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Q40話 後悔ばかりの人生でも自分で未来を描けるはずだから
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その後も僕は投稿を続けた。
あの謝罪動画は大きな放送局にも取り上げられ、数日で100万回再生を突破した。あの動画は力作の自信があった。
状況は必ず好転する。そう思っていた。
ネットの反応は冷ややかなものが多かった。
中宮が色目を使って搾取させているだの、裏に犯罪組織がいて、あらゆる偽装に協力しているだの、言いたい放題だった。
『高校生が詐欺する時代か、世も末だな』と呆れのコメントもあった。
AIBotによる波状攻撃も確認されており、制限機能を使用しているが、効果は限定的だった。
これにより、動画の収益化が停止されてしまった。
大量の批判コメントばかりで、応援コメントが埋もれていた。誠心誠意、視聴者へ向き合っているが、目を覆いたくなるようなひどいコメントにはさすがに怒りを覚えた。
机に拳を振り下ろしても、気持ちは晴れない。自分が言われるのは構わないが、苦しんでる中宮への中傷には気持ちが抑えられなかった。
すると、横から手が伸びてきた。僕の携帯画面が暗転する。
伸びてきた手の方向から紅茶がそっと差し出された。
見上げると、会長が微笑んでいた。
「気持ちはわかるけど、あんまり根を詰めるのは毒だよ」
「……はい」
「そうすぐに状況は変わらないよ」
「……このまま、変わらないかもしれない」
痛む拳を握りしめる。
「今回の動きは、ミネルヴァもお墨付きをくれている。間違ってはいないはずさ」
「そうでしょうか……。僕はミネルヴァの選別から外れた人間です。要は、ミネルヴァから見捨てられた、才能のない人間なんですよ、僕は。どんなに努力しても、結果は見えていた……」
「君は戦う決断をした。それで十分さ。中宮さんの前では、君は支える側に回ってあげてほしい。君も傷ついているだろうが、彼女も同じか、それ以上に傷ついているかもしれないからね」
会長は悠然とした面持ちを崩さず、僕をなだめた。
紅茶の優しい香りがふわりと触れるみたいに漂ってくる。
「すみません……」
「構わないよ」
別の日。すっかり教室に居づらい日々が板についた。
もっぱら昼休憩は人気のない場所でサンドイッチやおにぎりを貪っていた。
学校の外にある農具などをしまっている倉庫は、農業部くらいしか来ない。学校からも少し離れているので、生徒が来ることもほとんどなかった。
畑の向こうの緑と枯れ葉を眺めながら喉を潤す。
中宮にはコメントを見ないでほしいとだけメッセージを残した。
こういう時、なんて言えばいいのかわからなかった。ミネルヴァに聞いたが、慰めになりそうな言葉は見つからなかった。
どうにかしたいのに、手からすり抜けていく。やり場のない悲しみを地面に落とすことしかできない。いつまで経っても、僕はあの頃のままだ。
「こんなところで何してんだよ」
洸大は小さな坂を上ってきていた。
「返信くらいしてくれよ。休憩時間なくなっちゃうだろ~」
そう言いながら手作りっぽいベンチの座面の砂などを払い、腰を下ろした。
洸大が座ると、木製の椅子が軋んだ音を立てた。僕は不安になりながら椅子の脚を確認するが、特にヒビが入ったなどはなさそうだった。
洸大はコンビニの袋からビーフジャーキーを出した。
「いるか?」
「……いや、いらない」
「そっか」
洸大は袋を開け、ビーフジャーキーをかじり出した。
「農業かぁ。お前んとこの叔父さんも農業やってたよな?」
「ああ」
「入んの?」
「なわけないだろ」
「似合ってんのに。もったいねえな」
遠くで生徒のはしゃぐ声が聞こえてくる。
「お前にも迷惑かけたな……」
「俺はお前に協力したことを後悔してない。これからも後悔することはないから安心しろ」
