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6章 一滴の酔魔《すいま》
2dbs‐もう戻れない春
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警視庁捜査本部は3組のカップルの身辺調査、犯行が行われたとされる石滝公園、加留部山周辺の聞き込みを徹底的に行った。
すると、6月24日に湯藤愛美が歩道で蹲っていたという証言が2つほどあった。おばあさんが心配して声をかけたが、大丈夫ですと言って立ち上がり、石滝公園方面に歩き始めたという。湯藤は大量の汗が見え、体調が悪そうだったらしい。
石滝公園出入り口付近を映した6月24日付の防犯カメラの映像にも、湯藤愛美が石滝公園に入っていく姿が映っていた。背中を丸め、お腹を押さえながらおぼつかない足取りだった。
冴島、湯藤カップルが濃厚な線だという暗黙の共有が、刑事の間で行われつつあった。それを変えたのは、警察に来た訪問者だった。
小見川達のクラスの環境は相変わらずの様相だった。暴力こそないものの、誰も話しかけてこない。白い目が向けられているという確かな事実が、精神を追い詰めていく。部活でも話題沸騰で、小見川達は有無を言わさず舞台裏の雑用係に決められた。
生気を無くした顔で、すっかり暗くなった道を会話もなく歩く。人の顔が見えづらい夜は唯一息をつける時間だった。小見川達は一言二言で別れを告げ、自分の住処に戻る。
小見川はドアを開け、家に入る。いつも上り下りしている階段なのに、怠く感じる。長い階段を上り、部屋の中に入った。
明日は学校が休み。ゆっくり休みたい。誰も会わず、1人で……。
香しい匂いに誘われてダイニングに入った。テーブルにはシチューとパスタが並んでいた。よく出てくるメニューだった。代わり映えのない夕食のメニューを前に座る。
「あ、よかった。手間が省けたわ。ご飯入れてくるね」
母親が履いているスリッパでパタパタと音を立てさせて、キッチンへ足を運ぶ。
「うん」
「どうした? 元気ないな」
父親が様子を窺うように聞いてくる。
「そんなことないよ」
小見川は笑顔で取り繕う。
小見川はスプーンを持ってシチューを掬い、口の中に注いだ。口の中に広がる濃厚な野菜の旨みとクリーミーな香りが広がり、少し火傷しそうな温度が喉を通り抜ける。
母親と父親は、テレビの音に紛れて聞こえてきたすすり泣く声に、顔を向けた。
「え!? どうしたの?」
母親は心配した顔で涙を流している小見川に尋ねる。
「……んっ、おいしいなって思って」
「泣くほどおいしかったのか?」
2人は顔を見合わせて笑った。
「ふふっ、おかわりならたくさんあるから」
「……うん」
申し訳なかった。自分が罪を背負うことで、きっと親に迷惑をかけることになる。今になって、当然のことを思っていた。それを今まで推測できなかった。それが学校での状態を生み、みんなを苦しめている。
もっと丁寧に証拠を消していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。もっとうまくやれたかもしれない。もっと普通の生活を送らせてやれたかもしれない。
何度後悔をしても、もう元には戻らない。このまま突き進む以外、道はない。
小学校の時のように、何もかも楽しかったあの日々が懐かしい。夢中で校庭を駆け回り、日が暮れるまで大騒ぎしながら遊んだあの日々が。
絶対に犯罪者として認知されるわけにはいかない。隠し通す。死ぬまで。
みんなのためにも、家族のためにも……。
自分の部屋に戻り、携帯を見ると、根元からメールが届いていた。
『ずっと言えてなかったけど、この前はごめん』
根元もきっと辛いはずだった。誰だってこんな日々を過ごしたいわけじゃない。だからって、巻き込んだ冴島を責めようとも思わない。自分が選んだことだ。根元もそう思ってるから、冴島を責めなかった。
小見川は返信する。
『俺達で、冴島と湯藤さんを守ろう。必ず成功するって信じて、生きていこう』
この言葉が、小見川達を支えていた。
小見川は潤んでいた目を擦り、息を吐き出した。
小見川は警察の動きを探るため、ネット記事の情報を読み漁った。今できるのはこれくらいだ。警察の出方を見て、どう対応するか。考えなければならない。
すると、『乳児遺棄事件、大きな進展』という見出しの記事があった。『自分が遺体を隠すため、捨てました』と証言し、交番に出頭してきた男がいたという内容だった。
