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第四Q その右手が掴むもの
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二日連続無断で部活を休んだ雪之丞は、練習が始まる前に宇佐美監督と主将である多田の前で深く頭を下げていた。
「言い訳はしないっす! サボってすみませんでした!」
「……休みたくなる気持ちはわかる。だが、自分に勝てない奴が敵に勝てるはずがない。しっかりと反省し、今日からまた頑張りなさい」
宇佐美は落ち着いた声で雪之丞を諭し部活に戻ることを許可したが、多田の表情は固かった。正義感の強い多田は不正行為を非常に嫌う傾向にある。宇佐美の判断に口出しはしなかったが、怒りを隠そうともせず告げた。
「……鳴海が背番号をもらえない可能性は確実に上がった。名誉挽回できるように、死に物狂いで練習しろよな」
多田の言葉は自分の言葉だと言わんばかりに、宇佐美は深く頷いた。
この二日間で評価が下がってしまったとしても、他の部員以上に努力して成果をアピールし、選んでもらうために尽力していく姿勢に変わりはない。しかし多田の言う通り、これからはもっと死に物狂いでやっていく必要があるのも確かである。
雪之丞は気合を入れ直しつつ、大きく息を吸ってもう一度九十度に腰を折った。
「この鳴海雪之丞、今日からバスケに命懸ける所存っす! ご指導ごべんたしの程、宜しくお願いしゃす!」
体育館に響き渡る馬鹿でかい声での宣言は、男女バスケ部の注目を一斉に集めた。
「……ご指導ご鞭撻の間違いよ! この馬鹿!」
久美子の指摘に、皆が一斉に吹き出した。
背番号の獲得、大吾との再戦、そしてインターハイに出て日本一になること。
三つの明確な目標を立てたことによって、雪之丞は今までより一層集中して練習に臨めるようになった。
しかし、まだバスケを初めて一ヶ月半の初心者だ。シュートの成功率が上がったりミスが減ったりと成長を感じることも増えてはいたが、どれだけ練習しても洛央と渡り合える力を手に入れたとは思えなかった。
インターハイ予選が近づくにつれ、焦りばかりが募っていった。
合宿中にも経験した襲いかかってくる津波のようなプレッシャーは、雪之丞の気を滅入らせた。休憩中、重苦しい気持ちを追い払うように水飲み場で頭から水を被っていると、女子の黄色い声が耳に入った。
「プリンスー!」
「カッコイイー! こっち向いてー!」
今日も藤ヶ谷廉ファンクラブは、リーダーである名塚を中心に騒がしい。
自身の心境も相まって普段以上に鬱陶しく感じたが、こんなことで集中を切らしているようでは未熟者の証拠だと、右頬を叩いてから練習に戻った。
「言い訳はしないっす! サボってすみませんでした!」
「……休みたくなる気持ちはわかる。だが、自分に勝てない奴が敵に勝てるはずがない。しっかりと反省し、今日からまた頑張りなさい」
宇佐美は落ち着いた声で雪之丞を諭し部活に戻ることを許可したが、多田の表情は固かった。正義感の強い多田は不正行為を非常に嫌う傾向にある。宇佐美の判断に口出しはしなかったが、怒りを隠そうともせず告げた。
「……鳴海が背番号をもらえない可能性は確実に上がった。名誉挽回できるように、死に物狂いで練習しろよな」
多田の言葉は自分の言葉だと言わんばかりに、宇佐美は深く頷いた。
この二日間で評価が下がってしまったとしても、他の部員以上に努力して成果をアピールし、選んでもらうために尽力していく姿勢に変わりはない。しかし多田の言う通り、これからはもっと死に物狂いでやっていく必要があるのも確かである。
雪之丞は気合を入れ直しつつ、大きく息を吸ってもう一度九十度に腰を折った。
「この鳴海雪之丞、今日からバスケに命懸ける所存っす! ご指導ごべんたしの程、宜しくお願いしゃす!」
体育館に響き渡る馬鹿でかい声での宣言は、男女バスケ部の注目を一斉に集めた。
「……ご指導ご鞭撻の間違いよ! この馬鹿!」
久美子の指摘に、皆が一斉に吹き出した。
背番号の獲得、大吾との再戦、そしてインターハイに出て日本一になること。
三つの明確な目標を立てたことによって、雪之丞は今までより一層集中して練習に臨めるようになった。
しかし、まだバスケを初めて一ヶ月半の初心者だ。シュートの成功率が上がったりミスが減ったりと成長を感じることも増えてはいたが、どれだけ練習しても洛央と渡り合える力を手に入れたとは思えなかった。
インターハイ予選が近づくにつれ、焦りばかりが募っていった。
合宿中にも経験した襲いかかってくる津波のようなプレッシャーは、雪之丞の気を滅入らせた。休憩中、重苦しい気持ちを追い払うように水飲み場で頭から水を被っていると、女子の黄色い声が耳に入った。
「プリンスー!」
「カッコイイー! こっち向いてー!」
今日も藤ヶ谷廉ファンクラブは、リーダーである名塚を中心に騒がしい。
自身の心境も相まって普段以上に鬱陶しく感じたが、こんなことで集中を切らしているようでは未熟者の証拠だと、右頬を叩いてから練習に戻った。
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