20 / 42
Q20話 抹茶を飲んだことはありますか?
しおりを挟む
夏休みが明けて、学校生活が再開した。
洸大が動画の広報をしてくれるおかげで、再生回数が倍以上になった。なぜ、今まで洸大を頼らなかったんだと自分を叱りたくなった。
僕らの動画は学校でも有名になったみたいだ。あんまり話したことのないクラスメイトから、声をかけられることもあった。それは先生にも及んでいるようで、生徒指導室に呼ばれた。
僕は緊張の面持ちで生徒指導室へ入室した。担任と生活指導の先生が何か話し合っていたらしく、僕が入室した途端、会話を止めて、僕に着席を促した。
右端の壁際に机と椅子が置かれており、奥にいくつかの箱がある。その中の1つには「忘れ物?」と箱の側面に書かれている。
てっきり動画のことを咎められると思っていた。内容は僕らの動画のことだったが、注意というよりは、心配されていたようだ。
保護者からもいろんな意味で心配の声が寄せられていたようで、一度話し合っておこうと、職員会議で決まったらしい。
僕は、世間からのバッシングも想定の範囲内で、本人とご両親ともよく話し合って撮らせてもらっていることを話した。先生たちも、中宮のことは気の毒だと思っているらしい。僕の話を聞いている間、僕の気持ちを汲もうとしているのが伝わってきた。
僕らの意思を尊重したうえで、学校は全面的にサポートすることはできないが、今すぐやめろとは言わない。
現状、見守ろうという方針になっているそうだ。少なくとも、先生たちは応援してると、言ってもらえた。
僕は感謝を伝え、生徒指導室を出た。
生徒指導室を出ると、洸大と奏絵がドアの近くで待っていた。ふたりはぱっと花開くように笑った。
「よかったな」
洸大が僕の背中を軽く叩いて言った。どうやら盗み聞きしていたらしい。
「緊張した……」
「こっちがヒヤヒヤしたわ」
「これで心置きなく中宮をサポートできるな」
「ああ」
Z
暑さが和らいできた11月の初旬。
教室で次の授業の準備をしていると、
「平井君」
クラスメイトに声をかけられた。
「どうかした?」
「あの子が呼んでてさ」
視線を振ると、教室のドア付近で待っている女子生徒がいた。僕と視線が合うなり、軽く頭を下げた。知らない顔だ。
教室がざわついている。クラスメイトは彼女を知っているのだろうか。
そう思わせるくらい、彼女は異彩を放っていた。
「ありがとう」
「おっす」
艶やかな茶色の長い髪と猫のような力強い瞳。佇まいからしても普通の生徒とは一線を画していた。恐々、彼女のもとへ向かう。
教室を出ると、「平井亮士さん、ですわね?」と尋ねられた。
「はい。そうですが……」
「初めまして。私、愛崎唯月と申します。動画を拝見いたしまして、ぜひ私たちもご協力させていただきたいのですが、今はゆっくりお話できないでしょう? 放課後、慈善活動部の部室へ来ていただけませんか? お時間のある日で構いませんので」
そう言って、可愛いらしい猫型のメモを渡された。
そして放課後。僕と洸大は慈善活動部が使っている教室へ向かった。慈善活動部が使っていた教室は、以前僕と中宮が勉強に使っていた教室、LL-C教室の2つ隣にあった。僕はノックする。
中から「どうぞ」と声がして、ドアを開けた。愛崎さんは僕らを出迎えようと歩み寄ってくる。
畳まれた机と椅子が教室の端に追いやられている。教室の中央にはいくつかの机が固まっており、さながら会議室の大きな机のようになっていた。その机には何人かの生徒が座っていたが、ほとんど女子、というか、女子しかいない……。
「どうぞこちらへ」
僕らは促されるまま教室の隅へ向かう。パーテーションで区切られたスペースには、この教室には似つかわしくないソファとテーブルがあった。
「これ、元々校長室にあったソファなんですよ。校長室のソファを新調した際に、教頭先生がもしよかったらと譲ってくださったんです」
「そうなんですね」
愛崎さんも真向かいに座り、姿勢を正す。
「今日はお忙しい中、お時間をいただき感謝いたします」
後輩ながら僕よりしっかりしていると感心してしまった。
僕らが自己紹介をしていると、慈善活動部の部員からお茶を振る舞われた。湯のみに入っていたのは抹茶だった。
