嘘の多い異邦人と面倒見の良い諦観者たち

村川

文字の大きさ
18 / 190
七月

ワンダーフォーゲル部に関する諸問題 5 始末

しおりを挟む
 話し合いはなんとか穏便にまとまった。プレッシャーの掛け合いはあったが、怒鳴り合いにすら発展しなかったのだから、穏便と表現したい。
 関係者への聞き取りと、残っていた資料の調査によって、ある程度の実態が判明したのは、結局半月後だった。登山のインターハイは終了しており、既に八月も半ばだ。その間、調査に駆り出されたお陰で帰省は叶わなかった。母親に泣かれたが、内々で処理したいという思惑が重なってしまった以上、どうにもならない。氷川としても、毒を食らわば皿までという心境だった。
 結果、伝聞の伝聞の更に伝聞だったはずの横峰の証言はほぼ事実に即していた。過去の部員を今更処罰することはできないが、寄付金名目でいくらか納めさせたらしい。また、驚くことにきちんと企業の形態を取っており、学外の社会人を取締役として警察に営業の届け出までしていた。他にも成人向けのサービスも経営しているその人物が帳簿の管理なども行なっていて、無駄な真面目さに呆れてしまった。横峰の立場は責任者ではなく中間管理職だったわけだ。その経営者には横峰からきちんと話が通してあり、三年生の暴走には呆れた顔を隠さなかったそうだ。
 調達した資金の着服どころか正規の部費の横領まで判明した三年生等は停学期間が伸び、今後ワンダーフォーゲル部および部員への接触を禁止する旨の誓約書を作らされた。違反した場合に備えて退学届まで書かせたのだから、本気の度合いが知れる。
 現部員は横峰以外は出張ホスト紛い行為について把握していなかった。駆り出されても単にデートに付き合わされているだけと考えていたらしい。実際はどうあれ、当人がそう言うならばそれ以上の検証はしようがない。ただ一人事実を把握してた横峰は、強要されていた事実と告発者であるという二点をもって、斡旋補助行為に関しては相殺することになったらしい。部活は一ヶ月の活動停止と、三ヶ月の大会出場停止。現部員と引退した生徒は揃って自室謹慎と反省文を言い渡されたそうだ。その現場までは、氷川は同席していない。事務処理に動員されていた。
 既に下された処分を説明する夏木の声に耳を傾けながら、氷川は紙コップにフレーバーウォーターを注ぐ。今日は広い会議室を二人だけで独占しているため、過日の学院長室と違って呼吸しやすいのが助かる。長机に並んで座った夏木が、遠慮なく紙コップを手に取った。
「顧客に関してはどうするんです?」
 一応は関係者だからと話してくれた夏木に、気になった点を尋ねた。顧客は全てが女性で、部外者だ。この学院の名前に惹かれて集まったとしても、この学院の名前を保つ義務も義理もない。卒業生や在校生、保護者達と違って利害関係のない間柄だから、適切な処理が出来なければ事態を表沙汰にされる危険性がある。
「顧客リストを参考に、連絡があった相手には折り返し謝罪と返金で対応してる。納得して貰えない場合は色をつけてるから、集めた寄付金がどれくらい残ってくれるか考えると頭が痛いよ」
「全部の顧客に事情を説明したりはしないんですね」
「長期間利用がない人もいるんだ。もう飽きてるなら、わざわざ掘り返す必要はないよね」
 なるほど、そういうこともあるのか。確かに飽きることもあれば、引っ越しや生活環境の変化で利用できなくなることもあるだろう。納得して頷く氷川とは対照的に、夏木は盛大に溜息を吐いた。
「全く、悪いことしてるっていうのに、ちゃんと部内でも収納帳や顧客リストの管理・保管をしてたのは大したもんだよ。本当に代々引き継いでたんだとよく分かる内容だった。まさか会社まで作らせてるとはな」
「それは同感です。おかげで処理しやすかったですし、真面目でいいじゃないですか」
「まあな。将来、仕事で悪いことをするためのスキルになってなければいいんだけど」
「……そうですね」
 発端となった卒業生はまだ大学生だが、仕組みを作った人物は既に社会に出ている。学生時代に法律ギリギリの会社に関わっていた名門校出身者なんて、悪いことしかしなさそうだ。良心に期待したい。OBの不祥事で学名を穢されたら、今の苦労が水の泡だ。
 不吉な想像を頭から追いやり、紙コップに口をつける。シュガーレスのミントウォーターは生温くてもすっきりした風味だからなんとか飲める。ペットボトルから手酌で紙コップを満たした夏木が、真面目な顔で氷川に向き直った。
「氷川の協力には本当に感謝してるんだ。発覚したのが夏休み期間中だったのもあって、大々的な騒ぎにならずに済んだし」
「それはたまたまです。やめると決断したのは横峰くんですし、彼に怪我をさせた三年生の先輩達も誰かの指示で行動したわけではないですし」
「タイミングに関してはね。でも横峰は、氷川からお説教されて決心がついたって言ってたよ」
 夏木が嬉しそうに言う。氷川は内心で舌打ちした。自分で反省したことにして、点数を稼ぐ気はないのかと呆れてしまった。
「本音を言うと、横峰くんには悪くないタイミングだったと思います。何事もないのが一番でしたけど、怪我しちゃった以上は部活できませんし、対外的には主将が怪我をしたのをインターハイに出ない理由にできたので。引責辞任にまで発展しなくて済んで、ほっとしてます」
 告げると、夏木が目を見張った。それから、心底嬉しそうに顔を綻ばせる。
「随分と仲良くなったね」
「……ですね。雨降って地固まるってやつですかね」
 あんなにも突っかかってきた横峰が、いつの間にか嫌いな相手ではなくなっていた。そんな自分が不思議だ。彼には彼の理由があったはずだと思えるようになった。機会があったら聞いてみたい。
「良かった。横峰が、氷川と話したいって言ってたよ」
「そうですか。いつから会えます?」
「新学期には謹慎も解けるから、夏休み明けだね」
「分かりました、休み明けですね。とはいえ、ろくに休めませんでしたけど」
 補講に講習に大量の課題、更に今回の調査と、学校がある時よりも忙しかった気がする。夏木はフォローのしようもない風に、乾いた笑い声を上げた。
「それはお疲れさま。でも俺たちも調査に研修に講義に忙しかったから、おあいこだよね」
「先生はそれが仕事じゃないですか。こちらはただ働き同然ですよ」
 協力の謝礼として夏期講習費用を免除して貰ったので、完全な無賃労働ではないが、あえて苦況を訴える。もっとも、最初の段階で乗りかかった船とばかりに深入りしたのは氷川のほうだが。
 そんなやりとりがあり、夏休みいっぱいは横峰と顔を合わせることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。 今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。 そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。 これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに?? 王子は跪き、俺に向かって言った。 「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。 そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。 「ずっと好きだった」と。 …………どうなってるんだ?

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...