透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

文字の大きさ
19 / 42

Q19話 頑張ってるヤツのところには自然と味方がついてくるものだ

しおりを挟む
 それから数日のことだった。
 その日は久しぶりの雨だった。打ちつける雨音が強弱を織り交ぜて、響いている。
 ゆっくり勉強をしていると、インターホンが鳴った。
 ドアを開ける。その前には、メタリックなデザインの人型の自律型ロボットが立っている。頭部に表情を確認できるパーツはなく、黒塗りのプラスチック樹脂が使われている。隣のマンションの荷物預り所で受付をしているのをよく見かけていたあのロボットだった。
 
 ロボットは何か話すわけでもなく、手に持っていた箱を差し出した。白い箱は水滴1つもついていなかった。
「ありがとう」
 ペコリと頭を下げると、ロボットは階段へ歩いていった。
 片手サイズの箱を開け、梱包材にくるまれた黒い棒を取り出す。
 黒い棒の脚を広げ、棒の上部に携帯を取りつける。
 ローテーブルに立てたミニ三脚の上では、携帯が僕をモニタリングしていた。携帯画面は正面を向いており、カメラもインカメラになっている。
 
 僕はソファに座り、髪と姿勢を整える。映りを確認し、カメラの前で左手を上げた。僕の左手の動きを認識した携帯のカメラは、僕の左手の指が3本立っていることを感知すると、カウントダウンを始めた。
 数字のカウントに合わせて、カウンターを囲うように丸を描くモーションが表示される。ゼロになった瞬間、録画のマークが画面の端についた。
 
「初めまして。僕は平井亮士です。栄美中学校4年生です。僕には難病を患っている友達がいます。今、友達は入院していて、学校に通えない状況にあります。僕は友達がもう一度学校に通えるようになってほしいと思っています。すごく難しい病気で、イギリスの病院に行かないと治らないそうです。それにはたくさんのお金がります。ご家族の収入では到底集まらない大金です。僕は友達の難病を治すため、もう一度学校に通えるよう行動を起こします。これから、このアカウントを通して、詳細や経過をご報告させていただきます。よろしくお願いいたします。また、次の動画でいろいろお話します。それでは……」


          Z

 
 僕の生活は進級試験の勉強と動画制作の日々に突入した。
 動画の視聴回数は思ったより伸びていた。順調な滑り出しだ。
 いくつかの動画に分けて詳細な現状と今後どうしていこうと思っているのかを語り、視聴者に応援を呼びかけている。
 自分の行動を支持してくれる人もいたが、批判もあった。
 
 すでに対策は考えていた。
 事前に中宮の両親と本人に許可をもらい、中宮に動画の出演してもらった。本名と病院名を伏せて、診断書の公開も行った。
 当初、中宮の両親はこれに難色を示した。当然だろう。決して病状が良いとは言えない中で動画に出演させ、病気のことを公開させるのは、中宮に精神的負担を強いるということだ。心配事を増やせば、今より病状が悪化する恐れもある。
 
 これは僕の我がままだ。無理強いはできない。率直に無理なら無理と言ってほしいし、怖かったら他の方法を考えると中宮にも説明していた。
 中宮の両親の反応は予想通りだった。ダメもとだったし、親としては当たり前の反応だと思う。そんな両親のもとにいる中宮が、少し羨ましく映った。
 中宮の両親とは対照的に、中宮は許諾してくれた。中宮は「亮士君を信じる」と言い、少し冷たい手が僕の手を包んだ。中宮が応じると言うならと、中宮の両親も渋々納得してくれた。
 
 担当医にも話を通しておいた。中宮を含む患者のプライバシーに配慮することを守ってくれるなら許可すると、理解を示してくれた。強面こわもての見た目のわりに、温和な語調で話す先生だったので助かった。
 
 中宮の闘病の様子や勉強に取り組む様子などを撮影し、イギリスでの入院費と治療費にあてる募金を呼びかけた。
 募金はちょっとずつ溜まっているが、4600万円まであと何年かかることやらというペースだった。それでも、中宮は「こんなに応援してくれる人がいるんだね」と寄せられたコメントを見て呟いていた。
 中宮は嬉しそうにコメントを見ていたが、中には批判的なコメントも混ざっていた。応援の方が圧倒的に多いが、中宮の体にさわるんじゃないか。
 
