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Q3話 神様に嫌われた罪なき僕ら
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暑さが和らいで、紅葉に目を奪われやすくなる季節となった。
今日は平日である。しかし、学校は休みだ。市販のカレンダーには書かれない祝日がある。創立記念日。普段なら自宅でスローライフを送るのが僕の休日だ。今日は呼び出しがあり、外出していた。
緑が足元を埋め尽くそうとするほど大きく育っていた。小ノコを使い、根本を切る。葉がぎゅうぎゅうに重なる白菜は、片手で持つのも難しい。収穫できる白菜を切り終えたらカゴに運ぶ。
涼しくなったが、動いていると額に汗をかくくらいには暖かい。水分を取りつつ、作業をしていく。
両親がいない代わりに面倒を見てくれている叔父さんが農家をやっており、たびたび手伝いに呼び出されるのだ。僕が通う栄美中学校は商業施設も多い街だが、そこから4駅またぐと、田畑広がる町に様変わりする。
遅めの昼食を取った後は、収穫した物を仕分け業者に運び、雑草を取って終了した。
叔母さんが「今日は泊まっていきなさい」と言うので、お言葉に甘えさせてもらった。
叔父さんが農家の手伝いをさせるのは、僕を気にかけてくれているからだろう。
手伝いのある日は決まって泊まらせようとするのも、僕と話す場を設けようとしているからだ。無理言って一人暮らしさせてもらったのに、生活費まで出してくれる。叔父さんの手伝いをする以外に、感謝の示しようがなかった。
叔父さんと叔母さんと一緒に食事を囲む。
「最近、前田さん見てないけど、どうしたのかしら」
「腰をやったらしい」
「あら、大変ね」
「昨日、ちょうど近くを通る予定だったから、収穫した一部をおすそ分けしておいたよ」
「治るのにどれくらいかかるの?」
「3日もあれば治ると言っていた。その間の害虫駆除は、ロボがやってくれるから心配はいらないだろう」
僕はふたりの会話を聞きながらカルパッチョを口に含む。
よく会話尽きないよなと感心する。
「そういえば、亮士、この間ミネルヴァの検査判定があったんじゃないか?」
「え?」
「どうだった?」
叔父さんの問いに心拍数が跳ね上がる。
「ああ、そこそこだったよ……」
「そうか。まあ、お前のことだ。心配はいらないだろう」
そう言って、叔父さんは優しく笑った。
本当は言わなくてはならないのだろう。AGIミネルヴァの適性検査で適性がなかったと。いずれ聞かれることだとわかっていたが、答えが出ぬまま今日を迎えてしまった。
僕の成績が良いのを知ってる叔父さんと叔母さんは、心配してる素振りなど微塵も見せなかった。それだけに、隠していることがふたりを裏切っているみたいで苦しかった。
Ζ
翌日、筋肉痛に耐えながら体育をやり終えた。誰にでも1つや2つ、苦手な授業くらいあるものだろう。サボってしまいたくなるが、あんまり仮病を使うと先生から疑われかねない。何事も穏便に平和に、だ。
教室に戻ると、ちょうど奏絵の姿が見えたので聞きにいった。
「奏絵」
「亮士君、どうしたの?」
「今日、中宮さん休み?」
「そうみたいね」
「また、だいぶ休むのかな?」
「さあ? もしそうだったら連絡来るっしょ。てか、ふたりともなんで連絡先交換してないの?」
「あ、いや……」
「あたしは仲介人じゃないぞ」
「そ、そうだな。面倒かける」
「まあ、いいけどさ。ってことはー、今日亮士君暇なんだぁ~」
ニヤニヤとする奏絵。
その顔はやめてほしい。
「な、なんだよ」
僕は思わず後ずさった。
「そんな怯えなくてもいいじゃん。今日、うちの水泳部さ、月に一度の合同練習の日なの」
合同練習と聞くと、他の学校と練習なのかと思うかもしれない。そういうこともよくあるとは聞いている。
