運極さんが通る

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決勝と邂逅

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 ドカァァァァンッ
遠くの方で人が爆発した。

「るし様、試合一時間前ですよ」

ギムレットに優しく揺すられて目が覚めた。

「ん…もうちょっと…」
「るし様…わたくしはそれで嬉しいのですが、るし様には大事な大会があります。遅れてしまっては負けてしまいますよ?」

んー…そうでした。

「おはよう、ギムレット」
「ふふふ。おはようございます」

さて、メンタルも回復したことだし、会場に行こうかな。
ぼうっとする音 頭を振りながら身体を起こす。
そういえば、ドーンッて音したけど、夢だったのかな?
ギムレットが何も言わないし、きっと夢だったんだろう。

「るしー?起きたー?」
「うん。おはよ」
「お、起きたか。よく寝てたなぁ」
「るし、何かされなかったか?」
「うん?されなかったけど?」

皆の姿も見れたし、元気モリモリだよ。
そろそろ試合観戦行ってこようかな。

「じゃ、私はもう行くけど、ジン、ウォッカ、ちゃんとギムレットとヴィネのいうこと聞くようにね?」
「「はーい」」

4人との一時の別れを惜しみながら私は会場に向かった。




 空いている席にチョコんと座ると、横の人がギョッとした顔をした。

「やば、あれ軍服じゃね?」
「誰かサイン貰ってこいよ」
「握手でも良くね?」
「いや、殺されんぞ」

 いやいや、殺さないし。
 私、皆の中でどんな印象になっているのだろうか。

「あぶー、あぶぶ?」

 隣の席に座っている女の人が抱えた赤ちゃんと目が合った。
 可愛いなぁ。
 マーカーは白だから、この世界の赤ちゃんだね。
 チョンチョンと軍服をつついてくる。
 愛いやつ、愛いやつ。
 私が反応しないのが癪に障ったのか、みるみる泣き出しそうな顔に変わっていく。

「あ…えと、泣かないで?」
「ふぇ……」
「すみません。軍服様。この子、人見知りで…」

 お母さんもそんな泣きそうな顔で謝らないで!
 私が悪い人みたいじゃん。

「怖くないよー怖くないよー」
「う…うぇ……」
 あ、やば、泣く。
 ここは仮面を外して笑顔を向けるべきだ。
 そう思ったが吉。
 すぐに外して、満面の笑を作る。

「ほーら、怖くない、怖くないよー!」
「きゃっきゃっきゃ」

 おー、何とか持ち堪えてくれた。
 仮面を付けて赤ちゃんのお母さんの方を見る。

「お母さん、すみません。私のせいで…」

 お母さんから返事が返ってこない。

「お母さん?」
「ふぁい!?あと…あの、握手して下さい!!」

 え…。
 別にいいけど。
 顔を赤くしてどうしたんだろ。
 キュッと、優しく手を包む。

「はい、コレでいいでしょうか?」
「は…はいいぃぃぃ!!」

 それを見ていた周りの人達が、

「お…俺もっ!」
「軍服様ぁあぁぁ!!」
「ぜ…是非にとも!頭を撫でてください!!」
「皆!列を作れっ!!」
「「「「イエッサー!!」」」」」

 この統率のとれた動き…。
 練習でもしてたのかな?
 私なんかの握手貰って何が嬉しいのやら。


『会場に軍服選手はいらっしゃらないでしょうか?そろそろ試合が始まりますよ?』


 アナウンスがかかった。
 チラリと時計見ると、6時55分だ。
 危ない危ない。
 人混みを掻き分け、場内に急ぐ。

「遅れてしまって、すみません。 」

『いえいえ、まだあと5分あったので気にしなくていいですよ。軍服選手、後で私も頭をポンポンして下さい。』

「え…いいですけど」

『っしゃ!やりましたよ!黒木さん!』

『すみません。軍服選手。コイツ、貴方のファンになってまって。おい、塩谷、お前は運営だから贔屓してはいけないんだぞ!!』

『うぅ…すみません』




『さぁ!遂にBブロック決勝戦が始まるぞ!!勝ち残った選手はこの2人っ!!軍服と不死だぁ!!この最終戦、どう盛り上がるか、俺はとても楽しみだぁぁぁ!!!』

『私もですっ!!両者とも、ここまで勝ち残ったので、かなりの強さを兼ね備えています!この最高の舞台ステージで、全力を出し、輝いて下さい!!』

「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」」」


これに勝てば、世界戦に出れる。
お金も貰える。
課金も出来る。
輝ける。
有名になれる。
これは、勝つしかない。

『go!!!』

すごい速さで迫ってくる不死。
不死と言うからには、殺しても生き返ってくるのだろう。
ということは、この人はアンデッド系統。
見るからに顔色も悪いからね。
攻撃をさけながら【鑑定】しよう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

種族  ゾンビナイト  ☆4
名前  サブロー
Lv  10

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

やはり、ゾンビ。
噛まれたら感染とかするのかな。
このゾンビ、防御が緩いな。
「せいっ!」
「……」
腹を切り裂く。
返り血が顔に飛んできた。
腹からは大量の血が流れ出していたが、それが見る見るうちに治っていく。
顔色一つ変えないけど、痛みを感じないのかな?
そういうスキルをお持ちで?
「ひひっ…俺の血が皮膚に付いたな?」
「そ…それが何だ」
血に何か仕込んでおいたのか?
「俺の血は感染する。感染したやつは、無気力になり、俺の思うがままになるのさ」
そうだったのか…しくったな。
どうやって感染を防げば…。

『おーっと!軍服選手、不死の策にハマってしまったぁぁ!!ウィルスが全身をまわってしまったら最後、自分の意思では動けなくなるぞ!!』

『不死選手!あくどい1手ですねー。私、こういう戦い方好きですよぉ!どちらとも頑張れぇぇ!!』

「ひひ…ウィルスが身体を回るまであと1分と言ったところだな。」
くっ…。
切っても切っても再生する。
一体どうなっているんだ?
再生するなら、場外に飛ばすしかない。
【蹴り技】を使って思いっきり腹を蹴るが、脆過ぎてその場で崩れてしまう。
「おいおい、酷いことするねぇ」
背筋が凍る。
もう少しで1分だ。
早くっ!
早く!
早く場外に出さなくてはっ!!
「ざ~んねん。時間だ」
「ぐっ…」



身体が…動かな…くはない?
動く。
バリバリ動かせるんですけど。
ここは、感染したフリをして倒す策を考えよう。
「ひひっ…軍服もざまーないなぁ。何をしてもらおうか。」

『おーっとぉ!!感染してしまったぁぁ!!軍服ピーンチっ!!』

『いいですねぇ、感染!!相手を思い通りに出来る力…素晴らしいです!!不死選手の相手をした人は皆、恥ずかしいことをやらされて屈辱だったでしょう!!見ている方は面白かったので、そのまま頑張れ!』


アンデッドの弱点は、何だ?
光か?
いや、ここは太陽が差しているから、まず光ではないだろう。
だとしたら何だろうか。
炎か?
だが、私はその属性の武器を持っていない。
私が持っているのは水属性のみ。
なら、水に全てをかけるしかない。
もし、聞かなかったとしても、あの神槍(ゲイ・ボルグ)を使えば何とかなるかもしれない。
出来ればまだ本戦では使いたくなかったけど…。
負けてしまっては元も子もないからね。
よし、奴が私が感染していると思って油断している隙に、水を叩き込む!

「ひひひひひっ…じゃあ、まずは一回転しろ」

くるりと一回転する。

「ひひ…優雅に一回転とは、惚れ惚れするねぇ」

そんなにかね?
ちょっと照れるなぁ。

「じゃあ、俺に土下座しろ」

土下座ですか?
うん、まぁ、まだ許容範囲だ。
そんなにプライド高くないし。
命令に従って地面に伏せる。

「ひーははははっ!あの軍服が俺に膝まづいてやがる!!爽快だぁぁ!!」

さいですか。

「じゃあ、もう一段上げて、その仮面を外せ」

仮面ですか…。
むむむ。
奴との距離は10m。
隙を付くにはまだ距離が遠い。
仮面は心のケアなんだけど。
外したくないな。

「おい、外せ」

…ここは覚悟を決めて外すしかない。
奴の信用を得るためだ。
顔バレしても、私には最恐の仲間がいるし、何かあっても助けてくれると信じている。
仲間を信じている。
現実リアルよりも。
私は仮面に手をかけ、そっと外した。

 ザワザワ
 ザワザワ

『あ…あの軍服の素顔の初披露がこんな展開で見れるなんてっ!!やばい…かなり、俺の好みだ!性別はどっちなんだぁぁ!不死!頑張って拷問だぁ!!』

『きゃー!!マジですか!?この試合終わったら私頭をポンポンですよ!!もう、嬉しすぎて泣いちゃいます!』


「ひひっ…かなり整った顔してんじゃねぇか。」
そりゃあ、キャラ設定で満足のいく顔にしたんで。
「ひひ……じゃあ、最後に俺にキスして場外に出ろ」
キスしろとか、どんだけ性格悪いんだよ。
冠女といい勝負してるんじゃないか?
ツカツカと、不死に近づく。
「…ほれ、ほっぺにな」
あ、唇でいく馬鹿じゃなかったみたい。
意外と小心者だね。
その小心さに免じて一撃でおさらばだ。
サッとアイテムボックスから水精霊の双剣を取り出して、不死を頭からつま先まで切り下げる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 HPが0になったみたいで、金色の粉に変わっていった。
「ふむ。慢心は怪我の元だぞ?」


『Bブロック優勝はっ!軍服もとい、るし選手!世界戦進出おめでとぉぉぉお!!!』

『不死選手!惜しかったですねぇ!あと少しだったんですが。軍服選手!おめでとございます!!本選閉会式をこのあと行いますので、ここでお待ちになさっていてくださいっ!本当におめでとうっ!!皆様っ!盛大な拍手をっ!!』

「「「わぁぁぁぁぁあ!!!パチパチっ!」」」






勝った…。
やった、やったよ!!
「おめでとーーー!!!!」
ジンの声が聞こえた。
観客席に目を凝らすと、ジンとウォッカ、ヴィネとギムレットがいた。
声に答えるべく、手を振る。

「「「きゃぁぁぁぁぁあ!!軍服様ぁぁ!」」」

黄色い声援が上がった。
おおぅ。
入口の方でも歓声が上がる。

『各ブロックの優勝者の入場だ!!皆、拍手をっ!!』

4人のプレイヤーが入場してきた。
あ、カインがいるや。
あの魔術師さんも。
生き残ったんだ…。

『優勝者は台の上に乗ってください』

いつの間にか石畳の上に台が出てきた。
その上に、A~Eブロックの順に並ぶ。





『では、これより、本戦閉会式を始めます』

『閉会式の司会を務めるは、Bブロック担当の黒木だ。優勝者が全員集まったので、まずは各ブロックの優勝者の紹介だっ!
Aブロック優勝者、煉獄、ヴェティヴィエルズ
Bブロック優勝者、軍服、るし
Cブロック優勝者、圧殺、カイン
Dブロック優勝者、天使、Noel
Eブロック優勝者、聖女、ジャンヌ
順位は、
1位、るし
2位、ヴェティヴィエルズ
3位、Noel
4位、ジャンヌ
5位、カイン
となっている。
順位は全プレイヤーの投票によって決まった。
言っただろ?全力で戦えと。
その全力を見て、強そうな奴の順位が高くなっている。
これは不公平アンフェアではない。公平フェアだ。この順位に文句があるなら、世界戦で順位を上げればいい。まぁ、文句があるような奴はいないようだがな。6位から10位までの人は公式HPホームページを見てくれ。賞品は世界戦が終わったと同時にメールと一緒に配布するから、心配するな。
改めて、優勝した者達おめでとう。
そして、大会を盛り上げてくれた観客オーディエンスありがとう!ここまで大会が盛り上がったのは貴方がたのお陰だ。運営の代表として、俺がこの場で礼を言う。本当に、本当にありがとうございました!!』

「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」

『これで運営からの挨拶を終わりとする。長ったらしいのは好きじゃないからな。…おっと、ここで緊急のお知らせがある。明日は、日付が変わると同時に、日本サーバーと海外サーバーを繋ぐメンテナンスがある。知らせるのが遅くなって大変申し訳ないと思っている。ただ、この大掛かりなメンテナンスが終わると、海外の人とも共にプレイすることが出来るようになる。この世界はもっと大きくなる。この街も、フィールドも、もっともっと広大なものに変わる。NPCの認識は、元々この世界だった、というものにする変わるだけだから、貴方がたプレイヤーとの記憶はちゃんと残るようにバックアップはとるので心配することはない。これにて、閉会式を終了とする。プレイヤーの皆様、本当にありがとうございました!!』

「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」




「るし!お前、やっぱ優勝したんだな!」
「カインこそ!やったね!」
閉会式後、日本代表者5名でノリで集まってみた。
「…友達?」
背中から純白の羽が生えているのが、Noel。
「だろうね」
魔術師ローブを深く被っているのがヴェティヴィエルズ。
「友情は美しいですね」
 聖職者のような教会のローブを着ているのがジャンヌ。
「えと、皆よろしくです」
「…軍服さん…堕天使?」
「はい!」
この人は確か、Noelさん。
金髪ボブで、水色の目、カワイイ系女子。
「…翼…モフモフ…していい?」
「いいですよ?」
翼機能をonにする。
「うわぁ、すげぇな」
「美しい羽ですね。私にも是非触らせてください」
ジャンヌさんは金髪ロングヘアで、金色の目をしている清楚系な女子。
「僕も。」
 ヴェティヴィエルズさんは…分からない。
 フード被ってるからね。
 モフモフと4人が翼を触る。
「あの、私もNoelさんの翼触りたいです」
「ん…いいよ…?」
「「「私 (俺) (僕)も!!」」」
モフモフ。
フワフワしてて気持ちいい。
「なぁ、折角だしよ、皆でフレンド登録しねぇか?あと、呼び捨てでいこうぜ?俺のことはカインって読んでくれ。あ、リアルも今も男だぜ?」
カイン、いいね。
ナイスアイディア。
「わかった。私はるしって読んでくれると嬉しい。リアルも今も女の子だよ?あと、ヴェティヴィエルズさん?予選の時は助けてくれてありがとう。」
「こちらこそだよ。るし、予選の時はありがとね。僕はヴェティヴィエルズ。気軽にヴェティと呼んでくれ。リアルも今も、女だよ。おっと、顔も見せなきゃね。」
フードを脱ぐヴェティ。
ボサボサな蒼髪に切れ長の蒼い目。
寝癖を直したら…って、そういうキャラ設定かもしれないけど、直したらかなり美人だ。
「僕は人見知りでね。一旦打ち解けると、こんなに喋るようになるんだ。皆、宜しくね」
私と同じタイプですね。
仲良くなれそうだ。
「…るしは女の子…?私は…Noelでいい。…リアルも…ここも…女の子…」
「私はジャンヌと呼んでください。リアルでは女の子、ここでも女の子です。世界戦、お互いに頑張りましょう。あわよくば、1位から5位まで、全部日本で埋めましょうね?」
ジャンヌ…なんかギムレットに近いものを感じるのは気のせいだろうか。


 ピロりん。
『<世界の声>間もなく、メンテナンスが始まります。この世界にいる人は速やかにログアウトして下さい』


「あ、じゃあ、明後日、お互い頑張ろう!」
「おう!おやすみ!」
「…おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
こうして、日本代表5名はこの世界からログアウトした。
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