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第四Q その右手が掴むもの
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「さあさあ! 沢高自慢の怒涛の攻撃、見せつけてやりましょう!」
コート上で大きな声を張り上げる雪之丞を横目に、ボールを持った廉は大吾と対峙した。
「言われなくても、そのつもりだ」
廉と大吾の実力はほぼ拮抗していたが、体力は廉の方が上回っているようだった。第四クォーターに入ってから大吾の息がわずかに上がりつつあるのを廉は見逃さず、一年生エースに先輩の意地を見せつけるように、クロスオーバーで大吾を躱してシュートを決めた。
残り五分五十秒、点差は四点。
「プリンスー! ナイッシュー!」
「絶対勝ってー! プリンスー!」
ゲームも終盤、点差は僅差。両校全力でぶつかり合い盛り上がりを見せる試合に観客の声も一際大きくなっていたが、その中でも藤ヶ谷廉ファンクラブの黄色い声が際立っていた。
正直雪之丞はファンクラブの存在を鬱陶しいと思うことも少なくなかったが、こんなに力の入った応援をくれる彼女たちを邪険にしたらバチが当たるなと思った。
苦笑しつつ振り返り、ふと大吾を見ると――雪之丞の瞳は、彼の顔が変わった瞬間を捉えた。点を取るために、全身全霊を捧げる覚悟が窺える表情だった。
再び沢高はオールコートマンツーマンディフェンスで洛央選手にプレッシャーをかけたが、廉のマークを巧みなフットワークで外した大吾がパスを受け取ると、おそるべき速さでセンターラインまでボールを運んだ。
必死になって大吾を止めようと食らいつく沢高メンバーを次々に躱し、そのまま一人、ドリブルでゴールへと向かっていく。
大吾を止めなければ、点も流れも持っていかれる。
そう直感した雪之丞は園田から離れ、大吾と正面から対峙した。
大吾と目が合ったとき、彼の目玉は雪之丞から見て右に動いた。
――俺の右側から抜く気だ。そう予測した雪之丞が右足に重心をかけた瞬間、大吾は鋭いドライブで雪之丞の左側から抜いていった。
一歩も動けなかった。電光石火のごとく雪之丞を抜いた大吾は、そのままレイアップシュートでネットを揺らした。
沢高に傾きかけた流れを一発で止めるスーパーエースのプレーに、洛央応援団は大いに湧き、観客たちも歓声をあげて大吾のプレーに興奮していた。
シュートを決めた大吾は振り向いて、雪之丞の左手を指差した。
「……右利きのプレーヤーにとって、ジョーの左側は特に抜きやすいんだよ」
「……この野郎! 言ってくれるじゃねえかよ!」
口ではそう言いつつ、雪之丞は悔しさの中にも密かに喜びを感じていた。
大吾が雪之丞の左側を狙ってプレーしてきたということは、彼の勝利への執念が雪之丞への罪悪感を上回ったという証明にほかならないからだ。
手強い相手との戦いも残りわずかだ。絶対に悔いの残らない試合にしようと、雪之丞は額の汗を拭って再び走り出した。
走って、走って、走り続けた。
人生でこれほど集中して取り組んだ数分間はないと断言できるくらい、コートの中を懸命に走り回った。
いや、雪之丞だけではない。沢高の選手も、洛央の選手も、皆が皆それぞれの全力を振り絞って一つのボールを追いかけた。それは青春をバスケに費やしてきた若者同士の、誇りをかけた熱い戦いであった。
どちらが勝ってもおかしくない。選手、監督、観客、誰もがそう思っていたに違いない。
しかし勝利は一チームにしか与えられない。コート内外が一丸となって戦う好ゲームも刻一刻と時間が流れ、いずれやって来る終わりに近づいていった。
沢高のオールコートマンツーマンディフェンスが功を奏し、残り時間が三十秒を切った時点で沢高は洛央を一点差にまで追い詰めることに成功していた。
「ここ一本! 絶対取るぞ!」
「「おう!」」
沢高のスローインから始まる最後になるかもしれない攻撃に、両チームとも今日最大の集中力を見せていた。沢高のオフェンスがなかなか洛央のディフェンスを崩せない中、最初のシュートチャンスを作ったのは、やはり廉だった。
