透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

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Q20話 抹茶を飲んだことはありますか?

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 夏休みが明けて、学校生活が再開した。
 洸大が動画の広報をしてくれるおかげで、再生回数が倍以上になった。なぜ、今まで洸大を頼らなかったんだと自分を叱りたくなった。
 僕らの動画は学校でも有名になったみたいだ。あんまり話したことのないクラスメイトから、声をかけられることもあった。それは先生にも及んでいるようで、生徒指導室に呼ばれた。
 
 僕は緊張の面持ちで生徒指導室へ入室した。担任と生活指導の先生が何か話し合っていたらしく、僕が入室した途端、会話を止めて、僕に着席を促した。
 右端の壁際に机と椅子が置かれており、奥にいくつかの箱がある。その中の1つには「忘れ物?」と箱の側面に書かれている。
 
 てっきり動画のことをとがめられると思っていた。内容は僕らの動画のことだったが、注意というよりは、心配されていたようだ。
 保護者からもいろんな意味で心配の声が寄せられていたようで、一度話し合っておこうと、職員会議で決まったらしい。
 
 僕は、世間からのバッシングも想定の範囲内で、本人とご両親ともよく話し合って撮らせてもらっていることを話した。先生たちも、中宮のことは気の毒だと思っているらしい。僕の話を聞いている間、僕の気持ちをもうとしているのが伝わってきた。
 
 僕らの意思を尊重したうえで、学校は全面的にサポートすることはできないが、今すぐやめろとは言わない。
 現状、見守ろうという方針になっているそうだ。少なくとも、先生たちは応援してると、言ってもらえた。
 僕は感謝を伝え、生徒指導室を出た。

 生徒指導室を出ると、洸大と奏絵がドアの近くで待っていた。ふたりはぱっと花開くように笑った。
「よかったな」
 洸大が僕の背中を軽く叩いて言った。どうやら盗み聞きしていたらしい。
「緊張した……」
「こっちがヒヤヒヤしたわ」
「これで心置きなく中宮をサポートできるな」
「ああ」

 
            Z
 

 
 暑さが和らいできた11月の初旬。
 教室で次の授業の準備をしていると、
「平井君」
 クラスメイトに声をかけられた。
「どうかした?」
「あの子が呼んでてさ」
 視線を振ると、教室のドア付近で待っている女子生徒がいた。僕と視線が合うなり、軽く頭を下げた。知らない顔だ。
 
 教室がざわついている。クラスメイトは彼女を知っているのだろうか。
 そう思わせるくらい、彼女は異彩を放っていた。
「ありがとう」
「おっす」
 艶やかな茶色の長い髪と猫のような力強い瞳。佇まいからしても普通の生徒とは一線を画していた。恐々、彼女のもとへ向かう。
 
 教室を出ると、「平井亮士さん、ですわね?」と尋ねられた。
「はい。そうですが……」
「初めまして。私、愛崎唯月あいさきゆずきと申します。動画を拝見いたしまして、ぜひ私たちもご協力させていただきたいのですが、今はゆっくりお話できないでしょう? 放課後、慈善活動部の部室へ来ていただけませんか? お時間のある日で構いませんので」
 そう言って、可愛いらしい猫型のメモを渡された。
 
 そして放課後。僕と洸大は慈善活動部が使っている教室へ向かった。慈善活動部が使っていた教室は、以前僕と中宮が勉強に使っていた教室、LL-C教室の2つ隣にあった。僕はノックする。
 中から「どうぞ」と声がして、ドアを開けた。愛崎さんは僕らを出迎えようと歩み寄ってくる。
 
 畳まれた机と椅子が教室の端に追いやられている。教室の中央にはいくつかの机が固まっており、さながら会議室の大きな机のようになっていた。その机には何人かの生徒が座っていたが、ほとんど女子、というか、女子しかいない……。
「どうぞこちらへ」
 
 僕らは促されるまま教室の隅へ向かう。パーテーションで区切られたスペースには、この教室には似つかわしくないソファとテーブルがあった。
「これ、元々校長室にあったソファなんですよ。校長室のソファを新調した際に、教頭先生がもしよかったらと譲ってくださったんです」
「そうなんですね」
 愛崎さんも真向かいに座り、姿勢を正す。
 
「今日はお忙しい中、お時間をいただき感謝いたします」
 後輩ながら僕よりしっかりしていると感心してしまった。
 僕らが自己紹介をしていると、慈善活動部の部員からお茶を振る舞われた。湯のみに入っていたのは抹茶だった。
 
「静岡産の抹茶です。私のお気に入りですの。よかったらどうぞ」
「……ありがとうございます」
 洸大は初めて見る料理を前にした人みたいな顔をしていた。
「それで、協力したいとのことだったと思うのですが」
 
「部活名の通り、私たちは慈善活動を主とした活動をしています。普段は事務員さんのお手伝いや先生たちの雑務、先月あった体育祭の準備にも借り出されました。学校内の奉仕と言いましても、たいていのことは事務員さんがやってしまいますから、よく暇を持て余していますの」
 最初はすごい育ちのよさそうな子が来たと思ったが、ちょっと変わった子なのかもしれないと思い始めてきた。
 
「どうしたものかと思っていたところ、平井様の動画を拝見させていただきましたの! 善は急げと言うでしょう? それで、平井様にお声がけいたしましたの」
 愛崎さんはマドラーを湯のみに入れ、混ぜている。
「動画撮影に協力したい、ということでしょうか?」
 愛崎さんはしたり顔になり、首を振る。
「いえ、あなた方の目的は友達の医療費を工面することなんでしょう? でしたら、正道を歩みましょう」
 
 
 そうして慈善活動部は、週に1回、校門前に立って募金活動をするようになった。募金をしてくれた人には淡いブルーのカサブランカのワッペンが配られた。
 手作りののぼりと病床の中宮の写真を持って、募金を呼びかける慈善活動部の部員の姿を撮影する。病床の中宮の写真は雨の日でも濡れないようにとカバーをつけた。これらの制作は僕らも手伝った。募金箱もお手製だ。
 これはもっと知ってもらえるようにサイトに動画を上げるためであり、今も療養している中宮に届けるためでもあった。ほんのちょっとだけど、僕の掲げた無謀な挑戦も、バカげた夢じゃないのかもしれない。
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