セキワンローキュー!

りっと

文字の大きさ
43 / 60
第三Q 生き様を証明せよ

13

しおりを挟む
「……でも、右手だけでバスケをやるのは難しいはずだ。このまま続けていても、絶対に頂点は取れない。悩んで、後悔したことも少なくないんじゃないのか? ジョーが辛い思いをしているっていうのに、俺だけ今まで通りバスケに打ち込むなんて……できるわけないだろ!」

「おい。俺の気持ちも、これから先の未来も勝手に決めつけるんじゃねえぞ。……バスケ、始めて良かったに決まってんだろ? 俺はバスケを始めたおかげで、お前が俺の前からいなくなった気持ちをようやく理解できたんだからよ」

 合宿中、雪之丞は上手くプレーできない自分から目を背けたくて、果敢に挑戦することを恐れた。洛央との練習試合の後は部活に行きたくないという身勝手な理由で、チームメイトがインターハイ予選に向けて気持ちを一丸にしなければならないときにサボった。

 これらの逃げた苦い記憶がなければ、もしかしたら今もこうして目も合わせず再び逃げようとする大吾のことを、強く責めてしまったかもしれない。人の弱さを身をもって知ることで成長できたのは、バスケットボールのおかげだった。

 ようやく顔を上げた大吾に雪之丞はもう一度ボールを渡し、少し後ろから助走をつけて走り込んで「ヘイ!」と声をかけた。

 大吾から返ってきたパスは進行方向に向かう雪之丞の胸元に正確に出され、とても取りやすかった。このワンプレーだけでも、大吾が優秀な選手だとわかる。強豪・洛央のスーパーエースと呼ばれるようになるまで、大吾は一体どれだけの努力を重ねてきたのだろう。

 積み重ねてきた努力も、実績も、実力も、こんなことで絶たせてたまるか。

 絶対に辞めさせねえぞ、大吾!

 大吾の不安も呵責も吹き飛ばし、激励と安心を送るために雪之丞は高く跳んだ。そして言葉にできない想いをぶつけるように、全身全霊の力を込めて、丸いリングにボールを叩き込んだ。

 渾身のダンクによる激しい音が、人気のない公園に響いた。雪之丞が着地してもまだ、リングはきしきしと音を立てている。

「……大吾。これでも俺に、バスケは無理だって言うつもりか?」

 大吾は雪之丞が魅せた鮮やかなワンハンドダンクに心を奪われているのか、その場に立ち尽くして、ただじっと雪之丞が揺らしたゴールを見ていた。

「……でも、俺は……俺のせいで、ジョーは!」

「大吾のせいじゃねえ。勿論、ミサのせいでもねえ。あのときは咄嗟に体が動いたんだよ。……さっきも言ったろ? 謝るより俺の優しさを褒め称えろって」

 雪之丞は笑い、地面に転がったボールを拾って大吾に手渡した。
指先でボールの表面の感触を確かめながら、大吾は再会後初めて、雪之丞の前で涙を見せた。

「……ああ……そうだな……俺が思っているよりジョーはずっと優しくて、ずっと強いんだよな……」

「はっはっは、その通り! だからさっさと部活に戻って、精々エースの名に恥じない練習をしておけ! 俺はお前をインハイ予戦で叩きのめすつもりだからな!」

 雪之丞は右手で握り拳を作って胸を一回叩き、大吾に向かって突き出した。

 この仕草は昔四人で決めた、相手を激励するサインであった。

「ジョー、そのサイン……」

「逃げるなよ、大吾。次は体育館で会おうぜ」

 雪之丞は白い歯を見せながら、少年の頃のような無邪気な声で告げ、大吾の返事は聞かないまま公園を後にした。

 渡したボールは次に戦うときに返してもらおう。大吾はきっと復活して、インターハイ出場を狙う沢高の前に大きな壁として立ち塞がるだろう。戦力的には脅威のはずなのに、吹っ切れた大吾と戦うことを想像すると胸が踊った。

 俺ももっと上手くなりたい。もっと実力をつけて、その日を待ちたい。

 改めて決意した雪之丞は、早く帰って練習しようと帰途を急いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ボクとセンセイの秘密

七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。 タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。 一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。 なので関西弁での会話が多くなります。 ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...