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第三Q 生き様を証明せよ
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今日は雪之丞たち一年生にとっては、初めての練習試合の日だ。沢高バスケ部は電車に揺られて三十分、敵地の洛央高校へと赴いた。
「うお……すっげえ!」
洛央高校の敷地内に足を踏み入れると、雪之丞だけでなく部員のほとんどが感嘆の声を漏らした。スポーツ強豪校として有名な私立洛央高校は広いグラウンドを三つ所有しており、土のグラウンドでは野球部と陸上部が、人工芝のグラウンドではサッカー部が練習していた。勿論、夜間でも練習ができるようナイター設備も完備である。
そして男女共に全国レベルのバスケ部はというと、空調完備の専用体育館があった。洛央高校は県立の沢高からは考えられない程、部活動に力を入れている学校だった。
「整列! 本日はよろしくお願いします!」
両校軽く挨拶を交わし、早速ウォーミングアップに入った。準備運動をしながら洛央バスケ部の練習風景を見てみると、彼らは人数が多いにもかかわらず統制のとれた動きでシュートを打っていた。淡々としているが、強者の貫禄を感じさせる光景だった。
「うわ……勝てる気がしないなあ……」
弱々しく呟いた一年生の背中を、雪之丞は強く叩いた。
「大丈夫! 俺たちが負けるわけねえだろ!」
強豪校のホームで生意気なことを大声で口にした雪之丞は当然、洛央部員たちの視線を集めた。最初は不快そうな双眸を向けていた彼らだったが、Tシャツ姿の雪之丞の左袖に腕がないのに気づいてからは、一斉にざわつき始めた。
騒がれることに慣れている雪之丞は気にも留めなかったが、
「……なんだあいつ。ここはヤクザの来る場所じゃねえぞ」
「ハハッ。集会場所と間違えたんじゃね?」
心ない人間の発言を聞き流してやるほど、まだ心は広くなかった。
「聞こえてんぞコラ。喧嘩売ってんのか? なあ?」
睨みを効かせて罵声の発信源に向かっていくと、彼らは雪之丞の凄みに顔を青くして「すみません……」と謝った。
「ちっ。片手しかなくてもバスケができるってこと、お前らの前で証明してやるからしっかり見ておけよ」
そう宣言した雪之丞の元に、多田が慌てて飛んできた。
「鳴海お前! この馬鹿! あの、失礼があったみたいで、申し訳ないです!」
「多田先輩が謝る必要ないっすよ。こいつらが俺に失礼したんですよ」
「どっちが悪いとかじゃねえの! 鳴海もスポーツマンになりたいならそういうのわかっていかないと!」
納得のできない雪之丞だったが、不承不承頭を下げて自陣に戻ると、久美子が呆れたように溜息を吐いた。
「監督が席を外していたのが幸いね。下手に騒ぎを起こしたらあんた、試合なんてとても出られなかったわよ? そういうとこ監督は厳しいんだから」
「ぐ……それは嫌っす。監督はどっか行ったんですか?」
練習すればするほど、試合に出ることに飢えていく。そのことを日に日に実感していた雪之丞は、今日の練習試合にどうしても出たかったのだ。
「洛央の監督と近況報告会やっているみたい。昔から仲がいいのよ」
「へー。そうなんすね」
「そうよ。だからこの時期に洛央みたいな強豪校と練習試合ができる恩恵が受けられるワケ。あ、そうそう。電車の中で監督に聞いたんだけどね、今年洛央にはスーパーエースが入ってきたんだって」
「スーパーエース?」
「超上手い全国レベルの選手ってことよ。……あ、あの子だと思う。あの背が高くて、髪の毛がさらさらの……」
久美子の視線の先を追うと、誰よりも美しいシュートを決める男の姿があった。彼の姿を視界に捉えた瞬間、雪之丞は目を大きく見開いた。
五年前より背丈が伸び、体つきも筋肉質で男らしいものになっていたものの、雪之丞は彼の顔に見覚えがあった。
「背番号八番、早川大吾。鳴海と同学年ってことは、あんたの前に常に立ち塞がる壁になりそうね」
久美子が説明するスーパーエースとは、かつて雪之丞が一緒に遊んでいた幼馴染であった。
「……大吾! 大吾じゃんか!」
歓喜の声を上げながらウォーミングアップ中の大吾に駆け寄っていくと、大吾は雪之丞を見た瞬間に顔面蒼白となった。
「……ジョー……なんで……」
「マジで久しぶりだな! 俺高校入ってからバスケ始めたのよ! 聞いたぜ? お前すげえ上手いんだって? 昔から運動神経良かったもんなー! 今度バスケ教えてくれよ!」
思いがけない友人との再会に興奮する雪之丞とは対照的に、大吾は顔を引きつらせて雪之丞と目を合わせようとしなかった。
「大吾? どうした、ノリ悪いぞ?」
「……いや、なんでもない。……ごめん、駄弁ってると怒られるから……」
「おう、そうだよな! また後でな!」
大吾はまるで逃げるように雪之丞に背中を向け、体育館から出て行った。あれからもう五年。別れの挨拶を交わすこともなく突然転校していった大吾とは、いつかもう一度会いたいと願っていた。バスケという繋がりの中でそれが叶えられたことに不思議な運命を感じつつ、懐かしさに胸をいっぱいにしていると、