僕らの学校は中高一貫なのもあって、近くに同じ系列の高校がある。水泳部の使う屋内プールは、栄美高等学校も普段から使用している。なので、間近に高校生の練習が見られるのだ。で、どうせなら練習も一緒にしようかと、そういう交流もあるらしい。
「栄美中学校VS栄美高校。基本あたしらが負けるんだけど、勝ったら先輩方からファミレスのクーポン券もらえるんだあ!」
「景品まであるのか」
いいのか、それ。
「そうだ! どうせなら亮士君も水泳部入っちゃいなよ」
「25メートルも泳げるか怪しいくらい苦手なんだ。他を当たってくれ」
「まあそこは冗談として、見学は来てよ。どうせ暇なんでしょ」
「いいのか? 部外者が来ても」
「うちの屋内プールは市内の大会で使われてるくらいだから、観客席もついてるのよ。部外者なんてしょっちゅう来てるよ。それに、生徒は基本誰でも歓迎だから、出ていけなんて言われないって。もし言われたら、あたしが友達連れてきたって言えばいいんだし」
というわけで、屋内プールに寄ってみたが、気まずい……。
観客席には人がまばらにいるが、ひとりでいるのは僕だけだった。洸大も誘えばよかった。後悔していると、高校と中学の競争が始まった。
メンバー全員でメドレーらしい。ハンデとして、高校生が一往復分多く泳ぐそうだ。わざわざ電光掲示板にルール載せるとか、凝ってるよな。
やっぱり高校生は速い。そもそも体つきが違う。肩幅とか、水着の間から見える筋肉とか。生身の人間とパワードスーツを着た人間くらいの差がある。
奏絵だ。奏絵がスタート台に立った。奏絵の脚線美が露わになっている。日々練習を積み重ねてきたと主張する筋肉のハリと顔つき。教室で見る奏絵とはまるで別人だった。
泳いでる選手が壁にタッチすると、奏絵が飛び込んだ。
奏絵を呼ぶ声援が一斉に湧いた。
すげえ!
高校生に距離を縮められ続けていたが、今は奏絵が引き離していく。50メートル泳ぎ切った奏絵は仲間だけじゃなく、対戦相手である高校生からも拍手が送られた。
プールから上がった奏絵は観客席の僕に視線を向けると、手を振った。僕は奏絵の速さに感嘆し、手を振り返した。
そうだ。思い出した。
小学校の頃から水泳が得意だった。ミネルヴァに競泳の素質があると診断を受けたって、教室で称えられてたっけ……。仲間に囲まれる奏絵と観客席にいるひとりの僕。こんなに差が開いていたんだな。プールにいる奏絵は輝いて見えた。
Z
2日後には中宮さんが学校に来ていた。顔色はすごい良いわけじゃないが、大丈夫そうだ。授業の合間、クラスメイトと話す中宮さんとたまに目が合う。お互い話しかけるでもなく、次の授業が始まった。
放課後の勉強会の時間だ。僕は予習をやりつつ、中宮さんの勉強を見ていた。わからないところをひとつひとつやっていく。
勉強は順調だった。が、中宮さんの元気がない気がする。いつも元気ってわけじゃないが、今日はなんとなく空気が重い……。
どうしたのか、聞いてどうなるでもない、流すか……。
たまにわからないところがあれば、僕が教えていく。僕が問題を作り、中宮さんが問題を解きながら覚える。その繰り返しだ。教師もどきなんて絶対大変だろうと思ったが、そうでもなかった。
「平井君ってさ」
中宮さんの声に視線を上げる。
「夕華と仲良いの?」
「小学校が同じだったけど、そこまで仲良いってわけじゃないよ」
「そうなんだ……」
なんだ、突然。中宮さんの横顔をじっと見つめる。
「な、なに?」
「ああ、いや、なんでもない」
まじまじと見つめすぎたか。僕は取りかかっていた自分の予習を再開しようとした。
「9月18日、私、学校にいたんだ」
唐突に中宮さんが話し出した。だいぶ前だな。
僕は手を止めて耳を傾ける。
「その日は、復学の手続きに学校に来てたの。その時ね、屋上に平井君を見たの」
9月18日に屋上? あの日か!
