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第十五話 そうだ、温泉に行こう
そうだ、温泉に行こう 五
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ぼくらは部屋を確認し、荷物を置いて温泉に向かった。
それにしても大きな部屋だったなあ。リビング、寝室、その他小部屋も合わせて、平家を二軒並べたくらい広かった。レオが言うには建材も装飾も上級らしいし、きっとかなり高価な部屋だろう。ライブラって出費を渋るわりに太っ腹だなぁ。
ところで温泉に向かう途中、ぼくらは不思議な格好のひとたちとすれ違った。なんていうか、薄くて硬いバスローブを着てるんだ。それも足首くらいまで長さのあるヤツを。ぼくはもちろん、おしゃれに明るいレオでも見るのははじめてだった。
あれはいったいなんだろう——そんなことを話していると、
「なんだい、あんたら”ユカタ”も知らないのかい」
ライブラは鼻で笑うように言った。
「あれは温泉でのパジャマさ。着心地がよくてすごく楽なんだよ」
へえ、ライブラは物知りだなあ。やっぱり呪術師なんて難しそうな仕事をするには頭がよくなくちゃいけないんだね。さっすがあ!
と、いろいろと館内を見て談笑しながら歩くこと数分、
「ここだねぇ」
ぼくらは”温泉”と書かれた暖簾の前まで来た。さて、ぼくは男だからメンズの方に………………
「あれ?」
ぼくは立ち止まり、困惑してしまった。扉のないドアがふたつあり、どちらも温泉の暖簾がかかっている。でもメンズ、レディースの表記がない。これじゃどっちに入ればいいかわからない。
「ライブラ、どっちが女湯だ?」
とレオが訊いた。すると、
「あ、言ってなかったっけ? ここは混浴だよ」
「混浴!?」
ぼくらは揃って声を上げた。とくにレグルスとアルテルフの声が大きかった。
「前はふつうに別だったらしいけどねぇ。いまは男女の区別をなくさなきゃいけないから、ひとつにしちまったそうだよ」
「そ、そんなの絶対いやです!」
まだ脱いだわけでもないのにレグルスがすでに半泣きで叫んだ。
「赤の他人に裸を見せるなんて考えられません!」
そりゃそうだ。もしぼくが女の立場だったら当然そう思うだろう。アルテルフも、
「あたしもちょっとやですねー。混浴しかないんですか?」
じっとり不満げに言った。しかし、
「いいじゃないかい。どうせ二度と会うことのないヤツらだよ。見られたところで知ったこっちゃないよ」
と、暗に混浴しかないと回答した。
ううん、困ったなあ。せっかく温泉をたのしめると思ったのに。魔法でなんとかならないかなぁ………………
「あっ!」
ぼくはふと名案を思いついた。
「ねえレオ! ”顔を覚えられない魔法”を使えばなんとかなるんじゃない!?」
「まあ、そうだな……」
だよね! やっぱりあの魔法なら裸を見られても”視られる”ことはなくなる!
「だが……いいのか?」
え?
「たしかに”顔を覚えられない魔法”を使えば認識されなくなる。だが、そうなるとこいつらは我々にも認識されなくなるぞ」
……どういうこと?
「たとえばアルテルフとレグルスにグループで魔法をかけたとしよう。すると二匹は我々を認識できるが、我々からは認識できなくなる。つまり、会話もできない仲間はずれになるわけだ」
なるほど……そういえば魔法はグループでかけると、グループのうちでは効果に阻まれず、外に対しては阻む。でも五人全員にかければ問題ないんじゃない?
「いや、我々三人はかけんぞ」
「え、なんで!?」
「せっかくわたしの美しさを見せつけられるんだ。こんな機会そうそうない。もちろんおまえにも見てもらいたい。てなわけでおまえは強制だ」
はあ!?
