鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

文字の大きさ
23 / 186
第二章 山科にて『鬼の君』と再会……

3.関白殿下の妹姫の部屋に参ること ★挿絵有り★

しおりを挟む
 さて、程なく、姫君のお部屋に、関白殿下がお見えになった。

「やあ、小君は見つかったかな?」

 関白殿下が妙に上機嫌でおいでになった。明るいところで見るのは初めてだったので、御簾越しでも解る整った顔立ちには、見とれてしまいそう……。

「小君は、山吹が見つけて下さいましたわ、兄上様」

「ああ、昨日の女房だね。あなたの部屋に居るのだよね」

「ええ……兄上様のお耳にも届いているかも知れませんけれど……、実は、山吹の小袖が盗まれたのです」

「その件で、ここに来たのだよ……御簾を上げて貰っても良いかな?」

「ええ、兄上様、お入り下さいませ」

 関白殿下が、部屋にお入りになった。

 私は、几帳の影からちらり、と様子を伺う。見れば見るほど、立派な姿だった。今日はご出仕されないのか、直衣などをお召しになって、寛いだ雰囲気ではあるけれど、表情は険しい。



「まさか、小袖が盗まれるなんて……。兄上様、なにか、解りましたの?」

「いや、今、邸内のものの、持ち物を調べているところだが、何も出てこない。庭や池なども探したのだが……」

「そんなに探しても見つからないだなんて、まさか、怪異の物に持ち去られたのでは……?」

 などと色めき立った女房が口走るものだから、たちまち、部屋の中はパニックになった。

 怪異の物―――と聞いて、私、『鬼の君』の事を思い出した。

 とても、美しい『鬼』だった。

 やはり、桜の季節に、出逢ったのだった。

 あの『鬼の君』は、私に、こう言ったのよ。



 ―――『桜の季節は、一番、魔が多い季節なのですよ』と。



 魔の多い季節。

 しかも、その『魔』は、桜の花びらに乗って、あちこちへ飛んでいくのだという。

 その『花』を―――『桜』を鎮める為に、催されるのが『花鎮はなしずめ』で、神祇官が行っているのだといった。

「そういうこともあるかも知れないね。だったら、私が懇意にしている陰陽師がいるから、ちょっと呼んでこようか」

 昨日の下着ドロの件だったら、確かに、あれは『物の怪』とか『怪異』の類いじゃなくて、男の人だったように思えるんだけどな。

「そうとなったら、山吹を連れて行くよ。山吹はどこに居るの?」

 関白殿下が、私を探してきょろきょろと辺りを見回し始めた時、急に、姫さまが扇をパチン、と閉じた。

 それは、この部屋の中での決まり事だったのだろう。

 一斉に女房が立ち上がって、関白殿下の御前に立つ。女房装束フルセットで武装した女房集団は、そのまま、じりじりといつも通りの摺り足で、関白殿下に近づいて行く。

香子かこ! この者達を下がらせなさい!」

 関白殿下は叫ぶけれど、姫さまは全く応じない。姫さま、いみな(本名)は、香子さまと仰有るのね。

 そして、じりじりと迫り来る、女房装束の壁。

 関白殿下は、次第に後ずさりを初めて、そして、簀子まで追い出された。

「香子。私の話を聞きなさい!」

 叫ぶ関白殿下の声、空しく、一斉に女房集団が礼をした。無言の『帰れ』だ。

「くっ! ……まったく、山吹に、なにかあったら、どうするつもりだ。香子! 何かあってからでは遅いのだぞ。そもそも、その山吹は、かつて、山科で鬼に逢っているはずだ。また、鬼が来たらどうする。お前一人では、この女房達も、山吹も護ることは出来まい!」

 関白殿下に、ぶっちゃけられて、私は、眩暈がしました。

 姫さまが、私を、じっと見ている。

 あー……、このまま、姫さま、卒倒するんじゃないかしら、と思った時、姫さまはやおら立ち上がったのです。

「鬼が怖くて、主が務まりますか! 私は、この身と引き替えにしても、私の女房と山吹を守ってみせるわ!」

 



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...