、返事が返ってこない。留守なのだろうか。もう一度、インターホンを押そうとすると、掠れた声ではい。と返事がかえってきた。
「チアキくんに、学校からの書類を持ってきました。クラス委員の、」
「ありがとう。ちょっと待ってて。すぐ開けるから。」
玄関の前で、待っていると、上下黒のスウェットを着た秋野チアキがドアをあけてくれた。元々細かったと思うが、少しやつれており、具合が悪そうにしている。
「体調悪いところにごめんね。先生から預かっている書類。」
鞄から、書類を取り出していると、秋野チアキが僕の方に倒れてきた。とっさに鞄を落とし、彼を支える。力は抜けておりだらんとしている。おでこに手を当ててみると、熱があった。「熱あるよ!無理して出てきてもらってたんだね。ごめんね。」
秋野チアキは、ゆっくりと横に首を振る。意識は失っていないが、歩くのも大変そうであったし、僕も彼のことが心配だったので、彼の家に上がりこみ、彼を2階のベッドまで運んだ。
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