「ライブラ、おまえも別に構わんだろう?」
「ま、あたしゃ混浴なんてざらだからねぇ。最初はビビってたけど、いまじゃ割り切ってるよ。むしろ開放的でいいもんさぁ」
「そういうことだ。どうする、アルテルフ、レグルス。おまえたちを隠そうか?」
そう言われ、二匹はううん、と考え込んだ。アルテルフは腕を組み、眉を曇らせている。レグルスは服の上から腕で体を隠し、うめくように恥ずかしがっている。
それを見かねたのかアルテルフが、
「レグルス、付き合おーか?」
と肩を叩き、ため息のような声で言った。
「あんた絶対無理でしょ。いいよ、あたしと入ろ」
アルテルフは使い魔のリーダーを自負するだけあって、ここぞというとき面倒見がいい。たぶんこの子のことだから、本当は大勢でわーわーしたいはずだ。たとえ男にいやらしい目で見られるとしても、それを跳ね除けられる度胸があるのを、ぼくは知ってる。
レグルスはすぐに答えず、ぼくの目をうらめしそうに見つめた。なにか言いたげにもじもじ身をくねらせている。あれかな、アルテルフに申し訳なくて悩んでるのかな? 無理しない方がいいと思うけどなぁ。そりゃぼくもレグルスとわいわいしたいけど……
そんな中、ライブラが言った。
「ねえレグルス。あんた破廉恥を克服するんだろ?」
「えっ……」
「裸を見られても大丈夫になるよう頑張ってるんだろ? ならこんなにいい修行はほかにないじゃないかい」
「そそそ、そうですが、でも!」
「はっ、弱っちいねぇ」
「……っ!」
羞恥に染まっていたレグルスの顔が、ぎゅっと戦士の眼差しに切り替わった。
「そんな逃げ腰、及び腰じゃ、その辺の子猫にも負けちまうんじゃないかい?」
「わ、わたくしを弱いと!?」
「事実そうじゃないかぁ。獣の神だかなんだか知らないけど、真の姿は図体だけの木偶の棒だろうね、こりゃ」
——言わせておけば! と、かすれるような声が漏れた。虎の戦士の瞳は半ば怒りに燃え、奥歯をがっちり噛み締めている。レグルスは礼儀正しい使い魔だが、こと強い弱いには過敏だ。弱者呼ばわりされて黙っているような気性じゃない。
「は、裸くらいなんですか!」
レグルスは胸を張って言った。
「このレグルス! いまはレオ様のしもべと成り下がってはいるが、それは真の強者に惚れ込んでのこと! かつては密林を支配した百獣、千獣のあるじです! たかが乳房のひとつふたつでたじろぐような腰抜けと思わずにもらいたい!」
「だとさ」
ライブラはレオにへらっと笑いかけた。それを受けてレオは鼻からため息を吐き、
「いいのか? 無理してないか?」
とレグルスに問いかけたが、レグルスはレグルスで、
「レオ様のしもべとして恥ずかしくない強者ですから」
と、かたくなに言い張った。あーあ、いいのかなぁ。この子頑張り屋なのはいいけど、それ以上に破廉恥には弱いからなあ。
そんなこんなでぼくらは脱衣所に入った。中は縦長に広く、なるほど元は男女別だったんだなとわかるように、部屋の真ん中に壁を壊した痕がうっすら残って見える。
室内にはロッカーがずらりと並んでおり、けっこうな人数が体を拭いたり脱ぎ着をしていた。しかしどうやら女性を守る工夫もあって、奥のロッカーには半円状に閉じるカーテンが垂れており、そこから細い脚が見え隠れした。
そして出てくる女性はバスタオルを巻いて体を隠していた。よかった、どうやら丸裸ってわけじゃないようだ。男としてはちょっと残念だけど、これでレグルスが恥ずかしい思いをしないで済む。
だけどレグルスはすでに涙声だった。
「ひ、ひぃ……」
というのも男はみんな丸出しだったからだ。カーテンはおそらく女性が使っている。こういうものを見れば、説明されなくても不思議と女性用だとわかるものだ。
そこらじゅうで見たくないものがブラブラ揺れている。しかも元気になっちゃってるのもいる。わずかだけど開けっぴろげの女もいて、それを見て反応しちゃったんだろう。あ、いけないぼくも!
「なるほどねぇ、それじゃあ空いてるカーテンを使おうかい」
ライブラがそう言ってちょうど四つ並んで空いているカーテンのひとつに入った。二匹の使い魔があとを追う。そしてレオも……と思いきや、
「さあ、わたしたちも脱ごう」
なんと男のエリアでコートを脱いだ。
「え、ここで脱ぐの!?」
「なんだ、おまえもカーテンを使いたいのか?」
「そうじゃなくてレオは女でしょ!?」
「それがどうした。ここは混浴だぞ」
そ、そりゃそうだけど……だってみんな見てるよ! 君が上を脱いで、下を脱いで、下着だけになっていくところを、目を見開いて遠巻きに視姦してるよ!
