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第二章 菓子を求めて游帝国へ
竜女の伝承を求めて
しおりを挟むまさか、菓子の為に、游帝国へ行くことに成るとは思ってもみないことだった―――と、娃琳はしみじみと思う。
普通に暮らしていれば、娃琳のような女の立場では、外国にいくことは稀だ。
だから、游帝国へ行くとなった今、妙に緊張していることにも気がついた。
早暁から出発するが、荷造りなどは、侍女達にやって貰っている。あとは、行く先々で、調達する必要があるだろう。馬車は使わず、馬を使う。鴻は、自分の馬がいるので、それを乗る。娃琳も馬を駆ることは出来るので、公主府の馬を連れて行くことにした。
鴻は、馬については目利きだというので見もらうと、公主府の馬は、長距離を走って問題ない、体力を備えた馬だという。また、気立ての良い馬だと言うことを教えられたので、娃琳が長い時間乗っても、へこたれることなく、走るだろうということだった。
「娃琳、仕度は出来たのか?」
鴻は、いつもの雑琉の装束ではなく、紺色の直領の服に、裙子だった。堋国のモノが旅をするときと、大差無い格好だ。
「いつもの雑琉の装束じゃないんだな」
娃琳が問うと、「あれは、目立つんだ」とだけ、ぶっきらぼうな答えが返ってきた。そういえば、雑琉というだけで、蛮族扱いされることもあるとは聞いている。それを避ける為だろう。
そういう娃琳のほうも、円領の官服のような男物の装束だった。
「まあ、靡山までは遠いが、治安は悪くないはずだし、なんとかなるだろう。『帝華路』という皇帝専用道路があって、その近くに、幹線がある。幹線を行けば、瀋都までは問題なく行くことが出来るだろう」
そうか、と鴻は呟く。そして、二人は一路靡山へ向かったのだった。
靡山までの道中は、旅慣れた鴻が様々気を遣ってくれたこともあって、大して苦痛ではなかった。
それでも、ずっと馬を走らせていたので、内腿と尻が、すりむけたように酷く痛む。
「良く平気だな」
娃琳が、呆れたように言うと「こつがある」と鴻は笑う。
「あるなら、教えてくれれば良いのに」
「教えられる類いのこつではないからね。……身体で覚えないと」
しかし、鴻は平然としているので、娃琳は口惜しくて堪らない。
「私も、もう少し、乗っていれば良かったかな」
「いや、長旅はしないだろう? ……大長公主様なんだからさ。普通は、馬車だろう。俺に付き合わせて、馬にして貰って、申し訳なく思って居るよ」
済まなさそうに、鴻は言う。その、表情に、娃琳は、少し胸の鼓動が跳ね上がるのを隠しつつ、「馬車は、窮屈だろう」と小さく呟いた。
(本当に、馬車にしなくて良かった)
馬車になれば、鴻と二人で、ずっと閉じ込められた状態になる。
その堋が楽なのは解っていたが、何を話して良いのか解らないし、気詰まりになるのは間違いない。
そして、二人が靡山の温泉町である『翡翠池』に辿り着いたのは、予定より少し早く、四日目の夕刻のことだった。
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