魂売りのレオ

休止中

文字の大きさ
108 / 178
第十五話 そうだ、温泉に行こう

そうだ、温泉に行こう 五

しおりを挟む
 ぼくらは部屋を確認し、荷物を置いて温泉に向かった。
 それにしても大きな部屋だったなあ。リビング、寝室、その他小部屋も合わせて、平家を二軒並べたくらい広かった。レオが言うには建材も装飾も上級らしいし、きっとかなり高価な部屋だろう。ライブラって出費を渋るわりに太っ腹だなぁ。
 ところで温泉に向かう途中、ぼくらは不思議な格好のひとたちとすれ違った。なんていうか、薄くて硬いバスローブを着てるんだ。それも足首くらいまで長さのあるヤツを。ぼくはもちろん、おしゃれに明るいレオでも見るのははじめてだった。
 あれはいったいなんだろう——そんなことを話していると、
「なんだい、あんたら”ユカタ”も知らないのかい」
 ライブラは鼻で笑うように言った。
「あれは温泉でのパジャマさ。着心地がよくてすごく楽なんだよ」
 へえ、ライブラは物知りだなあ。やっぱり呪術師なんて難しそうな仕事をするには頭がよくなくちゃいけないんだね。さっすがあ!
 と、いろいろと館内を見て談笑しながら歩くこと数分、
「ここだねぇ」
 ぼくらは”温泉”と書かれた暖簾のれんの前まで来た。さて、ぼくは男だからメンズの方に………………
「あれ?」
 ぼくは立ち止まり、困惑してしまった。扉のないドアがふたつあり、どちらも温泉の暖簾がかかっている。でもメンズ、レディースの表記がない。これじゃどっちに入ればいいかわからない。
「ライブラ、どっちが女湯だ?」
 とレオが訊いた。すると、
「あ、言ってなかったっけ? ここは混浴だよ」
「混浴!?」
 ぼくらは揃って声を上げた。とくにレグルスとアルテルフの声が大きかった。
「前はふつうに別だったらしいけどねぇ。いまは男女の区別をなくさなきゃいけないから、ひとつにしちまったそうだよ」
「そ、そんなの絶対いやです!」
 まだ脱いだわけでもないのにレグルスがすでに半泣きで叫んだ。
「赤の他人に裸を見せるなんて考えられません!」
 そりゃそうだ。もしぼくが女の立場だったら当然そう思うだろう。アルテルフも、
「あたしもちょっとやですねー。混浴しかないんですか?」
 じっとり不満げに言った。しかし、
「いいじゃないかい。どうせ二度と会うことのないヤツらだよ。見られたところで知ったこっちゃないよ」
 と、暗に混浴しかないと回答した。
 ううん、困ったなあ。せっかく温泉をたのしめると思ったのに。魔法でなんとかならないかなぁ………………
「あっ!」
 ぼくはふと名案を思いついた。
「ねえレオ! ”顔を覚えられない魔法”を使えばなんとかなるんじゃない!?」
「まあ、そうだな……」
 だよね! やっぱりあの魔法なら裸を見られても”られる”ことはなくなる!
「だが……いいのか?」
 え?
「たしかに”顔を覚えられない魔法”を使えば認識されなくなる。だが、そうなるとこいつらは我々にも認識されなくなるぞ」
 ……どういうこと?
「たとえばアルテルフとレグルスにグループで魔法をかけたとしよう。すると二匹は我々を認識できるが、我々からは認識できなくなる。つまり、会話もできない仲間はずれになるわけだ」
 なるほど……そういえば魔法はグループでかけると、グループのうちでは効果にはばまれず、外に対しては阻む。でも五人全員にかければ問題ないんじゃない?
「いや、我々三人はかけんぞ」
「え、なんで!?」
「せっかくわたしの美しさを見せつけられるんだ。こんな機会そうそうない。もちろんおまえにも見てもらいたい。てなわけでおまえは強制だ」
 はあ!?