「フフフ……アーサー、おまえは目を離すなよ。わたしは公の場で、おまえに見られながら裸になるんだ」
なにを言ってるんだ!
「ああ、視られている……下賎どもめ、美しくて目が離せんだろう」
な、なんてことだ! ていうかどうしてレオはそんな恍惚としてるんだ! 男たちにいやらしい目で見られてるっていうのにキラキラ瞳を潤ませて……ああ、ぜんぶ脱いでしまった!
「はぁ……アーサー、わたしのこころがわからんか?」
わかるわけないだろ! 愛するレオの裸をほかの男に見られてるってのに! むしろいますぐ布で覆い隠したいくらいだ!
「いいかアーサー、この体を自由にできるのはおまえだけなんだぞ」
は……?
「いま、たくさんの男たちがわたしを視ている。この体がほしい、この美女をめちゃくちゃにしたい、そんなどろどろの欲望で胸を掻きむしっている。だが、だれも手が出せない。おまえだけだ。おまえだけがこのきれいな胸を、すべすべの尻を、そして茂みの下の甘~い蜜を、思うがままに味わえる」
「う……」
ご、ごくり!
「自慢しろ。見せつけてやれ。このメスはおれのものだ、こいつはおれ専用の穴なんだとアピールしてやれ」
言いながらレオはぼくのほほに手を滑らせ、そのまま抱き込むように顔を近づけた。そして吸い込まれそうな眼差しを間近に寄せ、
「そうすると、わたしは”よろこぶ”」
はぁっ、と熱い息を吐いた。こんなことされたら、ぼく、ぼく……
「おーい、あんたら離れなー」
ふと、バスタオルで身を包んだライブラが近くにおり、ジト目で言った。
「ここは公共の場だよ。裸でイチャつくんじゃないよ。盛るなら部屋でやりな」
あわわわ!
「ふふふっ、すまない。ついな」
「まったく、恥ずかしいったらありゃしないよ」
ライブラは両手を腰に当てて呆れ返っていた。そのうしろに並ぶレグルスとアルテルフも顔を赤くしている。もっともレグルスの場合は布一枚という自身の姿も紅潮の要因だろう。だがアルテルフの方は明らかに頭を抱える顔色だった。
「ほら、あんたも早く脱ぎな。男なんだから平気だろ?」
え、あっ!
「そうだぞアーサー。わたしに見惚れてないでおまえも脱げ」
う、うん。わかってる。わかってるけど……みんなが見てる前で?
「あ、アーサー様これから脱ぐんですねー。ここで待ってるから早くしてくださーい」
いや、それがいやなんだけど! なんでみんなこっち見てるの!? あっち行ってよ!
「はわわわ……」
れ、レグルス顔を手で隠してるけど、それちょっと隙間ない!? 見てるよね!? 見えてるよね!?
「ほらほら、なにやってんだい。あんた女かい? 男ならスパッと一気にいくもんだよ。ああ、そうかい。ツラだけじゃなく性根も女かい」
……ち、違う! ぼくは男だ! ぼくは騎士だ! 顔は母親似で女っぽいけど、魂は鋼だ!
「おっ、思い切りがいいねぇ! よ、男だねぇ! おや? だけどパンツまで来て止まっちまったよ? ありゃ、なんだい。うしろ向いちまうのかい。大丈夫かい? 顔が赤いよ。ありゃ、いまチラッと見えたけど、ずいぶん固そうにしてたねぇ! 触れなくても鋼みたいにガッチガチなのがわかるよ!」
い、言わないで! ひぃー!
「あははは! もしかして見られてうれしいのかい!? それともレオの裸でよろこんでるのかい!? 公共の場で? 身内と他人に見られながら? こりゃあ立派な男さねぇ! あっはははは! あっはははははははは!」
や、やめて! やめてよお!
「おいおい、汁まで漏れてるじゃないか。いくらわたしが美しいとはいえ、こんなところでなぁ」
「えーっ!? アーサー様そんなになっちゃってるんですかー!? こんなところでー!? うっそー! ヘンターイ!」
「はわわわ……は、破廉恥です! ひぃ……!」
み、見ないで! 見ないでーー!
