悪役令嬢の使用人

橘花やよい

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第五章 因縁と姉妹

第9話 予感

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 それからしばらくの間バルコニーで休んで、ライラ様は会場に戻った。気分は未だ優れないようだったが、王子との約束を守るためだ。

 貴族の話し相手をしていた王子はライラ様に気づくと話を切り上げて、その手を取ってダンスホールの中央に向かう。二人のダンスに「お似合いですわ」とどこかの令嬢が悔しそうに呟くのが聞こえた。

「リーフ」

 ふと声をかけられると、ディーがいた。

「久しぶりですね。最近なかなか会えなくて寂しかったんですよ。レイチェル様から事情は聞いていますが……、父君も迷惑なことをしてくれますね」

 ぶすっとした顔のディーに、私は笑ってしまった。バルド家当主の悪口を、こんな人の多い場所であけすけに言えるのは、彼くらいだろう。

「さっき、お嬢様と踊っているのを拝見しましたよ。とても綺麗でした。お嬢様は今どちらに?」
「レオンとマリーに付き添われて休んでいらっしゃいます。今日はたくさんダンスを申し込まれていて大変そうでした。レイチェル様もすっかり人気者ですね」

 お嬢様とは行き違いになったようだ。ダンスが美しかったと一言だけでも伝えたかったのに。
 ディーはおもむろにダンスホールの中央を見つめた。

「――あの方、レイチェル様の妹君ですね」

 視線の先には、ライラ様がいる。

「嫌な音です」

 ディーの声がいつもより低い。彼は深緑の瞳でライラ様を見ている。そうしてわずかに眉をひそめた。

 胸騒ぎがした。

 ダンスホールの中央で踊るライラ様は笑顔を浮かべているものの、顔色は悪い。

「音って」
「――いえ、なんでもありません。お気になさらず」
「ちょっと、待って。なんなんですか。気にするななんて、無理です」
「そう言われても、私にも説明が難しいので。失礼」

 ディーは、私が止める声を聞かずに背中を向けて去ってしまった。

「リーフ、どうかしましたか?」

 いつの間にか、ジルが隣にいた。

「いえ――」

 私は明確な答えが返せない。

 ディーの不思議な瞳。あの瞳でライラ様をとらえて、見えたものは、聞こえたものは、なんだろう。

 ライラ様は王子と踊り続ける。その姿は、頼りない。
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