「ライブラ、おまえも別に構わんだろう?」
「ま、あたしゃ混浴なんてざらだからねぇ。最初はビビってたけど、いまじゃ割り切ってるよ。むしろ開放的でいいもんさぁ」
「そういうことだ。どうする、アルテルフ、レグルス。おまえたちを隠そうか?」
 そう言われ、二匹はううん、と考え込んだ。アルテルフは腕を組み、眉を曇らせている。レグルスは服の上から腕で体を隠し、うめくように恥ずかしがっている。
 それを見かねたのかアルテルフが、
「レグルス、付き合おーか?」
 と肩を叩き、ため息のような声で言った。
「あんた絶対無理でしょ。いいよ、あたしと入ろ」
 アルテルフは使い魔のリーダーを自負するだけあって、ここぞというとき面倒見がいい。たぶんこの子のことだから、本当は大勢でわーわーしたいはずだ。たとえ男にいやらしい目で見られるとしても、それを跳ね除けられる度胸があるのを、ぼくは知ってる。
 レグルスはすぐに答えず、ぼくの目をうらめしそうに見つめた。なにか言いたげにもじもじ身をくねらせている。あれかな、アルテルフに申し訳なくて悩んでるのかな? 無理しない方がいいと思うけどなぁ。そりゃぼくもレグルスとわいわいしたいけど……
 そんな中、ライブラが言った。
「ねえレグルス。あんた破廉恥はれんちを克服するんだろ?」
「えっ……」
「裸を見られても大丈夫になるよう頑張ってるんだろ? ならこんなにいい修行はほかにないじゃないかい」
「そそそ、そうですが、でも!」
「はっ、弱っちいねぇ」
「……っ!」
 羞恥に染まっていたレグルスの顔が、ぎゅっと戦士の眼差しに切り替わった。
「そんな逃げ腰、及び腰じゃ、その辺の子猫にも負けちまうんじゃないかい?」
「わ、わたくしを弱いと!?」
「事実そうじゃないかぁ。獣の神だかなんだか知らないけど、真の姿は図体だけの木偶デクの棒だろうね、こりゃ」
 ——言わせておけば! と、かすれるような声が漏れた。虎の戦士の瞳はなかば怒りに燃え、奥歯をがっちり噛み締めている。レグルスは礼儀正しい使い魔だが、こと強い弱いには過敏だ。弱者呼ばわりされて黙っているような気性じゃない。
「は、裸くらいなんですか!」
 レグルスは胸を張って言った。
「このレグルス! いまはレオ様のしもべと成り下がってはいるが、それは真の強者に惚れ込んでのこと! かつては密林を支配した百獣、千獣のあるじです! たかが乳房のひとつふたつでたじろぐような腰抜けと思わずにもらいたい!」
「だとさ」
 ライブラはレオにへらっと笑いかけた。それを受けてレオは鼻からため息を吐き、
「いいのか? 無理してないか?」
 とレグルスに問いかけたが、レグルスはレグルスで、
「レオ様のしもべとして恥ずかしくない強者ですから」
 と、かたくなに言い張った。あーあ、いいのかなぁ。この子頑張り屋なのはいいけど、それ以上に破廉恥には弱いからなあ。
 そんなこんなでぼくらは脱衣所に入った。中は縦長に広く、なるほど元は男女別だったんだなとわかるように、部屋の真ん中に壁を壊したあとがうっすら残って見える。
 室内にはロッカーがずらりと並んでおり、けっこうな人数が体を拭いたり脱ぎ着をしていた。しかしどうやら女性を守る工夫もあって、奥のロッカーには半円状に閉じるカーテンが垂れており、そこから細い脚が見え隠れした。
 そして出てくる女性はバスタオルを巻いて体を隠していた。よかった、どうやら丸裸ってわけじゃないようだ。男としてはちょっと残念だけど、これでレグルスが恥ずかしい思いをしないで済む。
 だけどレグルスはすでに涙声だった。
「ひ、ひぃ……」
 というのも男はみんな丸出しだったからだ。カーテンはおそらく女性が使っている。こういうものを見れば、説明されなくても不思議と女性用だとわかるものだ。
 そこらじゅうで見たくないものがブラブラ揺れている。しかも元気になっちゃってるのもいる。わずかだけど開けっぴろげの女もいて、それを見て反応しちゃったんだろう。あ、いけないぼくも!
「なるほどねぇ、それじゃあいてるカーテンを使おうかい」
 ライブラがそう言ってちょうど四つ並んで空いているカーテンのひとつに入った。二匹の使い魔があとを追う。そしてレオも……と思いきや、
「さあ、わたしたちも脱ごう」
 なんと男のエリアでコートを脱いだ。
「え、ここで脱ぐの!?」
「なんだ、おまえもカーテンを使いたいのか?」
「そうじゃなくてレオは女でしょ!?」
「それがどうした。ここは混浴だぞ」
 そ、そりゃそうだけど……だってみんな見てるよ! 君が上を脱いで、下を脱いで、下着だけになっていくところを、目を見開いて遠巻きに視姦してるよ!