それにしても大きな部屋だったなあ。リビング、寝室、その他小部屋も合わせて、平家を二軒並べたくらい広かった。レオが言うには建材も装飾も上級らしいし、きっとかなり高価な部屋だろう。ライブラって出費を渋るわりに太っ腹だなぁ。
ところで温泉に向かう途中、ぼくらは不思議な格好のひとたちとすれ違った。なんていうか、薄くて硬いバスローブを着てるんだ。それも足首くらいまで長さのあるヤツを。ぼくはもちろん、おしゃれに明るいレオでも見るのははじめてだった。
あれはいったいなんだろう——そんなことを話していると、
「なんだい、あんたら”ユカタ”も知らないのかい」
ライブラは鼻で笑うように言った。
「あれは温泉でのパジャマさ。着心地がよくてすごく楽なんだよ」
へえ、ライブラは物知りだなあ。やっぱり呪術師なんて難しそうな仕事をするには頭がよくなくちゃいけないんだね。さっすがあ!
と、いろいろと館内を見て談笑しながら歩くこと数分、
「ここだねぇ」
ぼくらは”温泉”と書かれた暖簾の前まで来た。さて、ぼくは男だからメンズの方に………………
「あれ?」
ぼくは立ち止まり、困惑してしまった。扉のないドアがふたつあり、どちらも温泉の暖簾がかかっている。でもメンズ、レディースの表記がない。これじゃどっちに入ればいいかわからない。
「ライブラ、どっちが女湯だ?」
とレオが訊いた。すると、
「あ、言ってなかったっけ? ここは混浴だよ」
「混浴!?」
ぼくらは揃って声を上げた。とくにレグルスとアルテルフの声が大きかった。
「前はふつうに別だったらしいけどねぇ。いまは男女の区別をなくさなきゃいけないから、ひとつにしちまったそうだよ」
「そ、そんなの絶対いやです!」
まだ脱いだわけでもないのにレグルスがすでに半泣きで叫んだ。
「赤の他人に裸を見せるなんて考えられません!」
そりゃそうだ。もしぼくが女の立場だったら当然そう思うだろう。アルテルフも、
「あたしもちょっとやですねー。混浴しかないんですか?」
じっとり不満げに言った。しかし、
「いいじゃないかい。どうせ二度と会うことのないヤツらだよ。見られたところで知ったこっちゃないよ」
と、暗に混浴しかないと回答した。
ううん、困ったなあ。せっかく温泉をたのしめると思ったのに。魔法でなんとかならないかなぁ………………
「あっ!」
ぼくはふと名案を思いついた。
「ねえレオ! ”顔を覚えられない魔法”を使えばなんとかなるんじゃない!?」
「まあ、そうだな……」
だよね! やっぱりあの魔法なら裸を見られても”視られる”ことはなくなる!
「だが……いいのか?」
え?
「たしかに”顔を覚えられない魔法”を使えば認識されなくなる。だが、そうなるとこいつらは我々にも認識されなくなるぞ」
……どういうこと?
「たとえばアルテルフとレグルスにグループで魔法をかけたとしよう。すると二匹は我々を認識できるが、我々からは認識できなくなる。つまり、会話もできない仲間はずれになるわけだ」
なるほど……そういえば魔法はグループでかけると、グループのうちでは効果に阻まれず、外に対しては阻む。でも五人全員にかければ問題ないんじゃない?
「いや、我々三人はかけんぞ」
「え、なんで!?」
「せっかくわたしの美しさを見せつけられるんだ。こんな機会そうそうない。もちろんおまえにも見てもらいたい。てなわけでおまえは強制だ」
はあ!?
