セキワンローキュー!

りっと

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第三Q 生き様を証明せよ

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 廉が言った通り、第三クォーターは沢高が流れを掴んでいた。

 好プレーの連続に沢高が盛り上がる一方で、洛央はエース・大吾の調子が上がらず、結局ほとんど得点にからまないまま再び交代させられた大吾は、そのまま最後まで出場することはなかった。

 しかしどうしても洛央との地力の差を埋められなかった沢高は、最終的に八十六対七十五で敗北したのだった。

「だー! くそ! 負けた! ちくしょう!」

「鳴海! 次は勝つぞ! もっともっと練習しないとな!」

「ウス! 今なら嫌いなフットワークも頑張れる気がするっす!」

 試合終了後、本気で悔しがる雪之丞と熱血主将の多田は意気投合し、ストレッチをしながら今後の練習についての話に花を咲かせていた。

 そんな二人を見て、いつもなら多田の熱血を鬱陶しそうにする部員も練習量が増えるのを嫌がる部員も顔を見合わせた。

「……もう少し、走り込みの量増やすか」

「……俺、ジャンプシュートの成功率上げなきゃな」

 各々実力を向上させるために、そして沢高を強くするために、ほんの一歩ではあるが今までとは意識が変わってきたようだった。

 多田と話しながら体育館を出ると、男子バスケ部と入れ替わりで試合予定の女子バスケ部が外に集合していた。

「あ、俺ちょっと……おーい! 紗綾せんぱーい!」

 雪之丞が手を振りながら紗綾に近づいていくと、周りにいた女子バスケ部の皆はさっと離れた。雪之丞に対して苦手意識を持っている生徒は依然として多いようだ。

「……気にしないで。まだ少し怖いみたいだけど、もうちょっとで慣れると思うから」

「いや、言い方! 俺は肉食動物っすか?」

「……凶暴な鉄塔?」

「生き物ですらないんすね……」

 大袈裟に肩を落としてみせると、紗綾はくすくすと笑った。

「女子はこれから試合っすよね? 俺たちはすぐに帰ってミーティングと練習があるので応援できないんすけど、頑張ってください!」

 雪之丞が激励の言葉を送ると、

「あはは、ジョー! あんた先輩と話すときにはぶりっ子してるのね! おっかしー!」

 後ろから笑い声が聞こえてきた。聞き慣れた声に顔を顰めて振り返ると、夏希が笑いながら雪之丞の背中を叩いてきた。

「……げ、夏希」

「げ、じゃないわよ。見てたわよ試合! あんた、最初と最後だけすごかったじゃん!」

「お前の目は節穴か? 俺はいつだって輝いているはずだ」

「あんたレベルで輝いているなら、藤ヶ谷先輩なんて眩しすぎて見えないっての。っていうか! それより大吾よ! ビックリしたー! ジョーは今日大吾と対戦するって知ってたの!? 教えなさいよ!」

「いや、俺も驚いたんだって。つーかうっせーなあお前は! とっとと帰れって!」

 夏希との関係を誤解されないか不安でおそるおそる紗綾の様子を窺ってみると、紗綾は大きな双眸を駆使して、夏希の顔を正面からじっと見つめていた。

「あ、紗綾先輩こんちわ! いつもジョーが迷惑かけているみたいで、すみません!」

 紗綾の視線に気づいた夏希は、持ち前の人懐こい笑顔で明るく挨拶をした。

「保護者面すんじゃねーよ。すみません先輩、こんな鬱陶しい奴無視してくださいね?」

 元気のいい夏希とは対照的に、紗綾は黙りこくっている。紗綾の口数が少ないのはいつものことだが、なんだか様子がおかしい。

「ほら、お前が鬱陶しいから先輩困ってんじゃねえか」

「ご、ごめんなさい。わたしウザかったですかね? もう行きますね。失礼しました!」

 申し訳なさそうに頭を下げた夏希がその場を去ろうとすると、紗綾は夏希の手を掴んでかぶりを振った。

「……違うの。わたし、あなたに言いたいことが――」

 紗綾がそう口にしたとき、

「全員集合―! 挨拶するから並べ―!」

 多田の声が聞こえてきた。洛央高校の部員が雪之丞たち沢高バスケ部を見送りするために、外まで出てきたようだ。

「……んじゃ俺、行きますわ! 二人はごゆっくり~」

 困り顔をしている夏希を茶化すように言って、雪之丞はその場を退散した。

 両校横一列に整列して向かい合い、多田が大きな声で挨拶を口にした。

「整列! ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

 彼らと次に会うのは、来月十二日から始まるインターハイ予選だ。次は絶対に負けないという強い決意を胸に抱きつつ、沢高バスケ部は全員で洛央部員に頭を下げた。

 後は電車に乗って帰るだけなのだが、その前に雪之丞は久々に会えた幼馴染と話がしたかった。

「おーい、大吾―!」

 暗い顔をしている大吾に声をかけると、彼は怯えたように雪之丞を見た。

「なんだなんだ? 顔色悪いじゃねえか。お前、今日の試合の出来が悪かったから怒られたんだろ? わかるぞー。ウチも先輩がおっかねえからなー」

 雪之丞が笑いながら頷くと、大吾は何かが決壊したかのように顔を歪めて、その場に膝をついた。

「……大吾? どうし……」

「……頼む! 許してくれ!」

 そのまま大吾は額をコンクリートの上に押し付け、雪之丞に向かって土下座をした。
強豪チームのエースが突然行った行動に、その場は騒然となった。

「……ジョーの左手をそんな風にしちまって……どの面下げて、俺だけ楽しくバスケができるっていうんだ? ……ジョーのことを忘れようとして、自分を正当化していた……本当、どうかしていたんだ……」

 大吾が絞り出すように紡いだ懺悔は、雪之丞から言葉を奪い去った。何も言えないまま呆然と友人のつむじを見下ろしていると、胸が締め付けられるように痛み目頭が熱くなってきた。

 大吾と再会できたとき、雪之丞は嬉しかった。大吾の成長した姿を見られたことも、大吾がバスケで有名な選手になっていることも嬉しかったのだ。

 だけど、大吾はそう思わなかったらしい。大吾は雪之丞と再会したことに絶望し、顔を背けることばかり考え、土下座をしてまで雪之丞に許しを乞おうとしている。

 友人に対するものとは思えない大吾の行動に対して、雪之丞の悲しみは甚だしかった。気持ちの齟齬が生んだ悲しみはやがて怒りへと変わり、とても抑えられるものではなくなっていた。

 雪之丞は大吾の胸倉を掴んで引き上げた。

「てめえ! 誰がそんなことしろって言った!?」

「……ごめん……本当に、ごめん……!」

「ごめんじゃねえよ! 謝れって言ってんじゃねえ! 俺をナメるのもいい加減にしろ!」

「……許してくれ……この通りだ……!」

「ふっざけんな! 俺は手のことを同情されるのが、一番許せねえんだよ!」

 目を合わせようとしない大吾を揺さぶると、多田と岡村と神谷が飛んできて雪之丞を押さえ込み、強引に二人を引き離そうとした。それでも猛獣のように食ってかかろうとする雪之丞から大吾は洛央部員に守られるように囲まれ、最後まで謝罪の言葉を口にしながら逃げるように体育館の中へ戻っていった。

「……俺はなあ! あのとき、そんなつもりで助けたんじゃねえぞ! 大吾ぉ!」

 雪之丞の悲痛な叫び声だけが、空の下に響いた。
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