月歌~あなたの歌声は、月光のように温かい~

古紫汐桜

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売り出し戦線、異常あり

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お昼休みが終わり、いよいよ──怒涛の午後が始まった。

 クリスマスセール初体験の私には、目に映るすべてが“戦場”だった。

 人気商品はオープンからわずか一時間で完売。
 その後は、売り場を歩きながらほぼひたすら謝罪の連続。

「申し訳ございません、こちらの商品は完売いたしました」

 呼び止められる度に、このセリフを繰り返す。

 人気の玩具は補充しても補充しても一瞬で消える。

 ……でも、謝罪で済むお客様ばかりではなかった。

「チラシに載ってるのに無いなんておかしいでしょう!
 全員に行き渡る分を用意しなさいよ!」

「ほんとは倉庫にあるんでしょ!? 隠さないで出しなさいよ!」

 お母様方の怒号が飛び交い、売り場の空気はピリピリしていく。

 そんな中、私は店内の廊下に“謎の水たまり”を発見した。

 ……経験者が見れば一瞬で分かる。

 お子様のおもらし だ。

 ゴミ袋、トイレットペーパー、除菌シートを抱えて、即座に処理。

 一日に三~四回あるなんて珍しくもない。
 たまに“大物”が落ちている日だってある。

 しかも、だいたいお母さんは知らんぷり。
 混雑の中に放置しておくわけにもいかず、結局私たちが処理する。

 片づけて、ゴミを捨てて、一階で手を洗い――
 また三階へ全速力で駆け上がる。

 ゼーゼーしていると、店内アナウンスが響いた。

『三階・玩具売り場の方、三階・玩具売り場の方。内線15番までお願いします』

 この時期、ストック置き場にはほぼ人がいない。
 みんな売り場か倉庫に出払っている。

 一階から戻った私は、ちょうど内線電話のそばにいた。
 鳴り続けるコールに慌てて受話器を取る。

「……〇〇、ありますか?」

 小さな男の子の、今にも泣きそうな声。

(これは……絶対あの商品だ)

「申し訳ございません。本日分は完売しておりまして……。明日の朝、本部から入荷いたします」

「ど、どうしても無いの……?」

 電話越しにすすり泣き。胸が締め付けられる。

「……ごめんなさい。明日の朝には入ります」

 そう伝えた瞬間──

『お母さーん! やっぱり明日の朝だってーー!』

 さっきまで泣いていたはずの少年が、一転して元気いっぱいの声で叫んだ。

「ちょっ……バカ! 電話切ってから言いなさい!!」

 お母さんの怒号。
 直後、通話は切れた。

「ツー……ツー……ツー……」

 無情な通話終了音。

「……演技かよ!!」

 受話器をガンッと置き、全力で突っ込んだその瞬間──

「柊!! ボケっとしてる暇あんなら、そこの商品出しとけ!!」

 森野さんの怒号が飛んできた。

「は、はいっ!!」

 言われた商品を抱えて売り場へダッシュ。
 補充して、売台チェックして、また補充して……。

(これが……売り出し……!?)

 本当に目が回りそうだった。

 そしてようやく──

 店内に「蛍の光」が流れ始めた。

 その音楽とともに、お客様が潮が引くように帰っていく。

「あ……終わった……」

 ヨロヨロになりながらストック置き場へ戻ると、

「お疲れ様~」

 杉野チーフが、ほっとした笑顔で迎えてくれた。

「……疲れました~……」

 一日中走り回った足は、棒のように重くて、今にも折れそうだった。
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