「……僕は後悔してばかりだ」
「そう言ってるうちに、時間だけが過ぎていくんだぞ」
洸大は微笑んだ。
「覚えてないか? お前が言ったんだぞ。図書館で勉強するテーブルが一緒になった時、俺が声かけたんだ。流れで進路の話になって、いつか俺が作ったゲームをたくさんの人に楽しんでもらいたい。そう言ったら、『だったら、今から作ればいいだろ』って平然と言ったんだ。まだ作れるほど勉強してないし、道具もそろえなきゃだし、まだ中学生だしって笑いすかしてたんだけど、なんか痛いところ突かれた気がしたんだ。俺はまだ未熟だからって、作ろうとしてなかった」
洸大はいつかの自分を見ているように遠い目をしている。
「結局、俺は怖かったんだよ。未熟だって言われんのが。歳とか、未熟だとか、関係ねえんだよ。あの時、ああしていればって引きずることもあるけど、俺はちゃんと目指したい場所へ歩けてるよ。お前のおかげでな」
洸大は立ち上がり、伸びをする。
「後悔してるってことは、ちゃんと進んでる証拠だろ。後悔してても進もうぜ、親友」
洸大は僕を置いて、学校へ引き返した。
僕と洸大が話すようになったきっかけは、洸大が話していた際乃市の図書館だった。
すごく昔のように感じる。
洸大の記憶では僕が言ったことになっているらしいが、僕には覚えがなかった。
さっきよりもほんのちょっと、心が軽くなった気がする。
僕にできることは限られている。
その通りだ。
だけど、やらない言い訳にしていないか?
僕は諦めてしまっていないか?
ちょっとしたことが誰かの力になるってことを軽んじていたのかもしれない。
僕は携帯を手にした。
チャットを開き、中宮のチャットルームをタップする。
僕はサイドメニューからミネルヴァのアドバイスアイコンをタップする。
僕は詳細を書き、相談する。いくつかの候補を書き、どれがいいか選んでもらった。
ミネルヴァから他にも候補をもらったが、ミネルヴァの反応もよかったのでそのままメッセージを送った。
ありふれた言葉でしかなかったが、僕は中宮に伝えた。
『どんなことがあっても、僕は中宮の味方だ』
あの謝罪動画は大きな放送局にも取り上げられ、数日で100万回再生を突破した。あの動画は力作の自信があった。
状況は必ず好転する。そう思っていた。
ネットの反応は冷ややかなものが多かった。
中宮が色目を使って搾取させているだの、裏に犯罪組織がいて、あらゆる偽装に協力しているだの、言いたい放題だった。
『高校生が詐欺する時代か、世も末だな』と呆れのコメントもあった。
AIBotによる波状攻撃も確認されており、制限機能を使用しているが、効果は限定的だった。
これにより、動画の収益化が停止されてしまった。
大量の批判コメントばかりで、応援コメントが埋もれていた。誠心誠意、視聴者へ向き合っているが、目を覆いたくなるようなひどいコメントにはさすがに怒りを覚えた。
机に拳を振り下ろしても、気持ちは晴れない。自分が言われるのは構わないが、苦しんでる中宮への中傷には気持ちが抑えられなかった。
すると、横から手が伸びてきた。僕の携帯画面が暗転する。
伸びてきた手の方向から紅茶がそっと差し出された。
見上げると、会長が微笑んでいた。
「気持ちはわかるけど、あんまり根を詰めるのは毒だよ」
「……はい」
「そうすぐに状況は変わらないよ」
「……このまま、変わらないかもしれない」
痛む拳を握りしめる。
「今回の動きは、ミネルヴァもお墨付きをくれている。間違ってはいないはずさ」
「そうでしょうか……。僕はミネルヴァの選別から外れた人間です。要は、ミネルヴァから見捨てられた、才能のない人間なんですよ、僕は。どんなに努力しても、結果は見えていた……」
「君は戦う決断をした。それで十分さ。中宮さんの前では、君は支える側に回ってあげてほしい。君も傷ついているだろうが、彼女も同じか、それ以上に傷ついているかもしれないからね」
会長は悠然とした面持ちを崩さず、僕をなだめた。