寒気がした。
僕は中宮さんの口から何が飛び出すのかと、焦りを覚えた。
「なんであんなところにいるんだろうって思った。ミネルヴァに聞いてみたの。いろんな要素をミネルヴァに入力して、屋上にひとりでいる理由を提示してもらった。中学3年の9月にある生徒の重大事項は、ミネルヴァの適性検査。ミネルヴァの適性検査の判定には、頭の良し悪しに相関はない」
中宮さんは僕を真っすぐ瞳に捉えた。
「平井君、適性検査で弾かれちゃったんでしょ」
――――知られた。ミネルヴァの推論機能が僕の行動と属性から導き出した。
適性検査の結果は、誰にも知られないよう配慮がなされている。適性検査の判定によるいじめが発生した学校もあるからだ。先生から心無い一言を言われたと、ネットのコラムで読んだこともあった。
ミネルヴァに認められなかった存在として、僕は生きる運命を負ってしまったのだ。僕は暴かれたことに言葉を失い、これからの生活に言いようのない不安を抱いた。
「大丈夫だよ」
「え?」
「わかってるでしょ。私も適性ないから」
ああ、そうか。
ミネルヴァの適性検査には、ミネルヴァの助言をもとにした生活を心がける必要がある。
「私、持病があるから。みんなより体力、全然ないんだ。機能移植にかかる負担に耐えられないかもしれないって、医者からも言われてるの」
幼少の頃から適切な食事、運動、学習、睡眠を行い、一定の方向性に発達を促す。ずっと学校を休みがちだった中宮さんは、ミネルヴァの適性検査に落ちている可能性が高い。そう見られても不思議じゃないのか。
「こんなこと言っちゃいけないと思うけど、ひとりじゃないって思えた」
ひとりじゃない、か……。
僕らはそうすることでしか、慰めることができないのかもしれない。
帰り道を一緒に歩く。中宮さんは申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね。変なこと言って」
「気にしてないよ」
「誰かに言ったりしないから」
「うん……ありがとう」
ミネルヴァの適性検査で『適性あり』と判定されれば、かかりつけの専門医療機関で機能移植の本格的な準備に入る。
年に何度か直接同期を行う必要があるため、定期的に病院に通わなくてはならない。人数も多くなるため、予約はいっぱいになっているケースは日常茶飯事だった。
ほとんどの人間が機能移植を受けたいと思っている。平日も使わなければ、対応できないこともあるそうだ。学校を休むことも珍しくなかった。
適性のない者は適性判定くらいしかやることがない。すると、学校を休まなくてもよくなるので、次第に「あいつは弾かれたんだ」と察する人も出てくる。
「じゃあ、また」
気づいたら、分かれ道にさしかかっていた。
「うん、また」
緑を削がれた葉がアスファルトに残る水たまりでふやけている。日暮れも早くなってきて、すでに一番星が空で輝いていた。雲と空のコントラストが壮美で、思わず写真を撮りたくなるほどだ。
電車の中から流れる景色を撮った。僕は新しい連絡先から中宮さんの名前を押し、チャットに写真を載せた。
今日は平日である。しかし、学校は休みだ。市販のカレンダーには書かれない祝日がある。創立記念日。普段なら自宅でスローライフを送るのが僕の休日だ。今日は呼び出しがあり、外出していた。
緑が足元を埋め尽くそうとするほど大きく育っていた。小ノコを使い、根本を切る。葉がぎゅうぎゅうに重なる白菜は、片手で持つのも難しい。収穫できる白菜を切り終えたらカゴに運ぶ。
涼しくなったが、動いていると額に汗をかくくらいには暖かい。水分を取りつつ、作業をしていく。
両親がいない代わりに面倒を見てくれている叔父さんが農家をやっており、たびたび手伝いに呼び出されるのだ。僕が通う栄美中学校は商業施設も多い街だが、そこから4駅またぐと、田畑広がる町に様変わりする。
遅めの昼食を取った後は、収穫した物を仕分け業者に運び、雑草を取って終了した。
叔母さんが「今日は泊まっていきなさい」と言うので、お言葉に甘えさせてもらった。
叔父さんが農家の手伝いをさせるのは、僕を気にかけてくれているからだろう。
