ニートは異世界でチートになりたかった

お嬢

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序章

その男、ニートになる

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「あーもうやる気ないんで辞めさせてもらいますわ。」

その男が辞表を出したのは、つい15分ほど前のことであった。
男――二瀬ふたせ 修司しゅうじは勤め始めてから2か月にも満たない職場に辞表を叩きつけたのだ。

修司はどんな仕事も長続きしなかった。
彼はどこにいっても不当な評価しか受けられなかったからだ。

思えば彼の人生は不憫なものであった。
比較的裕福な家庭に生まれ育ったものの、両親の愛情は3歳上の兄に向っていた。
修司はというと、兄のおさがりのものばかり与えられ、自分だけの物はついぞ手にすることはなかったのだ。

そんな修司にも、5歳の時に妹が生まれた。
よし、これからは自分よりも下がいるからと思っていれば、両親は3人目にして誕生した女の子に関心がいってしまった。
男2人兄弟の過程に女児物があるわけもなく、妹は常に新しいものを買ってもらっていたのだ。

大きくなってからも3兄妹に対する両親の関心は変わらなかった。
兄は体こそ丈夫ではなかったものの、勉強ができた。
もちろん修司よりも年齢が高い分勉強ができるのは当然のことかもしれない。

だが、兄の頭の良さは群を抜いていたのだ。
小学校入学前にはすでに小学校で習う全過程を理解し、中学生の教科書も読めば理解していた。
それでいて兄は驕らず、謙虚な態度で授業を受けていた。
そのため教師からの評判も良く、常に両親の自慢の息子であった。

修司ももちろん頭が悪いわけではない。
人よりも勉強はできた方であったが、それでも兄には遠く及ばなかった。
そのため、修司が勉学面に対して両親の注目を浴びることはなかったのだ。

なら運動で努力をすればいいじゃないか、と修司は考えた。
兄は運動ができない。
そして両親に頼み、様々なスポーツを経験した。
修司にそれほど関心を示さなかった両親ではあるが、教育に関する資金は惜しまなかったのだ。

そこでも修司が天下をとることはなかった。
格闘技はどうしても子供のうちは年長者が有利になる。
球技などの団体スポーツはいくら修司が頑張ってもチームが強くなければ話にならない。
かといって強いチームに入ったところで修司が頭角を示すことはできなかった。

そして、決定的なのは妹の誕生であった。
この妹は、とかくスポーツが万能であったのだ。
何をさせても修司よりも上、上、上。
5歳の年齢差をものともせず、常に修司より上の成績を修めてしまった。

学校でも同じようなものであった。
どれだけ努力をしても兄よりも上のランクの学校には入れず、どれだけ努力をしても妹より部活の成績がよくなることはなかった。

就職してからも、修司は常に1番を目指し続けた。
ただ、挫折による無気力には勝てず、1度でも誰かに負けたとなるとその職場から癖がついてしまったのだ。
そのため、修司には履歴書にも書けない、短い職歴がたくさんあった。
本日付けで辞表を提出した職場も、修司にとってはもう30か所目にもなる。

「辞めたはいいけど、どうすっかなぁ…。」

帰路につきながら、修司はぼそりと呟く。
いつも行き当たりばったりな生活をしてきたが、今までに困ったことがないのはある意味才能でもあるだろう。

(適当にぶらぶらしながら、2週間くらいしたら職探しでもするか。)

それまでは、と口に出しながら修司はゲーミングPCの電源をオンにする。
慣れた手つきで操作を進め、とあるゲームを起動する。

(どうせしばらくは食いつなぐ金もあることだし、久々にゲームでもするかな。)

貯金を潰すような趣味も持たない修司は、働いて得た金のほとんどを貯蓄に回していた。
今までの生活もそうだ。
唐突に仕事を辞めては、2週間ほど今までの貯蓄で生活し、気が向いたころにまた別の仕事を探す。
意外とこれで上手くやってきたのだ。

修司が起動したゲームは、最近リリースされたばかりでまだプレイ人口も少ないとの噂だ。
もしかしたら、仕事をしていない今であれば束の間の1位にもなれるのではないか、という期待を胸に抱き、キャラメイクを始めた。
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