30 / 60
第二Q ザ・レコード・オブ・ジョーズ・グロウス ~合宿編~
13
しおりを挟む
毎年恒例の短期合宿の全日程が終了した。赤チームが勝利したことでスクワットを逃れた雪之丞が好物のバニラアイスを頬張っていると、
「お疲れ様。見てたよ、試合」
「さ、紗綾先輩! お疲れ様っす!」
デオドラントのシトラスの香りを漂わせながら、紗綾が雪之丞の隣に座った。
「最後のシュート、綺麗だったね。たくさん練習した成果が出て良かったね」
「あざっす! でもホントいい所なんて最後だけだったんで、もっと練習しなきゃなって思いました。紗綾先輩はめっちゃバスケ上手いっすよね。いつからやってるんですか?」
合宿中はまるで余裕がなく、こんなに近くにいながら紗綾のバスケ姿を一度しかまともに見られなかったのは非常に心残りである。
「中一のとき、友達に誘われて始めたの。……っていうか、ありがと。バスケのことで褒められるのって、素直に嬉しい」
照れ臭そうにはにかんで笑う紗綾はとても可愛かった。思わず頬が緩んだが、久美子をはじめ雪之丞の恋心を知る部員たちの視線を感じて、必死に表情を整えた。
「鳴海くんは合宿、どうだった?」
「……正直、足引っ張ってばっかでした。でも、少しだけ自信はつけることができました。これから人一倍練習して伝説を作っていきますから、俺をバスケの世界に導いた先駆者として是非見ていてください!」
「……わたしが君を、バスケ部に入れたきっかけなの?」
紗綾は驚いた表情で雪之丞を見た。
「そうっすよ? あれ、言ってませんでしたっけ?」
「そうなんだ……」
紗綾はそう呟き、それ以上何も言わなかった。話しかけても上の空だったため、雪之丞も黙って溶け始めたアイスを食べていると、
「鳴海、ちょっと来なさい」
宇佐美から招集がかかった。怒られる心当たりがありすぎて、嫌な予感しかしない。
「俺、行って来るっす。お疲れ様っした!」
「……あ、うん……」
雪之丞は急いでアイスを平らげ、ぼうっとしている紗綾に頭を下げた後、緊張しながら宇佐美の元へ向かった。
「な、なんでしょうか……?」
おそるおそる窺ってみると、予想に反して宇佐美は穏やかな表情をしていた。
「この合宿中、鳴海への指導はほとんど浅香に任せっきりにしてすまなかったな」
「いえ、むしろ久美子先輩に付きっきりでしごいてもらえて、ありがたかったっす」
「そうか、それはよかった。……お前にしてみれば、バスケだけに打ち込む日々は初めての経験だっただろう? どうだった?」
「ウス。なんつうか……俺、こんなに頭使ったり、悩んだりしたの初めてでした。でも、部活ってただ技術を向上させるためだけの場じゃないんだって、わかった気がします」
「そうだな。この経験は鳴海にとって、大切な成長の糧になったと思うぞ」
満足そうに頷く宇佐美を見て、雪之丞は頬を掻いた。
「正直言って、この合宿辛かったっす。熱が出るかと思ったっす。……でも、今ここにいられることを誇りに思うっていうか、頑張って良かったなって思います」
合宿を終えた達成感からだろうか、らしくないことを口にしてしまったかもしれない。だけど、冗談を交えて答えようなんて気にはならなかったのだ。
宇佐美は優しく微笑んで、雪之丞の足元を指差した。
「本格的にバスケをやるなら、バッシュは買っておいた方がいいぞ」
その助言は、雪之丞を一選手として前向きに考えているという意味だろう。
「ウッス!」
雪之丞は大きな喜びを噛み締めながら、溌剌と返事をしたのだった。
合宿からの帰り道、雪之丞は既読無視をしていた夏希からのメッセージに返事を送った。
『念はいらん。今から帰る。バッシュ買いに行くから、付き合ってくれ』
「お疲れ様。見てたよ、試合」
「さ、紗綾先輩! お疲れ様っす!」
デオドラントのシトラスの香りを漂わせながら、紗綾が雪之丞の隣に座った。
「最後のシュート、綺麗だったね。たくさん練習した成果が出て良かったね」
