セキワンローキュー!

りっと

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第一Q 隻腕の単細胞

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 学校を出た二人が駅までの道を歩いていると、見覚えのある男に行く手を遮られた。

「よお鳴海。てめえ、沢高に入ったんだな?」

「……千原ちはらか。めんどくせえな」

 ガムを噛みながら近づいてくる男は千原といって、雪之丞たちと同様に地元では名の通った不良である。中学生の頃に千原から売られた喧嘩を買って勝利して以降、雪之丞は彼によく絡まれているのだった。

「てめえのアホな頭で、よく沢高に入れたなもんだぜ」

「なんだ、千原に褒めてもらえるなんて光栄だな」

「……ち、ちげえよ! 別に褒めてなんかいねえよ!」

 金色に染めた髪の色に、恵まれた体格と喧嘩の腕を持つ千原は皆に怖がられ敬遠される傾向にあるのだが、口を開けば中身はとても幼稚……もとい、馬鹿な男だった。

「……お前のツンデレとか、誰得だよ」

 げんなりしながら口にすると正彰が声を出して笑ったが、雪之丞には正彰を楽しませる義理も、ここで千原の相手をする義務もない。

「千原。取り巻きが減っているって噂聞いたけど、どうやら本当みてえだな? 俺に絡むのが趣味になっているような気持ち悪い男だから当然だろうけど」

「うるせえ! 女みてえにペチャクチャ喋ってねえで、かかってこいや! 高校入っていい子振ってるタマでもねえんだろ!?」

「……お前みたいなのがいるから、俺の悪印象が拭えねえんだよなぁ」

 雪之丞は大きく溜息を吐き、地面に鞄を置いた。

「ジョー、さっき言ったこと早速忘れてるだろ?」

「覚えてるっての。でも今は千原を黙らせるのが先だ」

 正彰の忠告を無視し、雪之丞は千原を睨みつけながら彼の真正面に立った。千原は口の中のガムを吐き捨てると同時に、勢いよく雪之丞の頬に右の拳を叩き込んできた。腕っ節が強いことで知られる千原の拳はとても重く、雪之丞はその場に倒れるのをかろうじて堪えた。

「……さて。一発殴られたからな。反撃させてもらうぞ」

 雪之丞には、喧嘩において自分からは手を出さないという信念がある。

 そのため、今までの喧嘩においても必ず自分がやられてからやり返すという姿勢を貫き通していた。そんな信念がまかり通るのも、雪之丞がその辺のチンピラと比べてもずば抜けて強かったからである。

 石のように固い頭突きと右手の拳で幾度となく相手の口から謝罪の言葉を引き出してきたし、両足から多彩に繰り広げられる蹴りは誰が相手でも地面に尻をつかせる雪之丞の得意技だ。

 何度攻撃を受けてもやり返せる無蔵のスタミナもある雪之丞は、一対一の喧嘩なら負け知らずだった。見る者が顔を顰める殴り合いが続き、二人ともすっかり顔が腫れた頃、雪之丞は何かに躓いて派手に転んだ。

「ぎゃははははは! おい鳴海! なんだその間抜けな転び方は!」

「うるせー! 俺は……」

 転んだ雪之丞に指を差して大笑いしている千原の横顔にも、何かが飛んできて激突した。痛みでひどく歪んだ千原の顔に、雪之丞もまた声をあげて笑った。

「うはははは! おいおい千原、そんなセンスのあるギャグ顔できるなら、もっと早く披露してくれよな~!」

 千原の無様な姿を馬鹿にしながら足元を見てみると、雪之丞を転ばせ、千原の顔面にタックルを決めた原因らしき二つのバスケットボールが転がっていた。

どうしてこんなところにボールがあるのかと首を傾げていると、

「すみません。手が滑りました」

 血と暴言の飛び交う男臭い空間に似合わない、高く凛とした声が響いた。
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