7 / 12
悪しき神と「勇者」~夢の中で~
しおりを挟むそれから一週間、イオスの傍に置かれるようになった。
政務には基本口出ししないし、よくわからないのでおとなしくしていた。
ただ、その一週間、どこから侵入したんだと聞きたいような輩がかなりいたのだ。
両方の命を狙ってくる輩が多かった。
暗殺者が来たのをきっかけに、国は厳戒態勢を取ることになった。
暗殺者はみな凄腕で、その厳戒態勢すら突破したが、イオスの目だけはごまかせず、容赦なくと捕えられるか葬られるかの二択だった。
ただ、捕まった後、自白させられるまでは何が何でも生かされるが、それ以降の命はないんだろうなとリアは思った。
暗殺者の所為でイオスは何かピリピリしているように見えた。
何処かで、発散しないと爆発する、そんな感じだった。
寝ている時も、ピリピリしていた。
心休まる時間がない、そんな感じだ。
一週間たって、神殿にまた行けるようになった時、兵士たちがどこかの国を攻め込み始めたと言うのを聞いた。
帝国と強いつながりがあり、暗殺者を差し向けてた国だそうだ。
技術者の生き残りもいる為、報復に出たというのを聞かされる。
イオスもその国に向かったというのを聞いて、大丈夫か不安になった。
「ご安心をお妃様、陛下は女神の加護によって守られております、負傷させられる者などおりませぬ」
「……女神の加護?」
「ええ、この世界を作りし女神リシュアンの加護です、今まで暗殺しようとした者が多くいましたが失敗したのも加護があるからです」
「……なるほど」
神殿に来た民たちを治療しながら、神官と会話をする。
しばらくすると、兵士がやってきた。
「御妃様、帝国の支援をしている国を落とす事ができました! これで帝国の技術を全て破棄させれば、マナの森は二度と枯れずに済みます!!」
「……イオスは?」
「陛下はご無事です、もう間もなくご帰還されます!」
「それならいいんだけど……」
リアははあとため息をついた。
「御妃様、そろそろ城に戻りましょう」
「わかった」
リアはシュオや、メアリとともに馬車に乗り込み城へと戻った。
食事や入浴を終え、ベッドで横になる。
相変わらず寝付けない、静かに光が差し込む。
暗殺者に狙われた経験から起き上がってしまう。
イオスが疲れ切った顔で部屋に入ってきた。
本物と表示されており、リアはベッドから降りてイオスに近寄り抱きしめる。
「……どうしたの?」
「悪い事が起きたのだ……」
「何?」
「……すまぬ、今は言えぬ。ただ必ず言うから待っていてくれ」
「……わかった、今日はもう休もう?」
リアはイオスの着替えを手伝い、ともにベッドに横になると、イオスの頭をなでてイオスが眠りについてから、リアも眠りに落ちた。
リアはイオスの事を気にしながら、神殿で民の治療にあたっていた。
それを表向きには絶対出さなかった。
ただ、リア専属の侍女となっているメアリは心配そうな顔をしていた。
「リア様大丈夫ですか?」
「あーうん、大丈夫大丈夫」
──本当は大丈夫じゃねーけど、言えんわ!!──
イオスの言葉を気にしながら治療をしていると外が騒がしいのに気づいた。
何事かとメアリに調べてきてもらおうと思った矢先に兵士が駆け込んできた。
「城に『勇者』を名乗る賊がやってきました!! 妃様を安全な場所へ――」
「勇者?! あーもー連れてけ!! あの人が心配だ!!」
傍にいた魔術師の首を掴み揺さぶる。
「し、しかし御妃様に危害が……」
「自分でなんとかするからいいから連れてけ!! 嫌な予感がする!! あーもーいいや自分で行くからいい!!」
リアはイオスと出会った玉座をイメージすると空間転移で移動した。
移動すると、イオスと冒険者らしき恰好の人物たちが戦っているのが見えた。
魔法使い、僧侶、戦士、そして一番何かリアの目からは良くない加護を持っている人物が兵士たちが言っていた勇者だろう。
「くっ……」
イオスの体から出血するのが見えた。
ぷつんとリアの何かが切れる。
「うちの旦那に何してくれとんじゃおのれらー!!」
凄まじい光の柱が侵入者たちに降り注ぎ、体を床にたたきつけた。
リアの目に見えた良くない加護らしき物が消える。
「か、神アリュンの加護が……!!」
僧侶が床に倒れたまま何かを言う。
「悪しき神の信仰がやはりまだあったか、滅ぶがいい!!」
勇者の体が燃え上がり灰と化した。
「勇者様!!」
「そんな、魔術王……いやさっきまで魔王を倒せそうだったのに何故?!」
「貴様らに言うことはない、寧ろこちらが聞くことがある! 捕え聞き出せ!」
イオスがそう言うと、兵士と魔術師たちが姿を現し、侵入者達を転移させないようにした上で捕縛しつれていった。
「リア! 何故来た!?」
「来なかったら危なかっただろうが!!」
リアはドレスをたくし上げてずかずかと歩いてイオスの元に行き、怒鳴ると血が出た腕を治療した。
光が包み、イオスの傷はきれいさっぱりなくなっていた。
「……ところで神アリュンって何? なんか悪そうな加護っぽいの見えたから破壊しちゃったけど……」
「……最初は女神リシュアンとともに世界を守る神だった存在だ……だが、ある日、私達とは違う生き物――マナを侵す生き物、魔の物を作り出し、それらを良い物と扱い知恵ある者や弱き者――私達を滅ぼそうとした、リシュアンはそれに反発し、私達を守る者を、世界の規律を守る者を作った――」
