野花のような君へ

古紫汐桜

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回り出す運命

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すると彼はぼんやりと僕の顔を見つめていて、全く動かなくなった。
どうしたんだろう?と見ていると、小島友也という名のウエイターの子が彼に何か耳打ちをしたのだ。
すると彼は瞬時に真っ赤な顔になり、両手で顔を隠してしまう。
(気に入らないな……)
イラっとした気持ちでその光景を横目に
「あの、お代を支払いしたいのですが……」
と、店長らしき人物に声を掛けた。
すると店長らしき人物は慌てた顔をして
「とんでもない!お代なんて頂けませんよ!」
と叫び
「むしろ、何かお礼を……」
と言い出したのだ。
これはチャンスと
「じゃあ……後で彼に、コーヒーを僕の診療所に届けさせて頂けませんか?」
って言ってみた。
みすみす、同じ職場の人に彼を譲る気は無かった。すると3人は鳩が豆鉄砲食らったような顔で
「はぁ!」
って叫んだのだ。
僕が畳み掛けるように
「出前が無いのが残念だったんですよね。ダメですか?」
って、店長らしき人物にうるうるした目で詰め寄ってみた。しかし
「あ……いや……しかし、営業中は……」
って言い淀むもんだから
「そうですか……、残念だなぁ~。従業員に、お疲れ様ってコーヒーを振る舞いたかったんだけど……」
て、一杯では無い事をちらつかせてみる。
すると
「え?ちなみに、何杯分?」
って食い付いて来た。
僕は心の中でほくそ笑み
「受付2人とカウンセラー2人に僕だから……5杯分かな?あ!ケーキを着けて貰えるかな?ケーキは4つで構わない。配達用に、タンブラーを5つ頂こうかな?」
と、店長らしき人物ににっこり微笑んでお願いしてみた。
すると店長らしき人物は強ばった笑顔を浮かべたまま、彼の方へ視線を向け
「熊谷君、今日のシフトは?」
と、呟いた。
(よし!此処でもう一押しだ!)
そう思い、戸惑う顔をする彼の
「え?17時ですけど……」
と言う言葉に食い気味に
「わぁ!助かるなぁ~!僕の診療所、18時までなんだ」
と言って微笑んだ。そしてトドメの一言。
「もし良かったら、毎週届けてくれると助かるんだけど……。あ……勿論、彼の帰りのついでで構わないよ」
そう言って、店長らしき人物にうるうるした瞳で訴えてみた。
困った顔をすると、しばらく考えて店長らしき人物は僕にジッと見つめられているのが辛くなったらしく
「く……熊谷君はどうかな?」
って、彼に話を振ったのだ。
彼が困った顔をして僕を見たので、思い切り縋る目で見つめてみた。
すると
「帰りに寄るくらいなら……」
と、かなりの間の後に呟いたのだ。
僕は思わず『掛かった!!』っと心の中でガッツポーズをしてから
「じゃあ、これ。その分のお代ね」
って言うと、彼の気持ちが変わる前に話を纏め
「お釣りは要らないよ!じゃあ、又後で」
そう言い残しヒラヒラと手を振ってその場を早々に立ち去った。

最初はお友達から始めよう。
そこから少し距離ずつ距離を縮めて行けば良い。

久しぶりにウキウキした気持ちで診療所に戻る。
「高杉先生、今日はお戻りが早いんですね」
受付の田崎さんに言われ
「うん!」
って笑顔で答えると、万年鉄仮面と呼ばれた僕の笑顔に田崎さんが固まったのが分かる。
(良いよ、良いよ。今日の僕は機嫌が良いから、何だって赦して上げる)
鼻歌を歌いながら白衣に袖を通し、ふと思う。
今まで、こんなに誰かを求めた事があったかな?と。
何故だか分からないけど、彼があの店にいるだけで胸が温かくなる。
優しい気持ちになる。
きっと、彼が優しい人だからなのだろうと、僕は小さく微笑んだ。
こんな不良品みたいな僕でも、せめて友達になるのは許して欲しいと願う。
本当の僕を知ったら……彼は僕から去るだろうか?
ふとそう考えて、ゆっくりと診察室の椅子に腰掛けた。
『いらっしゃいませ』
穏やかに笑う彼の笑顔を思い出すだけで、温かな気持ちになるのと同時に、チクリと胸が鈍く痛む。
「?」
この痛みの理由は分からないけど、17時過ぎに彼が来る。
それだけで、僕の気持ちはフワリと温かくなった。
17時まであと4時間。
「仕事を頑張りますか……」
そう独りごちて、パソコンのロックを解除した。
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