運極さんが通る

スウ

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番外編~7月7日~

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今日は7月7日。
七夕の日である。

「るし様、今日は七夕という願い事をする日なんですよ?私と一緒に願い事を書きませんか?」

ギムレットが笹を持ってやってきた。
この世界にも七夕という概念があるようで、ギムレットから聞いたところによると、物語の内容も同じだ。
…最後以外は。

物語を所々端折って言えば、こうだ。

「むかしむかしある所に天の神様の娘、織姫がおりました。織姫は機を織るのがとても上手で、多くの者から慕われておりました。そんなある日、天の神様は思いました。娘もそろそろいい歳なのだから、婿を取るべきだろう、と。天の神様は、婿探しをしていたところ、働き者の牛使い、星彦の存在が目に留まりました。すぐに2人を引き合わせたところ、2人は忽ちお互いのことが好きになりました。俗に言う、一目惚れというやつです。…しかし、2人の仲があまりにも良すぎたため、終いには2人は働かなくなりました。働くより、遊ぶ方が楽しいかったからです。これを見た天の神様は怒り心頭で、2人の間に天の川を流しました。その事にショックを受けた2人は、いざ仕事を始めようにも何も手がつきません。その様子を見て困った天の神様は、2人に言いました。しっかりと前のように働けば、1年に1度、7月7日に合わせてやる、と。そして、天の神様は杖を一振りしました。織姫は父である天の神様に問いました。その杖で天の川を作ったのですか?と。天の神様はそうだ、と答えました。その答えに満足した織姫は、夜、寝床についた天の神様をグレイプニルで縛り、絞め殺してしまいました。彼女は月夜に照らされて、美しく微笑みました。これで星彦とずっと一緒にいられる。だが、杖は1度作ったものを消すことは出来ませんでした。織姫は狂ったように泣きました。ですが、今日は7月7日。こんな泣き顔を星彦に、見せるわけにはいきません。鵲が天の川に橋を作りました。その上を2人が駆け抜け、1年に1度しか会えない恋人に抱きつきます。星彦は涙を流して言いました。何で僕達はこんな運命になってしまったのだと。織姫は星彦の涙を拭い、美しく笑いました。このまま川に落ちれば1年に1度と関係なく、ずっといられる。織姫はそう思い、星彦と自分をグレイプニルでぐるぐる巻きにしました。星彦は驚くまもなく、織姫と共に、天の川に沈んでいきました。
7月7日。
それは、織姫が杖を持ってして願いを叶えてくれる日。
織姫が一番機嫌がいい日。
星彦の叫び声が一番聞こえる日。
願いを叶えることが出来る唯一の日。」

この世界の物語ってバットエンドが多すぎやしませんかね。
しかも、この物語の星彦君が可哀想すぎる。
なんと理不尽でマッドな織姫…。
女って怖いね。
ギムレットから手渡されたピンク色の短冊に願い事を書く。

「あーるしも願い事ー?」
「お、何を願うんだ?」
「我も気になるのぅ」

いつの間にか鍛錬から帰ってきた3人が興味深そうに短冊を見た。

「ふふっ。皆の分もありますよ?」

ギムレットから短冊を受け取った3人は、いそいそと願い事を書き始めた。
みんなは何を願うのだろうか。
気になるところだ。

「るしー見せてー」
「秘密。ジンは何を願ったの?」
「…秘密ー」

ジンはサッと自分の書いた短冊を後ろに隠した。
可愛いやつめ。
だが…隠し方が稚拙だ!
素早くジンの手から短冊を奪おうとする。
だが、ジンもそれを予期していたようで、難なくかわす。

「ふっ。腕を上げたな」
「るし何言ってるのー?」

暫く攻防戦が続いた。
私がジンの短冊を狙い、ジンが私の短冊を狙う。

「とったー」

ジンが嬉しそうにピンクの短冊を揺らす。
それに目を落とすが、何も書いてないことに気づいたようだ。

「ふっふっふっ。簡単に渡すわけがないだろう?」
「るしーやるねー」

盗られた短冊はフェイク。
そして、私の手のひらには同じ短冊が5枚。
本物は我がアイテムボックスの中!
これは勝ったな。

「大人しくジンの短冊を寄越せー!!」
「るしこそー僕に寄越せー!!」

互いに机の上に置いてある短冊を投げ合う。





「…片付けは…自分達でして下さいね?」

ギムレットが引き攣った笑みを浮かべた。
それはそのはず。
辺り一面の床が短冊の海になっていたからだ。

「「ごめんなさい」」

ギムレットに謝り、【生活魔法クリーン】を掛ける。

「るし様、短冊を書けたのなら、わたくしに下さい。この笹に掛けますから。」

私はギムレットに歯向かう勇気はないので、すぐさまアイテムボックスから短冊を取り出す。
その時、ジンがニヤリと笑った。
まさかと思い、右手に持っているはずの短冊をみる…が、ない!!

「やったなぁ!ジン!返せー!!」
「んー?僕は持ってないよー?」

…ジンが嘘をつくはずがない。
背後を見ると、ヴィネがニヤニヤした顔で私の短冊を持っていた。

「汝、こんな願い事を書いたたのか…ククッ。愛いやつよ」
「ヴィネ!呼んじゃダメ!返せー!!」

私の必死な攻撃をヴィネはするりするりと紙一重で避けていく。
「おっと、ギムレット。我は読み終えたから、るしのこの短冊をその世界樹の枝を改造して作った笹に括りつけてやれ!」
「あー!!」

私の短冊はあっという間に笹に括りつけられた。
皆が寄ってきて私の短冊を見てニヤニヤしている。
ギムレットに限っては頬を赤らめさせて、目に涙を溜めている。
…恥ずかしい。

その後、皆の短冊も笹に、括りつけられた。
この世界に生きる者が何を願うのかとても興味がある。
まじまじと短冊を見つめる。

「ちょっ、るし!んな俺の短冊を凝視すんな!!」

ウォッカが横で叫ぶが気にはしない。
だって君も私のを凝視したじゃんか!!
おあいこだよ!

私がウォッカと格闘していると、ジンが隙ありとばかりにジャンプし、柱にかかっていた笹を持ち逃走を図る。

「ジン!私も皆のを見たいんだって!」
「…恥ずかしいー」
「ずるいぞー!!」

鬼ごっこは深夜まで続き、結局私は皆の願い事を見る間もなく渋々ログアウトしたのだった。








ギムレットは大事そうに笹の葉にかかる短冊を見る。
壊れ物を扱うように大事に大事に。
そして、ピンク色の短冊を見て、ほぅ、と甘い溜息をついた。
それは妖艶でいて儚く、少し寂しそうなそんな雰囲気を纏っていた。

「…わたくしとずっと一緒にいられますように、ですか?うふふっ。嬉しすぎて嬉しすぎて…るし様を縛って2人で天の川に落ちたいくらいです」

ギムレットはそっとピンク色の短冊を外し、自らのアイテムボックスに閉まった。
誰もそれを知ることはない。
なぜなら、ピンク色の短冊は、嫉妬と欲望に染まった王様の中に消えていったのだから。

「ふふっ。いい思い出となりました。これからも宜しくお願いしますね?るし様。」








「…ぶえっクション!!」

この可愛さの欠片すらないくしゃみは私のもの。
べ、別にいいじゃん?
くしゃみが可愛くなかったってさ。
…それよりも、なんか今、背中がゾワってなったんだよね。
誰かが噂してたりして…ね?





 ー願い事ー


 るしの短冊
「皆とずっと一緒にいられますように」


 ジンの短冊
「るしを命に変えても守りきれますように」


 ウォッカの短冊
「強くなりたい」


 ギムレットの短冊
「永遠にるし様のお側に」


 ヴィネの短冊
「他の者達の解放。そして、我が家族との平穏な日々が永く続きますように
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