運極さんが通る

スウ

文字の大きさ
57 / 127

虫襲来

しおりを挟む

~とある辺境の畑side~

「はぁ~今日もいい天気だべなぁ」
「だべぇ」

照りつける太陽と澄み渡る青空の下で、今日も齷齪働く農家たちがいた。

彼らはこの国の特産品である向日葵と麦を王の勅命を受けて育てていた。

毎日欠かさず水をやり、枯らさないように調節し、美味しくなるようにとまじないを掛けていた。

その甲斐あってか、大陸の向日葵の生産数約98%をこの国が占めるようになり、麦の生産数の方も約95%を占めていた。



農家達はその事に誇りを持っていた。





「いやぁ、あんなに小さかった芽が、今や5mにまで成長した姿を見ることが出来るってのは、感慨深いものがあるべなぁ」
「我が子の成長を見守ってるような感じだべなぁ」

平和だった。

今日という日が訪れるまでは。





 …ブゥン





「何だ?音が聞こえねぇべか?」

微かな羽音が聞こえてきた。

その音は死を運ぶ者の羽音。

先程まで澄んでいた青空に影が差した。
空が次第に黒に染まっていく。

「な…なんだべ!?」

原因を見分けずにはいられない。
逃げようにも好奇心が勝ってしまい、足が地に抜いついたように離れようとしない。
羽音が近づいてくる。
徐々に羽音の正体が見えてきた。




 ーモスキーバエト




その正体を知った瞬間、農家達の脳裏にある昔話が蘇った。


《むかーし昔、あるところに、平和な国がありました。

その国は、多くの笑顔と多くの花に包まれていました。   

国の名は、「シナンティシ」。

平和で平和で、それはもう平和でした。

平和すぎて、彼国は武器を捨て、闘うことを忘れてしまっていました。

住人達は信じていました。

この平和は永遠に続くだろうと。

ですが、ある時、その永遠は失われてしまいました。

何故なら、青き空を、希望の太陽を覆い隠しながら、黒き者達が進軍してきたからです。

襲われ始めたのは周りの村からでした。

黒き者達は、村を壊滅させながらジワリジワリと国に進行を開始しました。

襲われた村は死体すら残っていませんでした。

黒きものたちは3日とかからずに国に辿り着きました。

城壁をいとも容易く崩し、住民達に襲いかかります。

そして、国はあっという間に壊滅の危機に陥りました。

誰も戦おうとする者がいなかったのですから。

どんどんと住人達はいなくなっていきます。

もうダメだと王が嘆いた時、アドラーと呼ばれる不死者が現れました。

彼らは瞬く間に黒きものたちを殲滅し、国に平和と安寧をもたらしました。

人々は歓喜します。

そんな中、誰かがふと呟きました。

「こんなに黒きものはいたか?」

と。

また誰かが呟きます。

「そもそも、黒きものたちは何処からやって来たのだ?」

と。

それを知るものはいません。

人々はアドラーに感謝し、国が壊滅の危機に陥っ

た最悪の日を「虫襲来イノセクトパレード」と命名しました。

いなくなった人々には多くの花が手向けられ、国を挙げての葬儀を行いました。

めでたし、めでたし》


「に…逃げるべ!!」
「そ、そうだべ!み…皆に知らせ…っ」

動こうとするも、恐怖で足が笑ってしまい動けない。
村には守るべき家族がいる。
知らせなければ。
足が使えないなら手で地を這って移動するしかない。
必死に這い、隣にいる友人に激を飛ばす。

「あ…アドラーがいれば、どうにかなるべっ!!」

隣にいるはずの友人から返事は返ってこない。
振り向いてはいけない。
そう、長年付き添ってきた直感が警鐘を鳴らす。
だが、またもや好奇心が勝ち、振り向いてしまう。



ー友人はモスキーバエトに上から押さえつけられていた。
針のような細長い足を友人の手、足を貫き、逃がさないようにガッチリと捕えられていた。
モスキーバエトはストロー状の口を友人の背中にズブリと差し込んだ。

「ぐ…ぁぁぁああっ!!…っに…にげろぉぉ!!」

友人の叫びに弾かれたように身体が走り出した。

「ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”…」

今度はもう振り向きはしない。
振り向けない。
友人の無残な死に方を見たくはなかった。
一心不乱に走る。
耳元に羽音が聞こえる。
走る。
走る。
生きようと。
死にたくないと。
彼はそう思って走った。






…気づけば悪魔の羽音から遠ざかっていた。
恐らくは人の多い近くの村を襲いに行ったのだろう。
視界が揺れる。
安堵が広がる。
目からは涙が零れ落ちる。
鼻水が止まらない。
嗚咽が留まる事を知らず、流れ続ける。
1人の農民はまだ走る。
最悪の襲来を彼国、「シナンティシ」に告げるために。
かつて追い出された故郷に告げるために。
ただただ走り続ける。
村にいる娘を残して。
妻を残して。
友人を残して。
巨大な向日葵畑を駆ける。
眠らずにひたすら走り続ける。 
瞼の裏には友人の死ぬ瞬間が映っていた。

しおりを挟む
感想 409

あなたにおすすめの小説

親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。 そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。 軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。 誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。 毎日22時投稿します。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...