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しおりを挟むヴァルデン聖王国。
偉大なる絶対神ルーメニアの加護最も篤き、尊い国。
どんな遠方であっても、どんな貧民であっても教徒が一度は詣でたいと願う大聖堂が建つ首都は、ルーメニア大教皇とヴァルデン聖王のいずれもおわす清い場所。
常に人が流れ、ものが集まり、金が注がれる。
そんな土地には善人も訪れれば、悪人も吹き溜まる。
来年は十年に一度の『天誓の日』だ。教義に反する首都の泥を洗い流さなければならない。
ジェダイトはそのために特務局から派遣された。
巡礼者の宿を始めとする数々の売春宿……娼夫を囲う教義違反をひっそりと犯し、裏街の陰を色濃くする裏社会の一斉粛清を狙う。
そのために内部に入り込み、顔を売って繋がりを作らなければならない。
教義と命令に忠実であることを理由に王立軍から引き抜かれたジェダイトは、一人の娼夫を協力者とした。
彼は隠れ蓑だ。
ジェダイトが扮する遊び人の客が裏街に入り浸る『理由』だ。
嫋やかで、控えめで、泥に塗れても美しい。
ロゼルはうってつけの娼夫だった。
【3】
「あ……ッン、あっ!あっ!だめ、だめっ!
だめ、も……っ!」
「もう少し保たせろ。少し先に耳番がいる」
限界を告げる声。揺さぶられる身体に合わせて鳴る鈴の音。ベッドが軋み、シーツの中では二人の男が身を寄せあっている。
宿の廊下を絶えずうろつく「耳番」は御用聞き兼見張りだ。この商売が非合法であるだけに、客室内で宿に不都合なことが行われていないかどうかも含めて見回っているのである。実際は、娼夫の淫らな声を聞いて楽しんでいるのが殆どだ。
ろくな男たちではないが、彼らに聞き咎められると娼夫は勿論、客にも都合が悪い。逆に言えば、耳番さえ騙せてしまえばある程度仕事が楽になる。
気配を察知しているジェダイトは、扱いていたロゼルの陽物の根元を堰き止めた。
効果的なタイミングで派手な声を聞かせなければ意味が無い。
「……ッう……!む、り、ぁ……!」
「『娼夫』らしく振る舞え。……まだイくな」
「や、っ!い……かせて、くださ……っ」
シーツの中とはいえ、脚を大きく開き、交合っているような姿勢で屹立を扱かれ続けていたロゼルにとってはたまったものではなかった。
あと少しで終わる、快感を解放できると思っていたのに。
腹の奥が震えて、放ちたいとばかり考える。
ジェダイトと出会ってからもう二週間になる――彼の確実に自分を責め立てる手に慣れてしまったのか、自分は元からこんなに淫らな性質を隠し持っていたのか。
一人で精を散らすこと自体は恥じらうのさえ無駄なほど回数をこなし、今はジェダイトの都合に合わせて乱れてみせるだけだ。
「……あと一部屋だ。近付いてから」
「で……も、……ぁ、引いちゃう、……待って、ぇ」
止められ続ければ、掴みかけていた絶頂の兆しが遠のいてしまう。虚ろな眼差しでなんとか保たせようと腰を揺すっても快感はやってこない。反射で脚先が揺れて、足首の鈴枷が鳴るだけだ。
「……っあ、あ、はやく……ぁん、はぁ……ん」
ロゼルの指が己の胸先に伸びた。
赤くぷっくりと腫れたその場所は、いつも行為の始まりにジェダイトから刺激されるせいで過敏になってきている。
「ゃ、あ……あ……!ジェダ、……さんっ、……まだ……っ?」
ここを摘んで、くりくりと捻って、かいて……そうすると気持ちがいい。
覚え込まされたロゼルは自ら乳首を指で弾いて、一生懸命快楽を繋ぎ止める。
白い肌に血色が浮かび上がり、それよりさらに赤い陰茎の先が哀れなほどだ。
ジェダイトはロゼルを見下ろしていた。気配を探って黙っているのだろう。
不意に身体を伏せてくると、ようやく解放されるのかとロゼルがほっと気を緩める。
「……、え」
熱い息が胸元にかかった。
ちゅう、と乳首が吸われる。
「ッあぁ、あっ、あ!」
初めての感覚に首を逸らした。同時に下腹部の戒めが解かれる。
急に戻ってきた強い解放への欲を駆り立てるようにジェダイトの手がロゼルを責め立てた。
尖らせた舌は乳首を埋め込むほど強く押して舐めて、かと思えばきつく吸いついて、心臓に近い場所での快感は力が抜けてしまう。髪が肌を擽っているのですら堪らない。
留めるものも逆らう理性も何も無くなって、ロゼルの足先がぴんと伸びた。伸びてから震えるので、鈴が鳴りっぱなしになる。
「ぁう、んあっ……!あっ!あーっ!
