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夜の帷が上がり始め、うっすらと鮮やかな青が空を彩る頃、いたく賑やかな旋律がハクの意識を揺らしました。寒さに身震いし、まだ眠気の残る目を開けました。枝にぶら下がる緑の葉が小刻みに揺れ動いていました。シャラシャラと音を鳴らし、陽気な歌を盛り上げているようです。そう感じてようやく気づきました。
揺れていたのは葉だけではありません。枝が小さくしなり、上下に揺れていたのです。細い枝の上でも軽やかにステップを踏み、枝から枝へひとっ飛びする雀もいました。雀たちは枝という枝で踊っていたのです。全身を使い、踊り鳴らす雀たちの楽しげな活気に誘われて木も踊っているみたいでした。
ハクが踊る雀たちに近づくと、「ハクも踊れ踊れ!」「楽しいぞ~!」「お前も来いよ」と体を揺らして誘ってきます。楽しそうに踊るみんなの間を縫って枝を伝うも、他の雀とぶつかりそうになり、慌てて飛び立ちました。どうにか近くの枝に降り立ち、ほっと胸を撫でおろしました。
「お、ハク、起きたか?」
下から飛んできたイザラメはハクのいた枝に着地すると、踊りながら近づいてきました。
「昨日はよく眠れたか?」
「う、うん」
「そか。んじゃ、お前もおどりゃんせ」
ハクは周りの雀たちを一瞥し、困った様子で小さな声で言いました。
「僕、踊ったことないし」
「そんなの関係ねえよ。適当に真似すりゃいいのさ。こういう風に」
イザラメはくるっと回転して見せると、みんなの高らかに歌う音に合わせて上下に体を揺らします。雀たちの声は重なり合い、ずんっと全身に響いてくるような感覚がありました。踏み鳴らし、踊り鳴らし。それに合わせて葉も枝も揺れて。すべての音がハクの体の中に入ってくるようで、不思議と楽しくなっていく気がしました。
少しだけ自分もやってみようかと周りの雀たちの動きを真似て、羽を広げて体を揺らしてみました。他の雀たちと比べると、なんともぎこちなく、恥ずかしそうにしているのが伝わるものでした。それでもイザラメは、
「そうそう!! やらぁできんじゃん」と笑ってくれました。
澄み渡る空気に朝日がふわりと注がれ、角ばった建物が整列する並木通りに華やいでいます。はつらつとした清らかな声は、雀たちのいる一本の樹木のそばにいた鳥や虫、猫がそばだててしまうほど。その日だけは、平凡な一本の樹木がお祭りやぐらに飾りたてられていました。
規則的に並べられた構造物が一帯となって、どこまでも続く道。人通りが増えてきた頃を見計らい、雀たちは各班に分かれて出かけました。
昨晩の祝宴で予想以上に食料を消費し、今日の分の食事を取りに行かなくてはならなくなったのです。
まだ自分で餌を取りに行くことができない小さな子供がいる親には、優先的にわずかに残っていた食料が分けられましたが、育ち盛りの子供のお腹を満たすほどではありません。
ハクとイザラメも、食料の確保に向かいました。雑踏と車列が交差する上を飛び回り、探索していきます。袋に入ったごみを漁るカラスを横目に、せかせかと土を掘ります。自転車や人にも気をつけながら、イザラメたちは線虫やミミズを獲っていきます。ハクも彼らにならって土を掘ることに努めました。すると、土とは違う感触がくちばしに当たりました。
初めて自分で餌を獲れたことが嬉しくて、誰かに言いたくなりました。そばで草木を調べていたイザラメに声をかけようとした時でした。鋭い鳴き声が響きました。胸の奥がしぼむような感覚に襲われ、とたんに声を出せなくなりました。
ぱっと視線を向けました。行き交う人の足音、車の走行音、人の話し声。煩雑な音がばっこしていく中で、黒い体をしたカラスの瞳がハクを射抜いていました。
