【完結】親の罪で売られた娼夫が、硬派な特務中尉と『自由恋愛』に至るまで

かおる

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 あの森の奥の研究機関は穏やかな場所だった。

 両親や兄が精を出す家業は肌に合わなくて、国費制度を使って王立学院まで進み、好きな植物を研究する。
 半年前か、一年前までか……そんな夢のような暮らしをしていた。

 フィールドワークで教授について歩く木立ちが、春になるごとにロゼルたちを迎え入れる。
 風を受けると自然と切れ込みが深くなる葉が嬉しそうにそよぐ。
 岩陰の苔に、水の中に咲く白い花。
 蔓性植物と共存する大樹。

 森は死なない。自分が死んでも森は生きる。

 だから自分はこのまま研究を続けて、いつかは大好きな森に葬ってもらうつもりだった。

 静かな研究所に、軍靴の音を響かせて物々しい王立軍がやってきたのは入所から三年目のこと。


「ロゼル・アルディナだな」


 一切の温情を感じさせない軍人が告げたのは、父の関与した贖罪符偽造事件。

 聖なるルーメニア大教皇に背く最も汚い罪だ。
 中央の有力者や、教会関係者数十名が一斉検挙されたこの大事件――関連逮捕者は家族にまで及んだ。

 母や兄は偽造に直接協力しており、父もろとも有罪。極刑。

 同じく事情を知っているものとして取調べを受けたロゼルは、実家に寄り付かなくなっていたのが幸いしてか、数ヶ月の後に保釈が認められた。

 しかし、家族の犯した罪はあまりに重い。
 無罪であっても保釈金が必要なのだという。

 当然家財のすべてを差し押さえられたアルディナ家に金が払えるはずもなく、ロゼルは弁護人の紹介で身元保証組合に肩代わりをしてもらうことになった。

 それが更なる転落の始まりだ。

 ロゼルの身元は、保釈金を払った闇稼業のものとなったのである。
 彼はそこから、ずっと鈴に繋がれている。



【2】




「君に拒否する権利があるとは思えない」


 ベッドに腰掛けたジェダイトが指で顎をさすり、感情の窺えない緑の目でロゼルを見た。

 今夜もまた『相部屋』だ。風呂を使ったジェダイトはすぐにまた外出着に着替え、いつでも飛び出せるような格好をしている。それほど逃亡の機会が多いのだろうか……軍人とは言え、特務局の中尉殿は汚れ仕事が多いらしい。

 対して、ロゼルは絹のローブ一枚だ。しっとり濡れた淡い色の金髪が肩から流れ落ちる。逮捕時から切っていない、男にしては長い髪だった。もちろんこの宿においてはお誂え向きで、主人には絶対に切るなと厳命されている。

 事実を述べているだけに過ぎない、ジェダイトの切れ味鋭い言葉。
 それに何も言えなくなり揺らすロゼルの瞳は熟れた桃の色。潤んで、伏せられる。


「無事に主人は信じたんだろう?この手段が有効だと理解したはずだが」

「それはそうですが、あんなこと、そう何度もは……またいつも通りで構わないかと」

「君はそもそも、何を演じればいいのかを知らなすぎる。上手くやれるなら俺だって何も言わない」


 それはもっともだ。この間の晩は実際に愛撫を施されたためにこれまでで一番真に迫った芝居――『芝居』が、出来たが、普段の出来は酷いもの。
 だから、再度同じやり方を提案されるのも当然のことだろう。


「ロゼル。……君は『名前』を手に入れて、別の国で生きていきたいんだろう。違うのか」

「……そうです……」

「では協力を続けろ。ここで俺の存在が怪しまれたら任務遂行が半年遅れる」


 指先で呼び寄せられる。その冷静すぎる態度も行為を躊躇う理由の一つだ。自分のどんな姿を見てもなんの反応も示さないジェダイトが、ロゼルの羞恥を煽る。


 膝でベッドに上ると、言われていた通りに自らローブを脱いだ。
 頼りない薄布一枚で保っていた矜恃が儚く落ちる。
 客をとっていない分、あまり食べさせて貰えず痩せてしまった身体は貧相なことだろう。幸いなのは、ジェダイトがロゼルに欲情してこのような『こと』に及ぶわけではないことか。
 嫌がるでもなく、ただ任務と国と教義に忠実にロゼルの肩を引き寄せた。

 ロゼルの表情は引き攣り、呼吸が大きくなる。
 裸のままで体格のいい男に拘束されるのはとても心許ない。

 今夜は、後ろ向きに抱き締められた。
 当然そこは反応するわけもないのだが、ジェダイトの硬い掌は遠慮もなく柔らかなものを包み込んできた。
 何度か刺激されてもロゼルはこの前のような反応を返せない。それもそのはずだ。性欲をかきたてられているわけでもないのに、都度同じように反応を返せるわけはない。


