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第二章 山科にて『鬼の君』と再会……
2.装束色とりどり
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ああ……こりゃ、目が眩む。
目の前が、チカチカして来た。とにかく、紅梅、黄、紫、萌黄、紅、青(わたしたちの青は、千年後くらいは緑で呼ばれるわね)、蘇芳、なんだか季節に逢わない、梔子だとか、桃染だとか、そんないろとりどりの五衣。
それに、打衣も平絹のものにくわえて、私の身分では袖を通すことも出来ない、綾でつくったものもある。本当に、手当たり次第持ってきたわね。
私は小少将さんの軽いイヤガラセだとは気付いたけれど、その上、表着やら唐衣やら裳なんかもあって、とにかく、フルセット、てんこ盛り。
「まあ! 楽しいわね。山吹は、本当に色が白いから、どんな色でも肌に映えるわ」
姫さまは、嬉々として私の装束を選んでいる。
「ああ、どうしようかしら、昨日は『山吹』の襲だったけれど、私、『雪の下』にしても良いと思うのだけど、もう、雪が降る季節でもないことだし……同じ『山吹』でも『山吹の匂』のほうが良いかしら」
自分のことでなかったら、姫さまって優しいなあと思うのだけど、私の為に、姫さまが、あれこれと装束を選んでいるというのは、小少将さんたちには、あまり好ましくない絵面であることは間違いない。
「小少将、あなたは、どれが良いと思う?」
姫さまは、わざとなのか、天然なのか、不機嫌そうな小少将さんに問い掛ける。
「……そうですわね、ただの『山吹』では、このものには地味ですので、同じ山吹でも『襲』でなく『匂い』のほうがよろしゅう御座いましょう。それに合わせて、明るい表着などと……」
気分を切り替えたのか、小少将さんは、テキパキと装束を選んでくれる。やっぱり、都で働いている方だから、センスが良いなあ……。
「関白家の女房をやるのでしたら、このくらいの装いを整えて貰わなければ。姫さまの恥になりますからね」
そうなのよねー……。姫さまのところで働くにしても、装束とか身の回りの品とか、自分で準備しないとならないし、基本、住み込みだからねー……。
「姫さま、私のようなものが、こちらで働くのは……この通りの、粗忽者でございますし……」
「大丈夫ですよ、小少将などが支えてくれますからね。山吹は、なんにも、気にしないで」
いや、だって、小少将さんは怖いし、それよりも―――関白殿下とか、帝とかからは、離れた方が良いと思うのよ。
「いえ……その……」
答えを渋る私の耳に、慌ただしげな足音が聞こえてきた。ついで、サラサラと衣擦れの音がする。女房……が近づいているような音だ。しかも、超高速!
「どなたか、いらっしゃるようです」
私の言葉に、小少将さんが立ち上がって、テキパキと装束を片付け始めた。
「山吹は、その几帳の影で着替えなさい。着替えは、中務、お前が」
小少将さんに命じられた、中務さんが、す、と立ち上がって私の手を引っ張って几帳の裏へ行く。
女房装束は……一人で着られるものではないので、中務さんが着せてくれたのだけど、もの凄く早い。足音が部屋の前にたどり着く頃には、もう、着替えは終わっていた。
「乾の姫さま、これより、関白殿下がお見えになります」
母屋からの使いの女房が、簀子から御簾越しに姫さまに申し上げる。
乾は、北西のことだ。北西の対にお住まいの姫さまなので、『乾の姫』とお屋敷の中では呼ばれているのだろう。
「兄上が? まあ、こちらに足をお運びなんて、珍しいこと。解りました」
姫さまは小少将さんに取り次いで貰って、そうお返事なさった。
その瞬間、音もなく女房さん達が動いて、テキパキと部屋の掃除をして、空薫物の仕度までしているのだから、恐れ入った。これが、プロの女房!
