義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います

成行任世

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「なんでそんなことになったんですか!?」

シェリルの入浴を手伝いながら、ルカは思わず叫んだ。

「王太子との婚約解消に辺境送りなんて…お嬢様が何をしたって言うんです!?」

「別にいいんじゃないかしら?私とレオンハルト様との間に愛情はなかったし、私も王太子妃になりたかったわけでもないし」

「そんなこと言うのお嬢様くらいですよ…」

湯番が否定も肯定もせず苦笑する。ほぼ決定しているシェリルの辺境行きを悲観しているのは当人よりも専属侍女のルカだった。

「シンシア様もよく姉の恋人に手出しますよね。同じ女として恐ろしいです」

「恋人ではなく婚約者だもの。彼とは最低限の会話しかしていないし私にシンシアのような愛嬌を求められても困るわ」

「そうかもしれませんが…。なんかお嬢様だけ除け者にされたみたいで嫌なんですよ!」

「あまり言うと不敬よ、ルカ」

「ここにあのバカ殿下はいないからいいんですよ」

相当思うところがあるのだろう。普段ならば「お嬢様の玉艶肌素敵!」とキャッキャしているというのに、今日は口を開けば愚痴ばかりである。

「実際お嬢様はどうなんですか?本当に何も思ってないんです?」

「レオンハルト様と共に公務をこなせるとは思っていなかったから、正直ほっとしてるわね」

「あー…」

思い当たる節々にルカは言葉を濁す。
レオンハルトとシェリルは婚約者として度々夜会やガーデンパーティにも参加していた。毎度レオンハルトがエスコートするのだが、ふたりとも無表情で会話もなく、ファーストダンスが終わればレオンハルトはすぐに他の令嬢とのダンスに興じた。シェリルもまた、挨拶を終えて数人とダンスを踊り早々に会場を去ってしまう。
決して仲が良いとは言えないふたりに、社交界ではレオンハルトの愛人が複数人になるだろう、などという不名誉な憶測が飛び交っていた。

「それで、次のアストリア辺境伯令息様はどんな方なんですか?お嬢様は会ったことあるんですか?」

「幼い頃にね。貴族然としてなくてよく食べる方という印象だわ」

「イケメンですか?」

ルカがずいっと顔を近づける。どこか悪戯な笑みにシェリルは目を細めた。

「子供の頃のことだしあまり考えたことないけれど、それを知ってどうするの?」

「どうもしませんけど、お嬢様の旦那様になるならやっぱり隣に並んで引けを取らない男じゃないと。ちなみにレオンハルト様も悪くはないですけど、私はテオドール様派です」

「あら。ルカはワイルド系より正統派王子系なのね」

思わず、とばかりに湯番が口を挟む。えへへ、と照れたように笑ったルカはうっとりとした表情で目を閉じる。その瞼裏にはテオドールの柔らかな微笑みが、しっかりと焼き付いていた。

「あんな美形に微笑まれて堕ちない女はいませんよ」

「あれが美形…」

シェリルは顎に指を添えて目を閉じた。
王太子妃教育で何度か王城を訪ねた時や、彼の婚約者リーリエとの茶会でしか言葉を交わしたことはないが、腹黒さを隠しもしない画面のような笑顔の美青年だ。確かにレオンハルトよりも線が細く、王族としての品もあるが…

「ここにいましたね」

「そうでした」

自分の主こそ、イケメンに興味のない数少ない令嬢である。とルカは改めて思った。己が美しすぎるが故にか、シェリルは美醜へのこだわりを抱かない。そんな変わり者だからそこ仕えていて楽しく飽きないのだが。

(そういえば、お嬢様が外見で物を言ったことは一度もないのよね)

美しい人にも、そうとは言えない人にも、その外見について触れて何かを言ったことは一度もない。毎日「今日の私可愛いですか?」と尋ねてくるシンシアとは真逆である。

(聖属性の判定を受けてからは特に見た目を気にして、世界にひとつしかない金色の瞳をアピールするかのように瞬きの回数も増えたのよね)

恐らくそれに気づいたのはルカくらいだが、あれだけ瞬きされればその特徴的な金色の瞳にも目が向くと言うもの。彼女なりの魔力ありアピールなのだろうとルカは思う。
どうか自分の主が行く先が険しいものとなりませんように。ルカは祈ることしかできなかった。





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