「……ぅ……、すみませ……」


 居た堪れない。そこから顔を逸らしたままで小さく呟く。
 反応しないそこにオイルを垂らされてもじんわりとした芯を持つばかりで、無言のジェダイトの手つきは前と変わらず器用なのに、熱が灯らず焦りが募る。

 性的な興奮を憶えるためのきっかけとなる想像も、ロゼルには乏しい。
 女性を見てもそのような気持ちになったことは無かったし、学生の頃に生理的な反応を何度か鎮めたことがある程度だ。
 どうすればいいのか分からず、その追い詰められたような気持ちが余計に快感を逃がしてしまう。


「……とことん向いていないな」


 ジェダイトの声がした。胸板にもたれかかっているので背中に響く深い声だ。


「……それなのに、君が娼夫とは。少しは覚えた方が自分の為だろう」

「……え……、っあ!……なに、そこは……」


 呆れられたのかと頼りない角度の眉を更に落としたが、ジェダイトは止めなかった。
 オイルまみれの指がロゼルの白い胸元に上がってきて、肌色が濃い部分に滑りを塗りつけるように触れられる。
 そんな所に触れる意味が分からず、驚いて脚が揺れると小さく鈴の音がした。


「どうすれば力を抜けるのか、それだけ覚えろ。強ばりすぎている」

「ン……」

「君のきっかけを探る手伝いくらいはしてやる。……協力者だからな」


 ぬるる、と細かく円を描くように彼の両の中指がロゼルの胸先を撫で回していく。妙な気分だった。うっすらと擽ったいような感覚に身体が縮こまり、体重を預けきれていなかったジェダイトの胸にしっかりもたれかかってしまう。

 やがて小さくてやわらかな粒が形を作った。オイルで照るその部分に、ジェダイトは中指の先端で引っ掻くような刺激を始める。カリカリ、とあまくいじめられると切ないような痺れがあった。
 ふう、ふう、とロゼルの呼吸があがっていく。
 気付くと先程より陽物が立ち上がっている。
 どうしてジェダイトには、ロゼルも知らなかった快感のきっかけがわかるのだろう。


「もう、……もう、いい、ので」


 胸だけで身体が竦んでしまうようになる。劇的な快楽には遠かったけれど、親指と示指でつまみ上げて捻られればカクンと頭が跳ねた。
 ジェダイトの顔がロゼルの肩に乗り、胸から離れた右手が再びそこを包む。今度は上下に擦られると素直に感じてしまう。


「……っ!ん、……ん」

「声を。指で口をこじ開けられたいのか?」

「……っぁ、ああ、……ぁ、ん、あっ、あっ、あっ」


 手の動きに合わせて声が漏れるようになると、ロゼルの身体もあの時の感覚を思い出したようだ。乱れていく喘ぎに合わせるようにしてしっかりと硬さを持つようになり、その分扱きやすくなったのか手の動きが早まる。
 ジェダイトは左手の動きも止めなかった。粒を強く摘んでは滑って逃がすのを繰り返していて、そのせいで上半身から力が抜けてしまう。


「~~ッや、胸、もういい、……いいです、へんなの……あ、あぅ」

「具合は悪くなさそうだが」

「や、ん、ぃ、わないで」


 恥ずかしい思いをさせる目的ではないだろうに、感じていることを示唆されると羞恥でよわい気持ちになった。よわくて、甘ったれた気持ちだ。
 分かっているなら、はやく……そんな言葉が淡く脳裏を過ぎる。


「あぁ……っ!はっ、はぁっ、あ、あ……!あー……っ」


 覚えたての快感に、抗わずに。
 ジェダイトが求めるまま波に身体を乗せていく。
 いく、いく、と呟く声が甘くなっているが、これも彼が望むからだ。仕方の無いことだ。
 一定のリズムで上から下まで、輪にした指がじゅこじゅこと絞り出していくような強い刺激を施された。
 胸は中指がくりくりくりっと連続して粒を掻く。


「いく、ぅ……いっちゃう、出ちゃ……っ!
 んッ!っあぁぁ……!……っあ、……っ!」


 シャン!と脚が跳ねた鈴の音がして、飛沫が上がる。前の時より少し勢いが激しい。止まらない手の動きに合わせて何度か絞られるとその都度鈴が音を立てるので、脚がビクついているのがよく分かってしまう。

 強くて全身に及んだ快感に、すぐに倒れ込んだ。肌が汗ばんでいる。
 ジェダイトは汚れた手を処理して、脱力して動けないロゼルにシーツをかけていった。
 優しさなのだろうか?この軍人が?
 理由は分からなかったが、疲れて、少し空腹でもあったので、シーツに溶け込むようにロゼルは瞼を落とした。
 




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