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第7章 二度目の実践授業は大ピンチ!
(5)けんか
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「ロゼ、待って!」
イエローさんを追う魔犬の姿は、木々にまぎれて見えなくなる。ぽつりと、鼻先にしずくが落ちた。降り出した雨はあっというまに本降りになって、ざあざあと音を立てはじめる。
「ねえ、ロゼ……! ロゼってば! イエローさんひとり、置いていけないよ!」
「――おとりになるって言ったのは、彼女よ。任せたらいいじゃない」
ロゼはやっとふり返った。わたしは次の言葉に詰まる。ロゼのぬれた髪からのぞくひとみが、冷たかったから。ぞっとした。――イエローさんの心配なんて、ぜんぜんしていない、そんなひとみだ。
(なんで、そんな目をするの……?)
「先生がいれば、どうにかなるでしょ。わたしたちは逃げて、先生を探すの」
それは、そうかもしれないけど……。でも、そうじゃない気もする。イエローさんひとりに、危険なことを任せていいわけないのに。
「……やっぱりわたし、もどるよ!」
「それはだめ!」
腕をぐい、と引かれる。
「なんで!?」
「リリイは、ただの人間なんだから無茶しないで! なにもできないでしょう!」
なにも、できない? ……なに、それ。頭を殴られたみたいな衝撃と、胸を刺されたみたいな痛みがした。それって……。
「――それって、ロゼは、わたしが役立たずだって思ってるってこと?」
「え?」
わたしは、ロゼの役に立ちたい。でもロゼは――、わたしを信用してないのかな。所詮、代打の執事だって、ロゼも思ってるの?
なにもできないなんて、わたし、一番、言われたくなかったのに。
「ロゼまで、そんなこと言わないでよ!」
「リリイ……? どうしたの」
だめだ、胸がどろどろ、ぐちゃぐちゃになっていく。わたしの気持ちをわかってくれないロゼに、怒りたくて。でも、わたしのせいで怪我をさせたことを、謝りたくて――。胸の中はぐちゃぐちゃなまま、言葉が勝手にあふれていく。
「ロゼは、イエローさんのことが嫌いだから、助けたくないだけだよね?」
「……それは」
「いまは、イエローさんだって魔法が使えない。危ないんだよ。なのに、ロゼはイエローさんが嫌いだから、見捨てようとしてるんでしょ」
「見捨てるなんて、そんな」
「そういうことじゃんか!」
ロゼを責めたいわけじゃないのに。なのに、どうして、言葉が止まってくれないんだろう。
「仲間を見捨てるのは、やさしくない。そんなロゼ……、わたしは嫌い!」
ロゼが、はっと息をのむ。
「そんなの、ぜんぜん、すてきなお嬢さまなんかじゃないよ!」
わたしは、肩で息をして、思い切り叫んでいた。だめだな、こんなの、八つ当たりだ……。
「……なんで、そんなこと言うの?」
ロゼが、ぎゅっと眉を寄せる。ひとみに、じわりと涙が浮かんだ。……え。
「わたしだって……、いつもだったら、助けようとするわよ!」
目もとを真っ赤にして、ロゼが叫ぶ。
「でも、イエローさんが、わたしのこと貧乏だって言ったから……! わたし、頑張って入学したのに、なんで、そんなこと言われなきゃいけないの! ひどいことを言う、イエローさんが悪いんじゃない!」
大粒の涙がぽろぽろと、雨とまざって、ロゼの頬を流れていく。
「なんで、リリイまでそんなこと言うのよ!」
ロゼの声が、頭にキン、と響く。はっとした。
(……どうしよう。ばかなことを言っちゃった)
わたし、ロゼのつらい気持ち、わかってたはずなのに。
イエローさんを追う魔犬の姿は、木々にまぎれて見えなくなる。ぽつりと、鼻先にしずくが落ちた。降り出した雨はあっというまに本降りになって、ざあざあと音を立てはじめる。
「ねえ、ロゼ……! ロゼってば! イエローさんひとり、置いていけないよ!」
「――おとりになるって言ったのは、彼女よ。任せたらいいじゃない」
ロゼはやっとふり返った。わたしは次の言葉に詰まる。ロゼのぬれた髪からのぞくひとみが、冷たかったから。ぞっとした。――イエローさんの心配なんて、ぜんぜんしていない、そんなひとみだ。
(なんで、そんな目をするの……?)
「先生がいれば、どうにかなるでしょ。わたしたちは逃げて、先生を探すの」
それは、そうかもしれないけど……。でも、そうじゃない気もする。イエローさんひとりに、危険なことを任せていいわけないのに。
「……やっぱりわたし、もどるよ!」
「それはだめ!」
腕をぐい、と引かれる。
「なんで!?」
「リリイは、ただの人間なんだから無茶しないで! なにもできないでしょう!」
なにも、できない? ……なに、それ。頭を殴られたみたいな衝撃と、胸を刺されたみたいな痛みがした。それって……。
「――それって、ロゼは、わたしが役立たずだって思ってるってこと?」
「え?」
わたしは、ロゼの役に立ちたい。でもロゼは――、わたしを信用してないのかな。所詮、代打の執事だって、ロゼも思ってるの?
なにもできないなんて、わたし、一番、言われたくなかったのに。
「ロゼまで、そんなこと言わないでよ!」
「リリイ……? どうしたの」
だめだ、胸がどろどろ、ぐちゃぐちゃになっていく。わたしの気持ちをわかってくれないロゼに、怒りたくて。でも、わたしのせいで怪我をさせたことを、謝りたくて――。胸の中はぐちゃぐちゃなまま、言葉が勝手にあふれていく。
「ロゼは、イエローさんのことが嫌いだから、助けたくないだけだよね?」
「……それは」
「いまは、イエローさんだって魔法が使えない。危ないんだよ。なのに、ロゼはイエローさんが嫌いだから、見捨てようとしてるんでしょ」
「見捨てるなんて、そんな」
「そういうことじゃんか!」
ロゼを責めたいわけじゃないのに。なのに、どうして、言葉が止まってくれないんだろう。
「仲間を見捨てるのは、やさしくない。そんなロゼ……、わたしは嫌い!」
ロゼが、はっと息をのむ。
「そんなの、ぜんぜん、すてきなお嬢さまなんかじゃないよ!」
わたしは、肩で息をして、思い切り叫んでいた。だめだな、こんなの、八つ当たりだ……。
「……なんで、そんなこと言うの?」
ロゼが、ぎゅっと眉を寄せる。ひとみに、じわりと涙が浮かんだ。……え。
「わたしだって……、いつもだったら、助けようとするわよ!」
目もとを真っ赤にして、ロゼが叫ぶ。
「でも、イエローさんが、わたしのこと貧乏だって言ったから……! わたし、頑張って入学したのに、なんで、そんなこと言われなきゃいけないの! ひどいことを言う、イエローさんが悪いんじゃない!」
大粒の涙がぽろぽろと、雨とまざって、ロゼの頬を流れていく。
「なんで、リリイまでそんなこと言うのよ!」
ロゼの声が、頭にキン、と響く。はっとした。
(……どうしよう。ばかなことを言っちゃった)
わたし、ロゼのつらい気持ち、わかってたはずなのに。
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