やぁあっ!あん、いく、いくいくいくぅ……ッ!!
いくっ……!――ッあぅ、……ッぅ、……ふ」
最後にいっそう硬くなったロゼルの陽物が弾けて、熱が散った。
腰が思い切り逸れて、何度も大きく痙攣するような達し方だった。今までで一番深い。
最後にかりっとあまく乳首をかじられたことで、あぅ、と甘ったれた声が出てしまった。それでも目の前が白んで訳が分からなくなってしまい、ジェダイトの熱い身体が離れたことによる寒さだけがわかった。
片方の胸が唾液に濡れていて、その下には精が撒き散らされ、あまりにいやらしい。
ベッドを降りていったジェダイトはそのままドアへ近付いて行ったようだったが、ロゼルは疲れて指先も動かせない。
かろうじて下腹部にシーツを纏わせているだけ。あとは身を投げ出した、いかにも「事後」だ。
ジェダイトがドアを開けた。
さすがに驚いたが、耳番と何か話しているらしい。
手短にやり取りを終えると戻ってくる。カモフラージュのため、今のジェダイトはバスローブを緩く纏っているだけだ。筋肉の厚みがよく分かる。ベッドの傍らまで来て見下ろされる、彼の緑の目もすっかり見慣れてきた気がする。
「……」
「食事を頼んできた。多めに金を握らせたからすぐに来る。食べたいなら起きておけ」
「……けほ、……珍しいですね」
もちろん宿屋であるため、ここでは食事を頼むことも出来た。しかしジェダイトは高い宿賃を払っているのに使うのは「ベッド」くらいなもの、あとは水を浴びる程度で、部屋に持ってこさせるのは初めてだ。
ロゼルがやっと動けるようになってくると、息を整えながら身体を拭く。肋が浮くのもあと少しだろうか……薄っぺらな胸はジェダイトのそれとは大違いだった。だから食べ物が貰えるのは有難い。
客を部屋から帰して、それから一食提供を受け、運が良ければ昼にも食べられる。娼夫に出されるパン粥程度の食事は皮肉にも「巡礼者の宿」らしい代物だった。
「……お客はこんなものが出されるんですか……!」
「だから娼夫にはろくなものを出さない。腹が空くなら客にねだれということだ」
「お、教わりませんでした……」
食べておけ。
運ばれたローストされた肉料理や濃厚な野菜のスープの前にロゼルを座らせ、それだけ言ってジェダイトは水を浴びに行った。残されたロゼルは神に祈りを捧げ、有難く食べ始める。久々に濃い味がして顎が痛いが、頭がはっきりしてくるようだ。軽い栄養失調だったのかもしれない。
ジェダイトの任務がどれだけ続くのか。昼間は何を調べているのか。ロゼルには知らされていない。
ただ、無事に任務が達成できた時には恩赦として、ヴァルデンを出て別の国で暮らすための手続きを取ってもらえる。
この宿で実際に客をとっている娼夫にはそれは許されない。一度でも教義に反した時点で、少なくとも服役しなければならなくなる。
ロゼルは娼夫にしては歳がいきすぎており、また初物は値が張った。だからか、ジェダイトが買ってくれるまでは売り物にすらなっていなかったのだ。
幸運だと思う。最後のチャンスなのだ。
どこの国でもいい。追放でもいい。
森の湿った土の上で死にたいから、ロゼルはここから出たかった。
そのためにこんな豪華な食事をしているのが不思議だったが、今はジェダイトに協力しているのだ。
するのは……体力を使うので、食べておかなければならない。
いくつもいくつも言い訳をして食べ終え、匙を置いた。手を合わせ食後の祈りを捧げる。
「……美味しかった。神よ、お恵みに感謝いたします」
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