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ひとまず、ハクはトウガキのまとめる群れにお世話になることになりました。食事を終え、日光浴を楽しんだのち、群れの若い衆は出かけていきました。
最近移動してきた雀たちの活動は周囲の地形や建物、草木の位置を確認することから始まりました。いくつかの班に分かれて探索するというので、ハクもついていくことにしました。
イザラメの計らいで同じ班になったこともあり、イザラメはたびたびハクを気にかけてくれました。ハクは大人たちの後ろをついていくだけでしたが、両親がいた群れも同じことをしていたと、おぼろげに憶えていました。食事にありつける場所や水浴び、子育てに適した隠れ家や拠点を移す際の野営地を探しているんだと、父親に教えられたことがありました。そんなぬくもりを感じる記憶が甦り、寂しさがこみ上げてくるのでした。
探索中には、他の雀の群れとも出くわしました。もしやと期待しましたが、ほんの少しの間のことでした。どうやら出会った雀の群れは、この辺りに住んでだいぶ長いようでした。挨拶を済ませた大人雀たちは、流れるように大人同士の話を始めました。
出会った群れの雀たちは少数のようでした。最近、群れを離れて旅立った雀たちがいたそうです。のんびりとした口調の雀はちょっと寂しいねと言いつつ、笑っていました。それならと、イザラメの所属する群れの大人雀は、自分たちの群れと合流しないかと提案しました。そりゃ助かる! と、のんびりした雰囲気の雀は喜びました。
話がまとまったところで、イザラメがハクの両親がいる群れのことを聞いてくれました。シュウロと名乗った小さな群れの長を務める雀は、首を振って知らないねぇ~と、どこか察した様子で答えました。
ひと仕事終え、新しい家となる大きな樹木にやってきました。探索に行かなかった雀たちは、ねぐらを作っていたようです。心地よいねぐらとまではいきませんが、寝られるだけマシだろうと、みな気にする素振りはありません。
大きな深い緑の葉が雨風をやわらげ、小枝を使って太い枝の間に架ければ、立派な足場ができます。子供雀たちはいくつもの足場が木々の間を繋がれているところを遠目に眺めたり、たいそう声を上げて駆け回ったりしていました。
大人たちにとって見慣れた風景ではありますが、子供たちがはしゃいでいるのを見るたび、今日も一日乗り越えたと顔をほっこりさせて、暮れなずむ空色の時間に安息するのでした。
合流することになったシュウロたちが引っ越しのついでに食料を持ってきてくれました。今日もたくさんの食事にありつけるとみんな喜び、早速宴会が開かれました。
今日は仲間が多く増えたこともあり、一段と賑わっていました。ハクは賑わいの輪から少し離れ、一羽ソボソボとつまんでいました。ハクのいた群れも、食事の席はよく賑わっていました。しかし、家族同然の仲間がいる場と見知らぬ者の多い場とでは、まったく違って感じたのです。
「お、ぼっちはっけ~ん!」
賑わう光景をぼんやり眺めていたハクを見つけ、さもいつものこと、という具合にやってきたのはイザラメでした。隣に腰を落とすや否や、イザラメはハクの葉皿を覗き込んできました。
「お前チャ種好きなんか。変わってんなー。どれどれ」
そう言うと、なんの断りもなくハクの葉皿にある小さな種を数粒口にしました。咀嚼してすぐ、「うん。マジィな」と仏頂面になって言いました。
ハクは少し腹が立ちました。
「勝手に食うなよ」
イザラメは悪びれることなく、軽く笑い飛ばしました。
「そんなカッカするなよ。ほれ、俺の黄毛花をあげよう。感謝致せ!」
イザラメはくちばしで小さな花びらを掴み、ハクの葉皿に荒っぽく移してきました。鮮やかな黄色い花。時々、道端や河川敷などの緑の地面で咲いているのを見かける花でした。時が過ぎると綿玉になって、風に飛ばされ、茎から離れていくのを見たことがありました。ふわふわと浮かぶ一本の綿傘を追いかけて遊ぶ子供雀のオモチャにもなります。
黄毛花を食べられるとは聞いたことがありませんでした。ハクは疑わしげな目線を送るも、イザラメはなんのその。マイペースに食べていました。困惑しつつ、ハクはおずおずと黄毛花を口に入れてみました。ごくんと飲み込み、口に広がるなんとも言えない苦みに顔をしかめました。
「にが……」
「はぁ~」
イザラメはやれやれと言いたげに首を振りました。
「このよさがわからぬとは……。ハク、いいか? 苦みの奥を味わうのだよ。口にした後の苦みはくせ者め! て思うかもしれん! けどな、何度か食べていくうちに、おやおやこれはこれは。なんかもう一度食べたいな。やっぱ苦い、でもなんだろう。あら不思議、また欲しくなっちゃうなつッて病みつきなるんだよ」
「へぇー」
ハクにはよくわかりませんでした。
「まあしょうがねえかぁ。お子様のお口には合わないもんな~」
イザラメが不敵な笑みで投げかけると、ハクは不満そうに表情をむっとさせました。
「イザラメだってまだお子様じゃん」
「いやいや、歳的には子供かもしれん。しかーし! 精神的な感覚はもう大人っていうわけよ」
「そう言ってるヤツって子供っぽく見えるんだよなぁ」
「なにおー!」
「うわッ。口に食べ物入れたまましゃべるなよ。こっちに飛ぶだろ~」
「へへ、秘儀! 食べカスの乱れ打ちじゃあい!!」
「もうやめろって。汚い。怒られても知らないからな!」
そう言いながらも、ハクの表情には笑みが見えていました。
一方、傍からその様子を見ていた一羽の雀がいました。鋭く睨みつけるような瞳でじっとハクを見つめる子供の雀は、複数の生ミミズをほおばりながら嫌気を放つのでした。
最近移動してきた雀たちの活動は周囲の地形や建物、草木の位置を確認することから始まりました。いくつかの班に分かれて探索するというので、ハクもついていくことにしました。
イザラメの計らいで同じ班になったこともあり、イザラメはたびたびハクを気にかけてくれました。ハクは大人たちの後ろをついていくだけでしたが、両親がいた群れも同じことをしていたと、おぼろげに憶えていました。食事にありつける場所や水浴び、子育てに適した隠れ家や拠点を移す際の野営地を探しているんだと、父親に教えられたことがありました。そんなぬくもりを感じる記憶が甦り、寂しさがこみ上げてくるのでした。
探索中には、他の雀の群れとも出くわしました。もしやと期待しましたが、ほんの少しの間のことでした。どうやら出会った雀の群れは、この辺りに住んでだいぶ長いようでした。挨拶を済ませた大人雀たちは、流れるように大人同士の話を始めました。
出会った群れの雀たちは少数のようでした。最近、群れを離れて旅立った雀たちがいたそうです。のんびりとした口調の雀はちょっと寂しいねと言いつつ、笑っていました。それならと、イザラメの所属する群れの大人雀は、自分たちの群れと合流しないかと提案しました。そりゃ助かる! と、のんびりした雰囲気の雀は喜びました。
話がまとまったところで、イザラメがハクの両親がいる群れのことを聞いてくれました。シュウロと名乗った小さな群れの長を務める雀は、首を振って知らないねぇ~と、どこか察した様子で答えました。
ひと仕事終え、新しい家となる大きな樹木にやってきました。探索に行かなかった雀たちは、ねぐらを作っていたようです。心地よいねぐらとまではいきませんが、寝られるだけマシだろうと、みな気にする素振りはありません。
大きな深い緑の葉が雨風をやわらげ、小枝を使って太い枝の間に架ければ、立派な足場ができます。子供雀たちはいくつもの足場が木々の間を繋がれているところを遠目に眺めたり、たいそう声を上げて駆け回ったりしていました。
大人たちにとって見慣れた風景ではありますが、子供たちがはしゃいでいるのを見るたび、今日も一日乗り越えたと顔をほっこりさせて、暮れなずむ空色の時間に安息するのでした。
合流することになったシュウロたちが引っ越しのついでに食料を持ってきてくれました。今日もたくさんの食事にありつけるとみんな喜び、早速宴会が開かれました。
今日は仲間が多く増えたこともあり、一段と賑わっていました。ハクは賑わいの輪から少し離れ、一羽ソボソボとつまんでいました。ハクのいた群れも、食事の席はよく賑わっていました。しかし、家族同然の仲間がいる場と見知らぬ者の多い場とでは、まったく違って感じたのです。
「お、ぼっちはっけ~ん!」
賑わう光景をぼんやり眺めていたハクを見つけ、さもいつものこと、という具合にやってきたのはイザラメでした。隣に腰を落とすや否や、イザラメはハクの葉皿を覗き込んできました。
「お前チャ種好きなんか。変わってんなー。どれどれ」
そう言うと、なんの断りもなくハクの葉皿にある小さな種を数粒口にしました。咀嚼してすぐ、「うん。マジィな」と仏頂面になって言いました。
ハクは少し腹が立ちました。
「勝手に食うなよ」
イザラメは悪びれることなく、軽く笑い飛ばしました。
「そんなカッカするなよ。ほれ、俺の黄毛花をあげよう。感謝致せ!」
イザラメはくちばしで小さな花びらを掴み、ハクの葉皿に荒っぽく移してきました。鮮やかな黄色い花。時々、道端や河川敷などの緑の地面で咲いているのを見かける花でした。時が過ぎると綿玉になって、風に飛ばされ、茎から離れていくのを見たことがありました。ふわふわと浮かぶ一本の綿傘を追いかけて遊ぶ子供雀のオモチャにもなります。
黄毛花を食べられるとは聞いたことがありませんでした。ハクは疑わしげな目線を送るも、イザラメはなんのその。マイペースに食べていました。困惑しつつ、ハクはおずおずと黄毛花を口に入れてみました。ごくんと飲み込み、口に広がるなんとも言えない苦みに顔をしかめました。
「にが……」
「はぁ~」
イザラメはやれやれと言いたげに首を振りました。
「このよさがわからぬとは……。ハク、いいか? 苦みの奥を味わうのだよ。口にした後の苦みはくせ者め! て思うかもしれん! けどな、何度か食べていくうちに、おやおやこれはこれは。なんかもう一度食べたいな。やっぱ苦い、でもなんだろう。あら不思議、また欲しくなっちゃうなつッて病みつきなるんだよ」
「へぇー」
ハクにはよくわかりませんでした。
「まあしょうがねえかぁ。お子様のお口には合わないもんな~」
イザラメが不敵な笑みで投げかけると、ハクは不満そうに表情をむっとさせました。
「イザラメだってまだお子様じゃん」
「いやいや、歳的には子供かもしれん。しかーし! 精神的な感覚はもう大人っていうわけよ」
「そう言ってるヤツって子供っぽく見えるんだよなぁ」
「なにおー!」
「うわッ。口に食べ物入れたまましゃべるなよ。こっちに飛ぶだろ~」
「へへ、秘儀! 食べカスの乱れ打ちじゃあい!!」
「もうやめろって。汚い。怒られても知らないからな!」
そう言いながらも、ハクの表情には笑みが見えていました。
一方、傍からその様子を見ていた一羽の雀がいました。鋭く睨みつけるような瞳でじっとハクを見つめる子供の雀は、複数の生ミミズをほおばりながら嫌気を放つのでした。
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