「中宮」
「なに?」
「あんま見ない方がいいんじゃないか?」
 中宮は僕の言ったことがわからないといった様子で、目を丸くしている。
「いや、全部が僕らのことを応援してるもんじゃないし……見ても、落ち込むだけだろ? なら、いっそのこと見ない方が……」
 そう言うと、中宮は噴き出すように笑った。
 
「亮士君、ちょっと過保護じゃない。パパみたい」
「そ、そうかな」
「大丈夫だよ。これ引き受けた時から全員が応援してくれるなんて思ってなかったし、ネットってそういうものでしょ」
「……一応、ひどいヤツは削除してるけど、中宮の体によくないだろうから。ほどほどにな」
「はいはい」
 中宮は僕の言ったことをどこまで本気にしているのか判別できない返事をする。
 中宮はベッドで上体を起こしたまま、タブレットでコメントを読んでいる。窓から射し込む光が中宮の肌の白さを際立たせる。前より白くなっている気がする。体調は悪くないみたいだが……。

 
 自宅へ戻り、慣れない動画制作をしていた。
 タブレットで探した動画制作の実用書を参考にしながら、試行錯誤しているところだった。
 僕は行き詰まっていた。5000前後の視聴回数から伸びることはなく、最近ではどんどん下降している。唯一の救いは、中宮の批判がほぼないことだろうか。
 
 ミネルヴァに視聴回数が減っている原因を分析してもらったところ、構成がワンパターンになっており、エンゲージメントが減っている可能性があるそうだ。
 視聴者に飽きが来ている。そう言いたいらしい。
 中宮には無理のない範囲で出演してもらい、基本的に僕が前面に立っている。エンタメにした方が視聴回数を稼げるとは思うが、茶化している動画にしたら、募金してくれた人に申し訳が立たない。
 
 あと1週間もすれば、夏休みも終わってしまう。必然的に投稿頻度も減らさざるを得ない。
 募金は集まっているし、フォロー数も順調に伸びている。だけど、このペースだと目標金額を達成する前に、僕らは大人になってしまうかもしれない。
 焦らないでいいとコメントに書かれていることもあるが、うかうかしていたら取り返しのつかないことになっていることもある。だが、これ以上どうしたらいいのか……。
 
 お手上げだった。頬杖をついて考えていると、携帯が音楽を奏でる。画面を見ると、洸大の名前が表示されている。
 電話に出た瞬間、調子の良い声が響いた。
「よ」
「どうした。わざわざ電話なんて」
「いいじゃねぇか。俺とお前の仲だろ~?」
「……お前、暇なのか」
「それもあるけどな。んなことより、観たぜ。何面白そうなことしてんだよ」
 
 
 動画は栄美中学校の生徒の一部にも知られていたみたいだ。その情報が洸大にも回ってきたそうだ。どうやら、自分も中宮の治療資金調達計画に混ぜろと言いたいらしい。
 隠す理由もないし、協力者は多いに越したことはない。承諾すると、早速作戦会議をしようと言ってきた。場所は栄美中学生ご用達、駅の近くのファミレスだった。
 
 せっかくなので、洸大に現状を伝えた。視聴回数が鈍くなっており、行き詰まっていることを話したところ、洸大はどんと胸を張った。
「俺に任せろ」と言った洸大は饒舌じょうぜつに話し出した。
 洸大は僕の動画を観ながらひらめいたそうで、それをワークシートでまとめて送ってきた。
 
 洸大が立ち上げたサイトに、募金呼びかけの広告を埋め込もうという案らしい。かねてからゲームを作っていた洸大は、自作ゲームをまとめたサイトを作っていた。利用者は毎日2000人ほどおり、動画視聴回数のアップにつながるし、募金にも貢献できるとした。
 けっこうちゃんとした案を出してきて、正直驚かされた。これなら募金が伸び悩んでいる現状を多少改善できるかもしれない。僕は洸大に感謝し、ぜひやってほしいとお願いした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「記録係なんてお荷物はいらない」 勇者パーティを支えてきた青年・ライトは、ダンジョンの最深部に置き去りにされる。 彼のスキル《記録》は、一度通った道を覚えるだけの地味スキル。 戦闘では役立たず、勇者たちからは“足手まとい”扱いだった。 だが死の淵で、スキルは進化する。 《超記録》――受けた魔法や技を記録し、自分も使える力。 そして努力の果てに得たスキル《成長》《進化》が、 《記録》を究極の力《アカシックレコード》へと昇華させる。 仲間を守り、街を救い、ドラゴンと共に飛翔する。 努力の記録が奇跡を生み、やがて―― 勇者も、魔王も凌駕する“最強”へ。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...