手伝いのある日は決まって泊まらせようとするのも、僕と話す場を設けようとしているからだ。無理言って一人暮らしさせてもらったのに、生活費まで出してくれる。叔父さんの手伝いをする以外に、感謝の示しようがなかった。
叔父さんと叔母さんと一緒に食事を囲む。
「最近、前田さん見てないけど、どうしたのかしら」
「腰をやったらしい」
「あら、大変ね」
「昨日、ちょうど近くを通る予定だったから、収穫した一部をおすそ分けしておいたよ」
「治るのにどれくらいかかるの?」
「3日もあれば治ると言っていた。その間の害虫駆除は、ロボがやってくれるから心配はいらないだろう」
僕はふたりの会話を聞きながらカルパッチョを口に含む。
よく会話尽きないよなと感心する。
「そういえば、亮士、この間ミネルヴァの検査判定があったんじゃないか?」
「え?」
「どうだった?」
叔父さんの問いに心拍数が跳ね上がる。
「ああ、そこそこだったよ……」
「そうか。まあ、お前のことだ。心配はいらないだろう」
そう言って、叔父さんは優しく笑った。
本当は言わなくてはならないのだろう。AGIミネルヴァの適性検査で適性がなかったと。いずれ聞かれることだとわかっていたが、答えが出ぬまま今日を迎えてしまった。
僕の成績が良いのを知ってる叔父さんと叔母さんは、心配してる素振りなど微塵も見せなかった。それだけに、隠していることがふたりを裏切っているみたいで苦しかった。
Ζ
翌日、筋肉痛に耐えながら体育をやり終えた。誰にでも1つや2つ、苦手な授業くらいあるものだろう。サボってしまいたくなるが、あんまり仮病を使うと先生から疑われかねない。何事も穏便に平和に、だ。
教室に戻ると、ちょうど奏絵の姿が見えたので聞きにいった。
「奏絵」
「亮士君、どうしたの?」
「今日、中宮さん休み?」
「そうみたいね」
「また、だいぶ休むのかな?」
「さあ? もしそうだったら連絡来るっしょ。てか、ふたりともなんで連絡先交換してないの?」
「あ、いや……」
「あたしは仲介人じゃないぞ」
「そ、そうだな。面倒かける」
「まあ、いいけどさ。ってことはー、今日亮士君暇なんだぁ~」
ニヤニヤとする奏絵。
その顔はやめてほしい。
「な、なんだよ」
僕は思わず後ずさった。
「そんな怯えなくてもいいじゃん。今日、うちの水泳部さ、月に一度の合同練習の日なの」
合同練習と聞くと、他の学校と練習なのかと思うかもしれない。そういうこともよくあるとは聞いている。
僕らの学校は中高一貫なのもあって、近くに同じ系列の高校がある。水泳部の使う屋内プールは、栄美高等学校も普段から使用している。なので、間近に高校生の練習が見られるのだ。で、どうせなら練習も一緒にしようかと、そういう交流もあるらしい。
「栄美中学校VS栄美高校。基本あたしらが負けるんだけど、勝ったら先輩方からファミレスのクーポン券もらえるんだあ!」
「景品まであるのか」
いいのか、それ。
「そうだ! どうせなら亮士君も水泳部入っちゃいなよ」
「25メートルも泳げるか怪しいくらい苦手なんだ。他を当たってくれ」
「まあそこは冗談として、見学は来てよ。どうせ暇なんでしょ」
「いいのか? 部外者が来ても」
「うちの屋内プールは市内の大会で使われてるくらいだから、観客席もついてるのよ。部外者なんてしょっちゅう来てるよ。それに、生徒は基本誰でも歓迎だから、出ていけなんて言われないって。もし言われたら、あたしが友達連れてきたって言えばいいんだし」
というわけで、屋内プールに寄ってみたが、気まずい……。
観客席には人がまばらにいるが、ひとりでいるのは僕だけだった。洸大も誘えばよかった。後悔していると、高校と中学の競争が始まった。
メンバー全員でメドレーらしい。ハンデとして、高校生が一往復分多く泳ぐそうだ。わざわざ電光掲示板にルール載せるとか、凝ってるよな。
やっぱり高校生は速い。そもそも体つきが違う。肩幅とか、水着の間から見える筋肉とか。生身の人間とパワードスーツを着た人間くらいの差がある。
奏絵だ。奏絵がスタート台に立った。奏絵の脚線美が露わになっている。日々練習を積み重ねてきたと主張する筋肉のハリと顔つき。教室で見る奏絵とはまるで別人だった。
泳いでる選手が壁にタッチすると、奏絵が飛び込んだ。
奏絵を呼ぶ声援が一斉に湧いた。
すげえ!
