上 下
18 / 25

18

しおりを挟む
 

「んっんんっ!!」

 さっきの甘いキスが嘘みたいな乱暴な口づけのせいで呼吸がうまくできなくなる。
 苦しくて身体を押し返すが、強い力で腕を押さえられ、逃げ出せずにシーツに縫い止められる。

 噛みつくみたいに唇ごと食まれて強く吸い上げられる。
 声を上げる事も出来ない嵐のようなキス。

「ふぁ、あんっ……!」

 私の唇から離れたシュルト様の舌が顎を辿り首筋を舐めた。そのまま落ちた舌は、乱した制服の中に入り込み、私の肌をなぶる。

「や、だめっ、だめ」

 これでは最初の日と一緒だ。捨てられると思ったのに、どうしてまた私を抱くの。
 抵抗らしい抵抗も出来ぬままに私は制服をはぎ取られてベッドに転がる。
 シュルト様も乱暴に服を脱ぎ捨て私に覆いかぶさってきた。
 肌と肌がぶつかる感触は初めてで、その生々しさと刺激に身体に電流が流れる。

 うつぶせで逃げようとした私の背中にシュルト様が覆いかぶさる。
 背中にぴったりと触れる彼の胸板や腹部の堅さや熱さに眩暈がしそうだ。
 四つん這いになった私の足の間に彼の熱が入り込み、ぐちぐちといやらしい音を立てながら前後に擦れる。

「や、あゃっ、あぁつ」

 朝、注がれたものと私の蜜が溢れたせいでよく滑るその硬さは、側面で私の入り口をいじめ、先端で敏感な突起を抉る。
 背中から回された手が重力で下を向いた胸を強く揉みながら、先端を指先で抓るようにこねまわす。

「ひっ、いああっあぁ!!」

 もう言葉なんか喋れないほどの快感に腰が抜けて膝が震える。
 シュルト様の唇が私のうなじをゆるく噛む。まるでけだものだ。

「だぇ、だめ、ぁぁぁぁつ」
「何がだめだ。俺の子が欲しいんだろう!」

 ずん、と予告なしに貫かれた。
 最初から最奥まで突き込まれ、それだけで身体が絶頂に達した。衝撃で身を震わせている私の腰を掴んだシュルト様は、私の息が整うのなど当然待ってはくれず、激しい抽挿を始めた。その動きに合わせ、私の身体は哀れなほどに前後に揺れる。
 くるりと円を描くように腰を回されて、ぱん、と痛いほどに肌と肌がぶつかる程につきこまれると、私はその度にはしたなく「いく、いっちゃう」と叫ぶばかりだ。

「ひ、ひぅ、ひぃん、ああぁぅ」

 頬をシーツに付け、閉じる間もない口からは涎が溢れる。シーツにすがりつく力すらない。
 腰を掴む彼の手と、私の中に納められた凶悪な熱だけに支えられ、腰だけを浮かせたみっともない格好で私は彼の好きなように揺すられ続ける。

「きゃあっ」

 足を掴まれ、半端に転がされ横を向いた体勢になり、片足だけを上げた不自然な体位で絡むように突き込まれると、これまでとは違った場所をぐりぐりと刺激されると、私の口からはひっきりなしに甘い声が出てしまう。

「だめ、そこやぁつ、だめっ」
「俺を締め付けて離さないのにっ、よく言う」
「やあぁぁんっ!」

 そこからは本当に翻弄されるがままに組み敷かれ、鳴かされた。
 何度絶頂したかなんかわからない。ベッドの上でまるで本当に恋人、ううん、獣みたいに絡まって交わって。
 その間、シュルト様は意地になったように私から熱を抜くことはなかった。
 体位を変える際にも、浅く先端は突き込んだまま、まるで吐き出したものを一滴だって外には出さないとでも言いたげな容赦のない腰の動きに、私の身体は溶けてなくなりそうになる。

 ぶちゅっとようやくそれが抜け出た時、まるで粗相をしてしまったかのように入口からたくさんの白濁としたものが流れ出るのを感じた。
 その感覚すら私の身体は快楽と感じて打ち震えてしまう。

「あ、あぁ」

 お互いの汗や色々なもので汚れぐしゃぐしゃになり熱のこもったシーツにうつぶせに倒れたまま、私は体全部が脈打っているような激しい動悸を収める為に、必死で洗い呼吸を繰り返す。
 シュルト様が私から離れ、ベッドに座り込んでいるのが横目に見えた。大きな掌がまるで宥めるように私の背中を撫でてくる。

「アルリナ」

 何を言われるのだろう。何故またもこんなに激しく抱かれたのだろう。
 彼の子供を欲してしまった私の狡さが彼の何かに触れたのだろうか。
 あまりひどく抱き続けられると子供が流れてしまうと友人たちが話していた気がする。
 もしかしてそれが目的なのだろうか。
 視界を歪ませ頬を濡らすのが、どんな理由で溢れた涙なのかもう考えるのすら億劫だった。

 その頬にシュルト様の指が触れる。
 汗と涙でぐしゃくしゃの眦を撫で、額に張り付いた髪を優しく撫でつけられると、まるで愛されているかのような錯覚をしてしまう。

「シュルトさま」

 名前を呼べは、その指がわずかに震えた。
 力の入らない手で何とか身体を起こし、起き上がる。
 向き合うように座り込んだ私たちはお互い何一つ身に付けてはいない。

 シュルト様の身体はしっかりと引き締まっており、たくましい。
 さっきまでその腕の中に組み敷かれていたという事実にまた体が反応し、ぬるりと足の間を濡らした。

「アルリナ………っ、お前、血が」
「えっ」

 私を見つめていたシュルト様がぎょっとした様子で私の足の間を見ている。
 つられて視線を降ろせば、僅かに濁った半透明の液体の中に血が混じっている。
 あまりに激しい交わりでどこか怪我をしたのだろうかと驚くが、それは身に覚えのある当たり前の障りだ。

