23 / 56
遠い横顔と、私の本当の気持ち
しおりを挟む
あの日、冬空の下で見た──
まるで今にも消えてしまいそうな、あの森野さんの笑顔が、ずっと頭から離れなかった。
悲しそうで、切なそうで、誰にも見せない痛みに耐えているような、そんな表情。
森野さんが何を抱えていて、何に苦しんでいるのかは分からない。
だけど──少しでも力になりたいと思ってしまう私は、きっと“いけない”のだろうか。
あの時から、ずっと気になっていたことがある。
森野さんの“音楽嫌い”。
私が「カケルさん事件」で森野さんと言い合いになった後、杉野チーフと木月さんから聞かされた話だ。
森野さんはクラシック以外の音楽をほとんど聴かないらしい。
一時期、売り場で邦楽を流していた時も──
「うるさくて仕事に集中できない」
と文句を言っていたほどだとか。
だから当然、カラオケなんて行くはずもない。
一度だけ、店長に誘われて店長の奥様・杉野チーフと一緒に行ったことがあるらしいが、森野さんは「聴く専門」で、一度も歌わなかったそうだ。
その時、無理矢理童謡の「ふるさと」を歌わせたところ──
音程が壊滅的に取れていなかったらしい。
「勿体ないよね……あんなに良い声してるのに」
杉野チーフが、ほんの少し寂しそうに呟いたのを覚えている。
「でもね、“あの”森野君にも弱点があるって分かったら、ちょっと親しみが湧いたけどね」
そう笑う杉野チーフを見て、私はようやく気づいた。
いつの間にか私は──
“カケルさんに似ている声だから”とか、
“昔の思い出に結びつくから”とか、
そんな理由ではなく。
ちゃんと、“森野さん”という人を見ていたんだ、と。
そして今なら、胸を張って言える。
もし森野さんの声が、カケルさんにまったく似ていなかったとしても──
私はきっと、同じように森野さんを好きになっていた。
まるで今にも消えてしまいそうな、あの森野さんの笑顔が、ずっと頭から離れなかった。
悲しそうで、切なそうで、誰にも見せない痛みに耐えているような、そんな表情。
森野さんが何を抱えていて、何に苦しんでいるのかは分からない。
だけど──少しでも力になりたいと思ってしまう私は、きっと“いけない”のだろうか。
あの時から、ずっと気になっていたことがある。
森野さんの“音楽嫌い”。
私が「カケルさん事件」で森野さんと言い合いになった後、杉野チーフと木月さんから聞かされた話だ。
森野さんはクラシック以外の音楽をほとんど聴かないらしい。
一時期、売り場で邦楽を流していた時も──
「うるさくて仕事に集中できない」
と文句を言っていたほどだとか。
だから当然、カラオケなんて行くはずもない。
一度だけ、店長に誘われて店長の奥様・杉野チーフと一緒に行ったことがあるらしいが、森野さんは「聴く専門」で、一度も歌わなかったそうだ。
その時、無理矢理童謡の「ふるさと」を歌わせたところ──
音程が壊滅的に取れていなかったらしい。
「勿体ないよね……あんなに良い声してるのに」
杉野チーフが、ほんの少し寂しそうに呟いたのを覚えている。
「でもね、“あの”森野君にも弱点があるって分かったら、ちょっと親しみが湧いたけどね」
そう笑う杉野チーフを見て、私はようやく気づいた。
いつの間にか私は──
“カケルさんに似ている声だから”とか、
“昔の思い出に結びつくから”とか、
そんな理由ではなく。
ちゃんと、“森野さん”という人を見ていたんだ、と。
そして今なら、胸を張って言える。
もし森野さんの声が、カケルさんにまったく似ていなかったとしても──
私はきっと、同じように森野さんを好きになっていた。
0
あなたにおすすめの小説
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる