都立図書館の地下には『人の生』が集約する

お嬢

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王都都立図書館ビブライオ

上司登場

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―プシュー

魔動列車は高速で動き、リャオルを終点まで運んで行った。
他に乗り合わせている人は誰もいない。
一般利用が可能な駅はこの1つ前の駅までなのだから、至極当然だろう。

終点は、いわゆる職員の詰所として利用されている場所であった。
朝だというのに、もうすでに多くの職員が働いている。
誰も手をとめてリャオルの方を見ることはなかった。

リャオルは意を決して歩を進める。
目的地はすでに頭の中にインプットされているのだ。
この駅を降りてまっすぐ進み、中央詰所と書かれた場所にある扉をノックする。
それが、リャオルに課せられた職員としてのはじめての仕事なのだ。

―コンコンコン

重厚な扉をノックすると、その扉に見合った重い音が響く。
どうぞ、の声が聞こえた。
リャオルは扉を開き、室内に入る。
聞こえた声は、落ち着いた女性のものであった。

「あなたが新人さんね、どうぞよろしく。」

詰所にある椅子には、長い足を組んだ髪の長い女性であった。
濃い紫色のウェーブがかった髪は丁寧に手入れをされているのか、全く傷んでいる様子がない。
髪色と同じ色のフレームで縁取られた眼鏡の奥には、紅い色の鋭い眼光が覗いている。

「私はヴィオレ、このビブライオの最高責任者です。」

凛とした彼女の姿は、たしかに最高責任者に相応しいかもしれない。
リャオルが訪ねてくる直前まで仕事をしていたのだろうか、執務机の上には書類がいくつか乗っているのが見える。

「リャ、リャオル・リベラです!本日からよろしくお願いします!」
「うんうん、元気でいいことね。早速なんだけれど、今日は初日だからあなたの先輩について回って仕事の内容を把握してもらおうかしら。
ビブライオはただの図書館にあらず、多くの仕事があるの。これからしばらくは、一通りの仕事を覚えてほしいから…そうね、その都度仕事を覚えてもらいましょうか。」

言い終えるとヴィオレは手元にあるボタンを押す。
するとすぐに扉がノックされ、1人の少女が入ってきた。

「ハル、この子があなたの後輩にあたる子よ。いつものようによろしくね。」
「はいっ、お任せください!」

ヴィオレにハルと呼ばれたその少女が、どうやらリャオルの指導員にあたるらしい。
いつものように、ということはきっと指導慣れをしている人なのだろう。
見た目はまだ成人前にも見えるのだが、どうやらリャオルよりずっと人生経験が深いようだ。

「では、失礼いたしますっ!」

綺麗な角度で頭を下げたハルは、リャオルを連れて詰所を出る。
軽く手を振ったヴィオレの口元が小さく動いていたのをリャオルは見逃さなかった。
ただ、何を言っていたのかは聞き取れなかったのだが…。

「あ、あのハルさんよろしくおねが…」
「無駄口をたたくな新人、さっさとついてこい。」

自分の顔の位置より幾分か低い位置にあるハルに声をかけようとしたリャオルは、しばし固まってしまった。
さきほどまで人懐こそうにヴィオレと話していた少女はどこに行ったのか。
あのにこやかな表情は一変し、まるで機械のように表情がなく冷徹な瞳をリャオルに向けている。

「いいか、私はヴィオレ様のためにお前を指導するんだ。無駄なことはするな。」
「は…はい。」

リャオルは今後のことに一抹の不安を覚えた。
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