廉は中に切り込んでストップからのジャンプシュートを打った。しかし大吾の反応は速く、指先でシュートの軌道を逸らされてしまった。
結果、沢高の想いが込められたシュートはリングに弾かれた。
皆の視線がボールに集まる。リバウンド勝負を制したのは神谷だった。
神谷はそのままシュート体勢に入ろうとしたが、気迫に溢れた洛央選手にダブルチームで囲まれ、とても打てる状況ではなかった。
厳しいチェックに耐えた神谷はかろうじて多田にパスを出し、沢高は一旦攻撃体勢の立て直しを図った。
洛央にとって最も警戒すべきスコアラーである廉は、大吾がボールを持たせないディナイディフェンスで鉄壁の守りを見せている。
このコート上で誰よりも3ポイントシュートを決めている戸部もマークが厳しく、振り切れていない。
雪之丞はダンクとレイアップシュートしか打てないため、ゴールから距離のある場所でパスをもらっても勝負できないし、神谷のマッチアップは洛央一のディフェンスの名手だ。ブロックされたときのリスクを考えた方がいいだろう。
多田はボールをキープしたまま、攻めあぐねていた。
「多田! 時間がないぞ!」
ベンチから宇佐美の声が飛んだ。多田はなんとか確実に点を取れる環境を作ろうとしていたが、洛央の完璧とも言っていい隙のないディフェンスを前に手段を断たれ、最終的には彼自身が無理な体勢からのシュートを打たざるを得なかった。
入れば御の字。外れれば――。
「リバウンドだ! 取ってくれえ!」
多田の懇願を耳にしながら、雪之丞は園田とのリバウンド勝負に全集中力を注いだ。
ブロックアウトで不利な状況にあった雪之丞は、ボールが落下するまでに園田より優位なポジションに入らないとリバウンドが取れそうになかった。
リングにボールが当たり、跳ねる。
依然として、雪之丞はポジション負けしている。このままではリバウンドを取られる。
そしてその瞬間、沢高の敗北が確定する。
「……うおおおおおおお!」
ポジションが悪くても、もう跳ぶしかなかった。
二人が跳んだのはほぼ同時。
リバウンドを制したのは――!
コート上で大きな声を張り上げる雪之丞を横目に、ボールを持った廉は大吾と対峙した。
「言われなくても、そのつもりだ」
廉と大吾の実力はほぼ拮抗していたが、体力は廉の方が上回っているようだった。第四クォーターに入ってから大吾の息がわずかに上がりつつあるのを廉は見逃さず、一年生エースに先輩の意地を見せつけるように、クロスオーバーで大吾を躱してシュートを決めた。
残り五分五十秒、点差は四点。
「プリンスー! ナイッシュー!」
「絶対勝ってー! プリンスー!」
ゲームも終盤、点差は僅差。両校全力でぶつかり合い盛り上がりを見せる試合に観客の声も一際大きくなっていたが、その中でも藤ヶ谷廉ファンクラブの黄色い声が際立っていた。
正直雪之丞はファンクラブの存在を鬱陶しいと思うことも少なくなかったが、こんなに力の入った応援をくれる彼女たちを邪険にしたらバチが当たるなと思った。
苦笑しつつ振り返り、ふと大吾を見ると――雪之丞の瞳は、彼の顔が変わった瞬間を捉えた。点を取るために、全身全霊を捧げる覚悟が窺える表情だった。
再び沢高はオールコートマンツーマンディフェンスで洛央選手にプレッシャーをかけたが、廉のマークを巧みなフットワークで外した大吾がパスを受け取ると、おそるべき速さでセンターラインまでボールを運んだ。
必死になって大吾を止めようと食らいつく沢高メンバーを次々に躱し、そのまま一人、ドリブルでゴールへと向かっていく。
大吾を止めなければ、点も流れも持っていかれる。
そう直感した雪之丞は園田から離れ、大吾と正面から対峙した。
大吾と目が合ったとき、彼の目玉は雪之丞から見て右に動いた。
――俺の右側から抜く気だ。そう予測した雪之丞が右足に重心をかけた瞬間、大吾は鋭いドライブで雪之丞の左側から抜いていった。
一歩も動けなかった。電光石火のごとく雪之丞を抜いた大吾は、そのままレイアップシュートでネットを揺らした。
