【完結】人間にモテないオレはモンスターを嫁に迎えることにしました

湯原伊織

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第29話 異端の元聖女と変態吸血鬼

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 静寂が支配する深夜の街。昼間は人通りも多く活気に溢れていた繁華街も今は閑散としている。それもそのはずだ。すでに日没からかなりの時間が経過していた。そのため、商売に精を出す人もおらず街灯の光もない。そんな中、長い髪の可愛らしい子が月明かりを頼りに足早に歩いていた。

「こんなに暗いと何か出そうで怖い」

 そう言って顔を恐怖に染める。オドオドと怯えた様子は容姿と相まって実に愛くるしい。

「だが、男だ!!」

 シルメリアとは別の建物の物陰に隠れているオレは内心の動揺を抑えるために唇を噛み正気を保つ。おっと、アホなことをやっている場合ではなかった。どうやら目的の奴が現れたようだ。

「お嬢さん、こんな夜更けにどうしたんだい?」

 いつの間に現れたのだろうか。気が付いたら長身の男がそこにいた。それも、真っ裸で! って、いきなり裸かい!!

「キャー!! 変態! 変態!!」

 シルメリアは顔を真っ赤にして悲鳴を上げる。あれ? でも、ちょっと鼻息が荒くないか? いや、気のせいだろう。きっとシルメリアは恐怖によって興奮した状態なのだ。うん、そうであってくれ…

「フフフ、口ではそう言っていてもしっかりと我のボディを見ているね。どうだい我の引き締まったボディ!! そしてこの上腕二頭筋と大胸筋。どれも素晴らしいだろう?」

 デミトンは自らの肉体をひけらかすように両腕を掲げて、マッスルポーズのダブルバイセプスをきめる。

「キャー、やめて!! ああ、もうダメ!!」

 いや、本当にもうダメなのはおまえの頭だろ。本当にひどすぎるわ。なんで、おまえは恥ずかしがっているフリすら出来ないんだ。手で目を隠すフリして隙間からガン見って最悪だよ。

「我が肉体に興味が深々しんしんと言ったところか」

「い、いいえ、けっしてそのようなことは…」

 シルメリア、指の隙間からしっかりと見ていたら説得力ないだろ。

「大変に素晴らしいモノをお持ちで…。これ以上、近寄らないで! 変態!!」

 褒めるなよ! やっぱり、あのバカ元聖女は男の裸に興奮してやがったか。

「急に罵倒しても、もう手遅れだろ。ハァ、それにしてもシルメリアの奴は何を言っているだろうな。変態って、どっちが変態なんだよ」

「私はあなたが1番の変態だと思っているわよ?」

 オレはアラクネの言葉を無視。ああ、無視だ。アラクネの言葉は無視。だって、オレはちょっと性欲が強いお茶目な男であって決して変態ではないのだ!

 そんなことを考えながら、シルメリアが作戦通りにオレたちが待機しているこの場所まで来るのを待つ。

「おや、おや、どこに逃げるのかな? お嬢さん?」

「あなたのような変態が居ない所に決まっていますわ」

 遅いわ。やっと、彼女は作戦を思い出してくれたのだろう。シルメリアは変態と興奮気味に相手を罵った後、デミトンから逃げるためにオレたちが隠れている建物の方に向かって駆けてきている。

 うん、シルメリアのことだから、男の裸に興奮して作戦を忘れているのかと思っていたぜ。君を疑ってごめんよ。オレが心の中でそう謝罪しながらシルメリアを見ていたら、

「…あのイケメンの裸が名残惜しいですわ。やっぱり、戻ろうかしら」

 とそんな独り言を呟きやがった。

 前言撤回だ! 興奮して忘れていたんじゃなくて、あの吸血鬼のボディに悩殺されて放置していたのかよ。もっとヒドイじゃん。

「あいつ、小声だから聞こえないと思って本音を言いやがったな」

 ハンターの耳をなめるなよ。遠くにいるから聞こえないと思ったら大間違いだからな。って、シルメリアだけに集中していてはいかん。デミトンを見なくては…

「彼女は素晴らしい。美しいだけでなく我が神への理解もありそうだ。よし、決めた、彼女を我が眷属にしてやろう」

 デミトンはどうやらシルメリアを気に入ったようだな。彼がシルメリアを見る目つきがヤバイ。やっぱり、変態同士でわかり合うことがあるんだな。

「さてと、我が愛しの眷属候補を逃さぬために…」

「って、手が伸びただと!?」

 突如として凄まじい勢いで腕が伸び、シルメリアを捕まえて引き寄せる。

「おかえり、我の可愛い眷属候補よ」

 そう言うなり、デミトンはシルメリアを背後から羽交い締めにする。そして、どこか愛おしそうに彼はシルメリアの首筋を舐めはじめた。

「や、やめてください」

 イヤがるように肢体をクネらせるシルメリア。だが、次第にその口から漏れる吐息に恐怖以外の感情が混ざっていくのがわかる。ああ、実に淫靡で艶のある声だ。

「落ち着け、オレ。奴は男だ! 男だからな!!」

 オレの理性よ。オレを導いてくれ。

「背後から抱きしめられて我のたくましい筋肉を感じるだろう? ホラ、もっと触れたいだろ?」

 って、なんてやり取りをしているんだ。こっちは必死で隙をついてシルメリアを助けようと思っているのに…

「サイゾウ、なに男同士の変態的な行為に魅入っているの! あ、あなたには私がいるじゃない!!」

「うん? 何か言ったか?」

 いかん、興奮し過ぎてアラクネが何か言ったのを聞きそびれた。って、オレが男に興奮なんてするわけないだろ!! あ、ありえないからね。

「…もう、いいわ。私は部屋で待機するから」

「急になに拗ねているんだよ」

 オレの言葉を聞いたアラクネはさらに激昂したのか顔を真っ赤にし、足を苛立たしげに踏みながら立ち去る。うーん、あの態度はもしかしたらアラクネの地雷をオレが知らぬ間に踏んだのかもしれないな。後でそれとなく聞いておこう。

「さてと、気分をあらためて吸血鬼デミトンの観察をはじめるとするか」

 アラクネが用意した罠までシルメリアがおびき寄せるというシンプルな計画は破綻したが、せめて無事にシルメリアを助けてやりたい。

「でも、さすがに吸血鬼に正面から挑むのは避けたいな」

 デミトンと出会った時と同じ様に軽くあしらわれて逃げられるのがオチだよな。どうしよう。なにか策を考えないと…
 
「うん? 今、あの吸血鬼がこっちを見てなかったか?」

 いや、まさかね。そんな訳ないよな。

「フフフ、そこに隠れているのはわかっているんだよ。サイゾウ、出てきたまえ」

「いや、どこからこの声は聞こえるんだ? って、蝙蝠が話してるのか。奴の使い魔か?」

 オレの目の前にいつの間にか蝙蝠が飛び回っていた。そして、その蝙蝠から声が聞こえてくる。

「隠れるとは見苦しい。美しい筋肉は隠してはいけない。もう君も気がついているはずだ。さぁ、こちらにきなさい」

 蝙蝠は奴の言葉を伝えた後、オレの前から飛び立っていった。やばい、バレていたのか。オレは焦る気持ちを抑えてシルメリアのいる場所に向かって駆け出した。
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