「ライブラ、おまえも別に構わんだろう?」
「ま、あたしゃ混浴なんてざらだからねぇ。最初はビビってたけど、いまじゃ割り切ってるよ。むしろ開放的でいいもんさぁ」
「そういうことだ。どうする、アルテルフ、レグルス。おまえたちを隠そうか?」
そう言われ、二匹はううん、と考え込んだ。アルテルフは腕を組み、眉を曇らせている。レグルスは服の上から腕で体を隠し、うめくように恥ずかしがっている。
それを見かねたのかアルテルフが、
「レグルス、付き合おーか?」
と肩を叩き、ため息のような声で言った。
「あんた絶対無理でしょ。いいよ、あたしと入ろ」
アルテルフは使い魔のリーダーを自負するだけあって、ここぞというとき面倒見がいい。たぶんこの子のことだから、本当は大勢でわーわーしたいはずだ。たとえ男にいやらしい目で見られるとしても、それを跳ね除けられる度胸があるのを、ぼくは知ってる。
レグルスはすぐに答えず、ぼくの目をうらめしそうに見つめた。なにか言いたげにもじもじ身をくねらせている。あれかな、アルテルフに申し訳なくて悩んでるのかな? 無理しない方がいいと思うけどなぁ。そりゃぼくもレグルスとわいわいしたいけど……
そんな中、ライブラが言った。
「ねえレグルス。あんた破廉恥を克服するんだろ?」
「えっ……」
「裸を見られても大丈夫になるよう頑張ってるんだろ? ならこんなにいい修行はほかにないじゃないかい」
「そそそ、そうですが、でも!」
「はっ、弱っちいねぇ」
「……っ!」
羞恥に染まっていたレグルスの顔が、ぎゅっと戦士の眼差しに切り替わった。
「そんな逃げ腰、及び腰じゃ、その辺の子猫にも負けちまうんじゃないかい?」
「わ、わたくしを弱いと!?」
「事実そうじゃないかぁ。獣の神だかなんだか知らないけど、真の姿は図体だけの木偶の棒だろうね、こりゃ」
——言わせておけば! と、かすれるような声が漏れた。虎の戦士の瞳は半ば怒りに燃え、奥歯をがっちり噛み締めている。レグルスは礼儀正しい使い魔だが、こと強い弱いには過敏だ。弱者呼ばわりされて黙っているような気性じゃない。
「は、裸くらいなんですか!」
レグルスは胸を張って言った。
「このレグルス! いまはレオ様のしもべと成り下がってはいるが、それは真の強者に惚れ込んでのこと! かつては密林を支配した百獣、千獣のあるじです! たかが乳房のひとつふたつでたじろぐような腰抜けと思わずにもらいたい!」
「だとさ」
ライブラはレオにへらっと笑いかけた。それを受けてレオは鼻からため息を吐き、
「いいのか? 無理してないか?」
とレグルスに問いかけたが、レグルスはレグルスで、
「レオ様のしもべとして恥ずかしくない強者ですから」
と、かたくなに言い張った。あーあ、いいのかなぁ。この子頑張り屋なのはいいけど、それ以上に破廉恥には弱いからなあ。
そんなこんなでぼくらは脱衣所に入った。中は縦長に広く、なるほど元は男女別だったんだなとわかるように、部屋の真ん中に壁を壊した痕がうっすら残って見える。
室内にはロッカーがずらりと並んでおり、けっこうな人数が体を拭いたり脱ぎ着をしていた。しかしどうやら女性を守る工夫もあって、奥のロッカーには半円状に閉じるカーテンが垂れており、そこから細い脚が見え隠れした。
そして出てくる女性はバスタオルを巻いて体を隠していた。よかった、どうやら丸裸ってわけじゃないようだ。男としてはちょっと残念だけど、これでレグルスが恥ずかしい思いをしないで済む。
だけどレグルスはすでに涙声だった。
「ひ、ひぃ……」
というのも男はみんな丸出しだったからだ。カーテンはおそらく女性が使っている。こういうものを見れば、説明されなくても不思議と女性用だとわかるものだ。
そこらじゅうで見たくないものがブラブラ揺れている。しかも元気になっちゃってるのもいる。わずかだけど開けっぴろげの女もいて、それを見て反応しちゃったんだろう。あ、いけないぼくも!
「なるほどねぇ、それじゃあ空いてるカーテンを使おうかい」
ライブラがそう言ってちょうど四つ並んで空いているカーテンのひとつに入った。二匹の使い魔があとを追う。そしてレオも……と思いきや、
「さあ、わたしたちも脱ごう」
なんと男のエリアでコートを脱いだ。
「え、ここで脱ぐの!?」
「なんだ、おまえもカーテンを使いたいのか?」
「そうじゃなくてレオは女でしょ!?」
「それがどうした。ここは混浴だぞ」
そ、そりゃそうだけど……だってみんな見てるよ! 君が上を脱いで、下を脱いで、下着だけになっていくところを、目を見開いて遠巻きに視姦してるよ!