「静岡産の抹茶です。私のお気に入りですの。よかったらどうぞ」
「……ありがとうございます」
洸大は初めて見る料理を前にした人みたいな顔をしていた。
「それで、協力したいとのことだったと思うのですが」
「部活名の通り、私たちは慈善活動を主とした活動をしています。普段は事務員さんのお手伝いや先生たちの雑務、先月あった体育祭の準備にも借り出されました。学校内の奉仕と言いましても、たいていのことは事務員さんがやってしまいますから、よく暇を持て余していますの」
最初はすごい育ちのよさそうな子が来たと思ったが、ちょっと変わった子なのかもしれないと思い始めてきた。
「どうしたものかと思っていたところ、平井様の動画を拝見させていただきましたの! 善は急げと言うでしょう? それで、平井様にお声がけいたしましたの」
愛崎さんはマドラーを湯のみに入れ、混ぜている。
「動画撮影に協力したい、ということでしょうか?」
愛崎さんはしたり顔になり、首を振る。
「いえ、あなた方の目的は友達の医療費を工面することなんでしょう? でしたら、正道を歩みましょう」
そうして慈善活動部は、週に1回、校門前に立って募金活動をするようになった。募金をしてくれた人には淡いブルーのカサブランカのワッペンが配られた。
手作りののぼりと病床の中宮の写真を持って、募金を呼びかける慈善活動部の部員の姿を撮影する。病床の中宮の写真は雨の日でも濡れないようにとカバーをつけた。これらの制作は僕らも手伝った。募金箱もお手製だ。
これはもっと知ってもらえるようにサイトに動画を上げるためであり、今も療養している中宮に届けるためでもあった。ほんのちょっとだけど、僕の掲げた無謀な挑戦も、バカげた夢じゃないのかもしれない。
洸大が動画の広報をしてくれるおかげで、再生回数が倍以上になった。なぜ、今まで洸大を頼らなかったんだと自分を叱りたくなった。
僕らの動画は学校でも有名になったみたいだ。あんまり話したことのないクラスメイトから、声をかけられることもあった。それは先生にも及んでいるようで、生徒指導室に呼ばれた。
僕は緊張の面持ちで生徒指導室へ入室した。担任と生活指導の先生が何か話し合っていたらしく、僕が入室した途端、会話を止めて、僕に着席を促した。
右端の壁際に机と椅子が置かれており、奥にいくつかの箱がある。その中の1つには「忘れ物?」と箱の側面に書かれている。
てっきり動画のことを咎められると思っていた。内容は僕らの動画のことだったが、注意というよりは、心配されていたようだ。
保護者からもいろんな意味で心配の声が寄せられていたようで、一度話し合っておこうと、職員会議で決まったらしい。
僕は、世間からのバッシングも想定の範囲内で、本人とご両親ともよく話し合って撮らせてもらっていることを話した。先生たちも、中宮のことは気の毒だと思っているらしい。僕の話を聞いている間、僕の気持ちを汲もうとしているのが伝わってきた。
僕らの意思を尊重したうえで、学校は全面的にサポートすることはできないが、今すぐやめろとは言わない。
現状、見守ろうという方針になっているそうだ。少なくとも、先生たちは応援してると、言ってもらえた。
僕は感謝を伝え、生徒指導室を出た。
生徒指導室を出ると、洸大と奏絵がドアの近くで待っていた。ふたりはぱっと花開くように笑った。
「よかったな」
洸大が僕の背中を軽く叩いて言った。どうやら盗み聞きしていたらしい。
「緊張した……」
「こっちがヒヤヒヤしたわ」
「これで心置きなく中宮をサポートできるな」
「ああ」
Z
暑さが和らいできた11月の初旬。
教室で次の授業の準備をしていると、
「平井君」
クラスメイトに声をかけられた。
「どうかした?」
「あの子が呼んでてさ」
視線を振ると、教室のドア付近で待っている女子生徒がいた。僕と視線が合うなり、軽く頭を下げた。知らない顔だ。
教室がざわついている。クラスメイトは彼女を知っているのだろうか。
そう思わせるくらい、彼女は異彩を放っていた。
「ありがとう」
「おっす」
艶やかな茶色の長い髪と猫のような力強い瞳。佇まいからしても普通の生徒とは一線を画していた。恐々、彼女のもとへ向かう。
教室を出ると、「平井亮士さん、ですわね?」と尋ねられた。