高校生に距離を縮められ続けていたが、今は奏絵が引き離していく。50メートル泳ぎ切った奏絵は仲間だけじゃなく、対戦相手である高校生からも拍手が送られた。
プールから上がった奏絵は観客席の僕に視線を向けると、手を振った。僕は奏絵の速さに感嘆し、手を振り返した。
そうだ。思い出した。
小学校の頃から水泳が得意だった。ミネルヴァに競泳の素質があると診断を受けたって、教室で称えられてたっけ……。仲間に囲まれる奏絵と観客席にいるひとりの僕。こんなに差が開いていたんだな。プールにいる奏絵は輝いて見えた。
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2日後には中宮さんが学校に来ていた。顔色はすごい良いわけじゃないが、大丈夫そうだ。授業の合間、クラスメイトと話す中宮さんとたまに目が合う。お互い話しかけるでもなく、次の授業が始まった。
放課後の勉強会の時間だ。僕は予習をやりつつ、中宮さんの勉強を見ていた。わからないところをひとつひとつやっていく。
勉強は順調だった。が、中宮さんの元気がない気がする。いつも元気ってわけじゃないが、今日はなんとなく空気が重い……。
どうしたのか、聞いてどうなるでもない、流すか……。
たまにわからないところがあれば、僕が教えていく。僕が問題を作り、中宮さんが問題を解きながら覚える。その繰り返しだ。教師もどきなんて絶対大変だろうと思ったが、そうでもなかった。
「平井君ってさ」
中宮さんの声に視線を上げる。
「夕華と仲良いの?」
「小学校が同じだったけど、そこまで仲良いってわけじゃないよ」
「そうなんだ……」
なんだ、突然。中宮さんの横顔をじっと見つめる。
「な、なに?」
「ああ、いや、なんでもない」
まじまじと見つめすぎたか。僕は取りかかっていた自分の予習を再開しようとした。
「9月18日、私、学校にいたんだ」
唐突に中宮さんが話し出した。だいぶ前だな。
僕は手を止めて耳を傾ける。
「その日は、復学の手続きに学校に来てたの。その時ね、屋上に平井君を見たの」
9月18日に屋上? あの日か!
寒気がした。
僕は中宮さんの口から何が飛び出すのかと、焦りを覚えた。
「なんであんなところにいるんだろうって思った。ミネルヴァに聞いてみたの。いろんな要素をミネルヴァに入力して、屋上にひとりでいる理由を提示してもらった。中学3年の9月にある生徒の重大事項は、ミネルヴァの適性検査。ミネルヴァの適性検査の判定には、頭の良し悪しに相関はない」
中宮さんは僕を真っすぐ瞳に捉えた。
「平井君、適性検査で弾かれちゃったんでしょ」
――――知られた。ミネルヴァの推論機能が僕の行動と属性から導き出した。
適性検査の結果は、誰にも知られないよう配慮がなされている。適性検査の判定によるいじめが発生した学校もあるからだ。先生から心無い一言を言われたと、ネットのコラムで読んだこともあった。
ミネルヴァに認められなかった存在として、僕は生きる運命を負ってしまったのだ。僕は暴かれたことに言葉を失い、これからの生活に言いようのない不安を抱いた。
「大丈夫だよ」
「え?」
「わかってるでしょ。私も適性ないから」
ああ、そうか。
ミネルヴァの適性検査には、ミネルヴァの助言をもとにした生活を心がける必要がある。
「私、持病があるから。みんなより体力、全然ないんだ。機能移植にかかる負担に耐えられないかもしれないって、医者からも言われてるの」
幼少の頃から適切な食事、運動、学習、睡眠を行い、一定の方向性に発達を促す。ずっと学校を休みがちだった中宮さんは、ミネルヴァの適性検査に落ちている可能性が高い。そう見られても不思議じゃないのか。
「こんなこと言っちゃいけないと思うけど、ひとりじゃないって思えた」
ひとりじゃない、か……。
僕らはそうすることでしか、慰めることができないのかもしれない。
帰り道を一緒に歩く。中宮さんは申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね。変なこと言って」
「気にしてないよ」
「誰かに言ったりしないから」
「うん……ありがとう」
ミネルヴァの適性検査で『適性あり』と判定されれば、かかりつけの専門医療機関で機能移植の本格的な準備に入る。
年に何度か直接同期を行う必要があるため、定期的に病院に通わなくてはならない。人数も多くなるため、予約はいっぱいになっているケースは日常茶飯事だった。
ほとんどの人間が機能移植を受けたいと思っている。平日も使わなければ、対応できないこともあるそうだ。学校を休むことも珍しくなかった。
適性のない者は適性判定くらいしかやることがない。すると、学校を休まなくてもよくなるので、次第に「あいつは弾かれたんだ」と察する人も出てくる。
「じゃあ、また」
気づいたら、分かれ道にさしかかっていた。
「うん、また」
緑を削がれた葉がアスファルトに残る水たまりでふやけている。日暮れも早くなってきて、すでに一番星が空で輝いていた。雲と空のコントラストが壮美で、思わず写真を撮りたくなるほどだ。
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