伏して君に愛を冀(こいねが)う

鳩子

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50. 毒を盛ったものは、誰か?

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 毒で弱った身体を癒やすために、琇華しゅうかは実家に伝わるスープを作って貰っていた。

 火腿ハムで出汁をとったこってりしたスープに、干した茸や白木耳しろきくらげなつめ、栗などが入った、滋味溢れる羹である。それを、琇華は自ら、銀で出きた匙で皇帝に食べさせていた。

「妾の実家では、体調を崩すと、決まってこれでしたの」

「美味しいね……たしかに、体力が回復しそうだ。ゆうとは、すこし味付けが違う感じがする」

「そう……かも知れませんわね。苦手ですか?」

「いや、美味しいよ。有り難う」

 皇帝が、蕩けるような微笑みを向けるので、琇華は匙を取り落としてしまいそうになった。

(弱っておいでだから……)

 微笑んで下さっただけ。それだけよ、と言い聞かせて、琇華は、皇帝の口元に羹を運ぶ。

「毒は、なにに入って居ましたの? 昼餉を召し上がったのでしょう? 調べておいででしょうけれど、なにか見当はついておいでですか?」

 皇帝の表情が曇った。見当など付いて居ないと言うことなのだろうと思って、琇華は肩を落としたが、皇帝の答えは意外な言葉だった。

「昼は……食べていない」

「あら、随分、遅いのですね」

 町の人たちと昼餉の饅頭を食べた後だった。流石に、琇華は、一緒になって食べることはなかったが、しっかり、仮面の側近、しゅ学綺がくきは二つも饅頭を頬張っていたはずだ。

「……あなたの、食事を断ってから、食事は日に二回にしていたから」

 言い辛そうに言う皇帝の言葉を聞いて、琇華は呆れてしまった。

「呆れましたわ!」

「……だから、昼餉ではないはずだよ」

「でも、朝餉でしたら、もっと早い時間に毒が回るのではありませんか? ……その間に、お茶や白湯などは召し上がらなかったのですか?」

「たしか、なにも……」

「せめて、白湯くらい召し上がって下さいませ……」

 溜息を吐いてから、琇華は、皇帝に告げる。

「今日からは、また、妾が仕度をしますから」

「頼む」

 存外、素直に返事をしたので、琇華は少々拍子抜けした。これで、一段落付くだろうと思ったとき、琇華の脳裏を過ぎったのは、皇太后の姿だった。

(陛下の……跡継ぎのことを、真剣に考えなくてはならないわ)

 けれど、いま、死の淵から帰還したばかりの皇帝にそれを問うのは、甚だ無神経な気がした。

「なにか、考えているのかい?」

「ええ」と琇華は返事して、「毒を盛ったものは、誰なのかと……。それに、お毒味は、無事だったのでしょう?」と全く違うことを聞いた。

「たしかに、私の食事は毒味が付いているはずだね」

「お毒味が、無事なのに、陛下が毒にやられたのでしたら……食器や、配膳のとき……ということも考えられますわ」

「なんにせよ、私は……廃された方が、世の中のためだと思われているだろうからね。みんなが、私を殺したがっているよ。安心出来るのは、あなたくらいだ」

 思わぬ言葉に、琇華は、ドキッとした。

「え、ええ……。妾は、絶対に、陛下に毒なんか盛りませんわ。だって、妾は、まだ若いのに、未亡人になんて、なりたくありませんし、二夫にふにまみえるつもりは、ありませんの。ですから、陛下には、早く元気になって頂かなくては困りますわ」

「解ったよ。……まずは、回復に努めるよ。その間のことは、あなたに託した。あなたならば、間違わないだろう」

 皇帝は、そっと瞼を閉じた。

「今しばし、お休みなさいませ」

 下がろうとした琇華の手を、皇帝が捕らえる。

「陛下?」

「―――眠るまで、側にいなさい」

 珍しいことをいうものだと、琇華は思ったが、(毒で、気力まで弱っておいでなのね)と、納得して、牀褥しょうじょくに座って、そっと、皇帝の髪を撫でていた。
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