「はい。そうですが……」
「初めまして。私、愛崎唯月と申します。動画を拝見いたしまして、ぜひ私たちもご協力させていただきたいのですが、今はゆっくりお話できないでしょう? 放課後、慈善活動部の部室へ来ていただけませんか? お時間のある日で構いませんので」
そう言って、可愛いらしい猫型のメモを渡された。
そして放課後。僕と洸大は慈善活動部が使っている教室へ向かった。慈善活動部が使っていた教室は、以前僕と中宮が勉強に使っていた教室、LL-C教室の2つ隣にあった。僕はノックする。
中から「どうぞ」と声がして、ドアを開けた。愛崎さんは僕らを出迎えようと歩み寄ってくる。
畳まれた机と椅子が教室の端に追いやられている。教室の中央にはいくつかの机が固まっており、さながら会議室の大きな机のようになっていた。その机には何人かの生徒が座っていたが、ほとんど女子、というか、女子しかいない……。
「どうぞこちらへ」
僕らは促されるまま教室の隅へ向かう。パーテーションで区切られたスペースには、この教室には似つかわしくないソファとテーブルがあった。
「これ、元々校長室にあったソファなんですよ。校長室のソファを新調した際に、教頭先生がもしよかったらと譲ってくださったんです」
「そうなんですね」
愛崎さんも真向かいに座り、姿勢を正す。
「今日はお忙しい中、お時間をいただき感謝いたします」
後輩ながら僕よりしっかりしていると感心してしまった。
僕らが自己紹介をしていると、慈善活動部の部員からお茶を振る舞われた。湯のみに入っていたのは抹茶だった。
「静岡産の抹茶です。私のお気に入りですの。よかったらどうぞ」
「……ありがとうございます」
洸大は初めて見る料理を前にした人みたいな顔をしていた。
「それで、協力したいとのことだったと思うのですが」
「部活名の通り、私たちは慈善活動を主とした活動をしています。普段は事務員さんのお手伝いや先生たちの雑務、先月あった体育祭の準備にも借り出されました。学校内の奉仕と言いましても、たいていのことは事務員さんがやってしまいますから、よく暇を持て余していますの」
最初はすごい育ちのよさそうな子が来たと思ったが、ちょっと変わった子なのかもしれないと思い始めてきた。
「どうしたものかと思っていたところ、平井様の動画を拝見させていただきましたの! 善は急げと言うでしょう? それで、平井様にお声がけいたしましたの」
愛崎さんはマドラーを湯のみに入れ、混ぜている。
「動画撮影に協力したい、ということでしょうか?」
愛崎さんはしたり顔になり、首を振る。
「いえ、あなた方の目的は友達の医療費を工面することなんでしょう? でしたら、正道を歩みましょう」
そうして慈善活動部は、週に1回、校門前に立って募金活動をするようになった。募金をしてくれた人には淡いブルーのカサブランカのワッペンが配られた。
手作りののぼりと病床の中宮の写真を持って、募金を呼びかける慈善活動部の部員の姿を撮影する。病床の中宮の写真は雨の日でも濡れないようにとカバーをつけた。これらの制作は僕らも手伝った。募金箱もお手製だ。
これはもっと知ってもらえるようにサイトに動画を上げるためであり、今も療養している中宮に届けるためでもあった。ほんのちょっとだけど、僕の掲げた無謀な挑戦も、バカげた夢じゃないのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜
136君
青春
俺に青春など必要ない。
新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!?
絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく…
本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ!
なろう、カクヨムでも連載中!
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601
なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる