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二人のフエ~火星の異形~
しおりを挟む世界の果て。
フエはいつものように、もう一人の自分と合っていた。
「やぁ、私。ご機嫌いかが?」
「やぁ、私。いやぁ、色々大変だったよ」
「何があったの?」
「零さんのところしょっちゅう言ってるの紅姉さんと慎次に暴露されて……」
「えー⁈ そうなの⁈ 私もよ」
「マジ⁈」
「やっぱり発展具合が違ってもやることとか出会うこととは同じという訳ね」
「そゆことだろうねー」
二人は頷き会う。
「でも、起きる出来事の規模はそっちの方が大きいことが多いんでしょう?」
「そうだねぇ、何せ宇宙規模だからねぇ」
「教えて、教えて」
「いいよー」
フエの言葉に「フエ」は満足そうに頷いて語り始めた──
「火星で集団失踪事件?」
『はいそうなんです、我が社の社員が新しく開拓した場所に行くと失踪するんです』
「……わかりました、引き受けましょう」
モニターでの通話を終えると、零は振り向いた。
「ニルス、空間転移でアームド達と一緒にシャトルを転移してくれ」
「かしこまりました」
「私達はそれに乗り込むぞ、荒井、レオン」
「わーった」
「分かりました」
「私も乗り込むんですよね」
ニルスがたずねる。
「当然だろう」
「ああ、良かった留守番かと」
「お前を留守番させたら何が起きるか分からん」
零はきっぱり言い放ち、車で自身のシャトルがある空港まで急いだ。
シャトルが宇宙に出た直後、火星付近に転移をし、無事火星に着陸できた。
「レオンとニルスはアームドで指定された場所を見回ってくれ、私は依頼人に会いに行く」
「畏まりました」
「仰せの通りに」
アームドに乗り込み、その場を後にする二人を見送って、零は会社がある場所へと荒井と共に向かった。
「あの場所でしか起きていないのですね」
「はい、三度も起きているのでただ事ではないと……」
「警察にも連絡を」
「はい、ですが警察も捜査しようとすると人が居なくなると」
「なるほど……では私達も調べてみます」
「お願いします」
会社を出ると、荒井が口を開いた。
「完全に異形案件に巻き込まれてるぞあの社長」
「やっぱりか」
納得したように言うと、通信が入る。
「こちら零」
『所長、少し離れた場所に、巨大な空洞を見つけました』
「お前達はそこで待て、私達もアームドで向かう」
『了解』
通信を切ると、零達は急いでアームドが置いてある場所へど向かった。
指定された場所へ移動すると、巨大な空洞があった。
「匂うな」
「ですね」
「よし、行くぞ」
零を先頭に、空洞へと侵入する。
大分深く、奥まで来て漸く明かりが見えた。
巨大な鋼の蜘蛛のような生き物が存在した。
無数の球体が浮いており、その中に人が居る。
「あれは……おそらく行方不明者か」
「見たところ異形化させる代物だが、誰一人異形化していない」
「フエとマヨイ、だな」
「なるほど」
「私はあの化け物をここから引き離す、救助よろしく頼む」
「ちょ」
「おい」
零はコックピットから出て、叫ぶ。
「『花嫁』は此処だ!」
異形は動き始める。
同時に、零はアームドでその場から脱出し始めた。
異形は零のアームドを追いかけ始めた。
空洞の入り口ギリギリまで逃げると零は再度叫ぶ。
「フエ!」
「はいはいー!」
フエがコックピット内部に現れ、そして姿を消した。
「零さんに連絡が行くまで異形化進行をとめるようにやっておいて正解だったね」
フエは異形を見据える。
「同胞を大量に生産して、都市部を襲って捕食する計画だったんだろうけど、残念だったね」
「アンタが捕食される側だ、こっからは」
黒い肉癖が現れ、無数の触手が異形を絡め取る。
真意に気づいたのか逃げようともがく異形をフエは蹴り飛ばして、肉癖にぐしゃりと激突させる。
肉癖は異形を食い始め、異形は耳障りな声を上げて食われていった。
「本当に、本当にありがとうございます!」
「これで工事は再開できると思いますが、何かあったらまた連絡を」
「はい!」
会社を後にし、零はシャトルに乗り込み、ニルスの空間転移も駆使して地球に帰還する。
そして探偵事務所の二階に戻りベッドに腰かけると──
「ばぁ!」
フエが現れた。
「フエ、助かったが、今度は何だ」
「結構規模のでかい異形食べたから異形性発露しちった、ヤらせてちょーだい」
「仕方ないな……」
「わーい!」
フエは零の服を脱がせ始めた。
そして少ししてから二階に零の濁った声が響き始めた──
「へーいいなぁ」
「と、思うでしょう?」
「どしたの?」
「慎次が柊さんに告げ口した、異形性の発露で『花嫁』襲ったとかいって」
「ちょ、酷いー!」
「酷いよねー!」
二人ともぷんすかと怒り合う。
「仕方ないじゃん、異形性発露したら零さんに相手して貰うしかないんだから」
「そっちの柊さんも相当嫉妬深そうだもんねー」
「嫉妬深いよーおかげで、襲われた」
「ワオ」
「そっちはどうなの?」
「襲うこともあるけど、大体泣く」
「あー一緒一緒」
二人は頷きあい、そしてふぅと息を吐く。
「そろそろ柊さんところ戻らないと」
「だねー」
「それじゃあ『私』また今度」
「またね」
二人の「フエ」は手を振り合い、世界の果てから離れていく──
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