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第二部 ムーンダガーの冒険者たち

2-10 作者は誰?

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「あーごめん、これケイの持ちネタ」

「チビすけには全くウケなかったけどな!」
「…」黙ってケイのことをジト目で見つめる。

リュリュが隣に座っていたジュノーの頬をむいっと引っ張ると、そこにはヴァンパイアの象徴、鋭い牙があった。ジュノーは話す時にあまり口を開かないので、今まで気付くことがなかった。

「自分の唇とかよく噛んじゃって大変じゃないですか?」と聞くと、二人は目尻を下げて微笑んでいた。温い視線がなんだか恥ずかしい。

「まあご覧の通りジュノーはヴァンパイアでしょ」
「はあ」
「で、俺がハイエルフ」
「はいえるふ…」

シモンちゃんの方を見ると、ふるふると首を振っていた。「ネタの宝庫すぎる…」青い顔のまま目を輝かせているシモンちゃん。

リュリュが紫水晶のように透き通った髪を高い位置で一つに結う。その長い髪の下には"エルフ耳"があった。

「ハイエルフもヴァンパイアと同じくらい少数の種族だ」
「僕ら強くて長生きだからねえ」

事実を一つ一つ示してくれるのはありがたいのだが、情報に平手打ちを食らっているような感覚でいまいちピンと来てない。

「でも…お二人からは怖い感じが全然しないです」
「抑えてるからねえ、いろいろと」

身体的特徴を隠せば人族と変わりないように見えるが、本来の強烈な魔力を抑えないと人族の中では暮らせないということらしい。確かに僕自身、彼らを人族だと思い込んでいた。

「俺たちを探すために魔力探知能力を鍛えてる子もいるって聞いたよ。そもそも戦闘用の能力なんだけどねえ」
「リリはやらなくていい」
「は、はい」

そんなこと言われなくてもやりませんよ…というか出来ませんよ。市井で暮らす一般人には普通魔力探知なんて縁がないのだ。

ふと気になってちらりと視線を向けると、ケイがドヤ顔で待っている。こんなぶっ飛んだ二人と組んでるってことは…さてはアンタにも何かあるな?

「この人は勇者の子孫です」
「…じゃあ人族ってこと?」
「え、まあそうだけど」
「なんだ~!」

思っていたよりびっくり感がそこまでない気がする、と胸を撫で下ろしているとシモンちゃんがこそっと耳打ちしてくる。

「俺は…勇者の子孫が一番ヤバいと思うよ…?」


 -----------


「どうして俺達が有名かわかったでしょ?」
「希少種大集合びっくりパーティだからだな!」

あと顔が良い。

先程は真面目に聞いてたのにふざけ出したので思わずジト目を向けてしまったが、この人達の顔がいいのは確かだ。

希少種族。お金持ち。顔良し。性格も…良し?

「そんな皆さんと3ヶ月も一緒に旅が出来るなら、そりゃステラの競争率も恐ろしいことになるわけですね」

僕が”ステラ”と言ったのに反応して、3人が目を見合わせる。

「「「…はああ」」」

でっかいでっかいため息だ。

「一体何があったんですか?」
「人気のパーティのステラが競争率高くなりがちってのはオレらも知ってたんだよな」
「例の小説が流行り出してからだよねえ。勢いが増しちゃって…本当困ってるの」
「小説?」
「そ」

話を遮るように個室の扉をノックする音が聞こえた。静かに扉が開いた後、それぞれの目の前に料理が配膳される。ユンの方を見ると餌皿が出されていた。彼らは慣れた様子というのか、少しつまらなそうに料理を見つめると淡々と食事を進め、小説の話を続けてくれた。

「元々は旅に出たパーティと護衛対象の恋愛小説なんだけど、それが発端で『旅を通してステラとパーティメンバーは恋仲になれる』って噂が生徒の中で盛り上がっちゃってさ」
「もう所構わず!って感じだよな。ステラにして下さい~って追いかけ回されんだ」

ジュノーが口元に運んでいたフォークを途中で止めて皿に戻した。何か嫌なことを思い出して食欲が失せてしまったらしい。

「年頃の子供の想いってのは誰かに言われて止まるもんじゃないからねえ、しょうがないところはあるよね」
「小説に罪はないってのはわかってんだけどな。オレは正直言って恨むぜ…その本書いた"シモン"ってヤツ」

ん…?

小説とシモン…?

バチン、とシモンちゃんと視線がぶつかった。恐る恐ると言った感じでシモンちゃんが口を開く。

「…その小説って」
「『遥かな旅立ちを君と』ってタイトルだろ」
「略して"はるきみ"ね」

ぺしょん、と音がした。
シモンちゃんの耳が力無く垂れた。

「あー俺…です…」
「あん?」

「その小説の作者…俺ですぅ…」

例の小説の作者先生という彼は、消えてしまいたいといった様子で、椅子の上で身体を縮めて蹲っていた。

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