セキワンローキュー!

りっと

文字の大きさ
54 / 60
第四Q その右手が掴むもの

11

しおりを挟む
「さあさあ! 沢高自慢の怒涛の攻撃、見せつけてやりましょう!」

 コート上で大きな声を張り上げる雪之丞を横目に、ボールを持った廉は大吾と対峙した。

「言われなくても、そのつもりだ」

 廉と大吾の実力はほぼ拮抗していたが、体力は廉の方が上回っているようだった。第四クォーターに入ってから大吾の息がわずかに上がりつつあるのを廉は見逃さず、一年生エースに先輩の意地を見せつけるように、クロスオーバーで大吾を躱してシュートを決めた。

 残り五分五十秒、点差は四点。

「プリンスー! ナイッシュー!」

「絶対勝ってー! プリンスー!」

 ゲームも終盤、点差は僅差。両校全力でぶつかり合い盛り上がりを見せる試合に観客の声も一際大きくなっていたが、その中でも藤ヶ谷廉ファンクラブの黄色い声が際立っていた。

 正直雪之丞はファンクラブの存在を鬱陶しいと思うことも少なくなかったが、こんなに力の入った応援をくれる彼女たちを邪険にしたらバチが当たるなと思った。

 苦笑しつつ振り返り、ふと大吾を見ると――雪之丞の瞳は、彼の顔が変わった瞬間を捉えた。点を取るために、全身全霊を捧げる覚悟が窺える表情だった。

 再び沢高はオールコートマンツーマンディフェンスで洛央選手にプレッシャーをかけたが、廉のマークを巧みなフットワークで外した大吾がパスを受け取ると、おそるべき速さでセンターラインまでボールを運んだ。

 必死になって大吾を止めようと食らいつく沢高メンバーを次々に躱し、そのまま一人、ドリブルでゴールへと向かっていく。

 大吾を止めなければ、点も流れも持っていかれる。

 そう直感した雪之丞は園田から離れ、大吾と正面から対峙した。

 大吾と目が合ったとき、彼の目玉は雪之丞から見て右に動いた。

 ――俺の右側から抜く気だ。そう予測した雪之丞が右足に重心をかけた瞬間、大吾は鋭いドライブで雪之丞の左側から抜いていった。

 一歩も動けなかった。電光石火のごとく雪之丞を抜いた大吾は、そのままレイアップシュートでネットを揺らした。

 沢高に傾きかけた流れを一発で止めるスーパーエースのプレーに、洛央応援団は大いに湧き、観客たちも歓声をあげて大吾のプレーに興奮していた。

 シュートを決めた大吾は振り向いて、雪之丞の左手を指差した。

「……右利きのプレーヤーにとって、ジョーの左側は特に抜きやすいんだよ」

「……この野郎! 言ってくれるじゃねえかよ!」

 口ではそう言いつつ、雪之丞は悔しさの中にも密かに喜びを感じていた。

 大吾が雪之丞の左側を狙ってプレーしてきたということは、彼の勝利への執念が雪之丞への罪悪感を上回ったという証明にほかならないからだ。

 手強い相手との戦いも残りわずかだ。絶対に悔いの残らない試合にしようと、雪之丞は額の汗を拭って再び走り出した。

 走って、走って、走り続けた。

 人生でこれほど集中して取り組んだ数分間はないと断言できるくらい、コートの中を懸命に走り回った。

 いや、雪之丞だけではない。沢高の選手も、洛央の選手も、皆が皆それぞれの全力を振り絞って一つのボールを追いかけた。それは青春をバスケに費やしてきた若者同士の、誇りをかけた熱い戦いであった。

 どちらが勝ってもおかしくない。選手、監督、観客、誰もがそう思っていたに違いない。

 しかし勝利は一チームにしか与えられない。コート内外が一丸となって戦う好ゲームも刻一刻と時間が流れ、いずれやって来る終わりに近づいていった。

 沢高のオールコートマンツーマンディフェンスが功を奏し、残り時間が三十秒を切った時点で沢高は洛央を一点差にまで追い詰めることに成功していた。

「ここ一本! 絶対取るぞ!」

「「おう!」」

 沢高のスローインから始まる最後になるかもしれない攻撃に、両チームとも今日最大の集中力を見せていた。沢高のオフェンスがなかなか洛央のディフェンスを崩せない中、最初のシュートチャンスを作ったのは、やはり廉だった。

 廉は中に切り込んでストップからのジャンプシュートを打った。しかし大吾の反応は速く、指先でシュートの軌道を逸らされてしまった。

 結果、沢高の想いが込められたシュートはリングに弾かれた。

 皆の視線がボールに集まる。リバウンド勝負を制したのは神谷だった。

 神谷はそのままシュート体勢に入ろうとしたが、気迫に溢れた洛央選手にダブルチームで囲まれ、とても打てる状況ではなかった。

 厳しいチェックに耐えた神谷はかろうじて多田にパスを出し、沢高は一旦攻撃体勢の立て直しを図った。

 洛央にとって最も警戒すべきスコアラーである廉は、大吾がボールを持たせないディナイディフェンスで鉄壁の守りを見せている。

 このコート上で誰よりも3ポイントシュートを決めている戸部もマークが厳しく、振り切れていない。

 雪之丞はダンクとレイアップシュートしか打てないため、ゴールから距離のある場所でパスをもらっても勝負できないし、神谷のマッチアップは洛央一のディフェンスの名手だ。ブロックされたときのリスクを考えた方がいいだろう。

 多田はボールをキープしたまま、攻めあぐねていた。

「多田! 時間がないぞ!」

 ベンチから宇佐美の声が飛んだ。多田はなんとか確実に点を取れる環境を作ろうとしていたが、洛央の完璧とも言っていい隙のないディフェンスを前に手段を断たれ、最終的には彼自身が無理な体勢からのシュートを打たざるを得なかった。

 入れば御の字。外れれば――。

「リバウンドだ! 取ってくれえ!」

 多田の懇願を耳にしながら、雪之丞は園田とのリバウンド勝負に全集中力を注いだ。

 ブロックアウトで不利な状況にあった雪之丞は、ボールが落下するまでに園田より優位なポジションに入らないとリバウンドが取れそうになかった。

 リングにボールが当たり、跳ねる。

 依然として、雪之丞はポジション負けしている。このままではリバウンドを取られる。

 そしてその瞬間、沢高の敗北が確定する。

「……うおおおおおおお!」

 ポジションが悪くても、もう跳ぶしかなかった。

 二人が跳んだのはほぼ同時。

 リバウンドを制したのは――!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ボクとセンセイの秘密

七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。 タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。 一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。 なので関西弁での会話が多くなります。 ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...