28 / 44
6章 一滴の酔魔《すいま》
2dbs‐もう戻れない春
しおりを挟む
警視庁捜査本部は3組のカップルの身辺調査、犯行が行われたとされる石滝公園、加留部山周辺の聞き込みを徹底的に行った。
すると、6月24日に湯藤愛美が歩道で蹲っていたという証言が2つほどあった。おばあさんが心配して声をかけたが、大丈夫ですと言って立ち上がり、石滝公園方面に歩き始めたという。湯藤は大量の汗が見え、体調が悪そうだったらしい。
石滝公園出入り口付近を映した6月24日付の防犯カメラの映像にも、湯藤愛美が石滝公園に入っていく姿が映っていた。背中を丸め、お腹を押さえながらおぼつかない足取りだった。
冴島、湯藤カップルが濃厚な線だという暗黙の共有が、刑事の間で行われつつあった。それを変えたのは、警察に来た訪問者だった。
小見川達のクラスの環境は相変わらずの様相だった。暴力こそないものの、誰も話しかけてこない。白い目が向けられているという確かな事実が、精神を追い詰めていく。部活でも話題沸騰で、小見川達は有無を言わさず舞台裏の雑用係に決められた。
生気を無くした顔で、すっかり暗くなった道を会話もなく歩く。人の顔が見えづらい夜は唯一息をつける時間だった。小見川達は一言二言で別れを告げ、自分の住処に戻る。
小見川はドアを開け、家に入る。いつも上り下りしている階段なのに、怠く感じる。長い階段を上り、部屋の中に入った。
明日は学校が休み。ゆっくり休みたい。誰も会わず、1人で……。
香しい匂いに誘われてダイニングに入った。テーブルにはシチューとパスタが並んでいた。よく出てくるメニューだった。代わり映えのない夕食のメニューを前に座る。
「あ、よかった。手間が省けたわ。ご飯入れてくるね」
母親が履いているスリッパでパタパタと音を立てさせて、キッチンへ足を運ぶ。
「うん」
「どうした? 元気ないな」
父親が様子を窺うように聞いてくる。
「そんなことないよ」
小見川は笑顔で取り繕う。
小見川はスプーンを持ってシチューを掬い、口の中に注いだ。口の中に広がる濃厚な野菜の旨みとクリーミーな香りが広がり、少し火傷しそうな温度が喉を通り抜ける。
母親と父親は、テレビの音に紛れて聞こえてきたすすり泣く声に、顔を向けた。
「え!? どうしたの?」
母親は心配した顔で涙を流している小見川に尋ねる。
「……んっ、おいしいなって思って」
「泣くほどおいしかったのか?」
2人は顔を見合わせて笑った。
「ふふっ、おかわりならたくさんあるから」
「……うん」
申し訳なかった。自分が罪を背負うことで、きっと親に迷惑をかけることになる。今になって、当然のことを思っていた。それを今まで推測できなかった。それが学校での状態を生み、みんなを苦しめている。
もっと丁寧に証拠を消していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。もっとうまくやれたかもしれない。もっと普通の生活を送らせてやれたかもしれない。
何度後悔をしても、もう元には戻らない。このまま突き進む以外、道はない。
小学校の時のように、何もかも楽しかったあの日々が懐かしい。夢中で校庭を駆け回り、日が暮れるまで大騒ぎしながら遊んだあの日々が。
絶対に犯罪者として認知されるわけにはいかない。隠し通す。死ぬまで。
みんなのためにも、家族のためにも……。
自分の部屋に戻り、携帯を見ると、根元からメールが届いていた。
『ずっと言えてなかったけど、この前はごめん』
根元もきっと辛いはずだった。誰だってこんな日々を過ごしたいわけじゃない。だからって、巻き込んだ冴島を責めようとも思わない。自分が選んだことだ。根元もそう思ってるから、冴島を責めなかった。
小見川は返信する。
『俺達で、冴島と湯藤さんを守ろう。必ず成功するって信じて、生きていこう』
この言葉が、小見川達を支えていた。
小見川は潤んでいた目を擦り、息を吐き出した。
小見川は警察の動きを探るため、ネット記事の情報を読み漁った。今できるのはこれくらいだ。警察の出方を見て、どう対応するか。考えなければならない。
すると、『乳児遺棄事件、大きな進展』という見出しの記事があった。『自分が遺体を隠すため、捨てました』と証言し、交番に出頭してきた男がいたという内容だった。
小見川は息を呑んだ。デマかと思い、他にもないか探してみた。大手の報道機関も、同じような内容を扱っていた。
