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第三Q 生き様を証明せよ
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試合直前に発表された沢高のスタメンに、変更はなかった。
宇佐美は先陣を切るC・神谷、SG・戸部、PF・岡村、PG・多田、そしてSF・廉に作戦を伝えた後、部員全員の顔を見回して言った。
「前にも伝えた通り、一年は第二クォーターで全員出場させる予定だ。ここで活躍した者はインハイ予選でのベンチ入り候補になるから、気合入れていけよ!」
「「ウス!」」
一年生の瞳に闘志の火が灯った。勿論、雪之丞も例外ではない。今日の練習試合では背番号のない一年生もベンチに座ることができるが、公式戦なら背番号のない部員はベンチではなく、応援席から試合を見ることになるのだ。
しかしここで結果を残すことができれば、背番号が与えられ公式戦出場のための最低条件であるベンチ入りが可能になる。片手一本で伝説を作ると目標を決めている雪之丞にとって、ベンチ入りは野望の第一歩であり、絶対に達成すべき目標の一つであった。
「……あれ? 大吾は一年なのに、最初から出るんすね」
コート中央に整列している大吾を指差すと、久美子は大吾から目を離さずに答えた。
「早川大吾は一年生というくくりではなく、強豪・洛央高校のスタメンとして出場するってことよ」
「へー、そっすか。じゃあ俺があいつと対決できるのは、俺もスタメンになってからって考えておいた方がいいっすね」
久美子はぎょっとして何か言いたげに唇を開いたが、雪之丞がいたって真剣な表情をしているのを見てそのまま口を噤んだ。
そうしているうちに、いよいよ試合は始まった。ティップオフに競り勝ったのは沢高だった。多田は速攻を使わず冷静にボールを運び、全員がポジションについたのを確認してから廉にパスを出した。
廉のマッチアップは大吾だった。ここで大吾から先制点を取れれば、流れを引き寄せることができる。多田は初っ端、両校エース同士の一対一をご所望のようだ。
廉は小さいフェイントを入れて大吾を抜き去ろうとしたが、大吾はしっかりと廉の動きについていった。一度で抜けなかった廉は神谷に一旦パスを出し、フットワークで大吾をかわしてから再びパスを受け、ジャンプシュートを決めた。
「ナイッシュー! 藤ヶ谷!」
先制点の奪取に成功した沢高のベンチの声援が体育館に響いた。
「プリンスー! サイコー!」
「もっと魅せてー!」
聞き覚えのある黄色い声のした方に視線を送ると、藤ヶ谷廉ファンクラブ御一行が保護者用に用意された応援席に陣取って、綺麗に横並びして声援を送っていた。
「……あの人たち、こんな所まで来るんすね」
「名塚家の使用人が車を手配するからね。彼女たちはどこへでも応援に来るわよ」
毎回のことで慣れているのか、久美子は試合から目を逸らさなかった。
「あんたもよそ見してないで、先輩たちのプレーをちゃんと見てなさい」
コートに視線を戻すと、戸部が攻撃中の洛央のパスをインターセプトしたところだった。その後打ったシュートは洛央のCにブロックされたものの、ルーズボールを拾った岡村が一旦多田に戻して体勢を立て直した。沢高は時間を使ってパスを回し、外、中、外で敵陣を崩しながら、最後は神谷がゴール下でシュートを決めた。
沢高はスタメン五人の調子が良かった。特に好調だった戸部の3ポイントシュートがよく決まったため、第一クォーターが終わった時点で強豪・洛央相手に四点差でリードしていた。
「よしよし! いい感じだ! 俺たちは洛央に通用する! 自信持っていこうぜ!」
二分間のインターバルの間に多田は明るい声でチームを鼓舞した。多田の溌剌とした声は、部員の背中を押してくれる効果がある。
「まあ、洛央のエースが調子悪いのもあるが上出来だな。スタメンは体を休めて、第三クォーターに備えておきなさい」
宇佐美の言う通り、大吾のプレーは精彩を欠いていて、スーパーエースと呼ばれるに相応しい実力を発揮していたとは思えなかった。
味方との連携が取れずにパスミスを多発した大吾は、意味のないファウルで笛を鳴らされたのをきっかけに、第一クォーターの途中でベンチに下げられていたのだった。
「よし、一年生はこっちに来なさい。ミーティングをしよう」
ミーティングと言っても、宇佐美は「リラックスして練習でやってきたことを精一杯やりなさい」と話すだけで、戦略的な話はほとんどしなかった。ラスト三分でPFとして出場するよう指示された雪之丞は、試合に出られる喜びと緊張感を抱きながら、気持ちを整えつつ出番に備えた。
そうして始まった第二クォーター、一年生同士の対決では両校の力の差は歴然としていた。スポーツ強豪校として全国から有名な選手をスカウトしている洛央が揃える一年生選手は粒ぞろいで、練習設備・時間共に恵まれている彼らはこの短期間でめきめきと成長したのだろう。一年生とは思えぬ堂々たるプレーを見せていた。
対して、沢高はごく一般的な県立高校だ。第二クォーターが始まった瞬間からボール支配率は極端に低下してしまい、スピードもパワーもシュート回数も勝る部分のなかった沢高が逆転されるのは当然の結果であった。
雪之丞は誰よりも声を張ってチームメイトを応援したが、その差は埋められることなく、第一クォーター終了時点で四点あったリードは、雪之丞が出場するラスト三分には十点ビハインドとなっていた。
「鳴海は難しいプレーをしようとはせずに、自分ができることを全力でやることを意識しなさい。運動量だけなら、俺はお前が洛央の選手に劣っているとは思わない」
「ウッス! 行ってくるっす!」
交代前に宇佐美に出された指示はたった一つ。『できることを全力でやる』、それだけだった。
単純でわかりやすく、そして褒め言葉が添えられた宇佐美の指示は実に雪之丞に有効だった。コートに入った雪之丞は、持ち前の瞬足を活かして縦横無尽に走り回った。雪之丞は運動神経だけなら一般の高校生と比べても突出している。左手がないという目立つ外見も相成り、洛央部員は皆一斉に雪之丞を意識し動揺を見せた。
雪之丞はその隙を見逃さず、甘く入ってきた洛央選手のレイアップシュートにタイミングを合わせて跳んで、
「おらあ!」
打点の高さからシュートを完全に撃ち落とす見事なブロックを決めた。
宇佐美は先陣を切るC・神谷、SG・戸部、PF・岡村、PG・多田、そしてSF・廉に作戦を伝えた後、部員全員の顔を見回して言った。
「前にも伝えた通り、一年は第二クォーターで全員出場させる予定だ。ここで活躍した者はインハイ予選でのベンチ入り候補になるから、気合入れていけよ!」
「「ウス!」」
一年生の瞳に闘志の火が灯った。勿論、雪之丞も例外ではない。今日の練習試合では背番号のない一年生もベンチに座ることができるが、公式戦なら背番号のない部員はベンチではなく、応援席から試合を見ることになるのだ。
しかしここで結果を残すことができれば、背番号が与えられ公式戦出場のための最低条件であるベンチ入りが可能になる。片手一本で伝説を作ると目標を決めている雪之丞にとって、ベンチ入りは野望の第一歩であり、絶対に達成すべき目標の一つであった。
「……あれ? 大吾は一年なのに、最初から出るんすね」
コート中央に整列している大吾を指差すと、久美子は大吾から目を離さずに答えた。
「早川大吾は一年生というくくりではなく、強豪・洛央高校のスタメンとして出場するってことよ」
「へー、そっすか。じゃあ俺があいつと対決できるのは、俺もスタメンになってからって考えておいた方がいいっすね」
久美子はぎょっとして何か言いたげに唇を開いたが、雪之丞がいたって真剣な表情をしているのを見てそのまま口を噤んだ。
そうしているうちに、いよいよ試合は始まった。ティップオフに競り勝ったのは沢高だった。多田は速攻を使わず冷静にボールを運び、全員がポジションについたのを確認してから廉にパスを出した。
廉のマッチアップは大吾だった。ここで大吾から先制点を取れれば、流れを引き寄せることができる。多田は初っ端、両校エース同士の一対一をご所望のようだ。
廉は小さいフェイントを入れて大吾を抜き去ろうとしたが、大吾はしっかりと廉の動きについていった。一度で抜けなかった廉は神谷に一旦パスを出し、フットワークで大吾をかわしてから再びパスを受け、ジャンプシュートを決めた。
「ナイッシュー! 藤ヶ谷!」
先制点の奪取に成功した沢高のベンチの声援が体育館に響いた。
「プリンスー! サイコー!」
「もっと魅せてー!」
聞き覚えのある黄色い声のした方に視線を送ると、藤ヶ谷廉ファンクラブ御一行が保護者用に用意された応援席に陣取って、綺麗に横並びして声援を送っていた。
「……あの人たち、こんな所まで来るんすね」
「名塚家の使用人が車を手配するからね。彼女たちはどこへでも応援に来るわよ」
毎回のことで慣れているのか、久美子は試合から目を逸らさなかった。
「あんたもよそ見してないで、先輩たちのプレーをちゃんと見てなさい」
コートに視線を戻すと、戸部が攻撃中の洛央のパスをインターセプトしたところだった。その後打ったシュートは洛央のCにブロックされたものの、ルーズボールを拾った岡村が一旦多田に戻して体勢を立て直した。沢高は時間を使ってパスを回し、外、中、外で敵陣を崩しながら、最後は神谷がゴール下でシュートを決めた。
沢高はスタメン五人の調子が良かった。特に好調だった戸部の3ポイントシュートがよく決まったため、第一クォーターが終わった時点で強豪・洛央相手に四点差でリードしていた。
「よしよし! いい感じだ! 俺たちは洛央に通用する! 自信持っていこうぜ!」
二分間のインターバルの間に多田は明るい声でチームを鼓舞した。多田の溌剌とした声は、部員の背中を押してくれる効果がある。
「まあ、洛央のエースが調子悪いのもあるが上出来だな。スタメンは体を休めて、第三クォーターに備えておきなさい」
宇佐美の言う通り、大吾のプレーは精彩を欠いていて、スーパーエースと呼ばれるに相応しい実力を発揮していたとは思えなかった。
味方との連携が取れずにパスミスを多発した大吾は、意味のないファウルで笛を鳴らされたのをきっかけに、第一クォーターの途中でベンチに下げられていたのだった。
「よし、一年生はこっちに来なさい。ミーティングをしよう」
ミーティングと言っても、宇佐美は「リラックスして練習でやってきたことを精一杯やりなさい」と話すだけで、戦略的な話はほとんどしなかった。ラスト三分でPFとして出場するよう指示された雪之丞は、試合に出られる喜びと緊張感を抱きながら、気持ちを整えつつ出番に備えた。
そうして始まった第二クォーター、一年生同士の対決では両校の力の差は歴然としていた。スポーツ強豪校として全国から有名な選手をスカウトしている洛央が揃える一年生選手は粒ぞろいで、練習設備・時間共に恵まれている彼らはこの短期間でめきめきと成長したのだろう。一年生とは思えぬ堂々たるプレーを見せていた。
対して、沢高はごく一般的な県立高校だ。第二クォーターが始まった瞬間からボール支配率は極端に低下してしまい、スピードもパワーもシュート回数も勝る部分のなかった沢高が逆転されるのは当然の結果であった。
雪之丞は誰よりも声を張ってチームメイトを応援したが、その差は埋められることなく、第一クォーター終了時点で四点あったリードは、雪之丞が出場するラスト三分には十点ビハインドとなっていた。
「鳴海は難しいプレーをしようとはせずに、自分ができることを全力でやることを意識しなさい。運動量だけなら、俺はお前が洛央の選手に劣っているとは思わない」
「ウッス! 行ってくるっす!」
交代前に宇佐美に出された指示はたった一つ。『できることを全力でやる』、それだけだった。
単純でわかりやすく、そして褒め言葉が添えられた宇佐美の指示は実に雪之丞に有効だった。コートに入った雪之丞は、持ち前の瞬足を活かして縦横無尽に走り回った。雪之丞は運動神経だけなら一般の高校生と比べても突出している。左手がないという目立つ外見も相成り、洛央部員は皆一斉に雪之丞を意識し動揺を見せた。
雪之丞はその隙を見逃さず、甘く入ってきた洛央選手のレイアップシュートにタイミングを合わせて跳んで、
「おらあ!」
打点の高さからシュートを完全に撃ち落とす見事なブロックを決めた。
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