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第三章:学園生活開始!

話にならない~馬鹿息子を持って可哀想~

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 馬鹿男ベネデットが選んだ場所は、魔術用のグラウンド。
 魔術に自信があるようだ。
 別に私はどれを選んでも問題なかった。
 剣術も、体術も、馬術も、全部城の教育係達は「もうこれ以上私では教えられない」と言われるようになってからも一人切磋琢磨してきたから。

 神様のお墨付きもあるし。

「で、どうやって手合わせしましょうか?」
「片方は魔術を使って攻撃、もう片方は魔術でそれを防ぐ、どうだ?」
「ベネデット様!!」
 老執事の顔色が真っ青だ。

――かわいそー――

 少し老執事が可哀そうだった。
 それはそうだ、この内容、防げなかったら「怪我」をするという事だ。
 王族に怪我をさせたら外交問題じゃすまないのに、この馬鹿はそんなこともお構いなしらしいが、その方が赤っ恥をかかせてやれる。
「ええ、いいでしょう。先行はベネデット殿からどうぞ」
「な?! お前が先行を――」
「自信がないので?」
「――!! いいだろう!! こちらが先行だ!!」
「はい」
 私は微笑みを浮かべたままグラウンドへ先に出る。

 土は魔術を使うのに非常に良い状態の物であることが分かった。
 触媒にもなるし、マナも多く含んでいるが、特に使う予定はない。

「どうぞ」
 私はそう言って微笑む。
 向こうは頭に血がのぼっている、手加減などしないだろう。

 だからこそ、その無駄なプライドをずたずたにできるのだ。

神の炎よフラマ・デイ!!」
 男が魔術を放つ、本来なら普通の人が焼けこげてしまう炎の玉が猛スピードで私に向かってくる。
 私は何てこともないように嗤う。

――だって、大したことないもの――

吸い取れエフージオ

 そう唱えて、業火の玉を吸った。
 一瞬で吸い取り、ふぅと息を吐く。

――やれやれ、身の程知らずだな、魔力に術が追い付いてない――

「な、な、何をした?!」

 外野は何が起きたのか理解できているが故に騒めき、何が起きたか分からない故に馬鹿男は狼狽えている。

「エフージオですよ。吸収させてもらいました。魔術を吸収するのも防御の一つではありませんか」
 私は何てことのないように微笑んで言う。
「そ、そんな訳あるものか!!」
 馬鹿男は否定する。

 それはそうだ。
 吸収されるということは、自分の魔力が相手よりも格下ということになる。
 吸収するには格上でなければならない。

「いいや、まだだ。貴様がまだだろう!!」

 それでも負けを認めない馬鹿男。
 私は仕方ないと思いながら微笑みを張り付ける。
「分かりましたでは――」

 外野が注目する。
 だが、私はそんな大層な技は使わない。
 使ってやるつもりなどない。

「――水よアクア
半球の盾スフィエラ――?!?!」

 どばどばと天から水が滝のように落ち、馬鹿男の魔術障壁を破壊して、馬鹿男の体に降り注ぐ。
 ほっとけば溺死するだろう。

――まぁ、そんな事する気はないんだけどね!――

 私は指を鳴らした。
 魔術で生み出された水が止まり、馬鹿男が地面にずぶ濡れで無様に倒れている姿があらわになる。

「べ、ベネデット様!!」
 老執事が慌てふためいて馬鹿男に近づく。
 馬鹿男は呻き声上げた直後ゲホゲホと咳き込んだ。
「ベネデット様、ご無事ですか?!」
 心配する老執事の腕を払いのけて馬鹿男が立ち上がり、びしょぬれの状態で私を睨みつける。
「貴様、何の術を――!?」

「アクアですよ、ベネデット君」

 ブルーノ学長が近寄ってきた。
「な?! そんなはずはないです!! だってアクアは――」
「初級中の初級の魔術の一つ、と言いたいのですね。もちろんその通りですよ、ですがどんな簡易な魔術であれ、術者によっては変化するのです」
 ブルーノ学長は柔らかな笑みを浮かべたまま答える。
「ダンテ殿下を、王族だからと私達は贔屓したわけではないのですよ。殿下は素晴らしい成績と素質の持ち主だからこそ代表をお願いしたのです」
「その通りです。ダンテ殿下はそういった類の物は本来あまりやりたがらないお方ですので、譲ることができたなら譲っているでしょう。できないから代表として宣誓したのです」
 フィレンツォが近寄り、馬鹿男ベネデットを見据えたまま続ける。
「ベネベット殿、ダンテ殿下があのまま術を続けていたら貴方は溺死していたでしょうね? ダンテ殿下がお優しい方で良かったですね――」