「どうなってんだ……?」
すると、6月24日に湯藤愛美が歩道で蹲っていたという証言が2つほどあった。おばあさんが心配して声をかけたが、大丈夫ですと言って立ち上がり、石滝公園方面に歩き始めたという。湯藤は大量の汗が見え、体調が悪そうだったらしい。
石滝公園出入り口付近を映した6月24日付の防犯カメラの映像にも、湯藤愛美が石滝公園に入っていく姿が映っていた。背中を丸め、お腹を押さえながらおぼつかない足取りだった。
冴島、湯藤カップルが濃厚な線だという暗黙の共有が、刑事の間で行われつつあった。それを変えたのは、警察に来た訪問者だった。
小見川達のクラスの環境は相変わらずの様相だった。暴力こそないものの、誰も話しかけてこない。白い目が向けられているという確かな事実が、精神を追い詰めていく。部活でも話題沸騰で、小見川達は有無を言わさず舞台裏の雑用係に決められた。
生気を無くした顔で、すっかり暗くなった道を会話もなく歩く。人の顔が見えづらい夜は唯一息をつける時間だった。小見川達は一言二言で別れを告げ、自分の住処に戻る。
小見川はドアを開け、家に入る。いつも上り下りしている階段なのに、怠く感じる。長い階段を上り、部屋の中に入った。
明日は学校が休み。ゆっくり休みたい。誰も会わず、1人で……。
香しい匂いに誘われてダイニングに入った。テーブルにはシチューとパスタが並んでいた。よく出てくるメニューだった。代わり映えのない夕食のメニューを前に座る。
「あ、よかった。手間が省けたわ。ご飯入れてくるね」
母親が履いているスリッパでパタパタと音を立てさせて、キッチンへ足を運ぶ。
「うん」
「どうした? 元気ないな」
父親が様子を窺うように聞いてくる。
「そんなことないよ」
小見川は笑顔で取り繕う。
小見川はスプーンを持ってシチューを掬い、口の中に注いだ。口の中に広がる濃厚な野菜の旨みとクリーミーな香りが広がり、少し火傷しそうな温度が喉を通り抜ける。
母親と父親は、テレビの音に紛れて聞こえてきたすすり泣く声に、顔を向けた。
「え!? どうしたの?」
母親は心配した顔で涙を流している小見川に尋ねる。
「……んっ、おいしいなって思って」
「泣くほどおいしかったのか?」
2人は顔を見合わせて笑った。
「ふふっ、おかわりならたくさんあるから」
「……うん」
申し訳なかった。自分が罪を背負うことで、きっと親に迷惑をかけることになる。今になって、当然のことを思っていた。それを今まで推測できなかった。それが学校での状態を生み、みんなを苦しめている。
もっと丁寧に証拠を消していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。もっとうまくやれたかもしれない。もっと普通の生活を送らせてやれたかもしれない。
何度後悔をしても、もう元には戻らない。このまま突き進む以外、道はない。
小学校の時のように、何もかも楽しかったあの日々が懐かしい。夢中で校庭を駆け回り、日が暮れるまで大騒ぎしながら遊んだあの日々が。
絶対に犯罪者として認知されるわけにはいかない。隠し通す。死ぬまで。
みんなのためにも、家族のためにも……。
自分の部屋に戻り、携帯を見ると、根元からメールが届いていた。
『ずっと言えてなかったけど、この前はごめん』
根元もきっと辛いはずだった。誰だってこんな日々を過ごしたいわけじゃない。だからって、巻き込んだ冴島を責めようとも思わない。自分が選んだことだ。根元もそう思ってるから、冴島を責めなかった。
小見川は返信する。
『俺達で、冴島と湯藤さんを守ろう。必ず成功するって信じて、生きていこう』
この言葉が、小見川達を支えていた。
小見川は潤んでいた目を擦り、息を吐き出した。
小見川は警察の動きを探るため、ネット記事の情報を読み漁った。今できるのはこれくらいだ。警察の出方を見て、どう対応するか。考えなければならない。
すると、『乳児遺棄事件、大きな進展』という見出しの記事があった。『自分が遺体を隠すため、捨てました』と証言し、交番に出頭してきた男がいたという内容だった。
小見川は息を呑んだ。デマかと思い、他にもないか探してみた。大手の報道機関も、同じような内容を扱っていた。
「どうなってんだ……?」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる