透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

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Q22話 自分のやっていることに自信が持てなくなるのは、自分を見つめている証拠だ

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 それから時が過ぎ、僕らは無事高校に進学した。
 高校生になったからと言って、大きな変化はなかった。
 僕に変わったことはなかったが、周りはかなり変わったみたいだ。
 他の中学から入ってきた生徒は少なくなかった。高校入学当初、初対面の生徒から好奇の視線を向けられた。たぶん、動画のことを知っていたんだろう。
 
 直接何か言われたわけじゃないが、チラチラと見られながら内緒話をされて、気にしないでいられる神経の図太さは生憎と持ち合わせていなかった。教室に居づらい時期こそあったが、僕への興味はすぐに薄れていった。

 それ以外に変わったことと言えば、耳に装着するデバイスを着ける生徒が増えたことだ。授業中、休憩中、下校中の他校の生徒。嫌でも目につく。
 ミネルヴァの機能の一部を移植できるレベルまで脳が発達しているか確認する適性診断で、適性者とみなされた生徒は本格的に移植に向けて準備に入っていく。
 たいていの生徒が高校進学後に移植手術を行う。何回かに分けて行われるため、経過を見るためにブレインモニターを装着する。携帯と連携させれば、自分の脳の状態を確認できるそうだ。

 動画の視聴回数は悪くなかった。
 定期的にフォローもされている。
 募金額は総計300万だ。
 洸大も慈善活動部も頑張ってくれているが、これ以上どうすることもできなかった。虚空に何度目かのため息を落とした。
「辛気臭い顔が板についてきたんじゃない?」
 高校でも同じクラスになった奏絵がニヤついた顔で前の席に座った。通路側に足を向け、携帯を取り出す。
 
「……成長期だから大人びた顔つきになってきたんだろ」
「ふーん、成長期ね」
 含みのある受け答えをした奏絵は、すれ違うクラスの女子と一言会話を交わすも、携帯に夢中だった。特に用があって僕に声をかけたわけじゃなさそうだ。
 
「奏絵は中宮の病気のこと、知ってたのか?」
「詳しく知ってたわけじゃないよ。治療が難しいってくらいかな」
「僕のやってることって、意味あるのかな?」
「え、急に何」
「中宮の病気の治療のためになるならって始めたけど、僕のやってることは中宮から望んだことじゃない。僕が言い出したことだ。それに、いつまで付き合わせていいんだろうって……」
 奏絵は噴き出すように笑う。そんなに笑わなくてもいいだろうに。
 
「それってお互い様じゃない? 凪子だって亮士君に付き合わせていいのかって悩んでるかもよ」
「……聞いたのか?」
「想像よ。でも、あたしは凪子の友達だからね。だいたいわかんの。意味があるかどうかなんてさ、やってみてわかることだってあるんじゃない? 今は途中経過でしかないんだし、ミネルヴァだって亮士君の行動を止めなかったんでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
 奏絵はぐっと僕に顔を寄せてきた。驚くほど近くに迫ってきて、体をのけ反らせた。奏絵はじとりとした瞳を向け、薄笑いを浮かべる。
 
「亮士君、あたしに叱られたいわけ?」
「そういうんじゃないよ……」
 僕をからかって満足した奏絵は携帯に視線を戻す。
「何を求めてんのかわかんないけどさ、簡単に求めた答えが手に入るなんて思わない方がいいんじゃない? 難しいって承知のうえでやってるんだったら尚更でしょ。あたしは亮士君が凪子のために動いたことに意味があると思うから、今はそれでいいと思うけどね」
 チャイムが鳴り、奏絵は自分の席に戻っていく。


 放課後、僕は栄美中学校へ出向いていた。
 慈善活動部に募金を受け取りに向かっているところだった。
 真新しい高校生の制服を着て、校舎内を歩いているだけなのに、ちょっと緊張する。
 
 僕がこの校舎を生徒として歩いていたのは3ヶ月くらい前だ。栄美高校の生徒が栄美中学校の中を歩いていることもそんなに珍しいことじゃない。にもかかわらず、やはり違う制服で校舎の中を歩くのは目立つらしく、一様に視線がぶつかる。
 足早に慈善活動部の部室代わりの教室へ向かっていると、「先輩!」と聞き馴染みのある大声を耳にした。視線を投げた先では、喜んで走ってくる犬みたいに駆け寄ってくる愛崎さんがいた。
 
「ああ、今から君たちのところに――」
 僕がここにいる事情を説明しようとしたが、愛崎さんは僕の手を両手でつかむと、興奮した様子で言った。
「そんなことより大ニュースですわ!」

 少し用があって、立ち寄ったらすぐに帰路へ向かうくらいに思っていたのだが、急な話が舞い込んできたので、予定を変更することになった。
 僕は慈善活動部の愛崎さんと一緒に栄美高校の廊下を歩いていた。
「生徒会が?」
 愛崎さんは頷いた。
「栄美高校の生徒会の方々と交流がある友人に中宮さんのことをお話したら、高校の生徒会に相談を聞いてもらえるかもしれないと言うので、一度直接お会いしてみてはどうかと。先方には、私から話を通していますわ」
「そ、そうか……ありがとう」
 
 愛崎さんは楽しげだ。通い慣れない校舎のはずなのに、緊張などおくびにも出さない。周りからの視線は気にならないらしい。
「先輩と栄美高校を歩いていると、なんだか一足先に高校生になった気分ですわ!」
 嬉しそうで何より……。
 後輩の肝の据わり方に感心していると、生徒会室が見えてきた。
 
 中高とまず関わりのなかった生徒会室へ足を踏み入れるのは、初めて職員室に入る時と同じく緊張を覚えた。一呼吸置いて入ろうと思ったが、そんな僕の気持ちをよそに、愛崎さんはノンストップで生徒会室のドアを開けてしまった。
 
「失礼いたします」
 仕方ないので僕も続いた。
「失礼します」
 整然とした教室に入った瞬間、マスカットの香りが鼻をくすぐった。洋風の棚には書物がぎっしり詰まっている。
 デスクトップパソコンが教室の端にポツンと置かれ、その机の脇には制服姿の女の子のフィギュアがポーズを決めていた。教室中央で四角形を作る長机の向こうには、ホワイトボードを見つめる人がいた。彼は振り返り、優しい表情で微笑んだ。
「生徒会へようこそ」
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