野花のような君へ

古紫汐桜

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そうだ!会いに行こう!!

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連休にはじめに会いに行くと決めて、はじめの家に持参する手土産とか、カッチリした服しか無いから、山道を歩けそうな靴や服を準備した。
手土産に関しては、はじめを育てて下さった祖父母の方に気に入って貰いたくてかなり悩んだ。
ひと月掛けてあれこれ準備して、荷物を車に運び入れながらふと、はじめが使っていた部屋を開けた。
元々、荷物が少なかったはじめの部屋は、まるでそこには人が居なかったように片付いている。置き忘れられた大学の教材に触れて、パラパラとページを捲る。
はじめの教科書は、マーカーとかでラインを引いたりしていなくて、赤いボールペンで乱雑に線が引かれ、走り書きがあちこちに書いてあった。
見た目によらず綺麗な字を書くんだなぁ~って思いながら、ノートにも手を伸ばした。
何気無く捲ったノートに
『創さんの笑顔がたくさん見たい』
って書いてあった。
「はじめ……」
ぽつりと呟いて、込み上げて来る涙を拭う。
別れに行くんじゃない。
新しい未来を作りに行くんだ。

「熊さんを幸せにできるのは、高杉先生。貴方だけなんですよ!」

友也君の言葉に背中を押され、僕は車に乗り込みカーナビにはじめの実家の住所を入れて走らせた。
不安が無いか?と言えば、正直、不安しかない。折れそうになる心を必死に起こし、車を走らせる事3時間。
物凄い山奥に入り、鉄の門が閉められた場所に出た。
カーナビはその先の細い道を示しているが、施錠された鉄の門の先に行く事が出来ない。
スマホを見るとギリギリ電波があるので、はじめの実家の固定電話に電話を掛けた。
誰が出るのか分からないので、緊張で心臓が口から飛び出しそうだった。
震える指でタップすると、コール音が聞こえた。
(どうしよう! もし、他のご家族が出たら何て言おう)
ドキドキがピークに達した時
「はい、熊谷です」
と、はじめの声が聞こえた。
嬉しさと切なさが込み上げて来て、それでもグッと押さえて
「はじめか?」
と声を発した。
するとしばらくの間の後
「……創……さん?」
ってはじめが僕の名前を呼んだ。
(何なんだよ、その長い間! こっちは勇気を出して連絡したのに!)
そう思ったら、怒りが一気に込み上げて来て
「お前ーっ!」
って叫んでいた。
でも、感情がジェットコースターみたいになっていて、一気に悲しくなって
「何で連絡して来ないんだよ」
そう呟いていた。
「もう……、僕の事はどうでも良いのか?」
するとはじめは間髪入れず
「違う!」
と叫んだので、僕はホッと肩を撫で下ろした。
小さく笑い
「まぁ……、言い訳は後でじっくり聞くよ。迎えに来い。今、ギリギリ電波のある場所にいる。お前の家までの道、僕の車では行けそうに無いから」
そう一気に話し、
「来るまで待ってるからな!」
そう言って有無も言わさずに通話を切った。
かと言って、本当に来てくれるかも分からない。
不安に思いながら、エンジンを止めた車のボンネットに軽く腰掛ける。
僕が居る場所からは、はじめの家がある場所は山奥みたいで何も見えない。
細い道の先には鬱蒼とした山道が続いている。
その道も舗装されておらず、僕の車では行けそうにない。
はじめに連絡してから、早30分。
すっぽかされたのかな?って思った時だった。
ガサガサと木々が揺れ、何かが走ってくる音が近付いで来る。
こんな山奥の山の中から出てくるなんて、絶対熊だ!って思った瞬間だった。
「創さん!」
って叫び声と共に、森から熊……ならぬ、はじめが飛び出して来た。
「うわぁァァァァァ!」
頭やら服に葉っぱを付けて、顔も枝で切ったんだろう。顔中傷だらけで息を軽く切らせて現れた。
熊じゃなくて、はじめなのにホッとして
「馬鹿野郎!人間の歩く道から来いよ!熊か何かだと思っただろう!」
と怒ると、はじめは眉を八の字にして
「すみません!早く会いたくて、近道して来ちゃいました」
って頭を下げた。
俺は相変わらずのはじめに小さく苦笑いを浮かべ、ゆっくりと抱き着いた。
ふわりと匂うかおるはじめの匂いに
「はじめだ……」
小さく呟いた。
かなり走って来たんだろう。
汗の匂いが混じっているけど、お日様のような温かいはじめの匂いにホッとした。
すると、はじめの身体がガッチーンと固まっている。
僕の突然の行動に、パニックになっているんだろう。
僕はゆっくりとはじめから離れて
「あ! そうだ! 車で行けないならどうしょう!」
そう叫んで車の後部座席を開けた。
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