「……ねえ鳴海、人の話聞いてた? 勝手に敵に絡むなって言ってんの!」
雪之丞の心情など知る由もない久美子から二の腕を思いっきり抓られ、悲鳴をあげる羽目になった。
「うお……すっげえ!」
洛央高校の敷地内に足を踏み入れると、雪之丞だけでなく部員のほとんどが感嘆の声を漏らした。スポーツ強豪校として有名な私立洛央高校は広いグラウンドを三つ所有しており、土のグラウンドでは野球部と陸上部が、人工芝のグラウンドではサッカー部が練習していた。勿論、夜間でも練習ができるようナイター設備も完備である。
そして男女共に全国レベルのバスケ部はというと、空調完備の専用体育館があった。洛央高校は県立の沢高からは考えられない程、部活動に力を入れている学校だった。
「整列! 本日はよろしくお願いします!」
両校軽く挨拶を交わし、早速ウォーミングアップに入った。準備運動をしながら洛央バスケ部の練習風景を見てみると、彼らは人数が多いにもかかわらず統制のとれた動きでシュートを打っていた。淡々としているが、強者の貫禄を感じさせる光景だった。
「うわ……勝てる気がしないなあ……」
弱々しく呟いた一年生の背中を、雪之丞は強く叩いた。
「大丈夫! 俺たちが負けるわけねえだろ!」
強豪校のホームで生意気なことを大声で口にした雪之丞は当然、洛央部員たちの視線を集めた。最初は不快そうな双眸を向けていた彼らだったが、Tシャツ姿の雪之丞の左袖に腕がないのに気づいてからは、一斉にざわつき始めた。
騒がれることに慣れている雪之丞は気にも留めなかったが、
「……なんだあいつ。ここはヤクザの来る場所じゃねえぞ」
「ハハッ。集会場所と間違えたんじゃね?」
心ない人間の発言を聞き流してやるほど、まだ心は広くなかった。
「聞こえてんぞコラ。喧嘩売ってんのか? なあ?」
睨みを効かせて罵声の発信源に向かっていくと、彼らは雪之丞の凄みに顔を青くして「すみません……」と謝った。
「ちっ。片手しかなくてもバスケができるってこと、お前らの前で証明してやるからしっかり見ておけよ」
そう宣言した雪之丞の元に、多田が慌てて飛んできた。
「鳴海お前! この馬鹿! あの、失礼があったみたいで、申し訳ないです!」
「多田先輩が謝る必要ないっすよ。こいつらが俺に失礼したんですよ」
「どっちが悪いとかじゃねえの! 鳴海もスポーツマンになりたいならそういうのわかっていかないと!」
納得のできない雪之丞だったが、不承不承頭を下げて自陣に戻ると、久美子が呆れたように溜息を吐いた。
「監督が席を外していたのが幸いね。下手に騒ぎを起こしたらあんた、試合なんてとても出られなかったわよ? そういうとこ監督は厳しいんだから」
「ぐ……それは嫌っす。監督はどっか行ったんですか?」
練習すればするほど、試合に出ることに飢えていく。そのことを日に日に実感していた雪之丞は、今日の練習試合にどうしても出たかったのだ。
「洛央の監督と近況報告会やっているみたい。昔から仲がいいのよ」
「へー。そうなんすね」
「そうよ。だからこの時期に洛央みたいな強豪校と練習試合ができる恩恵が受けられるワケ。あ、そうそう。電車の中で監督に聞いたんだけどね、今年洛央にはスーパーエースが入ってきたんだって」
「スーパーエース?」
「超上手い全国レベルの選手ってことよ。……あ、あの子だと思う。あの背が高くて、髪の毛がさらさらの……」
久美子の視線の先を追うと、誰よりも美しいシュートを決める男の姿があった。彼の姿を視界に捉えた瞬間、雪之丞は目を大きく見開いた。
五年前より背丈が伸び、体つきも筋肉質で男らしいものになっていたものの、雪之丞は彼の顔に見覚えがあった。
「背番号八番、早川大吾。鳴海と同学年ってことは、あんたの前に常に立ち塞がる壁になりそうね」
久美子が説明するスーパーエースとは、かつて雪之丞が一緒に遊んでいた幼馴染であった。
「……大吾! 大吾じゃんか!」
歓喜の声を上げながらウォーミングアップ中の大吾に駆け寄っていくと、大吾は雪之丞を見た瞬間に顔面蒼白となった。
「……ジョー……なんで……」
「マジで久しぶりだな! 俺高校入ってからバスケ始めたのよ! 聞いたぜ? お前すげえ上手いんだって? 昔から運動神経良かったもんなー! 今度バスケ教えてくれよ!」
思いがけない友人との再会に興奮する雪之丞とは対照的に、大吾は顔を引きつらせて雪之丞と目を合わせようとしなかった。
「大吾? どうした、ノリ悪いぞ?」
「……いや、なんでもない。……ごめん、駄弁ってると怒られるから……」
「おう、そうだよな! また後でな!」
大吾はまるで逃げるように雪之丞に背中を向け、体育館から出て行った。あれからもう五年。別れの挨拶を交わすこともなく突然転校していった大吾とは、いつかもう一度会いたいと願っていた。バスケという繋がりの中でそれが叶えられたことに不思議な運命を感じつつ、懐かしさに胸をいっぱいにしていると、
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