ハクはその獰猛な瞳から目を離せなくなりました。くちばしが小刻みに動くも、声はありません。体も震えますが、だんだん熱が奪われていきます。ハクは身も心も恐怖に染まってしまいました。
今すぐ逃げたい。でも体が言うことを聞いてくれません。イザラメがハクに気づき、声をかけました。ハクはイザラメの声に反応しません。一点を見つめ、表情をこわばらせていました。
「ハク、ハク! おい、ハク!!」
何度か体を小突かれて、ようやくハクの目がイザラメに向きました。
「大丈夫かよ」
「う、うん。大丈夫……」
イザラメは安堵したように微笑みました。積まれたごみ袋にたかっていたカラスに目を向けると、カラスはごみ袋の中身を漁っていました。ハクは胸を撫でおろしました。ですが、まだ呼吸は荒く、心が落ち着くまで時間がかかりそうでした。
「はっ! 情けねぇ! たかがカラスにビビりやがって」
一羽の雀に近寄る雀は、いかにも勇ましく堂々とした体つきをしていました。
「そんなんでこの先、生きていくつもりかよ」
「ケンゴロウ。こいつはまだ生まれてからずっといた群れと離ればなれになったばかりなんだ。怖い思いをしたんだよ」
イザラメがワケを話しますが、ケンゴロウは厳しい態度を崩しませんでした。
「怖い思いなら誰もがしてるさ。自分で飛べる歳にもなって、怯えて餌取りもまともにできねぇヤツがいると目障りなんだよ!」
ケンゴロウは野菜の葉をくわえると、飛んでいきました。
「気にすんな。あいつも基本はいいヤツだから」
イザラメは落ち込んでいるハクを慰め、食料の確保を続けました。
その後、ハクは居心地の悪さを感じていました。すれ違うたび羽で小突かれ、他の雀たちに自分の悪口を言っていました。何かにつけて様々な嫌がらせを受けるようになり、ハクは他の雀の目を盗んで一羽になれるところへ向かうことが多くなりました。
ハクが気を落ちつけられるのは、茂みの中だけでした。このままずっと、居心地の悪い日々が続くのだろうかと悩んでいました。いっそのこと、群れから逃げ出そうかとも考えるようになりました。
揺れていたのは葉だけではありません。枝が小さくしなり、上下に揺れていたのです。細い枝の上でも軽やかにステップを踏み、枝から枝へひとっ飛びする雀もいました。雀たちは枝という枝で踊っていたのです。全身を使い、踊り鳴らす雀たちの楽しげな活気に誘われて木も踊っているみたいでした。
ハクが踊る雀たちに近づくと、「ハクも踊れ踊れ!」「楽しいぞ~!」「お前も来いよ」と体を揺らして誘ってきます。楽しそうに踊るみんなの間を縫って枝を伝うも、他の雀とぶつかりそうになり、慌てて飛び立ちました。どうにか近くの枝に降り立ち、ほっと胸を撫でおろしました。
「お、ハク、起きたか?」
下から飛んできたイザラメはハクのいた枝に着地すると、踊りながら近づいてきました。
「昨日はよく眠れたか?」
「う、うん」
「そか。んじゃ、お前もおどりゃんせ」
ハクは周りの雀たちを一瞥し、困った様子で小さな声で言いました。
「僕、踊ったことないし」
「そんなの関係ねえよ。適当に真似すりゃいいのさ。こういう風に」
イザラメはくるっと回転して見せると、みんなの高らかに歌う音に合わせて上下に体を揺らします。雀たちの声は重なり合い、ずんっと全身に響いてくるような感覚がありました。踏み鳴らし、踊り鳴らし。それに合わせて葉も枝も揺れて。すべての音がハクの体の中に入ってくるようで、不思議と楽しくなっていく気がしました。
少しだけ自分もやってみようかと周りの雀たちの動きを真似て、羽を広げて体を揺らしてみました。他の雀たちと比べると、なんともぎこちなく、恥ずかしそうにしているのが伝わるものでした。それでもイザラメは、
「そうそう!! やらぁできんじゃん」と笑ってくれました。
澄み渡る空気に朝日がふわりと注がれ、角ばった建物が整列する並木通りに華やいでいます。はつらつとした清らかな声は、雀たちのいる一本の樹木のそばにいた鳥や虫、猫がそばだててしまうほど。その日だけは、平凡な一本の樹木がお祭りやぐらに飾りたてられていました。
規則的に並べられた構造物が一帯となって、どこまでも続く道。人通りが増えてきた頃を見計らい、雀たちは各班に分かれて出かけました。
昨晩の祝宴で予想以上に食料を消費し、今日の分の食事を取りに行かなくてはならなくなったのです。
まだ自分で餌を取りに行くことができない小さな子供がいる親には、優先的にわずかに残っていた食料が分けられましたが、育ち盛りの子供のお腹を満たすほどではありません。
ハクとイザラメも、食料の確保に向かいました。雑踏と車列が交差する上を飛び回り、探索していきます。袋に入ったごみを漁るカラスを横目に、せかせかと土を掘ります。自転車や人にも気をつけながら、イザラメたちは線虫やミミズを獲っていきます。ハクも彼らにならって土を掘ることに努めました。すると、土とは違う感触がくちばしに当たりました。
初めて自分で餌を獲れたことが嬉しくて、誰かに言いたくなりました。そばで草木を調べていたイザラメに声をかけようとした時でした。鋭い鳴き声が響きました。胸の奥がしぼむような感覚に襲われ、とたんに声を出せなくなりました。
ぱっと視線を向けました。行き交う人の足音、車の走行音、人の話し声。煩雑な音がばっこしていく中で、黒い体をしたカラスの瞳がハクを射抜いていました。
ハクはその獰猛な瞳から目を離せなくなりました。くちばしが小刻みに動くも、声はありません。体も震えますが、だんだん熱が奪われていきます。ハクは身も心も恐怖に染まってしまいました。
今すぐ逃げたい。でも体が言うことを聞いてくれません。イザラメがハクに気づき、声をかけました。ハクはイザラメの声に反応しません。一点を見つめ、表情をこわばらせていました。
「ハク、ハク! おい、ハク!!」
何度か体を小突かれて、ようやくハクの目がイザラメに向きました。
「大丈夫かよ」
「う、うん。大丈夫……」
イザラメは安堵したように微笑みました。積まれたごみ袋にたかっていたカラスに目を向けると、カラスはごみ袋の中身を漁っていました。ハクは胸を撫でおろしました。ですが、まだ呼吸は荒く、心が落ち着くまで時間がかかりそうでした。
「はっ! 情けねぇ! たかがカラスにビビりやがって」
一羽の雀に近寄る雀は、いかにも勇ましく堂々とした体つきをしていました。
「そんなんでこの先、生きていくつもりかよ」
「ケンゴロウ。こいつはまだ生まれてからずっといた群れと離ればなれになったばかりなんだ。怖い思いをしたんだよ」
イザラメがワケを話しますが、ケンゴロウは厳しい態度を崩しませんでした。
「怖い思いなら誰もがしてるさ。自分で飛べる歳にもなって、怯えて餌取りもまともにできねぇヤツがいると目障りなんだよ!」
ケンゴロウは野菜の葉をくわえると、飛んでいきました。
「気にすんな。あいつも基本はいいヤツだから」
イザラメは落ち込んでいるハクを慰め、食料の確保を続けました。
その後、ハクは居心地の悪さを感じていました。すれ違うたび羽で小突かれ、他の雀たちに自分の悪口を言っていました。何かにつけて様々な嫌がらせを受けるようになり、ハクは他の雀の目を盗んで一羽になれるところへ向かうことが多くなりました。
ハクが気を落ちつけられるのは、茂みの中だけでした。このままずっと、居心地の悪い日々が続くのだろうかと悩んでいました。いっそのこと、群れから逃げ出そうかとも考えるようになりました。
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