紅茶の優しい香りがふわりと触れるみたいに漂ってくる。
「すみません……」
「構わないよ」
別の日。すっかり教室に居づらい日々が板についた。
もっぱら昼休憩は人気のない場所でサンドイッチやおにぎりを貪っていた。
学校の外にある農具などをしまっている倉庫は、農業部くらいしか来ない。学校からも少し離れているので、生徒が来ることもほとんどなかった。
畑の向こうの緑と枯れ葉を眺めながら喉を潤す。
中宮にはコメントを見ないでほしいとだけメッセージを残した。
こういう時、なんて言えばいいのかわからなかった。ミネルヴァに聞いたが、慰めになりそうな言葉は見つからなかった。
どうにかしたいのに、手からすり抜けていく。やり場のない悲しみを地面に落とすことしかできない。いつまで経っても、僕はあの頃のままだ。
「こんなところで何してんだよ」
洸大は小さな坂を上ってきていた。
「返信くらいしてくれよ。休憩時間なくなっちゃうだろ~」
そう言いながら手作りっぽいベンチの座面の砂などを払い、腰を下ろした。
洸大が座ると、木製の椅子が軋んだ音を立てた。僕は不安になりながら椅子の脚を確認するが、特にヒビが入ったなどはなさそうだった。
洸大はコンビニの袋からビーフジャーキーを出した。
「いるか?」
「……いや、いらない」
「そっか」
洸大は袋を開け、ビーフジャーキーをかじり出した。
「農業かぁ。お前んとこの叔父さんも農業やってたよな?」
「ああ」
「入んの?」
「なわけないだろ」
「似合ってんのに。もったいねえな」
遠くで生徒のはしゃぐ声が聞こえてくる。
「お前にも迷惑かけたな……」
「俺はお前に協力したことを後悔してない。これからも後悔することはないから安心しろ」
「……僕は後悔してばかりだ」
「そう言ってるうちに、時間だけが過ぎていくんだぞ」
洸大は微笑んだ。
「覚えてないか? お前が言ったんだぞ。図書館で勉強するテーブルが一緒になった時、俺が声かけたんだ。流れで進路の話になって、いつか俺が作ったゲームをたくさんの人に楽しんでもらいたい。そう言ったら、『だったら、今から作ればいいだろ』って平然と言ったんだ。まだ作れるほど勉強してないし、道具もそろえなきゃだし、まだ中学生だしって笑いすかしてたんだけど、なんか痛いところ突かれた気がしたんだ。俺はまだ未熟だからって、作ろうとしてなかった」
洸大はいつかの自分を見ているように遠い目をしている。
「結局、俺は怖かったんだよ。未熟だって言われんのが。歳とか、未熟だとか、関係ねえんだよ。あの時、ああしていればって引きずることもあるけど、俺はちゃんと目指したい場所へ歩けてるよ。お前のおかげでな」
洸大は立ち上がり、伸びをする。
「後悔してるってことは、ちゃんと進んでる証拠だろ。後悔してても進もうぜ、親友」
洸大は僕を置いて、学校へ引き返した。
僕と洸大が話すようになったきっかけは、洸大が話していた際乃市の図書館だった。
すごく昔のように感じる。
洸大の記憶では僕が言ったことになっているらしいが、僕には覚えがなかった。
さっきよりもほんのちょっと、心が軽くなった気がする。
僕にできることは限られている。
その通りだ。
だけど、やらない言い訳にしていないか?
僕は諦めてしまっていないか?
ちょっとしたことが誰かの力になるってことを軽んじていたのかもしれない。
僕は携帯を手にした。
チャットを開き、中宮のチャットルームをタップする。
僕はサイドメニューからミネルヴァのアドバイスアイコンをタップする。
僕は詳細を書き、相談する。いくつかの候補を書き、どれがいいか選んでもらった。
ミネルヴァから他にも候補をもらったが、ミネルヴァの反応もよかったのでそのままメッセージを送った。
ありふれた言葉でしかなかったが、僕は中宮に伝えた。
『どんなことがあっても、僕は中宮の味方だ』
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