「フフフ……アーサー、おまえは目を離すなよ。わたしは公の場で、おまえに見られながら裸になるんだ」
なにを言ってるんだ!
「ああ、視られている……下賎どもめ、美しくて目が離せんだろう」
な、なんてことだ! ていうかどうしてレオはそんな恍惚としてるんだ! 男たちにいやらしい目で見られてるっていうのにキラキラ瞳を潤ませて……ああ、ぜんぶ脱いでしまった!
「はぁ……アーサー、わたしのこころがわからんか?」
わかるわけないだろ! 愛するレオの裸をほかの男に見られてるってのに! むしろいますぐ布で覆い隠したいくらいだ!
「いいかアーサー、この体を自由にできるのはおまえだけなんだぞ」
は……?
「いま、たくさんの男たちがわたしを視ている。この体がほしい、この美女をめちゃくちゃにしたい、そんなどろどろの欲望で胸を掻きむしっている。だが、だれも手が出せない。おまえだけだ。おまえだけがこのきれいな胸を、すべすべの尻を、そして茂みの下の甘~い蜜を、思うがままに味わえる」
「う……」
ご、ごくり!
「自慢しろ。見せつけてやれ。このメスはおれのものだ、こいつはおれ専用の穴なんだとアピールしてやれ」
言いながらレオはぼくのほほに手を滑らせ、そのまま抱き込むように顔を近づけた。そして吸い込まれそうな眼差しを間近に寄せ、
「そうすると、わたしは”よろこぶ”」
はぁっ、と熱い息を吐いた。こんなことされたら、ぼく、ぼく……
「おーい、あんたら離れなー」
ふと、バスタオルで身を包んだライブラが近くにおり、ジト目で言った。
「ここは公共の場だよ。裸でイチャつくんじゃないよ。盛るなら部屋でやりな」
あわわわ!
「ふふふっ、すまない。ついな」
「まったく、恥ずかしいったらありゃしないよ」
ライブラは両手を腰に当てて呆れ返っていた。そのうしろに並ぶレグルスとアルテルフも顔を赤くしている。もっともレグルスの場合は布一枚という自身の姿も紅潮の要因だろう。だがアルテルフの方は明らかに頭を抱える顔色だった。
「ほら、あんたも早く脱ぎな。男なんだから平気だろ?」
え、あっ!
「そうだぞアーサー。わたしに見惚れてないでおまえも脱げ」
う、うん。わかってる。わかってるけど……みんなが見てる前で?
「あ、アーサー様これから脱ぐんですねー。ここで待ってるから早くしてくださーい」
いや、それがいやなんだけど! なんでみんなこっち見てるの!? あっち行ってよ!
「はわわわ……」
れ、レグルス顔を手で隠してるけど、それちょっと隙間ない!? 見てるよね!? 見えてるよね!?
「ほらほら、なにやってんだい。あんた女かい? 男ならスパッと一気にいくもんだよ。ああ、そうかい。ツラだけじゃなく性根も女かい」
……ち、違う! ぼくは男だ! ぼくは騎士だ! 顔は母親似で女っぽいけど、魂は鋼だ!
「おっ、思い切りがいいねぇ! よ、男だねぇ! おや? だけどパンツまで来て止まっちまったよ? ありゃ、なんだい。うしろ向いちまうのかい。大丈夫かい? 顔が赤いよ。ありゃ、いまチラッと見えたけど、ずいぶん固そうにしてたねぇ! 触れなくても鋼みたいにガッチガチなのがわかるよ!」
い、言わないで! ひぃー!
「あははは! もしかして見られてうれしいのかい!? それともレオの裸でよろこんでるのかい!? 公共の場で? 身内と他人に見られながら? こりゃあ立派な男さねぇ! あっはははは! あっはははははははは!」
や、やめて! やめてよお!
「おいおい、汁まで漏れてるじゃないか。いくらわたしが美しいとはいえ、こんなところでなぁ」
「えーっ!? アーサー様そんなになっちゃってるんですかー!? こんなところでー!? うっそー! ヘンターイ!」
「はわわわ……は、破廉恥です! ひぃ……!」
み、見ないで! 見ないでーー!
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