「へー」
「それが私だ」
ぶーっと噴き出す、リアは目を丸くし、イオスを指さす。
「もしかして、アンタ……元勇者?」
「……まぁ、そうなるな。一人で魔の存在を倒し、神アリュンを倒すのは苦労した」
「……相当昔の話よね、その後国作って今まで?」
「ああ、後神アリュンを滅ぼせるのは女神リシュアン位だ、私ができたのは力を奪い去り、封印する位だったからな……信仰を途絶えさせたつもりだったがまだ残っていた……」
「あのー……最悪のパターンなんだけど、もしかしてアリュン復活とかしてない?」
「……その可能性は濃厚だな」
リアは非常に嫌そうな顔をした、どう考えてもこのアリュンをどうにかする為も自分が転生させられた内容に含まれている気がしてならないのだ。
「とは言え、力は弱そうだ、信仰がほとんどない神など力は大してない、が、私は今は国王、国から好き勝手に戦以外で出るわけにはいかぬ」
「だよね……うーん、情報もらったら、精鋭見繕ってくれない、私がちょっとなんとかするから」
「……できるのか?」
「うーん、加護を渡すんじゃなくて、女神様呼び出してアリュンもう一回封印する程度の加護授けるくらいならできると思う」
古代語の本で、女神の加護は譲渡することはできない永遠の物らしいので、それしか思いつかなかった。
「……分かった、それが無理なら私が考えよう」
「うん」
それから一か月間、イオスは政務に缶詰め状態になり、リアはほぼ毎日一人で眠り、イオスと会う機会がほとんどなかった。
一か月後、色んな事が判明したのでイオスとリアは会議室に集まった。
「判明したんだって? あ、説明はいいよ。長くなるだろうし、精鋭さん呼んでくれる?」
「よかろう」
イオスが呼ぶと、やはり精鋭らしき人物たちが入ってくる。
「できるか?」
「やってみる」
リアは目をつぶり手を飾す。
と、リアの耳にだけ声が聞こえた。
――有難うございます、この者たちに、アリュンを封印するだけの加護を与えればよいのですね?――
あの、女神が透き通った姿で降りてきて、手をかざした。
精鋭たちが光に包まれる。
光が消えると、女神はリアの方を見てほほ笑む。
――これからもこの世界の事、どうかお願いしますね――
また、リアにしか聞こえぬ声で言うと、女神は姿を消した。
「今のは……!」
「陛下、どうなさいましたか」
「……そうか、お前たちには見えぬのか、まあ良い。リア、どうだ?」
「できたっぽいよ」
「では、行くがよい!! 再びアリュンの支配する世界にしてはならぬ!」
「「「了解しました!!」」」」
精鋭たちは部屋から出ていく。
出ていくのを見送ると、リアはぺたりと座り込んだ。
「疲れた、いやマジで」
「女神リシュアンは――何か言っていたか?」
「これからもこの世界の事、どうかお願いしますね、だってさ、結構責任重大――……」
リアははぁとため息をついた。
イオスは無言になり、リアを抱きかかえて部屋へと転移した。
力を使ったと見えるリアは顔色が悪くなっていた。
リアをベッドに寝かせる。
「んー? どうしたの?」
「体は大丈夫か?」
「大丈夫疲れただけだよ」
「そうか、今日はもう休め」
リアはそう言うと静かに眠った。
リアは夢を見ていた。
前の世界の夢だ。
母親が仏壇の前で泣いている。
仏壇には私の写真が飾られている。
兄たちが励ますが、その声は母には届いていないようだった。
孫の声も届いていない。
リアは――守里は、母を抱きしめて呟いた。
『お母さん、ごめんね死んじゃって。でも別の世界でそこそこ元気にやってるから元気だしてね、あんまり悲しまれると辛いからこっちも。後通り魔は呪う』
守里はそう言って抱きしめて離れると、すうと体が消えるのが分かった。
自分は目が覚めるのだな、と──
0
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。
和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……?
しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし!
危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。
彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。
頼む騎士様、どうか私を保護してください!
あれ、でもこの人なんか怖くない?
心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……?
どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ!
人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける!
……うん、詰んだ。
★「小説家になろう」先行投稿中です★
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる