踊り雀

國灯闇一

文字の大きさ
7 / 11

♦ 7

しおりを挟む
 ケンゴロウと別れた位置を把握した雀たちは志願者を集い、捜索に出ることになりました。
 ハクは震えながらも志願者として名乗り出ました。ハクはイザラメと一緒の班になりました。イザラメは「大丈夫」と微笑み、羽で小突きました。たった一言、信頼できる友達にそう声をかけてもらえただけで、不思議と怖さはやわらいでいきました。
 集まった志願者はお互いに段取りを確認し、それぞれ任された範囲に向かいました。

 ケンゴロウは他の二羽の雀と食料を取りに出かけていました。畑を見つけ、そこで食料を確保している時でした。
 ケンゴロウの叫び声が聞こえ、同行していた雀が見ると、鷹の群れに襲われていました。かなり遠くで襲われていることに、同行者である雀たちは驚きました。単独行動はしないという決まりを破っていたのです。同行していた雀たちも、ケンゴロウが離れて行動していたことに気づけなかったと漏らし、何度も謝っていました。
 ケンゴロウはパニックになっていたらしく、どんどん畑から遠ざかってしまい、追いつけなかったそうなのです。それでも追いすがり、姿を晒して鷹を引き寄せましたが、一羽の鷹にあしらわれ、やむなく巣に帰る決断をしたのです。
 数羽の鷹に襲われる。それを想像しただけで、ハクは身震いしました。ケンゴロウを捜すのが目的ではありましたが、自然と鷹がいないか警戒していました。
 ケンゴロウが逃げた方角をしらみつぶしに捜していく雀たち。木々の葉の中や草むら。ごみ袋が積まれるところや車の下。公園の遊具の中も隅々まで捜しましたが、見つけられません。時間だけが刻々と過ぎていきました。

 捜索班は一度集まりました。どこを捜したか確認し合い、これからの捜索について話し合っているようでした。その輪の外側で休みながら話し合いを見守るハクは、心苦しい思いに駆られていました。
 ケンゴロウはきっと不安でいっぱいになっているに違いないと。経験したからこそわかる、あの時の絶え間なく積もりゆく不安は、このまま野垂れ、死んでいくのだろうかとさえ考えてしまいそうになるのです。
 地に水玉模様が描かれ始めると、そこら中でハタハタと音が鳴り出しました。すると、話し合いの輪が解け、待機していた雀たちに向かってくる今回の捜索隊のリーダーである大人雀が口火を切りました。
「みんなご苦労。ケンゴロウの捜索だが、あと一時間。これで見つからなければ、救助を断念する」

 冷たい静寂が空気を駆けめぐっていきました。
「先ほどと同じく、連絡地はここ、白い小さな屋根の上。二羽の雀を常駐させる。一時間たっても戻ってこない場合は置いていく。そのつもりで。では、幸運を!」
 竹を割ったような勇ましい声が締めると、雀たちはそれぞれ班のリーダーの下に向かいました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

仔猫の想い

みちのあかり
児童書・童話
仔猫は自分を拾ってくれた男の子が好きだった。 男の子も仔猫が好きだった。 小学生の時代は男の子も猫も幸せだった。 男の子は中学生になってからいじめられるようになった。 そんな姿を見て仔猫は、男の子と話がしたい、慰めたいと願った。 いつの間にか、仔猫は男の子に恋をしてしまったのだ。 仔猫が、男の子と話ができるように、願いをかなえるために、 山の奥の魔法使いに会いに行った。 はたして、仔猫の願いはかなうのでしょうか。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

青色のマグカップ

紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。 彼はある思い出のマグカップを探していると話すが…… 薄れていく“思い出”という宝物のお話。

夏空、到来

楠木夢路
児童書・童話
大人も読める童話です。 なっちゃんは公園からの帰り道で、小さなビンを拾います。白い液体の入った小ビン。落とし主は何と雷様だったのです。

処理中です...