 すぅ、と心と体が冷え切った気がした。

「だ、大丈夫、です。月の、障りです」
「月の…………そうか」

 シュルト様の表情にも僅かに動揺が混じる。

 お互い、無知ではない。
 この出血がこれまでの日々が何も実を結んでいないことを証明してしまった。
 薬になど頼らなくてもシュルト様は何も案ずる必要がない。

「あの、私、ごめんなさい。薬、のめなくて、ごめんなさい」

 気が付けばまたぼろぼろと泣いていた。
 私の小賢しい悪事など、結局こうやって無意味になるのだ。
 子供さえできれば、たとえどんな形であれ彼とつながって居られると考えてしまったあさましさ。
 酷い扱いをされているのに、どこかで喜んでいた自分の醜さや歪さがみじめだった。

「…………」

 シュルト様は何も言わない。
 なぜ何も言ってくれないのだろう。どうして私を抱いたの。
 いっそのこと、もっと酷い事を言ってくれれば、嫌いになれたかもしれないのに。
 最初に抱かれたあの日から、彼が私に語る言葉は最中の私を弄るものばかりで、昔のように地味だ可愛くないと私を貶める発言が無かった。
 だから余計に私は混乱していた。何故、どうして、と。

 ギルバート様と何をするつもりなの、クレア様とどんな関係なの、私の事をどう思っているの。
 聞きたい事が多すぎて、言葉にならずに喉に張り付く。

 ぐしゃくしゃの私を見つめるシュルト様は無言のままにベッドを降りる。
 その背中にすがりつこうと伸ばしかけた手は空を切った。
 シュルト様は素早く服を身に着けると、私に背を向けたままに歩き出す。

 そして一度も振り返らず、私に声をかける事もなく、彼は部屋を出て行った。
 私は泣きながらシーツに身を伏せ、声を上げて泣いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追い詰められた少年は辱めを自らの意思で選び取る

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

聖女様に幼い頃救われて以降信奉者になった婚約者と、我慢するだけだった私の話

下菊みこと
恋愛
しれっと婚約を白紙にして、もっと相性の良い人と婚約し直すだけ。 もちろん元サヤではない。 何気に主人公が才能的な意味でチート。 ざまぁは添えるだけですごくささやかだけど、ざまぁみろと言いたくなる末路。 小説家になろう様でも投稿しています。

私を助けてくれたのは前世の彼氏でした。

ラキレスト
恋愛
 「バイオレット・ホワード! お前との婚約を破棄する!」  ついにこの時がきてしまった……。やっぱりシナリオ通りにしかならないのだわ……。  婚約者であるオルティス国の王太子マーロン・オルティスから婚約破棄を受けるバイオレット。このバイオレット・ホワードの前世は日本人だった。この婚約者との顔合わせの時に前世で読んだ小説の世界だと気づく。そして、自分がヒロインをいじめた挙句、殺害未遂で断罪される悪役令嬢だとも……。  それから不幸なバットエンドにならないように婚約者との仲や、ヒロインと出来るだけ距離をとった。  しかし、結果はシナリオ通りになってしまった。  絶望になって諦めかけたその時、隣国の大国であるミッチェル帝国の皇太子ラディリアス・ミッチェルが現れる。  そして立場は逆転する……。

私は貴方の性奴隷じゃありません

天災
恋愛

ルサールカ

ねぎ(ポン酢)
ミステリー
※短編集より抜き出しました(長いので)※  「ルサールカ」とは水辺の妖精。「ルサルカ」とも呼ばれるそれは、水難で死んだ女や洗礼を受けず死んだ幼子がなると言う。同名の麻薬を追う主人公は、やがて過去の忘れがたい事件との繋がりを知る事になる。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの(旧名:十神 華穂)
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

イメケンスパダリ弁護士はようやく見つけた最愛と激甘な夫夫生活始めます

波木真帆
BL
観月法律事務所の所長である、観月凌也は高校時代からの友人で、開業医をしている悠木寛人の頼みである雑居ビルに向かった。そこで違法な罰金を取りながら仕事をさせられているという悠木の大切な笹原空良くんを奴らの手から守るためだったのだが、観月はそこである男の子に出会う。 一瞬で彼のことが気になった観月だったが、空良くんと同じく騙されて雇用契約を結ばされそうになっていたその子をその場から逃すことしかできなかった。空良くんの問題を解決して事務所に戻るとさっきの男の子が事務所前に待っていた。 彼はわざわざお礼を言うために観月の事務所を探してくれていたのだ。 彼は木坂理央と名乗り、どうしてあの雑居ビルにいたのか話を聞くことに。 そこで知る衝撃の事実に、観月は理央を守ろうと囲い込むことにした。 施設育ちで学校にも通わせてもらえずに虐げられながら育った18歳の男の子とイケメンスパダリ弁護士とのイチャラブハッピーエンド小説です。 こちらは『イケメンスパダリ弁護士に助け出されて運命が変わりました』の観月凌也視点のお話です。 この作品だけ視点が交互に入っていて読みにくいという意見をいただいたので、今回分けてみました。 少しでも読みやすくなっていれば幸いです。 R18には※つけます。

処理中です...