「――王族に先ほどのような態度をとるのは他国であっても万死に値するもの、爵位をはく奪されても文句は言えないでしょうね?」

 フィレンツォの圧に、私はため息をつく。
「フィレンツォ、報告はしなくて結構です、いいですね?」
「――畏まりました」
 少し不満そうだが、別に其処迄大事にしたい訳ではない。
「では、汚した衣服の方の――」
「要らん!! 覚えてろ!!」
 馬鹿男はそう声を上げて足早に去っていった。
 老執事が慌てて追う。
「……はぁ、面倒な方に絡まれました」
「殿下、素晴らしいものを見せてくださり有難うございます。これからが楽しみですねぇ……」
 わくわくした表情で言う、ブルーノ学長に私は苦笑いを浮かべた。
「フィレンツォ、今日はゆっくり休みたいです」
「そう致しましょう」
 これからも邪魔してくるだろう馬鹿男ベネデットの事を考えると憂鬱だが、大事にする気はないので、どうでもいいやと、頭の隅に追いやった。




 王族が留学期間中滞在する屋敷に戻ると、私はさっさと入浴と食事や歯磨きをすませて、ベッドに横になった。
「ダンテ様、お疲れ様です」
「あー正直あの男を殴ってやりたかった!! 我慢した私を褒めてくれフィレンツォ!!」
「我慢せず殴ってもよかったのですよ?」
「あーやっぱり? それなら殴ればよかったな?」
「明日は説明会ですので、今日はゆっくりお休みください」
「分かったよ、じゃあ早く寝るよ、お休みフィレンツォ」
「お休みなさいませ、ダンテ様」
 部屋が暗くなると、私はベッドの上で目を閉じた。

――学生生活……これからが本番か――

 そう思いながら眠りに落ちた。




 翌日、学院生活に関する説明会が終わり、戻ってくると、品の良さそうな貴族の男性と女性――夫婦らしき人物と執事らしき人物が家の前にいた。
 何事かと思って近づくと、三人は何度も私に謝罪を繰り返した。
 後ろを見れば、何かの品らしきものがある。
 この三人、昨日の馬鹿男ベネデットの両親とその執事だった。

――まさか――

 フィレンツォを見れば、にっこりと笑っていた。
 その顔は「黙ってる訳ないじゃないですか」と言わんばかりの表情だった。

 昨日の件は、それが終わった直後に父と母に伝わっており、そこからエステータ王国の現国王――カリーナ・エステータ陛下に即座に伝わり、そしてすぐさまジラソーレ伯爵の元に連絡がいったようだ。
 そればそうだ、インヴェルノ王族を侮辱して、第一王子であるエドガルドを馬鹿にして、次期国王になる私も侮辱し、喧嘩を売ったのだ。
 国家間的な問題になるわな、と納得する。
 だから黙っててほしかったのだが、そういかないのが私が王族という立場故。
 父は「私の可愛い息子達を侮辱し馬鹿にするとは君の所はどうなってるのかなぁ?」的な事に、カリーナ陛下が謝罪しそこからジラソーレ伯爵に「お前の息子がインヴェルノ王家を侮辱し喧嘩を売ったようだが、一体どのような教育をしたのだ?!」となってそこから慌てふためいてカリーナ陛下から許可をもらって、幻馬を借りて休みもせずに此処迄きて、現在謝罪している――という訳だった。

――あーあ、あの馬鹿男どうなることやら――

 そんな事を思いつつ、何度も私に謝罪する可哀想なジラソーレ伯爵夫妻に対して、お二人は悪くありませんからという旨を伝えながらなんとか対応した。




 私への謝罪の後、馬鹿男ベネデットは両親から大目玉を喰らったらしい。
 それでも、謝罪しようとしないプライドの高さには私は呆れたが、泣いてる母親と、頭を何度も下げて謝罪する父親が凄く可哀想だった。

――何度でも喧嘩を売りに来い、そのプライド、折れるまで買い続けてやる――

 馬鹿な息子を持って可哀想な両親を見て、私はそう誓った。




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