女だからって舐めないで

佐藤なつ

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影との遭遇

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 石壁に浮かぶ紋様から、黒い影がずるりと滲み出した。
ズルズルと全容が出てくる。
 目も口もなく、ただ不気味に揺らめく輪郭だけがある。

「っ……!」
 思わず杖を構える私。

「お嬢様、下がって」
 先生の声がいつもの軽やかさを失い、鋭い響きを帯びていた。

「こいつ……ただの魔獣じゃないな」
 レオンが剣を抜き、影を睨みつける。



 影が呻き声のような音を立て、腕らしきものを振りかざした。
 瞬間、黒い稲妻のような魔力が奔る。

「危ない!」
 レオンが私の前に飛び込み、剣で受け止めた。
 火花が散り、衝撃で彼の足が石畳を削る。

「くっ……重い!」



 影は怯むことなく、今度は私めがけて襲いかかってくる。
 冷たい殺意が肌を刺し、身体が凍りついた。

「──触らせないわよ♡」
 先生の扇子が一閃し、風の刃が闇を裂いた。
 影の動きが一瞬鈍り、私の目の前で攻撃が逸れる。

「お嬢様、立って! あなたの魔力が必要よ」



 震える指先に力を込め、私は詠唱を紡ぐ。
 光の矢が編まれ、影に向かって放たれた。

 だが──影は呻き声をあげ、魔力の渦でそれを飲み込む。

「なっ……!」
 失敗の焦りで胸が締めつけられる。



「大丈夫だ、リディア!」
 レオンが再び前に出て、剣を振り下ろす。
 鋼の煌めきが影を裂き、断末魔のような叫びが夜空に響いた。

 影は黒煙となり、石壁の紋様も消えていく。



 荒い息をつきながら、私は地面に膝をついた。
 手が震えて止まらない。

「お嬢様……」
 先生がそっと肩を支える。
 その眼差しは優しいけれど、どこか遠い。

「俺が守る。だからもう無茶するな」
 レオンは真剣な声で言う。

 二人の言葉が交錯して、胸の奥がどうしようもなくかき乱された。

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