「フフフ……アーサー、おまえは目を離すなよ。わたしはおおやけの場で、おまえに見られながら裸になるんだ」
 なにを言ってるんだ!
「ああ、られている……下賎げせんどもめ、美しくて目が離せんだろう」
 な、なんてことだ! ていうかどうしてレオはそんな恍惚こうこつとしてるんだ! 男たちにいやらしい目で見られてるっていうのにキラキラ瞳を潤ませて……ああ、ぜんぶ脱いでしまった!
「はぁ……アーサー、わたしのこころがわからんか?」
 わかるわけないだろ! 愛するレオの裸をほかの男に見られてるってのに! むしろいますぐ布で覆い隠したいくらいだ!
「いいかアーサー、この体を自由にできるのはおまえだけなんだぞ」
 は……?
「いま、たくさんの男たちがわたしを視ている。この体がほしい、この美女をめちゃくちゃにしたい、そんなどろどろの欲望で胸を掻きむしっている。だが、だれも手が出せない。おまえだけだ。おまえだけがこのきれいな胸を、すべすべの尻を、そしてしげみの下の甘~い蜜を、思うがままに味わえる」
「う……」
 ご、ごくり!
「自慢しろ。見せつけてやれ。このメスはおれのものだ、こいつはおれ専用の穴なんだとアピールしてやれ」
 言いながらレオはぼくのほほに手を滑らせ、そのまま抱き込むように顔を近づけた。そして吸い込まれそうな眼差しを間近にせ、
「そうすると、わたしは”よろこぶ”」
 はぁっ、と熱い息を吐いた。こんなことされたら、ぼく、ぼく……
「おーい、あんたら離れなー」
 ふと、バスタオルで身を包んだライブラが近くにおり、ジト目で言った。
「ここは公共の場だよ。裸でイチャつくんじゃないよ。盛るなら部屋でやりな」
 あわわわ!
「ふふふっ、すまない。ついな」
「まったく、恥ずかしいったらありゃしないよ」
 ライブラは両手を腰に当てて呆れ返っていた。そのうしろに並ぶレグルスとアルテルフも顔を赤くしている。もっともレグルスの場合は布一枚という自身の姿も紅潮の要因だろう。だがアルテルフの方は明らかに頭を抱える顔色だった。
「ほら、あんたも早く脱ぎな。男なんだから平気だろ?」
 え、あっ!
「そうだぞアーサー。わたしに見惚みとれてないでおまえも脱げ」
 う、うん。わかってる。わかってるけど……みんなが見てる前で?
「あ、アーサー様これから脱ぐんですねー。ここで待ってるから早くしてくださーい」
 いや、それがいやなんだけど! なんでみんなこっち見てるの!? あっち行ってよ!
「はわわわ……」
 れ、レグルス顔を手で隠してるけど、それちょっと隙間ない!? 見てるよね!? 見えてるよね!?
「ほらほら、なにやってんだい。あんた女かい? 男ならスパッと一気にいくもんだよ。ああ、そうかい。ツラだけじゃなく性根しょうねも女かい」
 ……ち、違う! ぼくは男だ! ぼくは騎士だ! 顔は母親似で女っぽいけど、魂ははがねだ!
「おっ、思い切りがいいねぇ! よ、男だねぇ! おや? だけどパンツまで来て止まっちまったよ? ありゃ、なんだい。うしろ向いちまうのかい。大丈夫かい? 顔が赤いよ。ありゃ、いまチラッと見えたけど、ずいぶん固そうにしてたねぇ! 触れなくても鋼みたいにガッチガチなのがわかるよ!」
 い、言わないで! ひぃー!
「あははは! もしかして見られてうれしいのかい!? それともレオの裸でよろこんでるのかい!? 公共の場で? 身内と他人に見られながら? こりゃあ立派な男さねぇ! あっはははは! あっはははははははは!」
 や、やめて! やめてよお!
「おいおい、汁まで漏れてるじゃないか。いくらわたしが美しいとはいえ、こんなところでなぁ」
「えーっ!? アーサー様そんなになっちゃってるんですかー!? こんなところでー!? うっそー! ヘンターイ!」
「はわわわ……は、破廉恥です! ひぃ……!」
 み、見ないで! 見ないでーー!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...