「あざっす! でもホントいい所なんて最後だけだったんで、もっと練習しなきゃなって思いました。紗綾先輩はめっちゃバスケ上手いっすよね。いつからやってるんですか?」
合宿中はまるで余裕がなく、こんなに近くにいながら紗綾のバスケ姿を一度しかまともに見られなかったのは非常に心残りである。
「中一のとき、友達に誘われて始めたの。……っていうか、ありがと。バスケのことで褒められるのって、素直に嬉しい」
照れ臭そうにはにかんで笑う紗綾はとても可愛かった。思わず頬が緩んだが、久美子をはじめ雪之丞の恋心を知る部員たちの視線を感じて、必死に表情を整えた。
「鳴海くんは合宿、どうだった?」
「……正直、足引っ張ってばっかでした。でも、少しだけ自信はつけることができました。これから人一倍練習して伝説を作っていきますから、俺をバスケの世界に導いた先駆者として是非見ていてください!」
「……わたしが君を、バスケ部に入れたきっかけなの?」
紗綾は驚いた表情で雪之丞を見た。
「そうっすよ? あれ、言ってませんでしたっけ?」
「そうなんだ……」
紗綾はそう呟き、それ以上何も言わなかった。話しかけても上の空だったため、雪之丞も黙って溶け始めたアイスを食べていると、
「鳴海、ちょっと来なさい」
宇佐美から招集がかかった。怒られる心当たりがありすぎて、嫌な予感しかしない。
「俺、行って来るっす。お疲れ様っした!」
「……あ、うん……」
雪之丞は急いでアイスを平らげ、ぼうっとしている紗綾に頭を下げた後、緊張しながら宇佐美の元へ向かった。
「な、なんでしょうか……?」
おそるおそる窺ってみると、予想に反して宇佐美は穏やかな表情をしていた。
「この合宿中、鳴海への指導はほとんど浅香に任せっきりにしてすまなかったな」
「いえ、むしろ久美子先輩に付きっきりでしごいてもらえて、ありがたかったっす」
「そうか、それはよかった。……お前にしてみれば、バスケだけに打ち込む日々は初めての経験だっただろう? どうだった?」
「ウス。なんつうか……俺、こんなに頭使ったり、悩んだりしたの初めてでした。でも、部活ってただ技術を向上させるためだけの場じゃないんだって、わかった気がします」
「そうだな。この経験は鳴海にとって、大切な成長の糧になったと思うぞ」
満足そうに頷く宇佐美を見て、雪之丞は頬を掻いた。
「正直言って、この合宿辛かったっす。熱が出るかと思ったっす。……でも、今ここにいられることを誇りに思うっていうか、頑張って良かったなって思います」
合宿を終えた達成感からだろうか、らしくないことを口にしてしまったかもしれない。だけど、冗談を交えて答えようなんて気にはならなかったのだ。
宇佐美は優しく微笑んで、雪之丞の足元を指差した。
「本格的にバスケをやるなら、バッシュは買っておいた方がいいぞ」
その助言は、雪之丞を一選手として前向きに考えているという意味だろう。
「ウッス!」
雪之丞は大きな喜びを噛み締めながら、溌剌と返事をしたのだった。
合宿からの帰り道、雪之丞は既読無視をしていた夏希からのメッセージに返事を送った。
『念はいらん。今から帰る。バッシュ買いに行くから、付き合ってくれ』
0
あなたにおすすめの小説
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ボクとセンセイの秘密
七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。
タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。
一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。
なので関西弁での会話が多くなります。
ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる