運極さんが通る

スウ

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第二の街と変態とストーリークエスト

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薄暗く狭い道を進むと、門番さんの言った通り、大通りに出た。
フワリとした花の香りが鼻腔を擽る。

「ふわぁ」

感嘆の声が漏れる。
活気のある店が互いに競走し、人を呼びかけている。
笑顔が溢れている。
子供達が元気に走り回っている。
街並みは第一の街と同じなのだが、あちこちに花壇があり、色とりどりの花が咲いている。
まさに花の国。


この国の名は「シナンティシ」。
意味はギリシャ語で、出会い。



大通りを歩んでいると、進行方向から歓声が聞こえてきた。
そのまま進んでいくと、第一の街と同様の広さの広場に出た。
空にはLive台が浮かんでいる。
歓声が聞こえたのは一番台で、人だかりが出来ている。
何があったか分からなかったからとりあえず、隣にいるNPCさんに聞いてみよう。

「あの、先ほどここでなにがあったんですか?凄い歓声が聞こえたもので」

私の鎧を見てギョッと目を見開くが、すぐに教えてくれた。

「一瞬だけだったんだがな、ロビンフッドがいたんだよ」
「ロビンフッド?」

ロビンフッドといえば、中世イギリスの伝説的英雄だった筈だ。
彼はイングランドのノッティンガムシャーに生れ、シャーウッドの森を根城に、大男で棒術や弓術の得意なリトルジョン、聖職者のタック坊主達、豪傑を従え、悪代官を懲らし、貴族や聖職者の富を奪い、貧しい人々を助ける義賊となって活躍していた。

「お前、もしかして冒険者アドラーか?なら知らないのも当然だな。ロビンフッドはな、義賊なんだよ。悪い貴族を懲らしめて、俺らみたいな貧しい民衆のためにお金を撒いてくれてるんだぜ?」

オジサンのテンションが上がってきたところで、横からオバサンも入って来た。

「ロビンフッドはねぇ、誰も姿を見たことはないの。でもね、ここ3週間くらい前からとつぜん現れた宙に浮く鏡のようなものによって黒い影が映るようになったの」
「何でその黒い影がロビンフッドって分かるんです?」
「王様がそう言ったんでさ」
「そうよ。噂によると、ロビンフッドは王直属のお抱え暗殺部隊だとも言われているわ。何でも、ドラゴンを倒せるほどの実力を持ってるとかないないとか」
「そうなんですか…」

暗殺部隊。
強くて危なそうなのには関わらない方がいいね。
ロビンフッド…か。
会わないことを祈るよ。

白熱したロビンフッド話からそっと身を引き、広場を後にした。
元来た道を戻り、今度は王城を目指す。



「っ!?」 

ジンとウォッカが戦闘態勢に入った。

「へ?どうしたの?」

 2人の視線の先を見ると、行き交う人々の中で1人立ち止まっている人がいた。

「ん~?気づかれちゃったかぁ」

黒い髪に赤い目、幽鬼のように青白い肌。
血のように真っ赤な唇。
中性的な容姿。

「そこの君、私に何か用?」

その問に赤い唇が三日月を描く。

「ふっふっふぅ。あぁありますともぉ。僕はねぇ、君のヴァージンを奪いに来たのさぁ♡」
「ヴァージン?」

ヴァージンとは何ぞ?てか、いきなり現れたあなたは誰ですか?
首を傾げると、そいつは更に三日月を深めた。

「もぅ。愛いやつだなぁ。そういう所もいいねぇ。」

チロリと舌で唇を舐める。
「つまりぃ、君をオレで満たすってことさぁ♡」

そいつのヌメっとした視線に絡められて背中に悪寒が走る。

「るし、アイツ血の匂いがする」
「るしーあの変態強そー」

 ピロリん。
『PKKが可能です』
そうか、あの変態はPKだったんだね。そのPKさんは何で私を狙うのだ?

 ザワザワ
いつの間にか私たちと変態を囲むギャラリーが出来ていた。

「あぁ~。君をグチャグチャに掻き混ぜることが出来る日が来るなんて夢みたいだよぉ…はぁ、 私オレ濡れちゃいそう♡」

うわぁ、うわぁ。
この人ちょっと無理。言ってことがよく分かんないし、語尾にハートがついていて気持ち悪い。
あの甘ったるいテノールの声がゾッワゾワする。

「激しくイかせてあ・げ・る」
「ジン、ウォッカ、あの変態は私に用があるみたいだからここは任せて」
「で…でも!」
「そうだよぉ。 私オレが殺りたいのは、るぅしぃ~君だけだからねぇ」

ああああああ。
この変態がっ!!
純粋な耳が腐っちゃうよっ!

「さっさと終わらせよう」

私は変態に向かって駆け出す。

「君からやって来てくれるのかぁい?積極的な子も好きだよぉ♡」

満月みちづきを振り下ろす。
が、それを紙一重で避ける変態。
【残月】を使いたいところだが、変態が避けるとギャラリーに当たってしまう。

「次はオレからいくよぉ♡陰縛り」

【陰縛り】という言葉が聞こえた瞬間、身体が動かなくなった。
力を振り絞り動こうとするも、指先がピクリとも動かない。

「なっ…!?」

その間に変態がスルスルと近寄ってきた。
私の身体が動かないことをいいことに、ヘルムに手を添えた。
頬が上気し、目がトロンとした変態の顔がヘルム越しに目に映る。

 私 オレはねぇ、君のフィールドボス戦を広場で観たあの時から君に恋ししてるんだぁ。いつか君を壊したい、壊したい、壊したい、壊したい…って。この疼く気持ちは日に日に抑えきれなくなってきてたんだぁ。そしてねぇ、君が今日、オレの前に現れた。運命だと思ったよぉ。オレと君は赤い紅い血のような絆で結ばれてるんだぁ♡絶対にそうに決まっているよぉ」

まるで夢見る少女 少年のようだ。
スっとヘルムをとられる。
直に目が合う。

「あぁあ♡君は美しいねぇ。もう我慢出来ないよぉ♡」

ツツーと輪郭をなぞられ、変態の顔が近づいてくる。
ゾッワゾワする。
荒い吐息が顔にかかる。
な…何としてでも止めなくてはっ!

「き…貴様はデスペナを食らったことがあるか?」

ピタリと顔が止まる。

「ないけどぉ。それがどうしたのぉ?もしかしてっ!焦らしプレイ?」

変態は三日月を作り、目を細めた。
獲物に襲いかからんとする狩人のようだ。

「なら、私が貴様のヴァージンとやらを奪ってやろう」

変態は気持ち悪い笑を浮かべた。

「ふっふっふぅ。やれるもんならやってみろぉ?」

再び顔がゆっくりと近づいてくる。

「終焉のラッパ」

対象は眼前1cmの変態。
天から舞い降りてきた天使達のラッパが鳴り響く。
Noelの時のような悲しい音色ではなく、明るい音色。
どうしてだろうか?

「ぐ…ああああああああああああ!!!」

ヨロヨロと後ずさり、顔を歪めて空を仰いで叫ぶ変態。
コイツの顔はもう見たくない。
毒だ。

「さらばだ、変態。もう私の前に姿は見せるな」

変態が事切れる前にジンとウォッカを連れてギャラリーの間を抜けた。

「ああああああああああぁぁぁ♡こういうのも…いいっ!!」 

変態は涎を垂らし、恍惚の表情を浮かべて金色の粉に変わっていった。





「るしーお疲れ」
「なんと言うか…頑張ったな!」
「…うん。2人とも、悪いんだけど今日はもう休まない?」
「いーよー」
「いいぞ」
「ありがと。今夜の泊まる宿屋を探そうか」

 重い足を引き摺って2人と歩き出す。  




宿屋の看板を探して三千里ってことはないけど、数十分。
上を向いて歩いていると、突如腹に衝撃と痛みが走り、後ろに転んだ。

「いっつ~」

HPが2割減ってる。
さっきの変態がもう戻ってきたのだろうか?
だとしたら早すぎるからそれはないか。
身体を起こそうとするが、白い何かが乗っていて動けぬ。

「えっと…」

ツンツンと白いフサフサしたものをつつくと、それはバッと顔を上げた。

「師匠になって下さい!」

キラキラした空色の目が私を捉えた。一体全体今日はどんな日なんだ。

「ん…まず、重いからどいてくれると助かるかな」
「ご、ごめんなさい!!」

ササッと私から降り、申し訳なさそうにしているこの子は何者だろうか。
髪は真っ白で寝癖が酷く、目の色は先ほど言った通りに空色。

年はジンとウォッカといったところではないだろうか。
可愛いショタさんだ。 

「君は誰かな?」
「僕はセタンタっていいます!年は7歳。好きなことは食べることに日向ぼっこすることです。えと、あの…あ!オニーサンを見たら何か、こうピンと来たんです。あとは…」 

え、めっさ可愛いんですけど。
クシャクシャと頭を撫でる。 

「うん、分かったよ。私はるし。それで、セタンタは私に何用?」
「はい!僕の師匠になって下さい!」

 ピロリん。
『ストーリークエスト「小さな英雄」を受けますか?Yes/NO.』

ストーリークエストでしたか。
確かストーリークエストを進めると、この世界の真理を得ることが出来るって言ってたっけ?
 心が疲れているけど、セタンタ可愛いし、ストーリークエストのことも気になるから受けてみよう。
Yesを押す。  

「やったぁ!!ありがとうございます!」

ピョンピョンと飛び跳ね、わかりやすく喜びを表している。

「セタンタ、喜んでいる所申し訳ないんだけど、師匠は明日からでいい?私、今日は疲れてて。…もし良ければなんだけど、宿屋の場所知らない?」
「はい、大丈夫です!!宿屋なら家がそうなので、どうですか?案内しますよ!」
「うん。ありがと。じゃあ、宜しくね」

 セタンタに手を引かれて宿屋に連れていってもらった。


    



「ここです!」

着いた宿屋は『憩い亭』
主に木で作られており、白い花が近くの花壇に植えられている。 

「おかーさぁーん!!あ、師匠中に入ってください」 

扉を開けると木の香りが優しく包んだ。
まさに憩い。
奥から出てきた来たのはプラチナブロンドの長い髪を後ろで結った美しい女性。
目元がセタンタとそっくりだ。

「セタンタ、お帰りなさい。いらっしゃいませ、お客様。お越しいただきありがとうございます」
「お母さん、この人、るしっていうんだ!僕の師匠になってくれたの!」
「ふふ、そうなの?るし様、私はこの子の母、デヒテラと申します。この子に付き合ってくれてありがとうございます」

 90度に腰をおるお母さん。

「い…いえいえ!」
「この子は友達が少なくて…付き合ってくれる人を探してたんですよ。ふふ」
「な!お母さんッ!!むむむ、師匠、僕先に行くから明日から宜しくお願いします!!」

セタンタは頬を膨らませながら2階に上がったていった。
お母さんはその姿を嬉しそうに眺めていた。

「ふふふっ。それではるし様、この用紙に宿泊期間と名前、人数をご記入下さい」

用紙を受け取る。
うーん、そうだなぁ。
街を見て回ってからフィールド探索に行って、ギルドクエストを受けて、セタンタの師匠をやることを入れると…3週間程かな?
用紙をお母さんに渡す。

「ありがとうございます。家はお風呂と3食なお食事付きなので少し割高となっておりますが、宜しいでしょうか?」
「はい」
「では、お会計を先にしますね。…3週間の宿泊料は金貨10枚となっておりま」

高っ!!
思ってたよりも高かったわ。
でも、先払いっていうのはいいよね。
後払いだと、お金を払わないやつも出てくるだろうから。
「確かに受け取りました。るし様の部屋番号は205号室です」

205の番号が入った鍵を受け取り、自分の部屋に向かった。

 
 ガチャ
扉を開き、三つある内の一つのベットにダイブする。
「るしー、汚れたままだと汚いよー?お風呂入ってくればー?」
「うー…一緒に入る?」
「「駄目!」」 

私は2人に促されるままにお風呂に入った。





ベットに座り、今日一日胸として温めていた黒い卵の様子を見る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

種類  卵  ☆?
名前  不思議な卵…もう少しで生まれそう?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

もう少しってどれぐらいさ。
もしすると、ログアウト中に生まれたりするかもね。
卵を胸に抱えて横になる。

「2人とも、お先に~」
「おやすみー」
「いい夢見ろよっ!」

重い瞼はすぐに落ちた。

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