透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

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Q4話 AIにだって得手不得手はあるだろ

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 それから3ヶ月の月日が経った。
 中宮さんは時々学校を休んだが、物理、数学は中3レベルと言っても差しつかえなかった。
「すごいよ、中宮」
 僕はミネルヴァの採点結果を見て、中宮を称える。
 中宮は恥ずかしそうに縮こまっている。
「どうした?」
「よ、呼び捨て……」
「あ、ごめん。嫌だったか?」
 中宮は首を振る。
「う、ううん。そういうわけじゃないけど」
 17時過ぎたか。
「早いけど、今日は終わりにするか」

 学校を出て、こごえる空気に身をすくめながら歩く。
 1月の終わりともなれば、日が沈むのも、気温がほとんど上がらないのもつねとなっていた。
 隣で歩く中宮の格好も冬仕様に衣替えしており、首回りのマフラーが顔の半分を隠してしまいそうだ。
 早く帰ってあったまりたい。
 信号待ちをしていた時だった。
 
「おお! 亮士じゃん! 何やってんの?」
 洸大は僕に気づいて歩み寄ってくると、隣の中宮に会釈する。
「あ、どもども、赤嶺あかみねです」
「中宮です」
「いつも亮士がお世話になってます」
「どちらかというと、僕が世話してるんだけどな」
 洸大は大げさにため息をついて見せる。
 
「お前のそういうところ、ミネルヴァに矯正してもらえ」
 信号が青になり、一緒に渡る。
「それよか、ふたりともこのまま帰るのか?」
「そのつもりだが」
「駅チカのファミレスに寄ってかないか?」
「駅チカってなんだよ」
「駅の近くで『駅チカ』に決まってんだろ」
「紛らわしいだろ」
「あ、あの……私はちょっと……」
 中宮は手提げ鞄を抱えてモジモジする。
「予定あった?」
 洸大が聞くと、「いえ、そういうわけじゃ……」と口ごもる。洸大は立ち止まり、後ろを歩いていた中宮に向き直る。

「もし解決できるなら、俺たちが相談に乗るぜ。な?」
「えっと……」
 中宮は逡巡しゅんじゅんした後、小さな声でぼそりと零した。
「お金、なくて……」
「なんだ、そんなことか。1食分くらいは奢れるぜ。言い出しっぺの俺が保証する」
「いいの、かな?」
「ああ、今日は亮士もいるしな」
 僕も奢るの確定か。
 
「遠慮しなくていいよ。今日くらい一緒に食べないか?」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」
「よし、決まり! ついてこい皆の衆!」
「ふたりだけだぞ」

 駅近くにあるファミレスは栄美さかみ中学など多くの学生が通う馴染みのお店だ。僕はあまり外食をしないから来るのは久しぶりだった。
 さすがに多いな、学生。
 店内の学生の多さたるや、席の半分が学生っぽい。このお店って前からこんな感じだっけか。
 
 久しぶりすぎて新鮮だった。新入生でもないのにこんな新鮮に感じているのは、僕くらいだと思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。僕と洸大は決まったが、中宮はメニュー表を見ながらかれこれ5分ほど悩んでいる。
「中宮ってここに来るの初めて?」
 僕が尋ねると、こくりと頷く。
「う、うん! ど、どれも美味しそう!」
 中宮は目を輝かせて興奮ぎみに話した。
「ずっと際乃きわの市なのか?」
「うん。でも、この辺りには栄美さかみ中学に入学が決まってから来るようになった」
「何小?」
武蔵野むさしの小」
「少し離れたとこだな」
 洸大がいじっていた携帯を置き、僕らの会話に入ってきた。
 
「そういや、中宮さんといつの間に帰る仲になってたんだ?」
「僕が中宮の勉強を見てるんだ」
「勉強?」
 洸大が疑問に思うのも無理はない。
「ミネルヴァじゃ、ちょっとわかりづらいところがあるからな。今は僕が教えなくてもいいくらいにはなってるけどね」
「私が無理を言って見てもらってるの」
「へぇそうなのか」
「そういや、洸大はこの辺で何してたんだ?」
「へ?」
「お前、僕と同じ帰宅部だろ。友達と遊んでたのか?」
 洸大は顔の前で手を振って否定する。
 
「違う違う。コンピュータールームでバイトしてたんだ」
「は? なんの?」
「アバターデザイナーさ」
「イラストかけんの?」
「3Dだけだよ。原案は別の人さ」
「マジか」
 洸大にそんな特技があるとは。
「いつからやってたんだ?」
「中2の初めくらいだったかな」
「すごいな」
「へへ、そうかぁ?」
 洸大も前に進んでるんだな。
 ほんと、すごいな……。
 僕は縫った傷口のうずきのような感覚にとらわれ、テーブルの冷や水を飲み込んだ。
 
「決まったけど、注文してもいい?」
「おう、頼む」
 洸大に言われ、中宮が注文のボタンを押す。注文タブレットを置き、何頼んだのかと洸大が話を振る。中宮が恥ずかしそうにぼそぼそと答えていた。僕は心ここにあらずで、楽しい輪に入るのが後ろめたくなった。


         Z


 2日後、中宮は順調に学力を上げていた。しかし、誰しも苦手教科はあるものだ。英語に苦戦する中宮はなかなか成果が出ず、ちょいちょい塞ぎ込むようになった。
 中宮は口数こそ少ないが、表情に出やすい。そこはちょっと可愛いと思う。
 気分転換でもしようと外に連れ出した。中学1年からずっと帰宅部だったのもあり、こうして放課後遅くまでブラブラすることは今までなかった。
 
 この時間はいろんな服装の生徒がいる。弓道部、料理部、サッカー部、柔道部。こんなことを言っては失礼かもしれないが、コスプレ会場にいるみたいだった。
 校内にある自販機で温かい飲み物を買い、屋内プールに向かう。奏絵の泳ぎでも見に行こうと中宮を誘った。
 観客席には水泳部の人か、あるいはマネージャーか。僕らのような部外者はいないように見えた。このクソ寒い時期でも、水泳部は泳いでいた。そう。この屋内プールは温水にもなるのだ。
 うちの学校、設備には金かけてるよなぁ。
 僕はカップに入ったココアを口に含む。

 プールでは続々と部員が泳いでいる。どうやらタイムを計っているようだ。大モニターに2つのレーンのタイムが表示されている。
 しばらくすると、中学水泳部の女子が集められた。監督らしき人が何やら話しているようだが、内容までは聞き取れない。注意深く観察していると、奏絵の横顔が遠くでもわかるほど、表情に変化があった。
 
 威勢の良い「解散!」の声が響き、部員が散らばった。みなが一定方向へ流れていくのに対し、ひとり違う方向へ歩いていく奏絵は、屋内プールから出ていってしまった。
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