うん、多分、私には無理だわ。うん。
しかし、あの関白殿下がおいでになる……というので、私は、ちょっと、嫌な予感がしていたのだ。
目の前が、チカチカして来た。とにかく、紅梅、黄、紫、萌黄、紅、青(わたしたちの青は、千年後くらいは緑で呼ばれるわね)、蘇芳、なんだか季節に逢わない、梔子だとか、桃染だとか、そんないろとりどりの五衣。
それに、打衣も平絹のものにくわえて、私の身分では袖を通すことも出来ない、綾でつくったものもある。本当に、手当たり次第持ってきたわね。
私は小少将さんの軽いイヤガラセだとは気付いたけれど、その上、表着やら唐衣やら裳なんかもあって、とにかく、フルセット、てんこ盛り。
「まあ! 楽しいわね。山吹は、本当に色が白いから、どんな色でも肌に映えるわ」
姫さまは、嬉々として私の装束を選んでいる。
「ああ、どうしようかしら、昨日は『山吹』の襲だったけれど、私、『雪の下』にしても良いと思うのだけど、もう、雪が降る季節でもないことだし……同じ『山吹』でも『山吹の匂』のほうが良いかしら」
自分のことでなかったら、姫さまって優しいなあと思うのだけど、私の為に、姫さまが、あれこれと装束を選んでいるというのは、小少将さんたちには、あまり好ましくない絵面であることは間違いない。
「小少将、あなたは、どれが良いと思う?」
姫さまは、わざとなのか、天然なのか、不機嫌そうな小少将さんに問い掛ける。
「……そうですわね、ただの『山吹』では、このものには地味ですので、同じ山吹でも『襲』でなく『匂い』のほうがよろしゅう御座いましょう。それに合わせて、明るい表着などと……」
気分を切り替えたのか、小少将さんは、テキパキと装束を選んでくれる。やっぱり、都で働いている方だから、センスが良いなあ……。
「関白家の女房をやるのでしたら、このくらいの装いを整えて貰わなければ。姫さまの恥になりますからね」
そうなのよねー……。姫さまのところで働くにしても、装束とか身の回りの品とか、自分で準備しないとならないし、基本、住み込みだからねー……。
「姫さま、私のようなものが、こちらで働くのは……この通りの、粗忽者でございますし……」
「大丈夫ですよ、小少将などが支えてくれますからね。山吹は、なんにも、気にしないで」
いや、だって、小少将さんは怖いし、それよりも―――関白殿下とか、帝とかからは、離れた方が良いと思うのよ。
「いえ……その……」
答えを渋る私の耳に、慌ただしげな足音が聞こえてきた。ついで、サラサラと衣擦れの音がする。女房……が近づいているような音だ。しかも、超高速!
「どなたか、いらっしゃるようです」
私の言葉に、小少将さんが立ち上がって、テキパキと装束を片付け始めた。
「山吹は、その几帳の影で着替えなさい。着替えは、中務、お前が」
小少将さんに命じられた、中務さんが、す、と立ち上がって私の手を引っ張って几帳の裏へ行く。
女房装束は……一人で着られるものではないので、中務さんが着せてくれたのだけど、もの凄く早い。足音が部屋の前にたどり着く頃には、もう、着替えは終わっていた。
「乾の姫さま、これより、関白殿下がお見えになります」
母屋からの使いの女房が、簀子から御簾越しに姫さまに申し上げる。
乾は、北西のことだ。北西の対にお住まいの姫さまなので、『乾の姫』とお屋敷の中では呼ばれているのだろう。
「兄上が? まあ、こちらに足をお運びなんて、珍しいこと。解りました」
姫さまは小少将さんに取り次いで貰って、そうお返事なさった。
その瞬間、音もなく女房さん達が動いて、テキパキと部屋の掃除をして、空薫物の仕度までしているのだから、恐れ入った。これが、プロの女房!
うん、多分、私には無理だわ。うん。
しかし、あの関白殿下がおいでになる……というので、私は、ちょっと、嫌な予感がしていたのだ。
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