沢高に傾きかけた流れを一発で止めるスーパーエースのプレーに、洛央応援団は大いに湧き、観客たちも歓声をあげて大吾のプレーに興奮していた。
シュートを決めた大吾は振り向いて、雪之丞の左手を指差した。
「……右利きのプレーヤーにとって、ジョーの左側は特に抜きやすいんだよ」
「……この野郎! 言ってくれるじゃねえかよ!」
口ではそう言いつつ、雪之丞は悔しさの中にも密かに喜びを感じていた。
大吾が雪之丞の左側を狙ってプレーしてきたということは、彼の勝利への執念が雪之丞への罪悪感を上回ったという証明にほかならないからだ。
手強い相手との戦いも残りわずかだ。絶対に悔いの残らない試合にしようと、雪之丞は額の汗を拭って再び走り出した。
走って、走って、走り続けた。
人生でこれほど集中して取り組んだ数分間はないと断言できるくらい、コートの中を懸命に走り回った。
いや、雪之丞だけではない。沢高の選手も、洛央の選手も、皆が皆それぞれの全力を振り絞って一つのボールを追いかけた。それは青春をバスケに費やしてきた若者同士の、誇りをかけた熱い戦いであった。
どちらが勝ってもおかしくない。選手、監督、観客、誰もがそう思っていたに違いない。
しかし勝利は一チームにしか与えられない。コート内外が一丸となって戦う好ゲームも刻一刻と時間が流れ、いずれやって来る終わりに近づいていった。
沢高のオールコートマンツーマンディフェンスが功を奏し、残り時間が三十秒を切った時点で沢高は洛央を一点差にまで追い詰めることに成功していた。
「ここ一本! 絶対取るぞ!」
「「おう!」」
沢高のスローインから始まる最後になるかもしれない攻撃に、両チームとも今日最大の集中力を見せていた。沢高のオフェンスがなかなか洛央のディフェンスを崩せない中、最初のシュートチャンスを作ったのは、やはり廉だった。
廉は中に切り込んでストップからのジャンプシュートを打った。しかし大吾の反応は速く、指先でシュートの軌道を逸らされてしまった。
結果、沢高の想いが込められたシュートはリングに弾かれた。
皆の視線がボールに集まる。リバウンド勝負を制したのは神谷だった。
神谷はそのままシュート体勢に入ろうとしたが、気迫に溢れた洛央選手にダブルチームで囲まれ、とても打てる状況ではなかった。
厳しいチェックに耐えた神谷はかろうじて多田にパスを出し、沢高は一旦攻撃体勢の立て直しを図った。
洛央にとって最も警戒すべきスコアラーである廉は、大吾がボールを持たせないディナイディフェンスで鉄壁の守りを見せている。
このコート上で誰よりも3ポイントシュートを決めている戸部もマークが厳しく、振り切れていない。
雪之丞はダンクとレイアップシュートしか打てないため、ゴールから距離のある場所でパスをもらっても勝負できないし、神谷のマッチアップは洛央一のディフェンスの名手だ。ブロックされたときのリスクを考えた方がいいだろう。
多田はボールをキープしたまま、攻めあぐねていた。
「多田! 時間がないぞ!」
ベンチから宇佐美の声が飛んだ。多田はなんとか確実に点を取れる環境を作ろうとしていたが、洛央の完璧とも言っていい隙のないディフェンスを前に手段を断たれ、最終的には彼自身が無理な体勢からのシュートを打たざるを得なかった。
入れば御の字。外れれば――。
「リバウンドだ! 取ってくれえ!」
多田の懇願を耳にしながら、雪之丞は園田とのリバウンド勝負に全集中力を注いだ。
ブロックアウトで不利な状況にあった雪之丞は、ボールが落下するまでに園田より優位なポジションに入らないとリバウンドが取れそうになかった。
リングにボールが当たり、跳ねる。
依然として、雪之丞はポジション負けしている。このままではリバウンドを取られる。
そしてその瞬間、沢高の敗北が確定する。
「……うおおおおおおお!」
ポジションが悪くても、もう跳ぶしかなかった。
二人が跳んだのはほぼ同時。
リバウンドを制したのは――!
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