小見川は息を呑んだ。デマかと思い、他にもないか探してみた。大手の報道機関も、同じような内容を扱っていた。
「どうなってんだ……?」
すると、6月24日に湯藤愛美が歩道で蹲っていたという証言が2つほどあった。おばあさんが心配して声をかけたが、大丈夫ですと言って立ち上がり、石滝公園方面に歩き始めたという。湯藤は大量の汗が見え、体調が悪そうだったらしい。
石滝公園出入り口付近を映した6月24日付の防犯カメラの映像にも、湯藤愛美が石滝公園に入っていく姿が映っていた。背中を丸め、お腹を押さえながらおぼつかない足取りだった。
冴島、湯藤カップルが濃厚な線だという暗黙の共有が、刑事の間で行われつつあった。それを変えたのは、警察に来た訪問者だった。
小見川達のクラスの環境は相変わらずの様相だった。暴力こそないものの、誰も話しかけてこない。白い目が向けられているという確かな事実が、精神を追い詰めていく。部活でも話題沸騰で、小見川達は有無を言わさず舞台裏の雑用係に決められた。
生気を無くした顔で、すっかり暗くなった道を会話もなく歩く。人の顔が見えづらい夜は唯一息をつける時間だった。小見川達は一言二言で別れを告げ、自分の住処に戻る。
小見川はドアを開け、家に入る。いつも上り下りしている階段なのに、怠く感じる。長い階段を上り、部屋の中に入った。
明日は学校が休み。ゆっくり休みたい。誰も会わず、1人で……。
香しい匂いに誘われてダイニングに入った。テーブルにはシチューとパスタが並んでいた。よく出てくるメニューだった。代わり映えのない夕食のメニューを前に座る。
「あ、よかった。手間が省けたわ。ご飯入れてくるね」
母親が履いているスリッパでパタパタと音を立てさせて、キッチンへ足を運ぶ。
「うん」
「どうした? 元気ないな」
父親が様子を窺うように聞いてくる。
「そんなことないよ」
小見川は笑顔で取り繕う。
小見川はスプーンを持ってシチューを掬い、口の中に注いだ。口の中に広がる濃厚な野菜の旨みとクリーミーな香りが広がり、少し火傷しそうな温度が喉を通り抜ける。
母親と父親は、テレビの音に紛れて聞こえてきたすすり泣く声に、顔を向けた。
「え!? どうしたの?」
母親は心配した顔で涙を流している小見川に尋ねる。
「……んっ、おいしいなって思って」
「泣くほどおいしかったのか?」
2人は顔を見合わせて笑った。
「ふふっ、おかわりならたくさんあるから」
「……うん」
申し訳なかった。自分が罪を背負うことで、きっと親に迷惑をかけることになる。今になって、当然のことを思っていた。それを今まで推測できなかった。それが学校での状態を生み、みんなを苦しめている。
もっと丁寧に証拠を消していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。もっとうまくやれたかもしれない。もっと普通の生活を送らせてやれたかもしれない。
何度後悔をしても、もう元には戻らない。このまま突き進む以外、道はない。
小学校の時のように、何もかも楽しかったあの日々が懐かしい。夢中で校庭を駆け回り、日が暮れるまで大騒ぎしながら遊んだあの日々が。
絶対に犯罪者として認知されるわけにはいかない。隠し通す。死ぬまで。
みんなのためにも、家族のためにも……。
自分の部屋に戻り、携帯を見ると、根元からメールが届いていた。
『ずっと言えてなかったけど、この前はごめん』
根元もきっと辛いはずだった。誰だってこんな日々を過ごしたいわけじゃない。だからって、巻き込んだ冴島を責めようとも思わない。自分が選んだことだ。根元もそう思ってるから、冴島を責めなかった。
小見川は返信する。
『俺達で、冴島と湯藤さんを守ろう。必ず成功するって信じて、生きていこう』
この言葉が、小見川達を支えていた。
小見川は潤んでいた目を擦り、息を吐き出した。
小見川は警察の動きを探るため、ネット記事の情報を読み漁った。今できるのはこれくらいだ。警察の出方を見て、どう対応するか。考えなければならない。
すると、『乳児遺棄事件、大きな進展』という見出しの記事があった。『自分が遺体を隠すため、捨てました』と証言し、交番に出頭してきた男がいたという内容だった。
小見川は息を呑んだ。デマかと思い、他にもないか探してみた。大手の報道機関も、同じような内容を扱っていた。
「どうなってんだ……?」
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